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『ピーターパン』小西遼生インタビュー:”ネバーランドのひょっこりはん”(⁈)を、底抜けに楽しく

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小西遼生 東京都出身。TVドラマ、映画版『牙狼〈GARO〉』シリーズ主演で人気を博す。舞台出演作に『レ・ミゼラブル』『スリル・ミー』『ガラスの仮面』『End of the RAINBOW』『フランケンシュタイン』『生きる』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載

1980年の日本初演以来、多くの人々に愛されてきたミュージカル『ピーターパン』。今年日本上演40周年を迎える本作が、森新太郎さんを演出に迎え、リニューアルされます。 

この舞台でフック船長/ダーリング氏の二役を演じるのが、小西遼生さん。『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』『フランケンシュタイン』等でのクール、あるいはダークな役柄に定評のある彼ですが、今回の宣伝ビジュアルの中の小西さんは、一味も二味も異なります。いったいどんなことになるのか、お稽古の様子を含め、とくとお話をうかがいました。 

子供が喜ぶお仕事は
世の中で一番尊いと思っています

――小西さんは、本作の原作やミュージカル版について、何か思い入れはおありですか?

「原作小説は今回のお話をいただくまでちゃんと読んだことはありませんでしたが、ミュージカル版は一度だけ拝見しました。この時は映像をたくさん使う演出で、ファンタジーの世界が舞台上にスケール大きく広がっているなと感じましたし、ピーターパンと子供たちが飛ぶ瞬間ではものすごく感動したのを覚えています」

 ――今回のオファーは、ご自身としては驚きでしたでしょうか?

「もともと、いつか子供も観られる舞台をやりたいという気持ちを持っていたので、嬉しかったです。子供が喜ぶお仕事って世の中で一番尊い仕事だと思っていたので、本作に出ることでそれが叶う、と思えました」

――世の中で一番いいお仕事というのは、どのような意味で、でしょうか?

「(子供たちの)心に残るという意味でです。例えば、家で本を読んだだけでは想像だけでしかなかった世界が、舞台上には実際に広がっていて、その世界に入り込む事ができる。そして更に想像力が育まれていく、ということを小さいころに感じてもらえるのは、稀有なことだと思うのです」

――ご自身も子供の頃、そういった観劇体験をされたのですか?

「僕は母親が宝塚好きだったので、 小学生のころから月に1回以上宝塚に連れられて行っていました。自分自身が興味を持って通ったわけではなかったけれど、漫画が原作の『ブラックジャック』や『ベルサイユのばら』は観ていて楽しかったですね」

――お母さまは男女の分け隔てなく、お子さんに宝塚を見せてあげたいと思われたのですね。

「きっと単純に自分が好きだったからですね(笑)。僕としては、ついていけばおまけで遊園地に連れていってくれたり、ゲームを買ってもらえるのが楽しい…くらいの感覚でしたが(笑)」

――では後年、宝塚でも上演された『ポーの一族』に出演された際には、お母様はさぞやお喜びに…?

「以前から、宝塚出身の方とはよく共演しているのですが、母親にとって、僕がこの仕事をする中で一番嬉しいことなんじゃないかな」

『ピーターパン』©Marino Matsushima 禁無断転載

――本題に戻りますが、改めて台本を読まれて、新たな発見はありましたでしょうか?

「今回、このお話をいただいて資料を読むなかで、作者のバリ自身の伝記を読んでいると、『ピーターパン』は決してフィクションではなく、彼が近所の子供たちと交流する中で、その子たちと関わり見ていく中で書いたものだったことがわかりました。最後に迷子たちを養子にする場面があるけれど、バリも実際に養子をとったということを知って、決して空想の文学ではなく、こんなに作者自身の経験や想いを投影させた物語だったんだと初めて知りました」

――ということは、ウェンディたちの父、ダーリング氏はバリ自身の投影でしょうか?

