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『ライオンキング』青山弥生インタビュー【前編】“命への思い”さらに深く

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青山弥生 宮崎県出身。確かな歌唱力、表現力で『ライオンキング』ラフィキ、『マンマ・ミーア!』ロージー、『ウェストサイド物語』ロザリア、『エルコスの祈り』ダニエラ、『リトルマーメイド』アースラなど、多彩な役を演じ分けてきた。俳優たちのまとめ役を担い、周囲の信頼も厚い。写真は『ライオンキング』より。Photo by Marino Matsushima ©Disney 禁無断転載

1997年にブロードウェイ初演、翌年日本で開幕した『ライオンキング』。日本の演劇界では異例中の異例とも言える無期限ロングランを続けてきた本作が昨年末、23周年を迎えました。

この舞台にラフィキ役オリジナル・キャストとして、開幕時から断続的に出演し続けているのが青山弥生さん。呪術師のヒヒというユニークな役どころを、ハリのある歌声と確かな口跡、豊かな人間味で演じてきた青山さんですが、彼女にとって改めて、この作品の魅力とは?

23周年を迎えての感慨なども交えつつ、改めて『ライオンキング』という作品を振り返り、たっぷり語っていただきました。(前後編の2回に分けてお届けします)

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青山弥生さん 写真提供:劇団四季

【あらすじ】アフリカのサバンナ。動物たちの王国プライドランドでは王ムファサに跡継ぎシンバが生まれ、動物たちは歓喜しますが、後継の座を奪われた王の弟スカーは苦々しく思っています。

無邪気に育つシンバはスカーに唆され、象の墓場を訪ねてハイエナたちに襲われますが、間一髪でムファサが救出。しかし再度スカーの奸計によって今度はヌーの大群に巻き込まれ、シンバを助けたムファサは崖から落とされてしまいます。

スカーに父の死の責任を問われたシンバは王国から逃亡。ジャングルでミーアキャットのティモン、イボイノシシのプンバァと出会い、彼らのモットー“ハクナ・マタタ”を実戦、のびのびと成長します。

しかしその間、プライドランドはスカーの支配のもとで荒廃。再会したナラから帰還を求められたシンバが苦悩していると、歴代の王たちを見守ってきた呪術師ヒヒのラフィキが現れ、シンバに“父王に会わせる”と言いますが…。

日本人の精神性とも共通する“根”の部分を
大切に演じています

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『ライオンキング』Photo by Marino Matsushima ©Disney 禁無断転載

――まずは日本公演23周年、おめでとうございます。

「有難うございます。お陰様で23周年を迎えることが出来ました」

――この年月を振り返って、いろいろと感慨もおありかと思います。

「そうですね…。この作品を劇団でやることが決まった時に、個人的にNYに観に行きまして、当時はチケットがソールドアウトだったので、雪の中を5時間くらい(リターンチケットの列に)並んで観たんです。でも最初は、ヴィジュアル的にこの作品は日本人には無理なんじゃないか、と思ってしまって。アフリカの大地を表現するのに、日本人は一番遠い民族のように感じられたんです。

でも稽古を重ね、公演を重ねるなかで、日本人は代々、生活の中で“八百万の神”として自然を奉ってきたし、怖いものでもあるけれど癒しも届けてくれるものとして大切にしてきた、そういう“根”の部分では、日本人のアイデンティティと『ライオンキング』には共通するものがある、と思えてきました。

もう一つ、“命”に対する思いもより深まってきましたね。時代の流れの中で、何でも壊れたら買い替えればいいという感覚が広まっているように思いますが、命はたった一つしかない。そう強く感じるようになってきました」

――舞台自体は、この23年間でどのような進化を遂げていると感じますか?

「初演から、日本ではずっと大切に継承してきたのですが、四季劇場[夏]での公演が開幕する時、海外スタッフがいらっしゃって、ブラッシュアップの稽古を行い、上演時間も短くなりました。それによって作品が“濃く”、より生き生きしたものになったと感じています」

――濃くなったというのは、例えば感情の流れがより分かり易くなったとか?

「削ぎ落されて、芯だけになったといいますか。新作を発表する時には思いが溢れすぎて“あれもこれも”となることが多いと思いますが、上演を重ねる中で、本当に必要なものが見えてきて、凝縮されていったのかもしれません。」

――初演の際にオリジナル演出のジュリー・テイモアさんからのお話で、印象深かったことはありますか?

