Musical Theater Japan

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『スクールオブロック』濱田めぐみインタビュー:あの日のひらめき、そして今

濱田めぐみ 福岡県出身。 1995年劇団四季に入団、『美女と野獣』のヒロイン・ベル役に大抜擢される。『ライオンキング』『アイーダ』『ウィキッド』と初演三作品でヒロインを演じるなど、看板女優として活躍。退団後、近年の出演作に、舞台『レ・ミゼラブル』『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』『サンセット大通り』『イリュージョニスト』『アリージャンス〜忠誠〜』『オリバー!』、『メリー・ポピンズ』『COLOR』『バンズ・ヴィジット』『ファインディング・ネバーランド』などがある。©Marino Matsushima 禁無断転載

2003年に公開され、一世を風靡したジャック・ブラック主演のコメディ映画『スクールオブロック』が、アンドリュー・ロイド=ウェバーのプロデュース/音楽で舞台化。ブロードウェイ(2015年開幕)やウェストエンドでのヒットを経て、遂に日本に上陸します。

臨時教師になりすましたミュージシャンが、名門進学校の子供たちにロックを指南…という物語で今回、主人公の前に立ちはだかる厳格な校長ロザリーを演じるのが、濱田めぐみさん。子供たちとの共演は既に『オリバー!』や『メリー・ポピンズ』で経験済みの濱田さんですが、今回は少々勝手の違う部分もあるようです。ご自身の子供時代の思い出も交えつつ、作品にまつわるさまざまなお話をうかがいました。

『スクールオブロック』

ポンコツの主人公にどう“魔法”をかけられるか、楽しみです

――本作はアンドリュー・ロイド=ウェバー(『オペラ座の怪人』『キャッツ』等)によるプロデュース/音楽とのこと。彼の作品に多数出演されている濱田さんとしては、ロイド=ウェバーらしさを感じますか?

「今回は逆に、“これ、ロイド=ウェバーなんだ!”と驚きました。でも確かにキャッチーで、一度聴いたら耳から離れない、覚えやすいメロディがどの曲にも盛り込まれている、という点ではロイド=ウェバーらしいですね。今回はロックですが、どんなジャンルも自分の音楽に取り込んでしまうのが彼らしくて、やはり天才だなと感じます。

歌う側からすると、歌いやすいところもありますが、厳格に(譜面通りに)歌わないといけない部分が必ずあって、そこを外すとその曲にならなくなってしまうので、その兼ね合いは考えます。自分を統制しないと、歌えないですね。全てが計算されているので、(自分のペースでなく)一定の範囲で表現しきらないと、オーケストラの音が始まってしまったりするんです。“気持ちよく、難しく歌う”という感じですね」 

――作品の第一印象はいかがでしたか?

「台本を読んで、まずデューイという人のキャラクターが分かりやすいな、と思いました。ひとことで言えば“ポンコツ”で(笑)、誰が見てもだらしがないけれど、彼は人を見かけで判断せず、その本質にアクセスして話しかけます。そんなデューイが、ロザリーが校長をつとめる進学校にやってくることで、生徒たち、そして大人たちにどう魔法をかけていくのか。かけられる側として面白いなと思いましたし、今の社会に響きやすい演目なんじゃないかなと思いました」

――台本を読まれて、ここはアメリカ的だなと感じた部分はありますか?

「家庭と学校のバランスが日米で違うんだな、と感じました。アメリカの方が、それぞれの家庭で責任を持って子供を育てないといけないらしくて。日本では、学校教育に任せる部分は任せるという形でもあるので、その辺りは違うのかもしれないですね。文化的なものや気質もありますが、アメリカだと“言わないとわからない”から大人は子供としっかりコミュニケーションをとるし、子供たちも小さい頃から、いろいろなことを知らされているようです。日本の子供は情報が十分得られないまま、ポーンと社会に放り出されて、ひよこのまま親鳥たちの中に入れられるイメージがあります」

プレライブイベントでロザリーのソロ・ナンバー”Where Did The Rock Go?"(ロックはどこへ消えたの?)を披露した濱田さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――濱田さんにとって、小学校はどんな「場」だったでしょうか。 