「そのあたりはまだ分かりません。ダーリング氏はなかなかはちゃめちゃな人なので(笑)」

――蝶ネクタイが結べないと大騒ぎしたり、子供たちが行方不明になってからは、自責の念から犬小屋で寝起きしたりと、ちょっとぶっ飛んだところがありますね(笑)。

「むしろフック船長よりダーリングのほうがつかみどころがない(笑)。ある意味、子供たちより子供だなという大人ですよね」

――フック船長とダーリング氏は一人の俳優さんが演じることになっていますが、これについては様々な解釈がありそうですね。

「解釈は結構シンプルに考えていいんじゃないかと。子供たちにとってはベッドに入る前、(飼い犬のナナに意地悪をしたため)お父さんの印象が悪かった。だから、お父さんを(敵役の)フックにしちゃえ、という感じです。このあたりはあまり突き詰めて作り込むと意味が伝わらない気もします。世の中のお父さんも子供の前では基本大人ぶるけど、男の子の部分は実は変わらないと思うし。今回はフックとダーリングが敢えて同じ動きをするシーンも森さんと考えて取り入れました。」

――子供の目線でダーリングがフックへと繋がっていったわけであって、ダーリング氏の中にもともとネバーランド願望のようなものがあったというわけではないのですね。

「そのあたりは、観た方がいろいろ感じて頂ければ…。僕自身演じていてダーリングがフックに繋がるなと思える一瞬もありますが、今回の舞台に関しては、あまり“この言葉やこのシーンには裏の裏がある”みたいな大人の芝居ではなく、シンプルにやったほうが面白いように感じています」

――演出の森さんから、小西さんにはこれまでクールな二枚目のイメージがあったけれど、稽古が始まってみたら物凄く面白く、新境地どころか、もともとの持ち味だと感じたとうかがいました。

「これまで圧倒的にシリアスな役、陰陽で言うと陰の役が多かったのでそういうイメージなのかな。でも、『ダブリンの鐘つきカビ人間』では、だいぶはっちゃけた役を演じていますし、へんてこな役もたまにやっています(笑)。ただ、これくらい底抜けに楽しい作品は初めてかもしれません」

――宣伝ビジュアルでのフックの表情の意味は…?と想像を掻き立てられます(笑)。

「この表情の意味ですか…?これは、“ひょっこりはん”ですね(笑)。企んでるような、でも困っているような。この撮影の前に衣裳合わせがあったのですが、そこで初めて森さんとお会いしてお話をする中で、求められている(フック船長の)方向性が理解できたので、撮影では(それを思い出しながら)いろいろな表情で撮ってもらいました。」

『ピーターパン』©Marino Matsushima 禁無断転載

――衣裳合わせでは、豪華な衣裳が森さんにどんどん剥がされていったと伺っています(笑)。

「今回は“かっこいい”というイメージが要らないというか。かっこいいと思う瞬間があっていいけれど、子供っぽくてチャーミングなキャラクターにしたいんです。それは森さんが一番最初に言ってたし、僕自身も本を読んでみると、いわゆる悪役ではありますが、なんだか愛おしくてチャーミングなんですよね。それを僕が演じるイメージを森さんの中で考えた時に、立派な帽子がまず餃子みたいに折られ、羽飾りが下向きにされ…追剥に遭ったような状態になりました(笑)。

――宣伝ヴィジュアルのフック船長は白塗りですが、これは本番でも…?

「そうですね、その予定です」

『ピーターパン』

――塗るとすると、ダーリング氏として袖にはけてから、かなりの早替えになりますね。

「メイクをとって髪も髭も衣裳も…となると、大変かもしれないですね。でも森さんはきっとスピーディーに物語を展開したいと思うだろうから、できうる限りのスピードで変身します!(笑)」

――日々実験の場といった感じでしょうか?

「森さん自身がそういう現場の作り方をするんですよね。毎日、“こうしたら面白いかな”ということをどんどん試しては変えてまた試して、森さんにとってのベストをみんなで見つけるような作業です。全員が森さんを100パーセント信じているし、森さんも自分たちのアイディアに委ねてくれるところもあって、とにかく面白い作品にしたいという思いが一緒で、“こっちのほうが面白いよね”というのが腑に落ちることばかりです」

――その“面白さ”ですが、大人の笑いもあれば、子供が「わはは」と腹を抱えるようなものなど、いろいろな面白さががあるかと思いますが、今回はどのようなものを目指しているのでしょうか?

