Musical Theater Japan

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『ピーター・パン』長谷川寧&山﨑玲奈インタビュー:“いつもと違う”ピーター・パン、誕生の予感

長谷川寧  2003年にユニット「富士山アネット」を立ち上げ、ダンス作品を創作。ブラジル、英国、韓国等世界各地に招聘される。中国ではミュージカル『白夜行』、ミュージカル『人間失格』を演出。日本では『四月は君の嘘』振付(の一部)を手掛けている。 山﨑玲奈 愛媛県出身。地元でレッスンを受け、舞台デビュー。19年『アニー』アニー役、20年『スクール・オブ・ロック』サマー役(公演中止)、21年『フィスト・オブ・ノーススター』リン役、ドラマ「おいしい給食 season2」皆川佐和子役等に出演。20年ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを獲得。2023年10月にはミュージカル「聲の形」に主演、西宮硝子役で出演予定。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

1981年の日本初演以来、今年で43年目を迎えるブロードウェイ・ミュージカル『ピーター・パン』が、演出に長谷川寧さん、新ピーター・パン役に山﨑玲奈さんを迎えて登場。“永遠の若さ”を体現する少年に誰もが魅了される物語は今年、どんな形で表現されるでしょうか。稽古も佳境に差し掛かった某日、長谷川さん、山﨑さんにお話をうかがいました。

新版『ピーター・パン』がこだわる
“身体の態度”

 

――まずは本作に因んで、お二人はどんな子供だったでしょうか?

長谷川寧(以下・長谷川)「世の中には、こうしたらこうなるという公式があるじゃないですか」

山﨑玲奈(以下・山﨑)「三平方の定理みたいな?」

長谷川「そうそう。そういうものを知ってはいても、敢えて“そうじゃない方向”から論じてみようとする、天邪鬼な子どもでした」

山﨑「想像できます…!(笑)。私はとにかくやんちゃで、男子たちに“お前、女子じゃないだろ!”と言われて、中三まで男子扱いされていました(笑)」

 

――ということはピーター・パンという ”男の子”役も違和感なく…?

山﨑「そのままでピーター・パンできるんじゃない?と思えるところ、確かにあります(笑)。でも長谷川さんの演出には自分がいつもしない動きも多いので、新たに作っている部分も半分くらいあります(笑)」

『ピーター・パン』

 

――誰もが幼いころに一度は触れているだろう『ピーター・パン』の物語に今回、改めて向き合ってみて、どんな発見がありましたか?

長谷川「“おとぎ話”ということで、子供の頃は突っ込んで見ることがなかった部分が“意図”を持って書かれている…そこには“黒い”部分もある…というのが、本作の特徴だと思います。小説版を読めば答え合わせが出来たりするところもあるけど、そういう部分が(舞台版の)台本には端折って書かれているんですよ。
例えば、本作には“薬”が登場しますが、これは何の薬なのか。さらっと流されがちですが、示唆に富む存在です。“解けない謎”感をことさら前に出すつもりはないけれど、考察しがいのある作品だと思います」

山﨑「私はディズニー映画でこの物語に出会ったのと、昨年の(森新太郎さん演出の)舞台を観ていたことで、『ピーター・パン』はファンタジー色が強く、夢を見させてくれる作品というイメージを持っていました。でも今回、ファンタジーというだけでなく、リアルさやサバイバル感もある作品なんだという発見があって。皆が必死に生きている姿が本当にかっこいいんです。
ピーターがフック船長に勝つことがハッピーエンドなのかというと、そうじゃないんじゃない?と思えるようなところもあって、考えれば考えるほど、それまでのイメージから離れていって、180度違うピーター像が生まれてきました」

 

――大人の観客にとっても見応えがありそうですね。

長谷川「とはいえ子供たちを置いてきぼりにするつもりは全くないです。“リアルさ”もファンタジーの中でどうリアルかということであって、魔法をかけるにしてもリアリティの積み重ねの方法があると思うので、それをきちんとやりたいんです。
最近は子供向けのアニメもすごくリアルなので、“こどもだまし”のものを作るのはいけないと思っています。舞台に初めて触れる子供たちが“やっぱりアニメの方が面白い”と思ってしまわないよう、“こちら(舞台)にもすごいものがあるんだよ”と呈示したいですね」

 

――長谷川さんは振付家でもいらっしゃるので、身体表現も多用されるのでは…と想像されます。

長谷川「今までの『ピーター・パン』にも動きはあったと思いますが、今回のバージョンでは、(身体への)負荷のかけ方は大きいと思います。言うなれば“フィジカル・シアター”に近いでしょう。ちょっとしたシーンを表現するにも、例えばネバーランドの住人の動きに特徴を持たせたり、“身体の態度”を見せるということを全編にわたって貫いています」

山﨑「長谷川さんの演出は一言で言うと“独特”。私自身はフィジカル・シアターというものが初めてで始めのうちは戸惑いましたが、動きで表現していくことでシーンの見え方が違ってくると思いますし、2階席、3階席の方からも、キャラクターの“身体の態度”がよく見えて面白いと思います。私たち、やっている側は激しくて大変だけど(笑)、見ていてわくわくするし、心から楽しめる演出だと思います」

 

――『ピーター・パン』名物の、スピーディーでスリリングなフライングも期待してよろしいですか?

