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ライブ配信ダンス・パフォーマンス「Life Goes On vol.2」永野亮比己、ノグチマサフミ、大橋武司インタビュー:演劇的ダンスを通して表現する「輪廻転生」

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(左より)ノグチマサフミ、永野亮比己、大橋武司

国内外のダンス・カンパニーや劇団四季で活躍し、昨年は『ビリー・エリオット』、今夏は『ジェイミー』に出演する永野亮比己さん。彼が2011年に立ち上げ、昨年6月に初のライブ配信公演「Life goes on」を実施したunit MASKが、好評に応え、今月10日に配信公演第二弾を実施します。

4人編成だった前回から、今回は7人編成に拡大。“輪廻転生”をテーマに、クラシック・バレエからラテン・ダンスまで、様々なジャンルの動きを取り入れ、ダンサーの個性を生かしたダンスが展開します。個性豊かな出演者の中から、今回は永野さん、劇団四季を経て世界唯一の日本人ジョージアン・ダンサーとなったノグチマサフミさん、NYを拠点に活動するコンテンポラリー・ダンサーの大橋武司さんに取材。それぞれの活動、今回の公演について、そしてダンサーとして今、コロナ禍の中で思うことを熱く語っていただきました。

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永野亮比己 神奈川県出身。17歳で渡欧、ルードラ・ベジャール・ローザンヌ・バレエ学校でモーリス・ベジャールに学ぶ。後にNOISMに所属。その後劇団四季で『キャッツ』『ウィキッド』等に出演。『ウエスト・サイド・ストーリー Season2』『ビリー・エリオット』等に出演する傍ら、宝塚歌劇団などで振り付けも行う。夏には『ジェイミー』に出演。

――永野さんのプロフィールについてはこれまでの取材でうかがっていますので、今回はノグチさん、大橋さんの背景からうかがいたいと思います。まず、ノグチさんは大阪芸術大学卒業後に劇団四季にいらっしゃったのですね。
ノグチマサフミ(以降ノグチ)「はい、『ジーザス・クライスト=スーパースター』の大八車を皮切りに、『ライオンキング』などに出演し、『アラジン』ではイアーゴ役。6年間在籍して退団しました」

――それからジョージアに渡り、日本人初のジョージアン・ダンサーになられたそうですが、なぜジョージアだったのですか?
ノグチ「そのころ、舞台俳優の間である民族舞踊が話題になっていて、これはどこのダンスだろうと思って調べたらジョージアだったんです。まだ日本人では誰もやっている人がいないと知って、それなら僕が第一人者になろう、と思ってこの道に進みました」

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ノグチマサフミ 群馬県出身。大阪芸術大学を卒業後、劇団四季に入団。『ライオンキング』『夢から醒めた夢』『アラジン』(イアーゴ役)等に出演したのち、単身ジョージアに渡る。日本人初で唯一のジョージアン・ダンサーとして活躍している。

――動画サイトで拝見したところ、ジョージアン・ダンスは回転した後に正座のような姿勢で着地することが多いのですね。かなり膝に負担がかかるようにも見えるのですが…。
ノグチ「負担はかかるといえばかかりますが、ポイントは筋力とテクニックなので、体ができればそれほど大変ではないんです」

――新しい環境で新たなダンスを習得するのに、劇団四季での経験は役立ちましたか?
「四季を通っていなかったら全然だめだったでしょうね。永野先輩含め、劇団でいろいろな先輩方から学んだことも多かったし、そこでの経験値がなければとてもできなかったと思います」

――お二人からみてノグチさんのダンスはどう映りますか?
永野「ノグチ君は『ライオンキング』でハイエナ・ダンサーをやっていたんです。ジョージアン・ダンスってどういうものかなと思って動画で検索したら、彼のアクロバティックな動きが生かせるダンスで、合っていると思いました。ジョージア人にはできない、ノグチのスタイルのジョージアン・ダンスが確立されつつあると思うので、そこを極めてほしいです」
大橋「彼とは今回、初めて一緒に踊りますが、熱心な方で探求心が強いし、未知の領域に行くのに向いてると思う。身長が高くないことでアクロバティックな動きをするのに身体の負担が少ないので、どんどんヤバいところ(笑)まで行ってほしいです」

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大橋武司 愛知県出身。12歳で新体操、19歳でダンスを始める。単身渡米し、NYで活動。カーネギーホールで自主公演も行う。その後ベルリンを経て、現在は日本を拠点としている。体操やバレエ、ストリート・ダンス等の要素を取り入れ、自身の身体をミリ単位でコントロールすることを目指すTaiso Techniqueを開発。

――大橋さんは新体操の選手だったのが、高校卒業後にダンスを始められたのですね。
大橋「新体操って競技として“先”がないので、高校までで辞め、まずはファッションの専門学校に行ったんです。そうしたら恩師にアクロバットができる男を探しているといわれて、ジャズダンスの公演を観に行くようになって。ダンスならいつまででもできると思って始め、ファッションや映画、音楽などアメリカ文化に興味があったのでNYで修業しました」

