Musical Theater Japan

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相葉裕樹×内藤大希×大山真志×上口耕平:とっておきの年忘れは“祭シリーズ”で

(左から)大山真志さん、相葉裕樹さん、内藤大希さん、上口耕平さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

歴史の「if(もしも)」を大胆に取り入れた時代劇と、その登場人物たちがオリジナルユニットを結成して行うショーの二部構成で人気の“祭シリーズ”。2011年に始まり、いまや年末の風物詩ともなりつつある(⁈)シリーズの最新作は、『太平記』がモチーフ。朝廷が南朝、北朝に二分され、天皇が二人存在していた迷走の時代を、池田テツヒロさんの脚本、原田優一さんの演出、かみむら周平さんの音楽で描きます。

祭シリーズvol.13 シンる・ひまオリジナ・るミュージカ・る『ながされ・る君へ~足利尊氏太変記~』

毎年、多彩な顔触れにも注目が集まりますが、今回はミュージカル仕立てということもあり、今のミュージカル界を牽引する若手スターたちが競演。そのうち、主人公の足利尊氏を演じる相葉裕樹さん、その弟で尊氏との愛憎劇を繰り広げる足利直義役・内藤大希さん、楠木正成役の大山真志さん、高師直役の上口耕平さんにお集まりいただき、“祭シリーズ”の魅力やお互いを役者としてどう見ているかまで、楽しく語り合っていただきました。

新解釈で歴史が楽しめる“祭シリーズ”は、俳優にとって“武者修行の場”でもあります

 

――まずは“祭シリーズとは?”から、うかがいたいと思います。シリーズは初演から今の形だったのでしょうか。

 

相葉裕樹(以下・相葉)「初演は2011年ですね。もともと、祭シリーズは『戦国鍋TV』という番組の舞台版として始まって、1部は今のようなミュージカルではない、お芝居でした」

 

相葉裕樹さん。(こちらの扮装は本篇の衣裳ではないそうです。以下・同)

 

――“歴史を学べる”側面もあるそうですね。

 

大山真志(以下・大山)「毎年、公演が始まる前に、作品に因んだ場所に出演者(の一部)とお客さんが行くバスツアーもあるんです。登場人物たちに関するいろんな情報を入れてから観て頂くことで、より舞台が楽しくなると思います」

内藤大希(以下・内藤)「今年はないのですが、明治座さんで勉強会(塾)をやったりもしましたね。僕らも一緒に勉強しました」

 

内藤大希さん。

 

大山「僕たちが塾の先生として、生徒としていらっしゃるお客さんに授業をしました。正直、僕は(学校で)一生懸命勉強してきたタイプではなかったので(笑)初めて知ることも多くて、役作り的にも勉強になります」

 

――歴史オタクにはたまらない機会ですね。

 

大山「実際、僕らのファンだけでなく、歴史ファンの方もたくさんいらっしゃいます」

上口耕平(以下・上口)「でも、ただ単に歴史を学んでもらう的な舞台ではないんです。僕が9年前にやらせていただいた時は、織田信長が宇宙人という話で(笑)。歴史上の出来事は確かに追っているけれど、全く新しい解釈で歴史の新たな側面を楽しませてくれるシリーズだと思います」

 

――歴史に学び、同時に遊ぶ…?

 

相葉「パロディ要素が強いんですよね」

大山「だいぶ強いです(笑)」

 

大山真志さん。

 

相葉「初演の時は…(と、公演プログラムを見て)オープニングで僕、体操着を着ていましたから」

大山「テニスのラケット持ってね(笑)」

相葉「お遊びで、テニミュの歌をちょっと歌ったりもしました。役柄ですか? 前田利家です(笑)」

上口「僕の時は、J-POPの『三日月』を歌いました。明智光秀役でしたが(笑)」

 

――内容にリンクしたナンバーだったのですか?

 

上口「必死にリンクさせてました(笑)。気持ちを繋げて歌いましたね~」

 

上口耕平さん。


――キャストの顔ぶれも多彩ですね。

 

大山「それこそ宝塚出身の方だったり、2.5次元の方もいらして。毎回、半分くらいは初出演の方で、常連の方との化学変化が楽しいんです」

相葉「今回初めてなのは、石川凌雅さん(護良親王役)、丘山晴己さん(上杉重能役)、広井雄士さん(風清役)と、ROLLYさん(後醍醐天皇役)。出演者が18人というのはこれまでで最少人数らしくて、ミュージカルということで歌える人が揃っているみたいです」

上口「人数が絞られる分、それぞれの役割が大きくなりそうですね」

大山「『シンる・ひま』(21年公演)の時もミュージカルだったね」

内藤「ハモりもあって、ちゃんとミュージカルしてました」

 

――いろいろなジャンルの方が集まっているだけに、新鮮な体験もあったのでは?

