Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『The Last 5 Years』観劇レポート:愛と夢追う二人の5年間

f:id:MTJapan:20210718035113j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

舞台後方でピアノが奏でる、三拍子の旋律。甘やかでどこか哀しいメロディに弦楽器の音色が重なると、現れた女性(キャシー)が憂いを湛えた表情で歌い始めます。
“ジェイミーはもう旅立った 次の夢 次の道へ
…私は傷だらけのまま ただ立ち尽くすばかり…“

f:id:MTJapan:20210718040236j:plain

『The Last 5 Years』 禁無断転載

この光景にオーバーラップする形で後方に現れるのが、5年前のジェイミー。
キャシーとの初デート帰りの彼は、この恋をきっかけとして新たな人生が始まる予感に包まれています。実際、作家志望の彼はエージェントに送った原稿が認められ、キャリアの第一歩を踏み出すことに。いっぽうで女優の卵であるキャシーはなかなか芽が出ず、ジェイミーに励まされますが…。

f:id:MTJapan:20210718040540j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

一組の男女の出会いから別離までを、女性は“今”から過去へ遡ってゆく形で、男性は過去から“今”へと辿る形で、ジェイソン・ロバート・ブラウンが作詞作曲した二人ミュージカル。初演(2001年シカゴ)から20年を経た今も世界各地で愛されている本作が、今回は演出に小林香さんを迎えて上演中です。

f:id:MTJapan:20210718041826j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

1年前を描いたと思ったら次の場面は4年前…といった具合に進行するため、観る側は常に“今はいつ?”を意識する必要のある作品ですが、今回の演出ではシーンが変わる度、舞台上方に1(恋愛が始まった年)から5(最後の1年)までの数字を表示。“現在地”がわかりやすく示されることで、二人の心模様は追い易くなっています。

f:id:MTJapan:20210718042413j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

また基本的には一人芝居が交互に展開されるものの、今回は一人が歌っている時にもう一人が後方、もしくは脇で前後のシーンをオーバーラップさせたり、一人芝居の中で照明によって相手の存在が表現されるため、“孤独な一人芝居×2”ではなく、二人芝居を観ている感覚が持続。さらに、ピアノ以外は全員が弦楽器という特徴的な6人編成バンド(音楽監督・大嵜慶子さん)の、ある時は躍動感に満ち、またある時には心にそっと寄り添うような演奏が、抗いがたい魅力を放っています。

f:id:MTJapan:20210718051345j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

木村達成さん×村川絵梨さん、水田航生さん×昆夏美さん、平間壮一さん×花乃まりあさんという3組のキャストが挑むにあたり、稽古は別々に実施されたとのこと。その結果、大まかなステージングは同じですが、ジェイミーとキャシーの関係性や細部の動きにそれぞれのカラーが反映され、風合いの異なる3バージョンが生まれています。

f:id:MTJapan:20210718042001j:plain

『The Last 5 Years』

筆者が観た回の印象で比較すると、“働く男女の夢と愛の両立”という今日的テーマをリアルに浮かび上がらせるのが水田航生さん・昆夏美さんペア。それぞれが夢に対してひたむきで純粋なあまり、一人だけ成功の端緒を掴んだことが二人の関係に影響を及ぼし、心の距離が少しずつ広がってゆく過程が鮮やかです。

f:id:MTJapan:20210718052413j:plain

『The Last 5 Years』

冒頭、去っていったジェイミーを思う昆キャシーから漏れ出る“一度だけジェイミー 本当の私を見て”の悲痛さ。水田ジェイミーとしては彼女を少しでも励ませたらとクリスマスに自作のおとぎ話をサービス精神全開で語るほど、キャシーを全力で愛していたものの、何かが足りなかったのか。あるいはキャシーが発想を変えられたら、二人の愛は保たれたのか…。男女逆を含め、同様のケースが容易に起こりえる昨今、“自分ごと”として二人の5年間を見つめる方も多いかもしれません。

f:id:MTJapan:20210718042135j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

いっぽう、この5年間は彼らの人生のほんの一部であって、この先、二人の関係の“第二章”も十分あり得る…と感じられるのが、木村達成さん・村川絵梨さんペア。村川キャシーには終盤、5年前の姿に溌剌として個性的なオーラがあり、生まれ育ったコミュニティでくすぶっていたジェイミーを夢中にさせたことが容易に想像可能。歌詞を大切にした明瞭な口跡も魅力です。いっぽう木村ジェイミーは長い手足を生かしたダイナミックな動きが若々しく、行動的な青年像。この時点ではこうした結果になってしまったけれど、年月を経て、その時点での彼の人間的な成長いかんでは再びその行動力を発揮し、キャシーの前に現れる…といった展開があるかもしれないと予感させます。

f:id:MTJapan:20210718042224j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

そして全編にわたって互いへの気遣い、優しさが滲みながらも、最後に二人が去った舞台上にいいようのない悲しみが残るのが平間壮一さん・花乃まりあさんペア。キャリア上の不均衡の件はいったん横に置き、二人が中盤で迎えるクライマックスは絵画のようにロマンティックですが、この瞬間が人生のゴールとはなりえないのが、現実の厳しいところ。幸福のヴェールはいつしか剥がれ、どうにも埋まらない心の距離に二人はいたたまれなくなり…。キャシーを傷つけることがわかっていながら過ちを犯し、抜け殻のようになってゆく平間ジェイミーと、過去を反芻することで無邪気さと輝きを取り戻し、新たなステージへ進んでゆく(ように見える)花乃キャシーの対比が強い印象を残します。

f:id:MTJapan:20210718051102j:plain

『The Last 5 Years』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

この週末には東京公演のライブ配信を、その後には大阪公演を予定。身近なテーマを極上の音楽で包み込んだ舞台は、3バージョンそれぞれに観る者の心に染み入り、愛について、キャリアについて様々な思いを抱かせてくれることでしょう。

*取材・文・撮影(木村さん×村川さんペア、平間さん×花乃さんペア)=松島まり乃
*無断転載を禁じます
*公演情報『The Last 5 Years』6月28日〜7月18日=オルタナティブ・シアター 7月22~25日=COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール 7月17~18日公演はLIVE配信も有 公式HP

*本作の公演プログラム(木村達成さんサイン入り)、及び木村達成さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。締切・7月31日。詳しくはこちらへ。