1000年に一度花咲く“パキラ”の魔力で、何度生まれ変わっても運命の恋人を探し続ける男。現代の日本に転生した彼は、美光という女優として生きる彼女を探し当てるが、彼女は男との記憶を失っていた。苦しむ彼のもとに悪魔が忍び寄り、ある契約を持ちかけるが…。
吉本坂46のメンバーでもある旺季しずかさんの作・演出、原田優一さんの主演で、時を超えた愛を描くミュージカルが誕生。間もなく世界初演を果たします。
リアルで、時にコミカルなバックステージものの要素もありつつ、壮大なスケールで展開するラブ・ストーリーの行方は?
『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『マリー・アントワネット』等のグランド・ミュージカルで活躍する一方、最近は演出家としても注目を集める原田優一さんと、原田さんの声質を活かした作曲を楽しんだという音楽のKo Tanakaさんに、作品の魅力やオリジナル・ミュージカルへの思いをうかがいました。
台本・音楽とも、原田優一さんに“あて書き”された新作
――本作にはどういった経緯で関わることになったのですか?
原田優一(以下・原田)「作・演出の旺季しずかさんが、以前から僕の出演舞台を観てくださっていて、3年くらい前に共通の知り合いを通じ、僕にあてて作品を書きたいとお声がけいただいたんです。出来上がった台本を読ませていただいて、“こういう原田優一を観たいと思ってくださったのか”と新鮮に感じました。
というのは、僕が演じる主人公は、現世では“蒼”というミュージカルスターだったのが、美光という女優のそばに居たいがために、“乙女”という女性になりきり、彼女が所属する女性だけの劇団に入っている、という設定。そのままの僕ではなく、いわば(異なる性という)殻をかぶったような状態で、現実とファンタジーの世界を行ったり来たりするんです。“(僕に)出来るのかな”というのが第一印象でした」
Ko Tanaka(以下・Ko)「僕は1年から1年半ほど前にお話をいただきました。旺季さんはこの作品を少しずつ作っていたので、既に別の作曲家によるナンバーがいくつか存在していたのですが、ブロードウェイ・ミュージカルのような風合いの作品にまとめたいということで(NY在住の)僕に声がかかったようで。台本を読んでみたら、ひとりの人生より大きなもので繋がっているドラマで、そのシーズンに読んだ台本の中で一番面白く、お手伝いすることになりました」
――原田さん主演と知った上で作曲されたのですね。原田さんの声質は意識されましたか?
Ko「はい、動画で検索して調べた上で、書かせていただきました。原田さん、いかがですか? 何かリクエストがありましたら手を入れますが…」
原田「有難うございます、ちゃんと練習して歌いこなせるようにしたいと思います。ちなみに、どんな動画をご覧になりましたか?」
Ko「歌っている時と話している時の声を聴けばあとはおおむね想像できるので、その2タイプを探しました。原田さんの声はめちゃめちゃマニッシュな歌声というわけではなく、やや中性的というか、ロー(低音)で攻めるより中域を使ったほうが活きてくるので、そういう音域を意識して書きました」
原田「蒼と乙女という男女の演じ分けがあるので、音域自体は低音から高音までいろんな声を要するけれど、僕が“ここが得意です”という部分はすごく反映してくださっている楽曲だと感じています」
――2曲ほどデモを聴かせていただきましたが、思いをぶつける、絶叫するというより、余韻のある音楽ですね。
原田「この主人公は1000年もの間、愛する人を追い求めていて、孤独や哀しみを味わってきているので、絶叫というより一歩達観したものがあるんです。“今、ここで叶わなければ終わる”という覚悟もあります。いろんな葛藤が一順繰りしたところのナンバーなんですよね。愛のために相当の決意をする歌なので、例えば『ミス・サイゴン』のクリスのような、感情をあらわにする歌い方とは全く違うものになると思います」
――何度生まれ変わっても一人の人を愛し続ける、という設定は非常にロマンティックですが、共感されますか?