「テイモアさんはバリ島でバリ舞踊を学んだり、日本で古典芸能に触れた経験もおありの方で、オーディションで来日された時、“『ライオンキング』にはとても東洋的な要素がある”とおっしゃっていました。確かに、東南アジアの笠のようなハットを被った人が蝶々を操る演出は歌舞伎の黒衣を思わせますし、ザズやティモンなどのパペットには文楽的な要素が見て取れますよね」

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『ライオンキング』Photo by Marino Matsushima ©Disney 禁無断転載

――映画版で雄だったラフィキが舞台版では雌になったのは、“母なる大地”的なイメージがあってのことでしょうか。

「きっかけとしては、女性が演じるメインキャラクターが少なく、舞台化にあたってもう一人欲しいということだったらしいのですが、おっしゃる通り母性を表現したかったのだそうです」

――巫女的な存在でもあり、大変ユニークな役どころですね。

「当初はそのユニークさをどうにか出そうと、技術ばかりに気をとられていたような気がします。この作品は求められる音域も歌唱法も独特で、欧米起源のミュージカルではビブラートが当たり前なのに、『ライオンキング』ではノンビブラートを求められる。ラフィキはクリック(舌打ち)もありますし、何よりアフリカ音楽というのが、馴染みが無かったので苦労しました」

――23年経った今は…。

「人生でいろいろな経験をする中で、私自身、父の死にも直面したこともあり、心から命の大切さを思い、そのメッセージを届けられたらと演じています。“命って一つだよ”と。生きていればいいことばかりではないと思いますが、それでも(皆で助け合って)生きていく、そういう世の中になってゆくといいなと思います。一日一日、身近になってゆく“命”というものに対して、敏感というか、深く感じるようになってきました」

――今回の公演で久々に青山さんのラフィキを拝見しましたが、〈サークル・オブ・ライフ〉での、もともと英語の歌詞を想定して書かれた曲に日本語をぴたりとはめつつ、一つ一つを粒だてた歌唱が感動的でした。この曲を日本語でどう歌うか、長年研究しつくされてこその歌唱と感じます。

「有難うございます。やはり私たちは浅利(慶太)先生から“言葉を一音も落とすな”と教わってきたので、本が基本なんですよね。それを私たち俳優が媒介としていかに(お客様に)届けるか、いつも意識しています。ただ、媒介といってもただ流れ作業的に音や言葉を発するのではなく、そこには俳優自身の解釈や表現が入ることで深みが出るのだと思います」

――では〈サークル・オブ・ライフ〉では、一つの事象を客観的に歌っているのではなく、ラフィキ自身、思いを噛みしめながら歌っているというイメージでしょうか。

「この曲で、ラフィキは生命の尊さを歌うんです。歌いながら改めて、この歌詞を大切にしたいと思っています。コロナ禍にあってより、生命の大切さを感じるナンバーですね。

〈彼はお前のなかに生きている〉というナンバーで“登れぬ山などない”と歌っているように、夜明けは必ず来る。今の社会情勢に重ね合わせながら、自分自身この作品の歌詞の意味を深く感じられるようになってきました」

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『ライオンキング』Photo by Marino Matsushima ©Disney 禁無断転載

――〈サークル・オブ・ライフ〉ではプライドロックの様々な動物が大集合と相成りますが、青山さんの個人的なお気に入りアニマルは?

「チーターですね。最も誇り高い、ゴージャスな動物なんです。でも反ったりする動きがあったりと、操作はなかなか大変そうです。チーターに限らず、ガゼルもシマウマも繊細な動きが求められるので、これだけロングランしている作品でも毎週パペット稽古をしています」

――初参加の方だけでなく、全員で毎週なさっているのですか?

「はい、もちろん。ライオンのマスクにしても、ただつけているだけだと帽子のようになってしまう。マスクにも生命が宿っているようにとテイモアさんに言われました。」

――そういえば以前、テイモアさんにインタビューした際、“本作では様式的な表現がとても大事。日本は歌舞伎など様式的な古典芸能のある国なので、日本の俳優たちは私の求める表現を理解してくれるのでは”と大変期待されていました。

「この作品では、様式性は大事ですね。皆で意識しています」

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『ライオンキング』Photo by Marino Matsushima ©Disney 禁無断転載

――〈サークル・オブ・ライフ〉冒頭には、ズールー語も出てきます。どういったことが歌われているか、ご存じでない方もいらっしゃると思いますので教えていただけますか?

「“ナンツ インゴニャマ バキティババ”は、“ライオンがやって来た”というような意味ですね。その後の“インゴニャマ ネングウェナマバラ”は、一定のリズムで祈りを捧げるお経、チャントのようなもので、“ライオン、ヒョウ、ライオン、ヒョウ”と繰り返します。トック・トック・トック・トックというリズムで歌うことで、“鼓動”を表してもいる、と教わりました。シンプルですが、それぞれに様々な意味があります」

~後半に続きます~
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ディズニーミュージカル『ライオンキング』ロングラン上演中=有明四季劇場、名古屋四季劇場 (東京公演は新型コロナウイルス感染症の影響により、1月29日より公演中止。2月5日から公演再開が予定されています。詳細は劇団四季公式HPを参照下さい)公式HP