Musical Theater Japan

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『GHOST』水田航生インタビュー:作品を通して届けたい、“心の繋がり”の尊さ

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水田航生 90年大阪府出身。アミューズ王子様オーディションでグランプリを受賞し、芸能界入り。『ミュージカル テニスの王子様』(09年)地球ゴージャス『怪盗セブン』(12年)『金閣寺』(14年)『マイ・フェア・レディ』(16年)『怪人と探偵』(19年)『ボディガード』(20年)など多彩な舞台に出演。TVドラマ、映画等でも活躍している。©Marino Matsushima

「アンチェインド・メロディ」が流れるロマンチックな“ろくろのシーン”で一世を風靡した映画『ゴースト/ニューヨークの幻』が、英国で舞台化(2011年)。以降ブロードウェイ、オーストラリア、韓国など各地で上演されているミュージカルが、日本で3年ぶりに上演されます。

主人公サムの同僚で親友でもあるカール役で今回、初めて参加するのが、水田航生さん。目の醒めるようなダンスを見せた『35mm』や主人公の葛藤を力強く演じた『Count Down My Life』など、最近の活躍ぶりも記憶に新しい彼ですが、本作にはひとかたならぬ“縁”を感じているのだそう。無邪気だった子供時代(!)がうかがえるエピソードから“今”の赤裸々な思いまで、たっぷりお話いただきました。

【あらすじ】NYの銀行で辣腕を振るうサムは、アーティストの恋人モリーとのデートの帰途、暴漢に襲われる。銃声が響いた後、モリ―のもとに戻ったサムが目にしたのは、泣き叫ぶモリ―の腕の中で動かなくなっている自分の肉体だった。ゴーストになってしまったサムは、やがてモリ―に迫る危険を知るが…。

より演劇的な日本版で
カールという人物を人間味豊かに演じたい

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『GHOST』

――水田さんは、原作映画が公開されたころはまだ生まれていらっしゃらなかったでしょうか。
「1990年、まさに公開の年に生まれたので、リアルタイムには観ていないのですが、子供のころの親友のお母さんが、この映画が大好きで。家に行くといつもそのビデオが流れていて、週2,3回は観てるんじゃないか、というくらい観ていました」

――なんと! では、あのろくろのラブ・シーンを真似したりとか…。
「いやぁ、小学生にとってはラブ・シーンはこっぱずかしくて、あのシーンになると“遊びに行こうぜ~”といって外に行ったりしていました(笑)。でもどのシーンもよく覚えていて、特にオダ・メイが“じゃあ行くよワン、ツー、スリー”という台詞が大好きでした。今見るとそこまで面白いわけじゃないんだけど(笑)、当時はそこに来ると大爆笑していましたね」

――小学生の男子たちも何度も観たくなるほど魅力的だったのは、なぜだったのでしょう。
「やっぱりコメディ要素ですね。ウーピー・ゴールドバーグさんが演じるオダ・メイが面白くて。それと今回演じる、カールのあるシーンで度肝を抜かれて。人生で初めて、こういうことってあるんだ!と思ったくらい衝撃的でした」

――舞台版の方は以前からご覧になっていましたか?
「日本初演は観られなかったのですが、ブロードウェイと韓国では観ています。海外版はLEDなど、最先端の技術を使った演出でしたが、音楽も耳に残りましたね」

――ではかなり“ご縁”を感じる演目なのですね。
「これだけ映画版も舞台版も観ている作品ですので、今回出演させていただくことになって、本当に縁があるなと感じます」

――製作発表では、今回は(前回演じた平間壮一さんとはまた異なる)ご自身なりのカールを演じたいとおっしゃっていましたが、現時点ではどんな人物をイメージしていますか?
「80年代後半にウォール街にいた銀行マンの雰囲気が出ればと思っています。稽古をしていて、(サム役の)浦井(健治)さんからは、初演とは違う関係性のサム&カールになってきてると言っていただいています」

――もともとはカールのほうが年上という設定のようですが…。
「今回は浦井さんのほうが1歳くらい年上という設定です。それに加えて社内ではサムが上司ですが、個人的には同等で仲がいいんです」

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『GHOST』サム(浦井健治)

――カールは冒頭のシーンで、サムとモリ―に対して、僕はいつかアッパーウェストサイドに住むんだと宣言していますが、彼にはどんなバックグラウンドがあるのでしょう。地方から出てきて向上心が人一倍ある、とか…?
「そういうことも考えています。もしかしたら地方の恵まれない環境で育ってきて、頭が切れるのを武器にしてこれまで上り詰めてきたんじゃないか、とか…」

――サム、そしてモリ―との三角関係にも注目、でしょうか。冒頭、サムとモリ―が新居にと購入したロフトを見に来る場面には、カールも随行しています。もしかしてモリ―に対して仄かな思いを、とか…?
「自分としては、モリ―に少し好意はあったとしても、あの時点では“サムの彼女だから”と、一本、線は引いていると考えています。ロフトに一緒に行くのは、単純に手伝いという感覚だったんじゃないかな。サムとカールはどれくらい長い付き合いかというと、大学時代から、というのもあり得るけれど、銀行に入ってからの、同僚としての関係性なんじゃないかと考えていて、だから職場の会話の中で、軽いノリでこの日も呼ばれたのかな、と思っています。
そんなふうに、3人の関係性はサムとの友情ありき。だから彼が亡くなることで、必然的に何かが変わってしまいます」

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『GHOST』モリ―(咲妃みゆ)

