Musical Theater Japan

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オンライン落語ミュージカル『謳う芝浜』新演出に挑む:田中惇之・関谷春子・佐々木崇・菊地創インタビュー

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劇的茶屋『謳う芝浜』チームの面々。右上から時計回りに、演出・菊地創、ふみ役・関谷春子、熊役・田中惇之、語り・佐々木崇


コロナ禍にあっても演劇を楽しもう、と昨夏誕生したオンライン落語ミュージカル・シリーズ「劇的茶屋」。永野拓也さんの脚本・演出でこれまで3作品が上演、工夫を凝らした演出と、お茶・お菓子をいただきながら鑑賞という“ライブの一体感”が人気を集めてきましたが、この度、菊地創さん演出の『謳う芝浜』新バージョンが誕生。オンライン演劇の可能性はどこまで広がってゆくのか、手探りで挑戦中のキャスト・演出家にお話をうかがいました。

【あらすじ】魚屋の“熊”は腕はいいが酒癖が悪く、長屋で貧乏暮らし。ある日、芝の浜で小判の入った財布を見つけ、有頂天になって持ち帰るが、二度寝をして目覚めると財布が無い。「働かないで儲けることばかり考えるから、そんな夢を見たんじゃないか」と女房のふみに言われ、心を入れ替えた熊は懸命に働くが…。

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『謳う芝浜』過去の公演より。写真提供:劇的茶屋

デジタルとアナログが融合した
“あたたかさ”が、劇的茶屋の魅力

――皆さん、劇的茶屋はご覧になっていましたか?
佐々木崇(以下・佐々木)「僕は以前、出演した可知寛子さんから舞台裏のリアルな動きを見せていただいたことがあって、新しいジャンルだなと思っていました」
菊地創(以下・菊地)「役者がそれぞれに一つの空間を担当しているんだけど、そこでその人が本当に輝いていて、これは役者の魅力が細部まであらわれてくる企画だなと思いました」
関谷春子(以下・関谷)「画面から飛び出すほどのエネルギーに圧倒されつつ、“語り”の存在が舞台とお客さんを繋いでいて、優しく、あたたかい。いろんな要素が短い時間につまっていて、見ごたえがありました」
田中惇之(以下・田中)「僕は心が弱いので(笑)、観て影響を受けるのが怖くて、観るかどうかちょっと悩みましたが、“こういう感じなんだな”とわかる程度に拝見しました」

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演出・菊地創 東京都出身。少年合唱団でオペラ等に出演後、渡米。NYのAMDA等で学ぶ。帰国後、俳優として『ツクリバナシ』等に出演しつつ、『Violet』『In Touch』等を演出。

――一つのスタイルが定着した劇的茶屋から新演出の声がかかり、菊地さんはどう思われましたか?
菊地「実は落語ミュージカルというのは僕もいつかやろうと思っていたんです。高座を作って、その後ろにバンドを置く形で。そんな折に“劇的茶屋”が誕生して、“やられた!”と思ったのですが(笑)、観てみたら面白くて、さすが永野さんだなあ、と思っていました。その劇的茶屋で新演出という話が来て、はじめは “いいの?”と思ったけれど、一度他の人に演出を渡して、作品がどう変わるかを見たいという意図を聞いて、クリエイティビティから声をかけていただいて光栄だと思いました」

――どのような演出プランをお持ちですか?
菊地「基本的には前回と同じ枠組みで、カット割りやチェンジのタイミングは踏襲しています。ZOOMを使ってVimeoで配信するにあたって、そこはいじる必要ないだろうなと。演出家としてやっているのは、キャストの3人がこの台本をやるうえで、一番魅力的に映るようにするお手伝いです」

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ふみ役・関谷春子 東京都出身。『ユーリン・タウン』『アメリカン・ラプソディ』『メリリー・ウィー・ロール・アロング』等、商業からアングラまで多彩な舞台で活躍している。

