Musical Theater Japan

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『The Last 5 Years』小林香インタビュー:三者三様の“懸命な生きざま”

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小林香 京都府出身。同志社大学卒業後、演出家・謝珠栄に師事。東宝株式会社にて帝国劇場/シアタークリエにて演劇プロデューサーとして活動後、舞台演出家として独立。海外ミュージカル『Little Women-若草物語』『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレートコメット・オブ・1812』、オリジナル・ミュージカル『Indigo Tomato』などの他、日本では数が少ない「ショー」の創作も得意としている。

一組の男女の出会いから別れまでを、男性側は時系列で、女性は別離から出会いへと遡る形で描く二人ミュージカル『The Last 5 Years』。木村達成さん×村川絵梨さん、水田航生さん×昆夏美さん、平間壮一さん×花乃まりあさんという魅力的な3組のキャストを演出するのが、大作ミュージカルからコンサートまで幅広く活躍中の小林香さんです。

稽古は全員が一堂に会するのではなく、敢えて一組ずつ、丁寧に行ってきたそうですが、各組が描く恋愛はどう色づいてきているでしょうか? コロナ禍を経て小林さんが今、ミュージカルについて抱いている思いを含めてうかがいました。

【あらすじ】舞台はNY。夫ジェイミーとの結婚が破綻した女優の卵キャシーは、心の痛みを抱えながらこの5年間を少しずつさかのぼり、振り返る。
いっぽうジェイミーの物語は5年前の時点から始まる。新進気鋭の作家ジェイミーは、キャシーと出会い有頂天に。仕事でも徐々に成功してゆくが、彼女のほうはオーディションに落ちる日々。二人は強く愛し合うが、少しずつ心に隙間が生じて行く…。

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『The Last 5 Years』

 

別々の時間を演じる二人が
目を合わせる瞬間の喜びを大切に


――本作は『パレード』や『マディソン郡の橋』で知られる、ジェイソン・ロバート・ブラウンの作品(作詞作曲・脚本。2002年オフ・ブロードウェイ初演)。男女が逆方向から物語を語る構成もユニークですが、音楽的にはどんな特色が見受けられますか?

「まず楽器編成が風変わりで、チェロが2本、そしてヴァイオリン、ギター、ピアノ、ベースという具合でして、チェロが2本というのが肝だと思っています。なぜこんな不思議な編成なのか、音楽的な解釈はいろいろあるかと思いますが、チェロは人間の声に近い音域を持つ楽器なので、(主人公である)キャシーとジェイミーの心の声を代弁しているのかな、と考えています。

また、作品の構造にワルツがうまくはまっていて、二人がすれ違っては出会い、円になる。そしてまた離れてゆく、という過程が頭と真ん中、終わりに出てきて、非常に美しく円の中におさまっているのも特徴的です」

――キャシーの物語は現在から過去へ、男性の物語は過去から現在へと向かいながら語られてゆきます。この方向性はなるべくしてなっていると思われますか?それとも逆(女性が過去から今、男性が今から過去)方向でも成立する物語でしょうか?

「なるべくしてなっている、と思います。というのは、ジェイミーは“Time Flies(光陰矢の如し)”という感覚を持ち、スピード感を求める“矢印”の人。それに対してキャシーはforever(永遠)という“点の感覚”を持っていて、ソロナンバーの曲調もゆっくりとしています。そこが圧倒的に違いますので、ジェイミーは前進するのみ、だと思います」

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『The Last 5 Years』

――そんな対照的な男女が強く惹かれあいながらも、最後には袂を分かつ。結末がはじめからわかっているラブストーリーという点でも、珍しい作品ですね。

「20年前に書かれた脚本ということもあって、キャシーの“捨てられた女”的なナンバーから始まるのが気になった方もいらしたかもしれません。この作品は一度しか観てないのですが、今回、台本を読み返してみて、これから人生を築き上げようとしている20代の男女が、一生懸命に生きていく物語…というとらえ方ができると思いました。そうであれば、別離という前提も“痛みを抱えながらも前に進む”というキャシーの冒頭のナンバーの生きざまに繋がり、お客様にも共感いただけると思い、新しく演出したいと思いました」

――今回は3組の出演者がいらっしゃいますが、稽古は一組ずつ、別々に行ってきたそうですね。

「他の組を見てしまうと影響されたり、逆に他の人がやっていることを敢えてやらないようになってしまうのがもったいないし、お互い意識することなく、のびのびやっていただけたら…と思ってのことです。

結果的にそれぞれ全然違うものが生まれてきて、一つの物事だけどこんなに豊かに変わってくるんだな、と逆に学ばせていただいているところです。(題材柄、)自身の体験を話をして下さる方もいるし、非常に面白いですね。男性はこう、女性はこう…という話になって、男の人って心の中ではいつも浮気しているんだな、と発見があったり(笑)」

 

――まだ稽古が始まる前に木村達成さんにインタビューした際、イメージとしては一人芝居が二つ並列しているようなものになるかもしれないけれど、孤独を感じるようなものにはしたくない、とおっしゃっていました。演出プラン的にはどのようなものになっていますか?

