Musical Theater Japan

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『SPY×FAMILY』木内健人インタビュー:“ひねくれた陽キャラ”に、自分らしさを交えて

 

木内健人 徳島県出身。東宝ミュージカルアカデミーアドバンスコース修了。近年の出演作に『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』『ガイズ&ドールズ』『レ・ミゼラブル』『天保十二年のシェイクスピア』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

2019年から連載中で、TVアニメ版も人気のコミック『SPY×FAMILY』が初舞台化され、この春、帝国劇場で上演されます。

スリリングなスパイ・アクション…と思いきや、コミカル、あるいはハートウォーミングな要素も多く、子供から大人まで楽しめる『SPY×FAMILY』。これがどのようにミュージカル化されるのか、主人公のスパイ、ロイドの情報屋フランキーを演じる木内健人さんに、舞台化への期待や近年のご活躍についてうかがいました。

【あらすじ】東西冷戦のさなか、西国の凄腕スパイであるコードネーム「黄昏」は、東国の国家統一党総裁デズモンドの動向を探るため極秘任務に就く。その内容とは、一週間以内に家族をつくり、デズモンドの息子が通う名門校の懇親会に潜入して彼に近づく、というもの。“精神科医ロイド・フォージャー”に扮した「黄昏」は急遽、かりそめの家族を構成するが、“娘”のアーニャは超能力の持ち主、“妻”のヨルには殺し屋という素顔があった。互いの正体を隠したまま、3人は様々な難問に直面するが…。

『SPY×FAMILY』製作:東宝 🄫遠藤達哉/集英社

 

――木内さんにとって、本作への出演の決め手は何でしたか?

「僕はふだん漫画をよく読むほうなのですが、本作に関しては未読でした。お話をいただいて原作を読ませていただいたところ、非常にモノローグが多い作品だということに気づき、これはミュージカル化したらすごくうまく行くんじゃないか、という気がしました。

以前から、海外ミュージカルに出演することが多かった分、オリジナル・ミュージカルにも触れたいという気持ちもありましたし、これまで漫画のキャラクターを演じた経験もなかったので、ぜひやってみたいと思いました」

――モノローグが多出する作品なので、もしかしたら全編歌でもいけるかも…⁈

「『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』的な手法でもいける作品なのかもしれないですね」

――漫画が原作の作品への出演は初めて、とのことですが、役にどうアプローチされていますか?

「正直、初めてのことなので迷いはあります。既にアニメ化もされている作品なので、“絵”のイメージが先行したほうがいいのか、台詞のやりとりなど内面から作っていく方がいいのか。でも、自分としてはとにかく、雰囲気でアプローチするのはよそうと思っています」

――今回のキャストの中には漫画が原作の作品に出演経験のある方もいらっしゃいます。そうした方々からアドバイスをもらったりはされていますか? 

「今回は既にアニメ版が存在していて、そこではその役の声や動きが具現化しているので、そのエッセンスをもらって役作りをするのはありかもね、と言ってもらったりはしています。具体的な部分に関しては(演出の)G2さんがどう作りたいかにもよるので、G2さんと話し合っています」

――木内さんが今回演じるのは、優秀なスパイ、ロイドの情報屋であるフランキー。冷静沈着なロイドとは対照的に、軽快な“陽”のキャラクターで、木内さん的には近作の『ガイズ&ドールズ』『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』で演じた役柄の延長線上にあるように見えますが…。

「僕もそう思います。なので、『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役で僕を知って下さった方は驚かれているんじゃないかな。昔から僕を知って下さっている方からは “はまり役”では、と言われています。フランキーは、ひねくれた陽キャラですよね(笑)。女性にモテないことにコンプレックスを持っているところはひねくれていて、かわいいなと思っています」

――“モテなくていい”ではなく、基本的には“モテたい”のですよね?

「モテたいんでしょうね(笑)。(原作には)変装をしてロイドと事情聴取をするシーンがあって、そのまま女性をナンパしに行こうと思っていたらロイドにかぶりものを剝がされて、このままだったらモテたかもしれないのに~と言っていたりするので、相当モテたいんだと思います(笑)」

――それを除けば楽しく日常を過ごしている…?

「どうなのかな。あくまでも情報収集に命をかけているとしたら、ああ見えて意外と危ない橋を渡ってるのかもしれないですね。体をはるというより、盗聴だったり、すごい高性能の望遠鏡で覗いたりといった日々なのかなと想像しています。頭脳派なのでしょうね、頭がいいかどうかはさておき(笑)。執念で情報を得ていそうです」

――フランキーならではの“見どころ”も期待されます。

「僕の役はおそらく、オチがあって笑いが生まれる役だと思うので、そういう面白シーンがあったらいいですよね。(近作の)『天使にラブ・ソングを~』では、お客様が笑って下さる間合いはこういうものなんだなと感じることが出来たので、そういう経験が活かせるといいなとは思いますが、あまり笑いをとることは意識せず、作品の中でどうフランキーを存在させるかということに集中できればと思います」

『SPY×FAMILY』フランキー・フランクリン(木内健人) 製作:東宝 🄫遠藤達哉/集英社

 

――ちなみに、フランキーはアフロヘアですよね。宣伝ビジュアル撮影では地毛からアフロヘアに仕立てたとうかがっていますが、本番でも地毛でしょうか、かつらでしょうか?