「“私”と“他の人たち”を意識し始めた場でした。クラスの子たちは私とは違う動きをするし、別の考えを持っているんだな、私には私という“個”があるのだな、と…。

きっかけは小学2年生くらいの、掃除の時間でした。ガラガラ音のする、教室の小さな窓を拭いていたある日、透明なガラス越しにぴーんと、ひらめくものがあったんです。私は今、“自分”という意識で向こう側の人たちを見ている。今までは特に何も考えずみんなと楽しくわーっと騒いで、疲れたらぼーっとしていたけど、私という存在は、自分の意思を持って向こう側に行ったり、ここに一人で止まることもできるのだな、と。

自分でも“なんだろう、この発想…”とびっくりしましたが、それ以来、自分が考えることと他人が考えることを、分けて考えるようになりました。結構、自立していたのかもしれません」 

――○○ちゃんとの関係が…といった、一般的な小学生の悩みとは無縁だったのですね。 

「私は誰とでも喋れるタイプだったので、深く悩んだりとかはなかったです。他の子達を見ていて、あの子はちょっとやり過ぎだな、と分析したり、凹んでいる子に話しかけることはあっても、この子は(問題を解決するには)自分でちゃんと言わないといけないな、と思って、トゥーマッチな介入はしなかったり。人前に出たいタイプではなかったので学級委員長みたいなこともしませんでしたが、振り返ると、相談されることは多かったですね。ちょっと早熟だったのか、達観して見ているような子供だったと思います」 

――その客観性は、まさに今の俳優というお仕事に繋がっているような気がします。 

「そう思いますね。この仕事って、集団の中に在りながら自分で自分の(お芝居の)オリジナリティを磨くという感覚が大事ですが、子供の頃に自然と培われたものはあると思います」
 
――『スクールオブロック』に戻りますが、今回のロザリーは、“孤児たちのお姉さん”(『オリバー!』ナンシー)や“ナニー(家庭教師兼乳母)”(『メリー・ポピンズ』)とはまた違った形で、子供たちと関わるお役ですね。

「(教育者とは言っても)ロザリーは自分で志したわけではなくて、おそらく家業を継いで学校を経営しているようです。メリー・ポピンズのように子供を一対一で見ているわけでなくて、集団として見ているので、彼らの学力を上げなければとか、保護者からのリクエストにどう答えるかということしか頭にないんですね。若い女社長という感じであって、教育者という感じではあまりなさそうです。おそらく、内面的にはまだ彼女自身、子供の部分があるのかもしれません。

主人公のデューイがやろうとしていることに対して“それは教育的ですか?”と言う台詞はありますが、その意図は“それをやることで彼らの成績は上がりますか?”でしかなく、彼らを学業に集中させることばかりを気にしています。彼女自身、子供の頃に心を閉ざしてしまった経緯があるのかもしれません。だからこそ、子供たちを集団として見ている自分とは違って、デューイが“個人”として子供たちに向き合い、その結果子供たちがどんどん変わっていくさまを見て衝撃を受けるし、自分自身も変わってゆくのだと思います」
 
――ロザリーはもしかしたら、いろいろな演じ方がありそうなお役でしょうか。初めから“今の姿は本当の私じゃない”という違和感を漂わせることもできそうですし、デューイとのやり取りの中で、180度変わって行く人物として描くこともできるかも…?

「そうなんですよね。そこは(演出の)鴻上(尚史)さんと、今はまだ白紙だからいかようにもできるね、と話しています。案外、本当に堅物で、自分はこういう感じでないと生きられない…という不器用な感じのロザリーも面白いんじゃないかな。気が付かないところで後ろからノックされて、振り向いたらデューイがいて、“君、こっちのほうが楽だよ”と連れていってもらったりとか…。

海外版の方が演じるロザリーは、セクシーだったりフェミニンだったりしていてそれも魅力的だけど、そういうものを一切合切なくしてみたらどうかな?と。いろんな選択肢の中から、最終的にどうなるか…。いつも(序盤は)想像がつかないので、自分でも楽しみです」