 

上口「ありましたね。小林健一さんという方がいらして、舞台上で毎日違うことをやるし、こちらにも要求してくるんです。こういう方がいるんだ!というのが衝撃でしたし、何をやっても拾ってくださるから、凄いな…と思っていました」

大山「舞台上で突然“エチュードしようぜ”と言ってこられるからね(笑)」

 

――尺(上演時間)は気にしなくていい状態だったのですね。

 

上口「いえ、自分たちで首を絞めていました(笑)」

大山「普通にやっても上演時間は4時間あって、一日2公演なんですが」

内藤「どんどんマチネ・ソワレ間が短くなっていくという(笑)」

上口「終わった瞬間に次の準備をしていましたね」

内藤「かつらを外して5分後くらいに“あ、(夜の部が)始まる”って(笑)」

 

相葉裕樹 1987年生まれ、千葉県出身。04年映画デビュー。05年ミュージカル『テニスの王子様』で初舞台。09年『侍戦隊シンケンジャー』で人気を博す。近年の舞台に『アナスタシア』『CROSS ROAD』『レ・ミゼラブル』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

相葉「僕も稽古初日にコバケンさんの芝居を見て、こんなに自由にやっていいんだと衝撃を受けました。台本を見ながら、“今、どこやってるんだろう”と思って…」

大山「台本に書いて無いからね(笑)」

内藤「僕は初出演が2017年だったけど、小林さんの精神を受け継いだ加藤啓さんやさと兄(佐藤貴史さん)がいて、衝撃でした。

若い俳優たちもこのシリーズに出ると、いい意味でカルチャーショックを受けるんですよ。自分の中の経験値を蓄えたらこんなに自由になれるんだ、と感じさせてくれる先輩たちがいて。別の現場でもこういうことをやってみようと思えることをインプットできるという意味で、すごくいい現場だと思います」

上口「責任を取らなくちゃいけなくなるんですよ。舞台上で、今この瞬間をなんとかしなくちゃいけないというのを経験すると、強くなれます。滑ることもあれば、受けることで自信がついたりもするし。武者修行みたいなところもあるんです」

大山「年末に武者修行…(笑)」

 

――滑ったこともあったのですね。

 

上口「全力で滑りました(笑)。でも、普通は滑ることを恐れるけど、怖いとか言っていられないところにポンと放り込まれて“何かやれ”ということになって、次第にそれが快感になってくるんです(笑)。

そんな日々なので、若い子たちも稽古場で集まって“明日、何しよう”とか言い合っているんですよ。そんなことしなくてもキラキラしていける子たちが“じゃ、俺これやるから”みたいに一生懸命になっている姿を見ると、キュンとしますね」

内藤「そしてさと兄に憧れ出しちゃう子も多いんです、インスパイアされて」

 

内藤大希 1988年生まれ、神奈川県出身。幼少期から幅広い舞台で活躍。近年の舞台に『星の数ほど夜を数えて』『MEAN GIRLS』舞台『鬼滅の刃 其ノ参 無限夢列車』『メリー・ポピンズ』『レ・ミゼラブル』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載


――腕の見せ所合戦ですね。

 

大山「異種格闘技ですからね(笑)。でも今回はそういう方はいらっしゃらないんじゃないかな」

相葉「加藤啓さんタイムはあるかも…」

大山「ROLLYさんもダークホースかもしれない(笑)」

相葉「ROLLYさん、この前、取材でご一緒したけど、発する言葉の一つ一つが面白かったです」

 

――今回は“平和が脅かされている時代だからこそ”という意図もあって、モチーフに『太平記』が選ばれているようですね。

 

上口「(室町時代は)一番複雑な時代ですよね。日本が(南北朝で)分割されているなんて想像もつかない…。どういうメッセージの作品が生まれるのか、楽しみです」

相葉「僕が演じる足利尊氏が、なんだかんだと流されながら生きていくさまが描かれていると思うけれど、ナイーブな面があったり、(内藤さん演じる、弟の)直義との対比を見せられたらと思います。真田広之さん主演の大河ドラマを見返してみたいですね」

 

――大河ドラマ版では弟との対決が大きなクライマックスでした。今回も大きな見せ場になりそうですね。

 

相葉「そうですね。でも今回、そうなるのかな?」

 

大山真志 1989年生まれ、東京都出身。幼少期より舞台を中心に活躍。近年の舞台に『ALTAR BOYZ』『DEVIL』『アルジャーノンに花束を』『CLUB SEVEN』『ジャージー・ボーイズ』『SMOKE』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載


大山
「というのは、このシリーズって、歴史の“if”がよく出てくるシリーズなので(笑)。“もしこうだったら…”というのが面白いところなので、今回どういう解釈になるのか、期待していただければと思います」

相葉「この時代、はっきりと書かれている文献が少ないらしいんですよ。だから大河ドラマの解釈自体、必ずしも全てというわけではないようで。今回はどういうことになるか、僕自身、楽しみです」

 

――上口さんが演じる高師直は、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』では悪役です。今回は…?

