Musical Theater Japan

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6か国のクリエイターによるプロジェクト「WeSongCycle」特集vol.2 作詞・宮野つくり、作曲・瓜生明希葉インタビュー

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(左から)宮野つくりさん、瓜生明希葉さん

新進気鋭の演出家・渋谷真紀子さんとプロデューサー・堂本麻夏さんが発起人を務め、世界6か国のクリエイターたちがソングサイクル・ミュージカルを共作するプロジェクト「WeSongCycle」。これまで“ありそうで無かった”地球規模の試みが完成、いよいよ8日にオンラインでプレミア公開されます。

このプロジェクトで日本を代表し、「ふたりのダンス」「ペーパー・ヒーロー」の2曲を書き上げたのが作詞家の宮野つくりさん、作曲家の瓜生明希葉さん。今回は特に前者のナンバー、「ふたりのダンス」に注目し、メンターやアドバイザー、そして世界各地で同時に“競作”する仲間達がいる中での創作について振り返っていただきます!

リモートでもこれだけのことが
出来る、という発見が自信に

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「WeSongCycle」

――まずは基本的なお話からうかがいます。瓜生さんはシンガーソングライターとしてご活躍ですが、そのキャリアの過程でミュージカルと出会われたのですか?

瓜生明希葉(以下・瓜生)「いえ、私はもともと小学生の時、『サウンド・オブ・ミュージック』を観て感銘を受け、お友達と学内にミュージカル部を立ち上げたほど、ミュージカルが好きでした。ミュージカルを書くことは目標だったので、宝塚などでお仕事させていただいている今は夢が叶った状態です」

――宮野さんはいかがでしょうか?

宮野つくり(以下・宮野)「私は音大の声楽科出身で、バレエもやっていたので最初はミュージカルを“演じよう”と思っていましたが、途中で“創る”ほうがしっくりくるなと思い、仲間とミュージカル団体を16年に立ち上げ、その後自分の会社で作品を書くようになりました」

――お二人はお互い今回が“初めまして”とのことですが、クリエイターとして見知らぬ同士でお仕事をすることは勇気の要ることでしたか?

瓜生「(今回の演出家である)渋谷さんとは共通の友人がいまして、以前から面白い仕事をやっていらっしゃるなと思っていたので、彼女のチョイスに身を委ねました。でも、作風が相手に寄せていけなかったらどうしよう?とか、不安はゼロではなかったです。コミュニケーションがテーマでしたが、今回はいい方向にいけたと思います」

宮野「“10ミニッツ・ミュージカル” (堂本さんが主催し、今年の東京ミュージカルフェスで開催されたミュージカル創作コンペ)にも参加していたので、私も楽しみのほうが大きかったです。瓜生さんとは(オンライン上で)初対面からいける気がして、徐々に楽しい方向になってきました」
(ここでインタビューに同席していた渋谷さんがコメント。「NYにも住まれていたことで瓜生さんに今回、参加いただきたいと思ったのですが、彼女に女子力の高い曲を書いてもらおう、それなら宮野さんの世界観が合うのでは、と思ってお二人に組んでいただきました」)

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瓜生明希葉  作詞作曲家/シンガーソングライター。高校時代に舞台「人間風車」の劇中歌に抜擢され以降、数々の話題の舞台やCMに楽曲を提供。「2011 ACC CM FESTIVAL」にてラジオCM部門の「総務大臣賞/グランプリ」と「クラフト賞(音楽賞)」を受賞。NY留学後、舞台音楽や宝塚歌劇団のミュージカル制作、自身のライヴなど精力的に行っている。オリジナルアルバムを5作品リリース。(C)Marino Matsushima

――“女子力”というキーワードが出てきましたが、ご自身の持ち味として自認されますか?

瓜生「書いている本人の女子力は別としまして(笑)、作風としてはそういう曲は多いと思います」
宮野「私も女の子が主人公の曲が好きで、恋愛ものは多く書いています。やはり本人の女子力は別ですが(笑)」

――今回のソングサイクル全体には“ヒロイズム”というテーマがありますが、そこからどのようにこの曲のアイディアが生まれたのですか?

