Musical Theater Japan

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体験取材:ミュージカル俳優に学ぶフィットネス

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遠藤瑠美子さん
緊急事態宣言が解除され、“劇場での観劇”までの道のりが少しずつ見えてきたとは言え、以前の形態での上演までは、慎重に段階が踏まれてゆくことが予想されます。
そんな中で、観客はどのようにミュージカル界との繋がりを保ち続けることが出来るでしょうか。
 
最もポピュラーなのは“映像(動画配信、TV放映等)を通した舞台鑑賞”ですが、贔屓の俳優がいればその方のライブ配信を観たり、余裕があれば“公演グッズや将来のチケットを購入““演劇業界を支援する基金等に寄付”といったことも考えられるでしょう。 
さらにもう一つ、このところ注目を集めているのが、“俳優やスタッフから学ぶ専門技能”。俳優によるヨガ、ミュージシャンによる楽器演奏レッスンなど、業界人が舞台のために習得してきた専門技能を、オンラインで教えるケースが増えているのです。 
舞台ファンとしては、SNS等でそういった告知を見かけ、興味は持ってもいきなり受講を申し込む勇気は…という方も多いかもしれません。オンラインというスタイルで、どのようなレッスンが受けられるのか。また、業界に関わりがない一般人でも、受講できるものなのか。その“実際のところ”をご紹介するべく、今回、二人の俳優のオンライン・レッスンを体験取材してみました。
遠藤瑠美子:Lun Fit くびれコアトレーニング

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遠藤瑠美子さん
劇団四季で『ウェストサイド物語』コンスェーロ、『コーラスライン』ジュディ等、高度なダンス力を要する役柄を演じ、退団後も『ジャージー・ボーイズ』リード・エンジェル等で活躍中の遠藤瑠美子さん。特に『キャッツ』では妖艶なボンバルリーナ役で一世を風靡しましたが、そんな彼女が4年前の怪我をきっかけに出会ったのがピラティスだそう。 
教授資格(FTP認定ピラティスベーシックインストラクター)を持ち、舞台出演の合間に度々オンライン・レッスンを開いている彼女がこのほど1週間のレッスンを開催すると知り、まずは“俳優さんではなく、一般の者ですが、参加できますか”とメールで問い合わせ。まもなく、“もちろん大丈夫です”との返信が届きました。むしろ、これまでの受講者のほとんどが一般の方なのだそう。それでは!と早速、メニューを検討。少々ハード、とのことでしたが、この自粛期間中にくびれが見当たらなくなっていた筆者にはまさに必要な“くびれコアトレーニング”を受講することになりました。 
レッスンには会議ツールZOOMを利用。遠藤さんから当日の朝、ZOOMミーティングのURLが送られ、それを定刻にクリックする形でレッスンが始まります。オンライン・レッスンの中には大勢を相手に講師がやってみせる一方向型のものもありますが、今回のレッスンは双方向型。受講者が実践する姿を講師がチェックしながら進めてゆくスタイルなので、“見られる…”という若干の緊張感とともに待っていると、画面に笑顔いっぱいの遠藤さんが登場。挨拶に続き、腹筋には3種類あり、くびれの形成には腹直筋(表面の筋肉)ではなく、“腹横筋”“腹斜筋”に働きかけることが大切というお話があり、この日のレッスンの意図が明確に伝わります。 
胡坐をかき、肩廻しなどで体をほぐした後、数種類のトレーニングが展開。“お尻をごろごろしながら、座骨を見つけて、床に刺します”“骨盤を立ち上げて、その横にタイヤがあるイメージで、お腹をうすーくする力で、息を吐きながら腰を後ろに…”と、実践しながら指示を送る遠藤さん。見よう見まねでやってみつつも聞きなれない言葉に“仙骨??”と戸惑っていると、それを察した遠藤さんが手元の図鑑を開き、“ここのことですよ~”と見せてくれる一幕も。こちらの動きを見て“松島さん、もう少し深く”など受講者一人一人への声掛けもあり、双方向性レッスンの良さが実感できます。また、どの説明・指示も発音が明瞭でわかりやすく、ポジティブなオーラがにじみ出ているのも俳優さんならでは。