――複雑ですね。
「カールという人間を、なるべく平面的に作らないようにしようと思っています。彼は人間的だし、感情的でもあるキャラクター。“わかるな”と思える方はけっこういらっしゃるんじゃないかな。人間であればきっと誰しも、他人の芝生は青く見える。普段は隠していても何かの時にそれが覗いたり、思いがけない行動に走ることもあると思うんです。そういったじわじわした野心を抱えた人物じゃないかと思っています」

――カールの行動で一つ、切ないのが、モリ―を訪ね、わざとコーヒーをこぼして…というくだりです。彼女に振り向いてもらおうにも、モリ―はまだサムのことで頭がいっぱいなのに…。
「実体験も踏まえて言うと、人間って一度ダメな方向に行くと、そのまま転がり落ちていくことがある。カールもあの場面の前にお酒を飲んで、自暴自棄になっているのかもしれないですね。親友の彼女であるモリ―に対してやってはいけないこととわかっているのに、自制することができない。切ないですね」

――内面的な表現だけでなく、カールは歌やダンスも多い役どころですね。
「身体表現はたくさんありますね。ブロードウェイ版はいろいろな技術で実際に俳優の体を浮き上がらせたりしますが、日本版は演劇的というか、身体表現で見せる部分が多いんです。その分、役者にとっては難しさがありますが、説得力を持たせられるといいなと思っています」

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『GHOST』モリ―(桜井玲香)

――浦井さんのサム、咲妃(みゆ)さん・桜井(玲香)さんのモリ―はどんなサム、モリ―でしょうか?
「浦井さんのサムはいい意味で飄々としていて、カールからすると“食えないやつ”というイメージですね。生きている間はあまり感情が表に出ないし、“愛してる”と口に出すこともなかったけれど、ゴーストになってからは驚くほど感情表現が豊かになってゆく…という変化を見られることに、浦井さんだからこそ演じることができるカールなのではないかと感じます。
咲妃さんと桜井さんは、二人とも芯が強くてストイックで、モリ―役にぴったり。カールに何か言われても自分の意志を通してゆく姿が、台本を読んだ時は“なんで簡単に説得されないんだろう”と思えたけど、実際稽古してみると、なるほど、カールが何を言ってもモリ―の気持ちは変えられないなと感じられます。稽古をしながら、受け取れるものがたくさんあるお二人です」

――どんな舞台に仕上がるといいなと思われますか?
「このご時世に舞台に立てることのありがたみを感じます。お客様に、最後にあたたかいものを受け取ってもらえるようにしていきたいです」

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『GHOST』カール(水田航生)

――前回のインタビューでプロフィールのお話をしそびれてしまったので、改めて少しうかがわせてください。水田さんはオーディションで優勝し、芸能界に入られましたが、当初はどんな志を抱いていたのですか?
「僕はダンスしかやっていなかったので、踊ることが出来れば、としか思っていなかったです。役者をやるつもりは全くなく、オーディションで生まれて初めて演技をしました。中学生くらいの男子にとって、お芝居ってちょっと気恥ずかしいじゃないですか(笑)。だから斜に構えながら、バリバリの関西弁で臨んでいました。
でも事務所に入って本格的にお芝居をするようになって、演技って楽しいと思うようになりました。僕はいろんな仕事に興味があったので、役者ってどんな職業にもなれるんだな、一石二鳥だな、と」

――ミュージカルとの出会いは?
「観るという意味では、中学1年の時に学校行事で観た『オペラ座の怪人』が初ミュージカル。翌年はやはり劇団四季さんの『ウェストサイド物語』で、後年、まさかこの作品に出ることになろうとは思いませんでした。
その後、『テニスの王子様』で自分もミュージカルに出演するようになりましたが、歌って踊って、スポットライトを浴びることが嬉しくて。ミュージカルっていいなぁと思いました」

――映像志向というより、舞台の方を向いていらっしゃったのですね。
「“今、この瞬間に生きている”という生のライブ感を、尊く、神秘的に感じたんです。もちろん映像も素晴らしいけれど、今起きてることを皆で感じて、その瞬間に反応が来る、それは舞台ならではだな、と感じました」

――たくさんの出演作の中で、ご自身的に転機になった作品はありますか?
「『ロミオ&ジュリエット』(2013年、マーキューシオ役)ですね。初グランド・ミュージカルだったのですが、自分的に目標地点に達することができなくて。挫折感に襲われて、ミュージカルが好きなだけに、もう俺は舞台に立つべきじゃない、と思い詰めてしまいました。当時のマネジャーさんにも心配をかけていたと思います。でもこの時の悔しさがあったからこそ、立ち向かっていきたいという気持ちも芽生えました。どん底まで自分の中で落ちる経験がなければ、ここまでミュージカルにリスペクトをもって、真摯に取り組めなかったかもしれないので、今では感謝しているんです」

――ライブを“尊い”と感じる水田さんにとって、昨年の自粛期間はおつらいものだったと思いますが、今、このお仕事についてどんな思いでいらっしゃいますか?
「確かに、自粛期間中は、自分の職業って不要とされているものなのかなという思いがよぎりました。モノを作るわけでも、直接人の命を救えるわけでもない。では存在意義は何だろうと考えたのですが、自分が中学生の時、初めてミュージカルを観たときの心のわくわくだったり栄養というのは、ミュージカルだったからこそなんですね。この仕事でしかもらえない、与えられないものがあるなら。僕らの舞台を観て、一人でも心が救われる人がいるなら、やる義務があるし、そういう立場で居続けたい。そんな思いで、今は日々、ステージに立っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*公演情報『GHOST』3月5日~23日=日比谷シアタークリエ、4月4日=愛知県芸術劇場、4月9日~11日=新歌舞伎座 公式HP
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