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『春のめざめ』瀧澤翼・東間一貴インタビュー:“少年モーリッツ”が訴えかけるもの

『春のめざめ』より、左から東間一貴さん、瀧澤翼さんのモーリッツ。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

19世紀末のドイツの少年少女の思春期を描いたロック・ミュージカルが、奥山寛さんの新演出で久々に日本で上演。トニー賞では作品賞等8部門に輝いた本作で、“落ちこぼれ”として苦悩を深める少年モーリッツをダブルキャストで演じているのが、瀧澤翼さんと東間一貴さんです。瀧澤さんはパフォーマンス・ユニット「円神」のメンバーとして活躍、東間さんはダンサーを経てここ数年多数のミュージカルに出演、と異なるバックグラウンドを持ち、良い形で刺激し合っている模様。稽古も佳境の某日、お二人にたっぷりと手応えをうかがいました。

(左)瀧澤翼 2003年千葉県出身。『Let's 天才てれびくん』にレギュラー出演(14~17年)。2020年、パフォーマンス・ユニット「円神」を結成。翌年CDデビューし、アーティスト活動を展開しつつ、TVドラマ等にも出演している。(右)東間一貴 1998年福島県出身。3歳でモダンダンスを、16歳で創作活動を始める。18年以降『KNIGHTS TALE』『ウェスト・サイド・ストーリー』season1,3『メリー・ポピンズ』等多数のミュージカルに出演している。


【あらすじ】
19世紀末のドイツ。秀才のメルヒオールは落ちこぼれのモーリッツから悪夢について相談され、男女の性についてまとめ書きしたものを渡すが、幼馴染のヴェントラに再会したことで、自身の性も目覚める。モーリッツは懸命に試験に取り組むが教師たちによって落第とされ、おそるおそる話しかけた父親は体裁を気にして激怒。性について母親に尋ねたヴェントラは何も答えを得られず、無知のままメルヒオールと結ばれてしまう。モーリッツはメルヒオールの母に助けを求めるが拒まれ、思い詰めてゆく…。

子供たちの話であると同時に
大人たちの話でもあると思っています

『春のめざめ』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

―――お二人はモーリッツ役のどんなところに惹かれましたか?

瀧澤翼(以下・瀧澤)「初めて台本を読んだとき“こういう難しい、苦戦しそうな役を演じるんだ!”と驚きました。これまでニートやいわゆる“陰キャラ”はやったことがあったけれど、ここまで自分の世界に入り込んで悩む役はやったことがなかったので、自分だったらどう演じられるだろう…と想像が広がりましたし、どんな時代も、こういう(不遇な)子っていると思うんです。僕のモーリッツを通して、こういう子供たちに手を差し伸べようと思ってくださる人がいたらいいなと思って、モーリッツを演じたいと思いました」

東間一貴(以下・東間)「僕は以前からこの作品のブロードウェイ版のサントラをよく聴いていて、その中でも好きだったのがモーリッツのナンバーだったんです。絶対これを歌いたいと思って書類に希望を書き込みましたが、実は作品自体は観たことがなくて」

瀧澤「そうだったんですか!(笑)」

東間「合格して台本を読み、これは頑張らないと!と思いました」

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――東間さんは『イン・ザ・ハイツ』でアンサンブル、『メリー・ポピンズ』ではスイングをつとめるなど多くの舞台で活躍されていますが、いわゆるメインのお役は今回が初めてでしょうか。

東間「はい。僕はダンサーと括られることが多かったのですが、ブロードウェイだと、めちゃくちゃ踊れて歌も上手いのが普通だったりしますよね。ジャンルにこだわらず表現したいと思うタイプなので、今回、好きな曲がある役に挑戦しようと、めちゃくちゃ(歌を)練習しました。芝居や歌を磨くことが、ダンスにも生きてくると思っています」

 

