Musical Theater Japan

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『Glory Days』エリック・フクサキ インタビュー:彼らの青春に思いを重ねて

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エリック・フクサキ ペルー、リマ出身。 スペイン語、英語、日本語の3か国語を話す。2009年に来日し、 2011年にオーディション「FOREST AWARD」で特別賞受賞。2014年4月9日にソロデビュー。ポップス、ラテンから演歌までジャンルを超えて歌いこなし、作詞作曲・アレンジもこなす。ミュージカルの出演作に『ELF The Musical』『イン・ザ・ハイツ』がある。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

2008年にブロードウェイ初演、翌年日本に上陸した『Glory Days』が、12年ぶりに新キャストで上演。親友4人組が数年ぶりに再会する一夜を描くドラマで、物語が大きく動くきっかけを作るジャック役を(木戸邑弥さんとのダブルキャストで)演じるのが、エリック・フクサキさんです。
 
ペルー出身、日系3世のミュージシャン。『イン・ザ・ハイツ』で聴かせた晴れやかな美声も記憶に新しいエリックさんですが、自身にとって3本目のミュージカルとなる本作では、これまでの作品とはまたひと味違う身近な内容に、新鮮さを覚えている様子。ご自身の体験なども交え、作品へのアプローチ、ミュージカルの醍醐味などたっぷり語っていただきました。
 
【あらすじ】
5月のある夜。ウィルは高校時代の親友スキップ、アンディ、ジャックを5年ぶりに母校のフットボールフィールドに呼び出し、4人は久々の再会を喜ぶ。当初、彼らはウィルの発案でとある悪戯に熱中するが、ふとジャックが始めた告白によって絆にひびが入ってゆく…。
 

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『Glory Days』

 

――本作に触れてみて、まずどんな感想を抱かれましたか?

「青春時代の話なので、僕自身の、ペルーでの青春をいろいろと思い出しました。僕にも当時、仲良しの男友達が3人いて、本作の人間関係とすごく近いんです。それぞれにファッションの好みがあったり、将来について、医者になりたいとか、僕のようにミュージシャンになりたいとはっきりと夢を持つ者もいれば、まだどうなりたいかはっきりしない友人もいて。ぶつかり合うことも度々だったなぁと、この作品に触れて思い出したし、あの時はあいつはこう思っていたのかもしれないという気づきもありました」
 
――本作はアメリカが舞台ですが、ペルーの高校生とは違うなぁと思われた部分はありますか?

「基本的にはウェスタン・カルチャーということで一緒だと思いますが、一つ大きく違うのが、ペルーの青春は、カップルで踊るパーティーが多いんです。何かあると必ず女の子と踊るというカルチャーがあるので、もし本作のペルー・バージョンが作られたら、そういう話題が出てくると思います(笑)」
 
――本作ではジャックの告白をきっかけに4人の関係が劇的に変わっていきますが、ちょっとした会話から友人たちとの関係が変化するといった経験はおありですか?

「あります。個人的な話になりますが、僕にはアロンソ君という親友がいました。幼稚園から高校まで繋がっている学校で、僕らは幼稚園から中学生になるまで、ベストフレンドと言っていいほど仲が良かったのですが、12,13歳の時にある日突然、彼ががらっと変わったんです。“アジア人野郎”みたいな差別的なことを言われて傷つきました。

それから彼とは距離を置くようになったのですが、高校を卒業して数年後…そのころ、僕は既に日本で歌手活動を始めていたのですが…彼がドキュメンタリー番組に取り上げられていたのを観ました。子供の頃、彼が消防士を夢見ていたのは聞いていたけど、実際に消防士になって、人間関係についてだとか、大人になって気づいたこととか、いろいろ深い話をしていて、彼の優しさが伝わってきました。それまで、中学生の頃のイメージしかなかったけれど、あの時の彼の言葉は、彼なりの愛情表現だったのかな…と思い返していたら、その一週間後、ニュースで彼が亡くなったことを知りました。非番の日に火事の家に飛び込んで救助活動をしようとしたら、そこに天井が落ちてきたのだそうです。

今となっては彼の真意は聞けないけれど、彼の死がきっかけで、高校時代の仲間たちとWhatsAppという、LINEみたいなアプリで頻繁に連絡を取り合うようになりました。そんなことがあったので、ジャックとアンディの関係性にはどこか親しみを感じるし、人間どこでどう再会するか分からないものだな、とも感じます」
 
――本作の4人組も、いつかまた再会できると思われますか?

「思います。人生って時間が経つほどいろんな気づきがあるし、昔は受け入れられなかったタイプの人とも仲良くなれたりしますよね。子供のうちは世界が狭いからどうしても(自分と違うものを)怖がるけれど、いろいろな人と出会う中で、違いも尊重するようになるし、自分にはない考えを聞くことも大事だと分かるようになります。僕も、かつて近寄りがたかった人たちと仲良くなれているのはアロンソ君のおかげかも、と思っています」 

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エリック・フクサキさん。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――本作の音楽はいかがですか?