「二人のお芝居が舞台上でクロスするよう、作っています。お客様が“今、クロスしているな”とおわかりいただける瞬間は多々ありますが、舞台上の二人は一度も目を合わせず、ずっとすれ違っている。そんな二人が(中盤の)結婚式のシーンで初めて目を合わせるので、その瞬間は(演じる彼らの中に)自然に喜びが溢れてくると思います。そういった人間の自然な反応を生かしつつ、各ペアの相性の良さを表現できたらと思っています。時系列は別々でも、やっていることは別々に見えないよう、クロスする箇所に気を遣いながら稽古しています」

 

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『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――3組それぞれ、どんなカラーでしょうか?

「木村さん・村川さん組は演劇的で、アメリカ人っぽくダイレクトにやり合うというより、もっと日本人的に、繊細で思いやる気持ちをもった喧嘩ができるペアだと感じます。水田さん・昆さんペアは、言うなれば“音楽バージョン”。自分の夢、自分を築くことへの思いが強いペアですね。平間さん・花乃さん組は“ミュージカル篇”というか、動きなどに躍動感があります。お互いに対して優しい慈しみを持っていますね」

――どんな舞台に仕上げて行きたいと思っていらっしゃいますか?

「この作品は、“相手がいない”、いないものに向かって演技をするという点において、役者としては非常に演じにくい舞台だと思います。相手から(台詞や動きを介してリアクションを)もらうのがお芝居の喜びなのに、それができない演目ですので。非常に苦しかろうとは思いますが、その一方で、二人はナンバー(楽曲)の中で、常に相手の存在を思い、歌っています。私たちが歌をうまく使うことで、20代の若者が懸命に人生を築いていく様をじっくりと御覧いただけるのでは。今を生きるお客様の心に、きっと強く残るものがあるのでは…と思っています」

 

これからのミュージカル界のために
取り組んで行きたいこと

 

――キャリアのお話も少し伺わせてください。小林さんは最近、所属事務所を移られましたが、お仕事上、新たな展望がおありだったのでしょうか?

「オリジナル・ミュージカルをもっと作りたい、という思いが一番にありまして、それを作る土壌を持ったところに移動しました。機会をいただけるようになれたら、と。実際、構想中のものもあります」

 

――コロナ禍によって日本のショービズも様々な影響を受けましたが、ミュージカル界は今後、どのようになってゆくべきだとお考えですか?

「コロナによって配信が一般的になりはじめたことで、例えば家の中で、家族が一緒にご覧になる機会も生まれてきました。そうした広がりをうまく使って、老若男女、幅広い層に御覧いただけるものを作っていかないと、と思っています。

例えば、子供も観られる作品はあっても公演の開演時間が遅かったり、チケット代が高かったりといった高いハードルがあります。ミュージカルは世界を反映するものです。多様な人々と共有していきたいけれどなかなか広がらない、変わらないという状況を、配信が増えてきたことも一つの契機として、新しいお客様に繋げていけるよう、考え続けなければいけないと思っています」

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『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――日本社会が少子高齢化してゆく中で、新たな客層を掘り起こすことはミュージカル界が存続していくために必須ともいえます。ファミリー・ミュージカルに関しては長く取り組んで来られたカンパニーもありますが、もっと増えてゆくといいですね。

「同感です。そのためにも、規模を自在にできるオリジナル・ミュージカルを作ってゆくことが重要だと思っています。一定のミュージカルファンだけでなく若い人、高齢層にも喜ばれるものも作る必要がありますが、オリジナルであれば間口を広げることができますし、そこから次に繋がってゆくと思います。

私はサンリオピューロランドでショーを作ったことがあるのですが(2015年「ミラクルギフトパレード」)、4歳からご高齢の方まで、あらゆる世代に喜んでいただけるものをというリクエストをいただき、とても難しさを感じました。その経験がありますので、今後のミュージカル界のためにどういうものを作るか、というのはずっと考え続けている課題でもあります」

――例えば最近、新たなクリエイターとの出会いを期してコンペを行ったカンパニーもありますが、小林さんが所属する会社でもこういった動きは…?

「まだ移籍して1年足らずですのでよく分りませんが、そういった提案もしたいですし、こうした取り組みがあちこちで行われることで、いろいろな才能が発掘できると思います。そして発掘にとどまらず、彼らがこの業界で仕事としてやっていけるような経済的な基盤作りも必要なことだと思っています。最近、大学で演劇を教え始めましたが、そういった部分も含めて、長期的に取り組んでいかなければと思っています」

――そうした中で、ご自身はどんなクリエーションを続けていきたいと思っていらっしゃいますか?

「オリジナル作品、それも世の中を少しでもよくできるような作品を創っていきたいと思っています。特に今、強い思いを注いでいるのが女性の問題で、ジェンダーギャップ、子供たちが与えられているジェンダーバイアスを含め、女性に対する偏見から皆が自由になれるように、ミュージカルを通して易しく、面白く、女性問題に取り組みたいです。頑張りたいと思っています」

(取材・文=松島まり乃)
*公演情報『The Last 5 Years』6月28日〜7月18日=オルタナティブ・シアター その後、大阪で上演 公式HP

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