――今回の公演では、モーリッツは一般的な“成績の悪い男の子”ではなく、精神薄弱、いわゆる障がいのある男の子という造型なのだそうですね。

東間「はい。彼自身は一生懸命頑張っています。裕福な家庭に育ち、“成績が悪いなんてありえない”という親のプレッシャーを感じて頑張っていますが、でも、できないんです。それを父親や先生たちは理解してくれません」

瀧澤「環境に恵まれてない感はありますね」

東間「『春のめざめ』は子供たちの話だけど、同時に大人たちの話でもあるんです」

瀧澤「序盤から、モーリッツはずっと何かを訴えかけているような気がして、僕自身、感情移入して困っちゃうほどです(笑)」

『春のめざめ』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――稽古の手応えはいかがですか?

瀧澤「東間君は当初、別の舞台に出演中だったので、しばらく僕が2チームでモーリッツを演じていたこともあって、こういう感じだなというものは掴めてきました。この物語のキーパーソンになれるよう、そして完成形としては皆さんがモーリッツを見て感情が揺り動かされるよう、今日はこうしてみようかな、と日々トライ&エラーを繰り返しています」

東間「今回の二人のモーリッツは、身体的な特徴からしてまったく違っているけど、その違いが面白いと思います。お互いの稽古を見ていて、“そのアイディアもらうわ”というのもあって、相乗効果を上げているんじゃないかな」

瀧澤「それはありますね。自分が頭の中で考えていたのは、まさに今、東間君が体現しているモーリッツで、まっすぐだけど絶対憎めないような、可愛げのある男の子。体つきだけでなく芝居のやり方も違うけれど、ダンスをやっていたというところでは共通しているし、メルヒ(メルヒオール)への信頼感という、芯の部分は同じだと思います。(お客様に)両方見比べて欲しいですね」

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――先ほど、稽古を拝見していたところ、瀧澤さんモーリッツが何気なくけんけんぱをするところで、運動神経の良さを感じました。ここに大人たちが気づいて、運動能力を伸ばすように導いてあげたらいいのにと思いましたが、そういったことは狙っていましたか?

瀧澤「全然無意識でした(笑)」

東間「そこは僕らの課題でもあって、一つ一つの動きがダンサーっぽくなってしまうとかっこいいモーリッツになってしまうし、わざとダサくするのも違うかな、と。難しいけれど、面白いです」

瀧澤「面白いよね」

――奥山寛さんの演出はいかがですか?

瀧澤「振付も含めて、観ている人にわかりやすく作っていらっしゃると感じます。僕らの芝居を否定せず、とことんやっていいよと言ってくれるのも好きですね。自分が見落としてたものをしっかり優しく教えてくださるし、今日も一個掴めたことがありました。奥山さんと一緒にやっているとボキャブラリーというか引き出しが増えていくのが実感できます」

東間「はじめのころは正直、決まりごとが多いなと感じていました。ここでこの番号に立ってこっちを向いて…とどんどんつけていって、最初は覚えるので精一杯でしたが、その番号に行くまでは好きにやっていい。決まりはあるけれど自由、というのが好きです。15歳という設定なので、“子供感増し増しで”というのは挑戦ですが(笑)」

瀧澤「ゴールは決まっているけれど、そこまではどんなルートを辿ってもいいというのがいいですよね」

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――モーリッツは後半に大きな決断を下しますが、それは必然だったととらえていますか?

瀧澤「難しい質問ですね(笑)。自分は直感的に、必然なのかなと感じています。この家に生まれた運命というのもあるし、時代背景や思春期というのもあるし、全てが重なってモーリッツはそういうことになったのかなと思います。誰しも一つや二つ問題を抱えているとは思うけど、流石にモーリッツほど酷い環境はあまりいないのかなと思います。彼は悪いことを何もしてないのに、環境や障害によって起こってしまう物事から追い込まれてしまう。そんな彼には心から、来世で報われてほしいなと思います」

東間「いろんな状況が重なったからこそ、こうなったと思いますし、もしもメルヒをもっと信頼したり、相談できていたら違ったと思います。あと、ナンバーの中でも言っているのですが、大人たちに見せつけてやろう、と決意してしまっているような気がします。だから2幕でイルゼと再会したときにも、誘いに乗れないのかな、と思います」

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――そんな彼が終盤にメルヒを力強く励ますのは、どんな心境からでしょうか?