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内ももの筋肉(内転筋)を鍛え、より腹横筋を動かしやすくするのも遠藤さんのこだわり。レッスンではソフトジムボール、もしくは丸めたバスタオルを内ももに挟んで行うものもいくつかあります。
流れるように一連の動きに取り組み、あっという間に40分のレッスンが終了。一般的な腹筋運動のようなしんどさはないものの、内側からじわじわ攻め、普段使っていない筋肉を使ったという感覚に。継続していけば確かに一定の成果が出るのでは、という期待も生まれました。 
後日、改めて遠藤さんにインタビュー。4年前の怪我は右膝の軟骨で、かばっているうちに反対側の膝も痛め、一時は歩くこともままならなかったそう。怪我の理由を調べる過程で分かったのが、若いころの股関節の故障や、骨格・姿勢の癖が影響しているということ。そこで、もともと負傷兵のリハビリのために作られ、身体の癖をみつけ機能を高める効果を持つピラティスをしっかり学ぶことにしたのだそうです。 

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気さくな笑顔の遠藤さんとの挨拶でレッスンはスタート/終了。

レッスン中は何度となく“~~を意識して下さい”との指示がありましたが、この“意識する”ということはとても大事で、例えば仙骨を意識せずにお腹を盛り上げながら行うと、表面の腹直筋がメインで使われ、頑張って継続しても、くびれが出来るどころか表面の筋肉だけが大きくなって太くなってしまうこともあるそう。“意識一つで使われる筋肉が変わるので、イメージをしっかり持ちながら行うことが大事だと私は思っています”と遠藤さん。レッスンについては、これまでは舞台のスケジュールの合間に不定期で行っていたが、今後は稽古や本番と並行して行う定期レッスンも検討しているそうです。 
 
永野亮比己:キッズ向けバレエ・エクササイズ

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「開けるだけ開いてみてね」という永野さんに「ムリ~」と悲鳴?を上げる子供たち。
後日、今度は“体験”ではなく“見学”させていただいたのが、永野亮比己さんによるキッズ向けのオンライン・バレエ・エクササイズ。ルードラ・ベジャール・ローザンヌ・バレエ学校でモーリス・ベジャールに学び、劇団四季では『キャッツ』のミストフェリーズ役を数百回演じた永野さんは、バレエ・スクールで教えた経験もあり、運動不足の子供向けのオンライン・レッスンも手慣れたものです。

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本格的過ぎるポーズですが、子供たちはきゃっきゃ言いながら真似していました。
柔軟体操から始まって軽快な音楽に乗り、“これがバレエの1番の形”とバレエの初歩の初歩を組み込んだ運動を展開、一つ一つ美しいお手本で子供たちを魅了。最後に“今はなかなか思い切り体を動かす機会がないかもしれないけれど、こういうふうに、家でも15分、20分ずつでいいから動いてみてくださいね”と子供たちに気さくに語り掛け、30分のレッスンは終了。今後も要望があれば随時レッスンを検討してゆくとのことです。 
 今回はお二人のレッスンを紹介しましたが、SNS上には他にも様々なミュージカル関係者によるレッスン情報が散見されます。ミュージカルとの関わり方については、あくまで出来上がった作品を鑑賞することにとどめるという考え方もありますが、コロナウイルス禍によって長期にわたり公演が中止となっている今、彼らのオンライン・レッスンを受講することもまた、ミュージカル界の後方支援に繋がります。彼らと接点が生まれることで、今後の出演作のチケットを依頼出来るのも一つのメリットと言えましょう。もし健康関連や趣味で習い事を始めようと思い立ったら、まずは舞台人のオンライン・レッスンを検索してみるのもいいかもしれません。 
(取材・文=松島まり乃)
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*遠藤さん・永野さん出演のオンライン・イベント「BE FIT With Musical Actors And Actresses ミュージカル俳優とエクササイズ」が6月7日に開催!詳しくはこちら
*オンライン・レッスンを継続/開始予定の舞台関係者の方(俳優・スタッフ)で、掲載をご希望の方はお申し出ください。一定数集まれば記事化を検討致します。