――キャスティングのポイントは?
菊地「皆さん、役者としておつきあいしたことがある人たちです。
(女房・ふみ役の)関谷さんには絶対的な信頼があって、特に歌の表現について、鼓膜で直接受け取れるものの質が高い。お芝居に対する姿勢もまっすぐで、一緒に作ってて楽しい人です。
熊役の田中さんは、まんま“熊”(笑)。熊って、気を付けないとお客様に嫌悪感を持たれるキャラクターなんだけど、田中さんが演じると“しょうがないねあんたは。頑張りなさいよ!”と応援したくなるような、オチのくだりで祝福できるような熊になる。彼の人生そのものも僕はファンだし、ぴったりだと思っています。
佐々木さんは華があって、どちらかというと“語り”よりセンターに立つイメージの人。でも醸し出しているエネルギーが癒しだったり、自然に人が集まってくるところがある。彼の持っている誠実さや、何かを一つに伝えたいという思いをこの役に生かしたら面白いことになるんじゃないかと思って“語り”役をやってもらっています」

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熊役・田中惇之 広島県出身。舞台、TVドラマ、映画と多彩に活躍。2017年、『田中惇之の一人芝居』を歌舞伎町で一年間ロングラン。他の出演作にミュージカル『Ukiyo Hotel』など。

――お三方はお稽古、いかがですか?
関谷「それぞれの個性を最大限に引き出してもらえていると感じます。菊地さんの中にはこうしたらいいんじゃないかというのがしっかりとあるので、こちらは疑問を持たずに、作品を良くしようという一点で一緒に動けています」
田中「キャスティングが決まった時に、女房役が関谷さんと聞いて、これは肩肘張ったところで太刀打ちできねえやと(笑)。割り切って飛び込んで、今は存分にばしゃばしゃ泳いでいます。創さんの運転でみんなで海に遊びにいっている感覚ですね(笑)」
佐々木「ZOOMでお芝居って初めてなのではじめは不安でしたが、創さんの演出は面白いし、的確なノートがすっと入ってくる。田中さん、関谷さんの芝居が毎日ブラッシュアップされて積みあがるさまを観ていると、演劇の楽しさが実感できて、自分もどうなっていくか、とても楽しみです」

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語り・佐々木崇 東京都出身。某テーマパークダンサーを経て『王様と私』『スカーレット・ピンパーネル』『エリザベート』『イノサンMusical』など様々な舞台で活躍している。

――どんな『芝浜』になってきているでしょう?
関谷「みんなで公園で遊んでるイメージ、でしょうか」
田中「かつてこういう夫婦が実在したんじゃないかと、本気で感じていただけるんじゃないかな。江戸らしい所作とか、そういうもの以上に、人物を掘り下げていくことで、熊とふみってこういう人たちだった、というものに触れているように感じています」

――(実際には)物理的に離れていても、“夫婦”を感じていらっしゃるんですね。
佐々木「まさに夫婦、の空気ですよ」
菊地「今回は極力シンプルに、キャラクターの心の動きを追っています。いうなれば、変に油で揚げたりしない、刺身の三点盛りですね。オンラインというテクノロジーのまな板に乗った三点盛りを、お茶菓子を薬味にして楽しんでもらえればと思います」

――俳優さんは台詞を喋りながら手元で機材の操作もされていると小耳に挟みました。
佐々木「画面に映る部分は演者で、それ以外はスタッフも兼ねているという、新しい感覚ですね」
関谷「リアルな舞台だと、音響さんやPAさんがやっていらっしゃることですよね」
佐々木「タイミングがちょっとズレるとぶち壊しになってしまうので、勉強になります」

――“オンライン”の強みをどういう点で感じますか?
菊地「劇場という空間での上演は“極上の生”だと思うけれど、最近はオンラインでのつながりでも“共有している”と認識できる世代が出てきています。そんな中で、リアルな劇場公演にあった天井、つまり観客数の上限を無限にクリアできるのが、オンラインの魅力だと思います。距離や旅費を気にすることなく、だれでも観られるのも強みなんじゃないかな」
佐々木「本作を舞台でやろうと思ったら(転換に)どうしても“間”が生まれると思うけれど、パパっとテンポよく行けるのは映像ならではの強みだと思います。あと、お茶菓子をみんなでいただく要素を加えることで、アナログとデジタルが融合している。肌で感じられるものを大事にしているのも“劇的茶屋”の良さですよね」