「大人とか子供というものがこの作品のテーマではありますが、演劇としての面白さを追究しています。たとえばネバーランドという場所は、子供しかいない場所とバリ自身も書いているので、どんなキャラクターも皆子供心とテンションでどういう芝居をすればいいかとか。戯曲の面白さをしっかりと解釈すれば、演劇として面白いものになるし、子供も大人も楽しめる。
この戯曲が初演された20世紀はじめの頃は、劇場に足を運んだ大人たちがこの作品にまず度肝を抜かれて、子供たちも、ピーターたちが空飛ぶシーンに魅了され、大人も子供もネバーランドという場所に目をキラキラさせた。今回の舞台も同じようになればと僕は思ってます」

――時代が変わっても大人も子供も夢中になれる魅力がある、と?

「この本が持つ本当の面白さってそうだと思います。日本では、『ピーターパン』はファミリーミュージカルと思われてるかもしれないけれど、チラシには「ブロードウェイミュージカル」と書かれています。大人、子供に拘らず、この作品のすばらしさを皆さんにお見せしたいと思います」

――キャラクターのお話に戻りますが、原作のフックは優雅な言葉遣いで高貴な立ち居振る舞いのようですが、彼はもともと高貴な生まれなのでしょうか?

「原作では名門校を出てるんですよね。でも、そこの説明は今回は必要ないかな。僕の印象としては、愉快で個性的な海賊たちの中では、フックはある程度品があるかもしれないけれど、高貴だと思ってるのは自分だけ(笑)。だから台詞回しも独特で、彼もそれに酔いしれてるという感じです」

――ご自身の中で、「新境地を拓いている」感覚はありますか?

「新境地と言うか、本当に楽しくやらせて戴いてます。自分にないものを絞りだすというより、自由に泳がせて戴いて、そこに森さんがいろんな餌をつるしてくれているという感じですね」

――二枚目の小西さんを見慣れている方はびっくりされるかも?!

「まず、あの白塗りですからね(笑)。僕はけっこういろいろ自分で理由付けするほうなんですが、あの当時の白塗りって、映画を見たらわかるけど、イギリスの喜劇には白塗りしている貴族ってけっこう出てくるんですよね。ピーターパンものの映画でも作品によっては海賊が白塗りしていたり、『パイレーツ・オブ・カリビアン』にもいるし、そんなにぶっとんだことをやってるつもりはないけど、お客様は“なんだこれ‼”と思われるかもしれないですね」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?

「森さんの演出はかなりアナログで、ネバーランドというファンタジーの世界を極力、人の力で表現しているんです。映像を駆使するやり方もあるけれど、今回は想像力をふんだんに利用し、お客様の想像力に委ねて作られる、演劇的なお芝居になっています。夢も現実もいっぱいつまっている作品なので、まずは僕ら自身がこの戯曲の面白さを120パーセント発揮して作り上げたいという気持ちと、それがかなったときにお客様には大人も子供も隔てなく、あ、ネバーランドって自分の想像力で本当に行けるんだとか、飛ぶってこんなに感動できるんだとか、そういう感動を味わって頂けたらと思います。全部が見どころなので、開幕から幕が下りるまで没頭して頂きたいですね」

――このコロナ禍では演劇界も色々な影響を受けていますが、小西さんはこの経験によって、表現者としてのヴィジョン等、心境の変化はありましたでしょうか?

「改めて、舞台というものが素晴らしい場所だということを再認識しました。演じるということも、観ることも、非日常の素晴らしい時間なのだと。お客様には、とにかく恐れずに劇場に足を運んでいただければ、という気持ちがより強くなりましたね。以前にも増して、劇場に来て頂きたいです」

――配信もいいけれど、ライブにこそ、と?

「もちろん、コロナ禍で生まれた配信も、劇場に来られない人が観られるようになったという意味でよかったと思いますが、やっぱり“生はいいよ”という気持ちはありますね。早く劇場いっぱいのお客様の顔を見たいですね。その景色が恋しいです。お客様的にはマスクをしている点で以前との勝手の違いはあるかもしれませんが、きっとマスクをしているのも忘れられるような、楽しい舞台になると思います」

――小西さんたちにも観客のマスクの向こうの笑顔が見えてくるといいですね。

「マスクでは閉じ込められないぐらい、素敵な世界が広がると思います」

(取材・文・撮影=松島まり乃)

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『ピーターパン』アート作品さながらのワニと船長の絡み?にもご注目を。©Marino Matsushima 禁無断転載

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*公演情報『ピーターパン』7月22日~8月1日=めぐろパーシモンホール 大ホール ほか 公式HP

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