瓜生「ヒーローを真正面からではなく、斜めから書いてみるほうが面白いよね、という話をしていて、まず(コミカルな)“ペーパー・ヒーロー”を書きました。2曲目については演出の渋谷さんからバイリンガル・ソングをというリクエストがあって、国籍の違う男女の関係を描いてみようということで書いたのが“ふたりのダンス”です。ボツになった案としては、アプリが主人公で、“いつも君のそばにいるよ”みたいなあったかい曲がありましたね」

(ここで再び渋谷さんからコメント。「2曲目に関しては、他のチームが書いた1曲目からインスピレーションを得ようというお題も出していて、“ふたりのダンス”については、ロブスターが主人公の“Hello Savior”という曲をお題にしていました。なので、最終的には無くなったけれど、この曲にははじめ、昨日ロブスターを食べた…的な台詞もあったんですよ(笑)」)

 

(音資料:瓜生さんが自ら歌った「ふたりのダンス」デモテープの抜粋。男女を一人で歌い分けています)

 

 ――4つのチームが“よーいドン!”状態で創作する中で、週に一度のミーティングでお互いの状況は知っていたと思いますが、それに影響されたりといったことはありましたか?

瓜生「演出の渋谷さんがうまく重ならないように調整してくれたのもあって、互いに“かぶってるな”ということにはなりませんでした。この曲素敵~、私たちも頑張らなきゃ、と触発されたことはありました」

――メンターやアドバイザーからのコメントで、印象深かったものはありますか?

瓜生「アドバイザーのテリー(・リアン。『アラジン』『アリージャンス』等に出演しているブロードウェイ俳優)は、役者さんということで目線が違うんですよ。終盤に主人公たちの状況が変わるのですが、この一瞬で彼らの感情もそんなに変わるかな、ということを役者ならではの目線で指摘されました。時間の流れや、役者の気持ちに寄り添うことは大切にしなくちゃ、と思い、“もしかしたら…”という(変化を示唆するような)ところに落ち着きました」

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宮野つくり 脚本、作詞家。MerryCreation合同会社代表。昭和音楽大学在学時にミュージカルプロデュース団体MerryCreationを立ち上げ、2018年に法人化。以降「Note」「金平糖1.0」など、全ての作品で脚本、作詞、演出を担当する他、外部提供、一曲完結型ミュージカルソングの制作も積極的に行う。また、日本デザイン福祉専門学校を始め、自社スクールや企業などでミュージカルの指導も行う。(C)Marino Matsushima

――“ふたりのダンス”ではリモートで日本語レッスンをするバレエ・ダンサーたちのほのかな恋が描かれますが、プリマドンナのナナは綿引さやかさんが演じていますね。

瓜生「言うことなし!のキャスティングでした。綿引さんが歌うと甘酸っぱさがいっぱいで、すごく説得力がありました」

――彼女に日本語を習ううち恋心が芽生えるウィル役は、竹内將人さんが歌っています。

瓜生「嬉しいサプライズでした。ウィル役に関してはアグレッシブというか、独立した大人の、意思の強い男性というイメージで頭の中では(歌声が)流れていましたが、竹内さんが歌って下さることで、“しっかりして!”と声をかけたくなる、不器用でかわいい年下感が生まれました。竹内君も私も同じ福岡出身なので、レコーディングでは“もっと行けるやろ~”なんて(福岡弁で)声をかけながら、楽しく録ることができました」

――お二人の2曲をはじめ、多彩な8曲が完成しましたが、ソングサイクルとしてはどんな作品になったと感じますか?

瓜生「まるでフルーツバスケットみたいに、それぞれに違う、でもどれも美味しい曲のつまった作品になったと思います」

宮野「最終的に一つの作品として聴いた時に、あたたかい気持ちだったり勇気をもらえるような作品になったんじゃないかなと思います」

――今後、この作品がどうなっていくといいなと思われますか?

宮野「いつか劇場で上演できるといいなと思いますね。“ふたりのダンス”の、会いたいのに会えない気持ちとこの現状は近いなと感じます」

瓜生「今回は日本語を学ぶという設定でしたが、英語とか、他の言語で、他の国バージョンが生まれると面白いですよね。シリーズ化できたら楽しいだろうな、と思います」

――今回は世界的な非常事態がプロジェクトの実現を後押ししたような部分がありますね。

宮野「ステイホーム期間の序盤は、自分の公演含めミュージカル界全体が止まってしまい、どうしてもネガティブな感情になりましたが、この企画を通していろんな人をお話することが出来、今では決して無駄な時間ではなかったなと感じています。再びポジティブな気持ちを持つことが出来、このプロジェクトに感謝しています」

瓜生「今回、創作にあたっては“ヒロイズム”というテーマがあったわけですが、特別な人でなくても、誰もが身近な友人だったり家族というヒーローを必要としている、というところで、“ヒーロー”というテーマが自然に自分の中に入ってきました。リモートでもこれだけのものが作れるというのが大きな自信になりましたし、劇場が開いていなくても違う視点を持つことが大事なんだな、と思います。これからも積極的に挑戦を続けていきたいです」

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*『WeSongCycle』プレミア公開 2020年8月8日21:45~公式HP