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劇的茶屋名物、“いただきます”の時間。写真提供:劇的茶屋

――従来演出では毎回、皆さんで“いただきます”と言ってお茶をいただく場面がありますが、これは新演出では…。
菊地「もちろんやります。大事にしている部分です」
田中「コロナ禍で、誰かと“いただきます”を言う機会のない人もいると思うので、大事にしたいですよね。…って俺、今、いいこと言ったな~(笑)」

――今回この企画にかかわってみて、オンライン演劇の可能性を感じましたか?
菊地「感じますね。今はどうしても遅延の問題があって、それゆえの工夫が必要なんだけど、5Gによってそのうち体感では感じられないくらいのタイムラグになったとき、“映像でもなく舞台でもない演劇”が一つのジャンルとして確立されていくだろうなと思います。コロナは僕らからいろいろなものを奪っていったけど、こういう状況で演劇を見ることに慣れさせるというカンフル剤を投入したな、とも思っていて。3年前なら“そんなの劇場でやれよ”というのが常套句だったのが、今はこういうことになっていて、今後は劇場でやりつつ、マルチカメラで配信するものも増えていくでしょう。想像も出来ないものが今後、増えていくんじゃないかと思います」
関谷「価値観にとらわれることなく、広がっていくように思います。個人的には、1月に本作に誘っていただいたころ、ちょうどいろんなことがキャンセルになっていたので、私にとっても救いになりました」
田中「これからすごく発展していくんだとは思いますね。今回、この作品をやらせていただいたことで、その経験をどう活かし、発展させていくかをこれから考えていかないといけないんだな、責任が生まれてくるなと感じています」
佐々木「5Gが普及することで、5年も経てばこういう発信は当たり前の世の中になっていくと思いますが、技術が発展していけばいくほど、それをどう意識しながら、勉強しながら演劇を発信していくか。今、日本ではまだ演劇を日常的に見る人が海外に比べれば少ないけれど、この技術によって敷居が低くなったら嬉しい。演劇の良さが伝わりやすくなっていく時代が楽しみです」

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『謳う芝浜』過去の公演より。写真提供:劇的茶屋

――では最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。 
菊地「“ストーリーを体現する”行為の歴史を振り返ってみると、まず(古代ギリシャで)演劇が生まれて、それから(近代に)活動写真が生まれた時、当初は演劇より下に見られていたそうです。でも映像でしか表現できないものもあって、今では映画はすっかり人間社会に定着している。オンライン演劇も、映画の黎明期と同じような状況で、それを体験してみるのもなかなか貴重なんじゃないかと思います。そういうことを放っておいても、楽しんでいただける作品です」
佐々木「ZOOMを使った作品ですが、とても人間らしさがあふれ出ていると思います。皆さんと時を共有できるのをとても楽しみにしていますので、ぜひ26~28日、劇的茶屋でお会いしましょう!」
田中「そう言おうと思ってたんですよ(笑)。劇的茶屋は、とても手に取りやすい演劇なんじゃないかなと思います。軽く手にとっていただいて、それがどんどん発展していったら、劇場に帰った時にどんどん価値が上がるんじゃないかな。どちらでもばりばりやってくと思うので、まずは軽く手に取ってこの演劇を楽しんでほしいです」
関谷「そう言おうと思ってました(笑)。私は劇的茶屋の、ふんわりつながる感じ、軽やかさだったり力みのない居心地の良さは今、私たちが一番欲してるものなのじゃないかなと思っています。演劇って、劇場でも大の大人たちが“わーっ”となっていますが(笑)、そういう楽しい世界を、ここでお見せできると思っています」

(取材・文=松島まり乃)
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*ライブ配信情報「劇的茶屋『謳う芝浜』」2月26~28日20時~。お茶・和菓子付き視聴料2300円~。公式HP