山﨑「はい、フライングももちろんあります。どうやったら本当に飛んでいるように見えるか、そしてその状態で体幹を使って歌も歌えるか、長谷川さんといろいろ試しながら限界に挑戦しています」

長谷川「まずは自分もやってみないとだめだなと思って、僕もはじめに飛んでみました(笑)。やってみるといろいろ制約もあるけれど、それでもお客様に一番魔法をかけなくてはいけないモーメントなので、どうしたら効果的にかけられるか、探りながら(フライング・シーンを)作っています」

 

――山﨑さんのピーター・パンはいかがですか?

長谷川「楽しくやってますよね」

山﨑「楽しいです!」

長谷川「僕は一方的に振り付けることには興味が無くて、まずふつうにお芝居をしてもらって、いいなと思った気持ちを動きにするようにしています。役者の気持ちが乗ることで、動きが有機的になるからです。そういうキャッチボールを大切に、皆が共通認識として“態度”を持った動き方をしている中で、全体をひっぱっているのが山﨑さん。僕が何か言うと、にやにやしながらやってくれるから助かります」

山﨑「にやにや?(笑)」

長谷川「楽しそう、という意味です(笑)」

山﨑「長谷川さんは、自分が想像もしていなかった提案をしてくださるので、“そういう観方もあるんだ!”と新鮮に感じます。始めは納得できないことも、考えながらやっていくと腑に落ちて、“ピーターらしさ”が滲み出てくるので、にやにや(笑)喜んでいろいろ試しています」

山﨑玲奈さん、長谷川寧さん。

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

長谷川「決して子供だましではなく、子供も大人も、そこで必死に生きているさまが見える『ピーター・パン』にしたいです。今はまだコロナのこともあって不安定な状況ですが、そんな中でも観に来てくれた人が何か行動する活力になれれば。“一歩踏み出してみよう”と思えるような、影響を与えられるような舞台になればと思っています。『ピーター・パン』は毎年上演されているけれど、“今年はちょっと違う『ピーター・パン』みたいだね”と最終的には口コミで広まるような舞台になれば良いですね」

山﨑「私は今回初めてピーター・パンを演じさせていただきますが、これまで御覧になったことがある方も、ない方も観ていただきたいです。長谷川さんがおっしゃる通り、今年は“いつもと違う『ピーター・パン』かも!”というのが魅力だと思っていて、今までにないピーター・パンの魅力が溢れる舞台になると思います。子供から大人まで、いろんな視点で観れるミュージカルなので、いろんな方に来ていただきたいです」

 

――長谷川さんは日本でのミュージカル演出は今回が初めてとのことですが、どんなことを感じますか?

長谷川「海外では2本ほどやりましたが、細かな部分で作り方は違いますね、どちらが良い悪いでは無いですが。日本のスタッフやキャストの印象はとても勤勉な方が多い印象です。僕がミュージカルをやることの意味としては、既存のミュージカルの枠組みを少しずつ広げることじゃないかと思っています。海外経験をふまえた上で“こういう方向性もあるんじゃないか”と提案できる事もあるのでは無いかと思いますし、ミュージカルをやる上で、このスタイルだからこそ到達できるもの、には興味を持っているので、今回もいろいろ勉強しながら、面白くやっています。
ずっと上演されてきた演目をいかに更新し、新しく届けられるかというのが演出家が変わる意義だと思いますが、そこに対する挑戦は今回ちゃんと出来ているように思います」

 

――山﨑さんは以前、幅広く活躍できる女優が目標とおっしゃっていましたが、その後経験を重ねることで、より具体的な目標が生まれているでしょうか?

山﨑「幅広くという目標は変わりませんが、それに加えて、小さいころに自分が観てきた名作ミュージカルに出演するのが夢ですし、映像もいろいろやってみたくて、映画やドラマ、CMもたくさんチャレンジしてみたいですし、一番の夢は、海を越えてブロードウェイとか、
世界で活躍できるようになることです」

 

――それに備えて英語を磨いたりも…?

山﨑「今はまだ苦手ですが(笑)、頑張って勉強して、海外の方とお話できるようになっていきたいです!」

(取材・文・撮影=松島まり乃)

*無断転載を禁じます
*公演情報『ピーター・パン』7月25日~8月2日=東京国際フォーラム ホールC 公式HP

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