 

上口「一般的には血も涙もないイメージらしいけれど、非道とされることをせざるを得なかった葛藤もあるようで、今回は“切れ者”として尊氏に影響を与え、焚き付けるようなことを言う人物です。新しい解釈の師直ができていくと思いますし、御覧いただいて納得していただけたら嬉しいですね。

個人的には、僕はバッチと絡んだことがあまりないんです。『タイタニック』や『スカピン(スカーレット・ピンパーネル)』も共演はしたけれど、絡みはあまりなかったので、今回、がっぷりよつの共演はどんなことになるのか。お客様から見ても、僕ら自身の関係性とリンクさせて役を見ていただけると面白いかと思います」

 

――皆さん、お互いに役者としてどんなイメージをお持ちでしょうか。この機会にお聞かせ下さい。

 

上口耕平 1985年生まれ、和歌山県出身。02年、ドラマ『ごくせん』で俳優デビュー。近年の主な舞台に『ヴァグラント』『BACK BEAT』『CLUB SEVEN』『ヘアスプレー』『屋根の上のヴァイオリン弾き』『RENT』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載


上口
「(大山さんと内藤さんに)この二人は昔から一緒でしょ?」

大山「僕が小5の時からね」

内藤「だね」

上口「小学生の頃から培っているから、二人ともスキルが凄いし、演劇人としての個性が強くて。そのうえで、真志はオープン、大希は内にこめられたパワーをどぉっと出すような役者だなと思ってます。

バッチは、お芝居も存在の仕方も毎回違って、いつも新鮮なんですよ。中心に立っていても毎回、色が違う感じがするから、今回また違うバッチに会えるんじゃないかな。普段は“バッチ”という感じなんですけど」

大山「それじゃ伝わらないよ!(笑)。

僕にとって、大希はアルゴ(子供のミュージカル)のオーディションで一番最初に友達になった人で」

内藤「子供って、オーディションでも仲良くなれちゃうんです」

大山「遊戯王カードでね(笑)。だから大人になっても、変わらないね~っていう感じです。耕平君は、オールラウンダーだなと思う。ミュージカルの時は“ミュージカルの俳優さんだ!”と思うけど、『CLUB SEVEN』のようなショーケース的な演目だと、自分の味をわかっているというか、笑いも取れるし、場の空気を掌握する力が強いです。

バッチは、これまで『CLUB SEVEN』でしか共演してなくて…」

相葉「ふざけてる時ね(笑)」

大山「本来はミュージカルの人、というイメージだから、今回の共演が楽しみです」

相葉「僕自身、“違うんだけどな~”と思うこともあったけど、ここ最近、“ミュージカルの人”と呼ばれることを受け入れられるようになってきました(笑)。

耕平くんとは、最初にご一緒したのが2010年の『abc★赤坂ボーイズキャバレー』。その中で、ダンサー役の彼がソロで踊るシーンがあって、“めちゃくちゃ魅せてくるなこの人”って。一人で2分、3分魅せられる人ってなかなかいないし、それも観たことない動きで、どういうジャンルの人なんだろう⁈と思ってたら、歌も歌える人で。その時はただただ凄いと思ったけど、後日、みんなでご飯に行って、喋ってみたら面白好きの人だとわかって、これは仲良くなれる、とシンパシーを抱きました。

真志は、共演したのは2016年の『CLUB SEVEN』で、もうちょっとシュッとしてたかな」

大山「ぜんぜんしてた(笑)」

相葉「そこからどんどん貫禄がついてきてて、年下なんだけど、どっしりとしてて。やっぱり小さい頃からやってきて土台がしっかりしてるから、頼もしいし、かつコメディセンスも抜群で。『CLUB SEVEN』でアドリブをやらないといけないシーンは、まず真志に“どうかな?”と意見を聴いたり、“真志思いつかない、教えて~”と一緒に考えてもらったりして、僕のブレーンでした」