瀧澤「自分の決断にちょっと後悔のような感情があったと思うし、思春期の頃って実際の家族よりむしろ友人の方が親しく感じられると思うので、メルヒにはそうなってほしくないという思いがあったのではないかなと思います」

東間「僕は見せてやったぞ、これからは君が世の中を変えてくれ、と託している部分もあるのではないかと思います。負の部分は全部俺が背負って行くから、あとは任せたぞ、と」

――そうなると俄然、お話がポジティブになっていきますね

瀧澤「いろいろと想像できますよね」

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――改めてモーリッツという役の大切さに気付かされますが、今回そういうお役を体験することで、俳優としてどんなものを掴みたいと思っていますか?

瀧澤「これ以上、思い詰める役はしんどいなというのが正直なところですが(笑)、この役を経験することで俳優としての幅も広げられたと思いますし、モーリッツを演じ切ることが出来たら、怖いものがなくなるかもしれません(笑)。この舞台を全力で突っ走って、俳優としての瀧澤翼も成長させたいと思ってます」

東間「なかなか経験できる役じゃないですよね。僕は性格的にけっこう頭の中でごちゃごちゃ考えるタイプで、どちらかと言うと明るいカラーではないと思うんです」

瀧澤「そう?今、すごい明るいよ(笑)」

東間「服の色でごまかしてます(笑)。なので今回、意外とモーリッツに入り易かったんです。こんなにがっつり芝居をするのが初めてというのもあるけど、俳優としてすごくジャンプできたのではないかなと思っていて、もっと飛躍出来ていけたらと思っています」
――どんな人にこの作品を観て欲しいですか?

瀧澤「若い人たちに見て欲しいですね。大人に訴えかける作品ではあるけど、若者たちにも見てもらって、大人に思いをぶつけようと思ってほしいし、性に関することってこういう機会がないと意識が向かないと思うので、改めて見つめ直してほしいです。そして何より、若いっていろんなことができるんだと、この作品を通して伝えたいです」

東間「どこまでが“若い”かにもよりますが(笑)、どの世代にも響くところがある作品だと思います。若い子が見たとしたら、言い方は悪いけど、大人ってクソだけど、自分たち自身で頑張っていこうぜ、という思いに繋げられる。そういう勇気が与えられたらうれしいです。あと、日本って性教育があまりないと思うので、大人の方たちも見た方がいいんじゃないかな。いろんな世代の人に見て欲しいです」

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――お二人はどんな表現者を目指していますか?

瀧澤「自分の夢は日本一の歌って踊れる存在になることで、これまではアーティスト活動をしながら映像でお芝居をしてきました。今回初めて、ミュージカルという歌、踊り、芝居の3要素が入ったものを経験して、すごく大変で悩むこともたくさんあるんですが、楽しいなと思っています。
例え悲しい芝居でも、演じるパワーが伝わってお客さんが泣いてくれたり、明日から違うことをしてみようとか、一歩踏み出す勇気、その人の人生に影響を与えられるような人間になれたら。そして思い出に残るような表現者になれたら、と思っています」

東間「僕は舞台を中心に活動していますが、その中で、「本物だよね」と言われるような役者になりたいと思っています。あの人アンサンブルだからとか、ダンサーだからといった呼ばれ方を結構してきましたが、『メリー・ポピンズ』でスイングを経験して、改めて舞台はアンサンブルなしには成り立たないと思いましたし、ダンサーを目指しているわけではなく、あくまで表現者でありたいと思っています。どの要素でも本物の表現者だよねと言っていただけるようになれたら、と思っています」

(取材・文・写真=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『春のめざめ』7月12日〜31日=浅草九劇 公式HP (7月26日時点で、7月28日19時公演と29日14時公演に僅かに残席有り)
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