「さすがにかつらだと思います(笑)。撮影の時はコテでヘアメイクさんが一つずつ巻いて下さったのですが、どうしても割れ目が出来てしまって、まるく仕上げるのがすごく大変だったんです。あの作業を毎日やっていただくのはとても大変なので、本番ではかつらで行くと思います」

――本作は子供たちにも大人気なので、親子連れもたくさんいらっしゃいそうですね。

「でも小学生ぐらいになると結構、大人ですよね。以前、『ピーターパン』に出た時にも、意外とちゃんと見ているな、と驚きましたし、『天使にラブ・ソングを~』も(文化庁の子供招待事業で)来てくれた小学生たちが純粋に舞台を楽しんでいて、ある種大人と一緒だな、子ども扱いすると痛い目に合うなと感じました。年齢に関係なく、楽しんでいただけるようつとめたいです」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?

「一般的に、ミュージカルには“フォーマット”があるじゃないですか。1幕と2幕の間には休憩があって、その間もわくわくしていただくために1幕最後には必ず大ナンバーがある、といった具合に。そういう中で、『SPY×FAMILY』の良さをどれだけ出せるかが勝負だと思うんです。コミカルな部分やアクションを表現する術はいろいろとあると思うので、それに加えて、家族のぬくもりであったり、本当の自分と外からみた自分が違うという面白さを、いかに歌や踊りを使って表現していくのか。それらを全部組み合わせて、『SPY×FAMILY』の良さがつまった舞台が出来上がって、原作ファンにもミュージカルファンにも喜んでいただけたらいいなと思いますし、そのために一生懸命稽古して、僕からも積極的にアイディアを出していけたらと思っています」

 

木内健人さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――プロフィールのお話も少しうかがわせてください。近年おおいに飛躍されている木内さんですが、それまでもアンサンブルとして様々な舞台に出演されていました。アンサンブルの経験をご自身としてはどうとらえていますか?

「100パーセント良かったと思っています。アンサンブルを経験してきたことで、勘違いをする術がないというか、アンジョルラスやパブロ、今回のフランキーといった役と、台詞が一つだけのアンサンブルの役が本質的には同じだとわかるんです。どちらも、いかにその時演じる役のことを考えて、台詞を発するかが大事なのであって、違うのはその台詞の数。ですからそれが多いか少ないかで一喜一憂はしませんし、アンサンブルだからこその大変さというものもわかっているつもりなので」

――躍進のきっかけはやはり『レ・ミゼラブル』のアンジョルラスだったと思います。熾烈なオーディションを勝ち抜かれたのですね。

「熾烈という感じではなかったです。一人ずつ呼ばれたので、他にどなたがいるかもわかりませんでしたし、演出家のクリスさんの“やってほしいこと”、僕の“役について感じたこと”をディスカッションして、思ったように演じるというワークショップ形式だったので、オーディションで選んでいただいたというより、アンジョルラスという役に向き合うチャンスをいただけたのが嬉しかったです」

――これまで様々なアンジョルラスがいらっしゃいましたが、木内さんのアンジョルラスには“こういう学生さん、いる!”と思えるリアリティがあったように感じます。

「アンジョルラスについてはよく“カリスマ性”が必要と言われますよね。原作には“美少年”と書かれてもいます。でも僕が美少年になることはできないし(笑)、カリスマ性って自分で作れるものではないんだな、と途中で気づきました。僕が右だと言った時に(仲間の)みんなが右に行ってくれなければカリスマ性はないわけで、どれだけみんなが力をくれるか、ということなのだと。そこで稽古場では極力、みんなとコミュニケーションをとるようにしていたので、その蓄積でリアルな学生に見えたのかもしれません」

――22年の『ガイズ&ドールズ』ではラスティー役を演じました。

「ラスティーは戯曲ではあまり語られてない役で、台本をもらった時点では正直、どう演じたらいいか分かりませんでした。

そこで演出家のマイケル・アーデンさんに相談したところ、ラスティーは(仲間の)ナイスリーやベニーとは違って、実はギャンブルに命を懸けているわけではなく、もてたいからギャンブルをやっていると言われて。なるほどそうか、だから喋らないんだとしっくりきました。そして、今回のラスティーは“スーパーマーケットのオーナーの御曹司にしたい”と言われました。お金には困っていない。でもいつか家業を継がなくちゃいけないから、今はギャンブルで遊ぶんだ、と。この設定を彼と作ってからは、すごく芝居がやりやすくなりました。ちょっとした考え方一つで、役って演じやすくなるんだなと痛感しましたね」

――外国人の演出家と新演出版で組むのは…。

「『グランドホテル』『パジャマゲーム』でトム・サザーランドさんとご一緒したことがありました。トムさんもマイケルさんも、“作っては壊し”が本当に多かったですね。何か違和感が生じた時、日本の演出家だったらおそらくちょっとした修正で対応されるところを、彼らは根本から変えていこうとする。少しでも納得がいかないことに対してのみこまないのは凄いなと思いました」

――様々な経験を経て、現時点ではどんな表現者でありたいと思われますか?

「役にアプローチする時、自分が前に出るより役の後ろにまわる俳優さんに、僕は強く憧れます。作品やキャラクターによって顔つきが全然変わって、とても同じ人が演じているようには見えない。僕はそういうところを目指したいし、台詞や台本を大切に、演出家からの提示と自分のやりたいことを天秤にかけたり、間をとることが出来る俳優でありたいです。自分らしさも出しつつ、役がどう考えてどう動くのか、ということに重きを置いて演じていく俳優をずっと目指したいし、そうならなきゃいけないと思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『SPY×FAMILY』2023年3月8~29日=帝国劇場、4月11~16日=兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール、5月3~21日=博多座 公式HP
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