大山「ブレーンなんてとんでもない。でも、ネタ合わせはしましたね」

相葉「滑りたくないからね(笑)。

大希は、一番最初がミュージカル『テニスの王子様』。この時は全く絡みがなくて、役を離れても喋ってなくて、ちゃんと喋ったのは17年の『レ・ミゼラブル』。そこから3回ご一緒した"戦友“です。20代から30代に入る時期に、19年には大希マリウスがさらにパワーアップしているのがまざまざと感じられたし、21年の時は完成されたマリウスを見せてくれました。説得力ある言葉を歌に乗せる技術に加えて、思いを乗せる魅力が年々増してるなぁ、と思います。たくさん経験を重ねて、思うようにいかなかったりという時期も経て、今30代に入って一番ノリに乗ってる状態なんじゃないかなと思います」

内藤「じゃあ、最後に僕から。真志ほど、この体格で歌えて踊れる人って、日本にいないと思うんです。そしてなおかつ、めちゃめちゃいいやつ。しかも熱い。僕は物事を引いて見るけど、真志はまっすぐで、逆なんですよ。そんな二人が、演劇という同じ職業に、ボルダリングのクラッチのようにしがみついて、上に行くんだという気持ちだけで、グリップ力だけで上がってきた…」

相葉「本当の戦友だね」

内藤「仲間、同志。だからこういうふうに毎年会えると、お互い意識もするし、リスペクトもあるし、不思議だなと思うんだけど…、実は彼のほうが年下です(笑)。

耕平君はダンスもできて振り付けもできて、一人で場を回せる。何を渡されても耕平君で処理できるし、自己プロデュースができる。そして色気があるんですよ。耕平君ってエロいというか(笑)、骨格の細さと骨ばったところが女性っぽい色気もあるし、男の色気もあって。いつも会いたいなと思う、大好きな先輩です」

相葉「なかなか3分のソロ・アクトってできないものね。あれは圧倒的だった」

内藤「バッチは、マジでスター」

相葉「もっと他の言い方ない?(笑)」

大山「僻んでるんじゃないよ(笑)」

内藤「真志とは違った、僕の持ってない”いいもの“を持ってるんです。骨格もそうだし、高音の輝きの説得力というか、僕が100詰めてたものを彼は1音で回収してしまう。なおかつ、本人には自信がないところが憎めなくて。“俺、野心があって”って言われたら“なにくそ”と思うけど、彼は“僕はそんな、自信がないんです”というから、“へ、なんで?俺にはわからん”となって、友達になれる。不思議なんです」

上口「“それどうやってやるの?わからない”とか、素直に聞いてくれるんだよね」

内藤「本人はフラットなんです。だからこそ吸収もアウトプットもナチュラルにできるんだと思います」

 

(左から)大山真志さん、相葉裕樹さん、内藤大希さん、上口耕平さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――では最後に、今回、どんな舞台になるといいなと思われますか?

大山「今年はカウントダウン公演もあるので、みなさんと一緒に年を越せるのが楽しみです。毎年る・ひまさんと明治座さんのこの舞台って、楽しいことを約束されてるというか、お客さんもそれを望んでいる節があって、それに全力で応えたいなと思ってます。2部も絶対面白いしね」

上口「いつもお祭り感がある舞台なので今回も間違いないと思うけど、今回は歴代最少人数ということで、骨太なものができるんじゃないかと思っています。お祭りなんだけどずっしりしたものを見たな、と思っていただけるんじゃないか。新しい、“シン・シン・る・ひま”になるんじゃないかと予感しています」

内藤「2部の総合司会の鯨井(康介)君とか、同世代で仲のいいキャストなんで、自分のことも仲間のこともわかっていて、やる時はやる、プライベートでも仲がいい…ということが上乗せされて、より表現が豊かになって行くんじゃないかな。技術を出し合える、それも萎縮することなく表現できるような可能性があるなと思っています。お客様も仲間として一緒に楽しんでいただける舞台になると思うので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います」

相葉「凄腕の人たちが集まっているので、オリジナルミュージカルとして、見応えのあるものが届けられるんじゃないかと思っています。ただただ面白い、というだけではないものになるんじゃないかな。2部はもちろんお祭り騒ぎで楽しんでいただけると思うけど、1部は特に上質なものにしたいです。あと、大晦日にはカウントダウンもありますので、一緒に新しい年を迎えていただけたら嬉しいです!」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)

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*公演情報 祭シリーズvol.13 シンる・ひま オリジナ・る ミュージカ・る『ながされ・る君へ~足利尊氏太変記~』12月28~31日=明治座 公式HP

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