――子供たちとの付き合い方も、『オリバー!』の時とは異なりそうですね。

「真逆ですね。ロザリーは普段、子供たちと関わらないんです。学校では教室をちょっと覗いて“皆さん!”と(威厳をもって)声をかけたりするだけ。なので、稽古場でもみんなに怖がられていないといけないんです。

『オリバー!』の時は逆に、ワーッと子供たちが寄ってくるような状況を意識的に作るようにしていて、稽古場では子供たちが私の膝に座ったり背中におんぶしたりで、よく10人くらいで団子状態になっていました(笑)。今回はそういう状況は無いでしょうね。子供たちと共演していても、役柄によってこんなに接し方が変わってくるのだなと思います。舞台上に出たときに“あ、濱田さんだ”となって(親しみを感じられて)はいけないので、日ごろから近寄りがたい空気感は必要ですよね。私は子供たちについ、話しかけてしまうので、悩みどころです(笑)」

――千穐楽までお預けですね。

「その頃、本当に子供たちに嫌われてたらどうしよう(笑)」
 
――デューイ役は西川貴教さん、柿澤勇人さん(ダブルキャスト)です。

「全く個性が違いますよね。でもお二人の中にあるそれぞれのデューイの部分が最大限に発揮されると、すごく素敵なデューイになりそうです。西川さんとはまだ少ししかお話していませんが、すごく稽古が面白くなりそうですし、カッキー(柿澤さん)は根っからの役者なので、それを楽しみながらのびのび自由に、抑圧されたものを吹き飛ばすような感じでやるのだろうな、と思っています」 

――どんな舞台になるといいなと思われますか?

「とにかく夏ですからね。子供達も夏休みの間、一生懸命お稽古して臨むわけですから、とにかくパワフルに、観に来てくださった方全員が汗かくくらい楽しんで、ワクワクして帰っていただきたいですね。皆さんに観てよかった!と思っていただきたいです。

大人はもちろんですが、たくさんの子供たちにも観てもらいたいですね。生徒達が、隠している自分を曝け出して、デューイのもとで思いっきり音楽をやっている様子を見ていたりすると、やりたいことを思いっきりやることは悪ではなく、いいことなんだな、と肌で感じられるかもしれません。子供同士だからこそ伝わることってあると思うんです。同じ年代の子がギター片手に弾けている姿を見るだけでも、子供たちには刺激的かもしれません」 

プレライブイベントでデューイ役の西川貴教さん、柿澤勇人さん、パティ役のはいだしょうこさんらと和やかなトークを展開した濱田さん。🄫Marino Matsushima

――濱田さんは今年、『バンズ・ヴィジット』で迷子の音楽隊を迎え入れる食堂の女主人を演じましたが、こちらは『オリバー!』『メリー・ポピンズ』、はたまた『COLOR』で演じた母親役ともだいぶ異なり…。

「枯れた感じの役でしたね(笑)」

――そして今回はロザリー先生と、実に多彩な役柄をこなされています。どんな役にもすっと同化してゆく、コツのようなものはあるでしょうか。

「お客様の目にどう映るかはわかりませんが、自分の感覚では、(役と自分は)決して近くはないです。一足飛びに役に入ることはできないけれど、稽古の中で自分がやるべきことが見えてきたら、それを手探りで、手作業で一つずつこなしていく。その積み重ねで役に近づいていけるのかな、と思っています。“急がばまわれ”という感じでしょうか」

――近年、ますます“面”を増やし、球に近い多面体の役者さんとなられている濱田さん。その原点には、先ほどうかがった少女時代の“ひらめき”があるのかなと感じます。

「確かに、客観性はあるのかもしれません。自分はどう、というより、この役はこういうふうに言っている、それを私が言うとなるとどういうふうに言えばいいだろう、と一つ一つ考えながら演じています。“面”が増えているように見えているのでしたら、嬉しいですね」

(取材・文・撮影=松島まり乃)

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*公演情報 ミュージカル『スクールオブロック』8月17日~9月18日=東京建物Brillia HALL 9月23日~10月1日=新歌舞伎座 公式HP

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