こんにちは。先月、真夏の日本から真冬のオーストラリアに戻ってきて1ヶ月経ちました。
コロナ禍を経て、日本では配信も含め、大中小様々な規模で“新作”ミュージカルが上演されているように感じます。原作ものから実話に基づいたストーリー、全くのオリジナルミュージカルまで様々な新作の情報を連日のように目にします。日本のスタッフが総力を上げて作るもの、海外スタッフとのコミュニケーションではオンラインも駆使しつつ、面白そうな新作がこれだけ上演されている様子に、日本におけるミュージカル創作の勢いを感じます。
オーストラリアでは、上演作品にはブロードウェイやウエストエンド作品が多く、長引くロックダウンや渡航制限で業界は大打撃を受けました。昨年開幕予定だった「ムーランルージュ」「ジャッグドリトルピル」「シックス」「ウエイトレス」「オペラ座の怪人」等も、今年まで開幕を延期しています。
そんな中、国産ミュージカルの創作や人材育成をする流れがあり、昨年から今年にかけて、シドニーのHayes劇場が主催するオンライン主軸の創作プログラムが開催されました。オーストラリアでミュージカル作家の創作プログラムが開催されるのは珍しく、企画者の一人は演出家のダレン・ヤップ氏です。
画期的だったのは「ミス・サイゴン」に次ぐアジア系のミュージカルを!と、アジア系クリエイターに特化して選出した事です。フィリピン系・マレー系・インド系・中国系、香港からの留学生、日本人の私、と様々なアジア系で、私は「KAGUYAーThe Moon Princessー」を一部披露しました。アメリカのBMIのように体系的な創作プログラムではありませんでしたが、今回のアドバイザーはオーストラリアだけでなくウエストエンドやブロードウェイでも活躍するオーストラリア人で(例外で「アリージャンス」のクリエイターも登場)、その方々のお話を聞き、フィードバックを頂けるのは大変貴重な機会でした。
余談ですが、元英国領のオーストラリアは30歳まで取得できるイギリスの労働ビザがある為、ウエストエンドに対して親近感があるそうです。昨年私が脚本アドバイザーを務めたミュージカルの作家は、オーストラリアのレ・ミゼラブルカンパニーからウエストエンドカンパニーに移りました。彼がコロナ禍に書いたミュージカルを、このHayes劇場でリーディング上演をする可能性が出たところから、この劇場が新作創りに投資していると知りました。
その方のミュージカルやこの創作プログラムを通じて感じたのは、オーストラリアはアメリカのように基礎的に学ぶミュージカルのフォーマットがない分、作り方や表現方法は人それぞれだということ。ダンスから発想する人もいれば、MacでSF世界を作って歌を発想する人もいたり、家族ネタから漫談スタイルで作る人もいて、幅広いミュージカルの可能性に出会いました。アジア系でも全然違う文化背景。馴染みのない文化でも、家族のキャラが鮮明で印象に残るものもあれば、普遍的だからこそ印象に残らないものもありました。私も含めバイリンガルミュージカルに挑戦した人達からは、知らない言語の混ぜ方も大変勉強になりました。
“普遍的”という言葉に惑わされていましたが、オーストラリア人でもニューヨーカーでも東京の人と話していても、ニッチなネタでも、ミュージカルで表現されるような、人の感情が大きく動く瞬間は共感しあえるものだと感じます。ただ、そこに至るまでの情報的な補足をどこまでエンタメにできるかは、試行錯誤するところです。
文化背景や価値観が違う人達との新作ミュージカル創りは道のりが長いですが、お客様に届けられる日まで、少しでも平和な未来へ繋がるメッセージを、ミュージカルに刻みたいと思っています。
(文・写真=渋谷真紀子)
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