原田「例えば、偶然の出会いにも関わらず“この人、なぜか知っているな”という感覚になることは僕自身、あります。数回しか会っていないのにこの人とはフィーリングが合う、という人もいますね。人間って、こういうロマン、好きじゃないですか? ミュージカルで言えば『アイーダ』が代表格ですよね。その時点では悲劇的な終わり方をするけれど、転生してまた出会う、という…。男女に限らず、絆や出会いを大事にしている方であれば、きっと響く話ではないかなと思います」
――そのロマンを表現するのに、本作では音楽が非常に大事になってくると思われますが、全体を通して作曲で意識されたことはありますか?
Ko「“パキラの花”という、人知を超えた存在がキーワードになっているので、このモチーフを何十も試作しました。時計の針の音というか、ただそこにあるだけで、感情が通用しない、無慈悲なものを意識しましたね。
仰る通り、本作ではあまり絶叫型のナンバーは登場しないのですが、それは僕自身のカラーでもありますし、(作者の)しずかさんが“激情型のナンバーだと(周囲に対する)配慮ができない”と考えていらっしゃるからです。どういったトーンであれば配慮が出来るのか、それが見え隠れする音楽にするにはどうしたらいいか、かなりいろいろ試しました。思慮深さから生まれるアンニュイな音色というのは、世界共通のものだと思いますが、どこか奥ゆかしい、日本的に聴こえる音楽になったかもしれません」
――オリジナル・ミュージカルの重要性が叫ばれる昨今、“日本的である”ことは、大きな強みになるかもしれないですね。
原田「同じアジアでも、韓国ミュージカルでは感情をあらわにした作品が多いですよね。今回のように、“自分の意見はここにある”という地点に至るまでの、感情の揺れがきめ細やかに表現された音楽は、日本オリジナルらしさとして、とても大切にしたいところではあります。
英米では作品作りに長く時間をかけますが、日本では時間が限られているので、瞬発力が大事です。ということは、初演の作り手やキャストの特色や良さもかなり反映されてくると思います」
Ko「同感です。僕は日本を出て7年になりますが、今も1日100回くらい、なぜ日米のミュージカルはこんなに違うんだろうと考えています(笑)。
それは(やみくもに)アメリカの方がいいという話ではなくて、例えば、ブロードウェイ・ミュージカルには、大味な音楽がけっこうあるんです。それはベースになっているアメリカ音楽自体が、リズム重視になっているからなんですね。たまに日本に帰ってきてレストランで流れているJ-POPを聴くと、(リズムより)メロディが立っていて、それが日本の音楽の特色なんだろうと感じます。そういった部分を押し出してオリジナル作品を作って行くというのは、日本らしさをアピールする上でありなんじゃないかなと思います」
――では最後に今回、『The Star』がどんな舞台になったらいいなと思われますか?
原田「この作品はファンタジックでありつつリアルなので、観終わってお客様が感じることは、それぞれの人生経験でかなり違ってくると思います。
僕がこの作品で、運命の愛とはまた別に、面白いと感じているのが、劇団という集団社会の中で、主人公が“私とは何者か、個とは何か”を考えるところです。劇団って、個性を求めながらも実は非常に協調性が求められる点で、日本社会の縮図だと思うんです。日本では小学校に入ると“前にならえ”であったり、人に迷惑をかけないということを教わり続けて、社会人になって急に個性を求められて面喰ったりしますよね。その縮図としての劇団の中で、“私は何者なのか、そして愛する人とはどう繋がっているのか”と主人公が自問する姿もまた、大きなテーマを投げかけているように思いますし、彼が“個に戻る”過程を感じていただけるといいなと思っています」
Ko「僕はどの仕事をしている時も、公演が終わって3年、5年経ったころ、お客様が“あの曲、なんとなく覚えているな”と思っていただけたら最高だな、と願っています。
加えて、本作は最後の最後で涙していただける設計になっています(笑)。ぜひハンカチをお持ちになってください」
(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『The Star~悪魔と契約した男~』10月26日~11月5日=シアターサンモール 公式HP
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