「素晴らしいです! 僕は本業がミュージシャンなので自然と音楽に耳が行くのですが、この作品は歌詞を先に書いてからメロディをつけたのだろうな、と変拍子の多さなどを見ると想像できます。難しいけれど、だからこそ魅力的だし楽しいし、感情に寄せたメロディやリズムの使い方が、ソングライターとして勉強になります。ポップソングだと、AメロBメロCメロがあってメッセージを置く、という形式が多いけれど、この作品では、気持ちが上がっているからメロディがこうなるんだな、声もこう重なるんだな…と。
共演者の方々も、ミュージカル歴の長い方が多くて、芝居をメインに、芝居を考えた上で音に声を乗せていて、これはあまりやったことのないアプローチだな、参考になるなと思っています。いい意味で(表現者として)影響を受けているような気がします」

――ジャックは“Open Road”という大曲を歌いますが、これは仲間から促されてある経験を歌う、一つのドラマのような曲ですね。ご自身の中でどんな意識で歌っていますか?

「僕が思っているジャック、演じたいジャックには理想があります。このナンバーを歌うまで、ジャックは自分をちょっと隠そうとしていて、無理やり作ってきた自分がいる。このナンバーの途中で告白する瞬間までは、本音を隠したいと思っています。でも少しずつ、仲良しの友達に理解してもらおうとする。それには勇気もものすごく要る…というところで、前半はつとめてハッピーに、“こんなことも、あんなこともあった”と歌っています。そして、(核心のところで)事実を話して、一瞬、沈む。そこからは素直な自分になります。以前のようにふるまいたいけど、もう元には戻らないと分かっている自分もいる。…そんなふうに、ジャックの内面の変化を意識して歌っています」

――その後、ウィルに対して感情的な行動をとったりもしますね。

「高校時代に自分の中ではっきりしていなかったものを確かめたかった、というのもあるかと思います。残りの稽古の中で、ウィル役の矢田悠祐さんや日野真一郎さんとももう少し話し合って、固めていきたいと思っています」

――お稽古はいかがですか?

「楽しいですし、勉強になることが多いです。僕はミュージカル歴が浅くて今回でまだ3本目ですが、みんなは何年もやってきていて、ダブルキャストの木戸(邑弥)君は14年だったかな。ここはこういう気持ちでやっているとか、すごく細かいところまで話してくれて、そういう考え方もあるんだな、と参考になります」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?

「これまでもミュージカルはいろいろ観ていますが、この作品はそれらとずいぶん違うなと感じます。すごくリアルな時間というか、高校時代の仲良かった友達たちが卒業して再会したら、こういう感じになるんだろう、という光景がナチュラルに描かれています。(作品の一員として)きちんと表現できるよう頑張りたいし、皆さんには肩の力を抜いて、ご自身の青春を思い出しながら観て頂けたら嬉しいです」
 

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エリック・フクサキさん。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――プロフィールについても少しだけ伺わせてください。エリックさんは歌はいつから歌っていたのですか?

「生まれた時から…といってもいいほど、小さいころから父の影響で歌っていました。18歳まで演歌のみでしたね。日系コミュニティの集まりに呼ばれて歌ったりして、演歌歌手を夢見ていました。当時好きだったのは細川たかしさんや氷川きよしさん。(日本語の)歌詞の内容は分らなかったけど、バイブスがソウルフルだし、歌唱力も要するのが魅力でした。アジアの血を誇りに思っているし、人と違うことをするのが好きだったので、ペルーで日本を代表したいと思っていて、それがきっかけで来日しました」

――音の芯をとらえたエリックさんの歌唱力は、演歌を聴き込むことで磨かれたのでしょうか、それとも“natural born singer(生まれながらの歌手)”なのでしょうか?

「I don’t know(笑)。ステージでは演歌ばかり歌っていましたが、カラオケに行けばポップスでもなんでも歌っていました。ふだんから、口ずさみながら曲を作ったりもして、頭の中には常に音楽が鳴っています。アレンジの楽器も全部聴こえていて…音楽が心から好きなのでしょうね」

――来日されてみて、イメージしていた日本と違う…と思われたことはありましたか?

「いやぁ、たくさんありました。日本はどこも浅草みたいなところだと思っていましたが…違いましたね(笑)。ペルーではマーケットになるようなシステムになっていないので、日本の音楽業界にも驚きました」

――そんな中でミュージカルと出会われたわけですが、ミュージカルの楽しさはどんなところにあると感じますか?

「お芝居と音楽が一体となっているところがとても好きです。やっていて、コンサートとは違う魅力があるし、ライブなので、その日その回で違う感情の込め方があったり、その瞬間でしか味わえない魅力が、ミュージカルにはあると感じています」

――ミュージカルの分野でどんな表現者になっていきたいと思っていますか?

「自然に届けられる表現者になりたいですね。その役を演じながら、自分の心をアウトプットできる役者さんになりたいなと思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報BROADWAY MUSICAL『Glory Days』9月17日~10月3日=銀座 博品館劇場 公式HP
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