――大橋さんはタイソー・テクニックというメソッドを開発されていますが、これは“体操”を取り入れたものなのですね。
「はい。カナダのカンパニーで2週間ワークショップを受けたときに、大きなカンパニーに所属して活動するより自分のメソッドでやっていったほうが“体の景色が作れる”と感じました。何年もかけて今でも開発中ですが、最終的には自分の体をミリ単位で支配するような境地にいければいいなと思っています。見た目でいうと、本当にうまい人はちょっと動いただけで空間がゆがむように見える。そうなると振り付けという次元でないところで踊れる。そこに近づくためのメソッドとしてタイソ―・テクニックを使っています」

――空間に人間の身体を使って絵を描く振り付けというより、とことん人間の身体に向き合った振り付けを目指しているのでしょうか。
「僕はそのどちらも、ですね。お客さんの目がレンズだとすると、ズームインすると肉体、ズームアウトすると空間が見えるわけで、そのどちらも追求したいです」

――お二人からみて大橋さんのダンスはどう映りますか?
永野「僕は武司さんとは二期会の2018年のオペラ『アイーダ』がきっかけで出会いました。稽古中、皆で遊びとして即興をやっていたとき、彼は体操やカポエイラやヒップホップなど、いろんなムーブメントを見せてくれて、身体能力高いし存在感を放つ人だ、いろいろな動きに適応性があるダンサーだと感じました。僕は自分の振り付けの時には“これしかできない”という人より、好奇心を持っているダンサーと一緒にやりたいと思っていて、彼と一緒にやってみたいと思いました」
ノグチ「僕の目から見て、なんでもできる人、です。逆に“この人、できないことあるのかな?”と思うことがあるほど。今回、僕が恐怖をあおられるシーンがあるのですが、普段こんなに優しい彼が、ぱっとスイッチ入るとものすごく怖い。恐怖を感じるようなふるまいができる彼は、非常に表現力が高いという印象です」

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【参考動画】unit MASK「Life Goes On」vol.1より、一部を抜粋して撮影

――ノグチさんと大橋さんのバックグラウンドが分かったところで、お二人は前回のunit MASKの公演はご覧になっていますか?
ノグチ「はい。配信でここまでの表現ができるということに驚きました。今まで、ダンスは舞台でしか観たことがなくて、映像でダンスを観ても“舞台のほうが迫力あるな”と思っていたけれど、unit MASKの作品は映像なのに、あそこまで世界観が表現されていてすごいな、と」
大橋「僕も同じように感じました。それと、今回、初めて撮影するスタジオに入ってみると思っていたより小さい空間で、それを感じさせないカメラワークだったんだな、と思いました」

――テーマは前回と同じくLife Goes On、人生は続いていく…ということだそうですが、実際にどのように振りをつけていらっしゃいますか?
永野「断片的に動きを作っていって、それらを繋げていったらあるストーリーが生まれて、全体を振り返ると“輪廻転生”というテーマが浮かび上がる…という作り方です。それぞれの得意とすることを当たり前にやっても面白くないと思うので、持ち味を生かしつつ、普段は見えないような部分を引き出すようにしています。
前回はバレエ系の方が多かったので、バレエの動きの中で最大限ドラマティックな表現を目指しましたが、今回はバレエ、ジャズダンス、コンテンポラリーに民族舞踊とそれぞれジャンルが違って、可能性の幅が広がったので、前回よりいろんな振り付けを渡すことができたと思います。
僕は輪廻転生というテーマが好きで、人生は続いていく、死があるから生がある、魂は継続していくという考えで作品を作っています。10年に一度ぐらいのスパンで世の中が大きく動く中で僕らは生きているわけですが、今回も皆が“どう動いたらいいか”と混とんとしている中で、迷走し、絶望しかけ、でもそこには希望があるという物語になったら。前回の作品と似てはいるけれど、一度目の緊急事態宣言の時とは状況も異なるので、また違った雰囲気の作品になると思います」

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「Life Goes On vol.2」リハーサルより。

――お二人はお稽古されていていかがですか?
ノグチ「今は振り付けを体に入れている段階で、これからお芝居要素に入っていきます。表現に終わりはないと思うけれど、僕にとってはやったことのないことばかりなので挑戦だらけ。自分が表現しきれるんだろうかとも思うけれど、せっかく永野さんに作っていただいた振りなので、あきらめずに探求していきたいです」
大橋「僕にとっても、新しい人たちと踊るのは大きな挑戦です。まずは僕の中を空っぽにして素直にアキさんのやりたいことを聞いて、彼が求める動きを自分の体に入れていくことに徹しています」

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「Life Goes On vol.2」リハーサルより。

――コロナ禍の中で今、ダンサーとして皆さんはどんなことを感じていらっしゃいますか?
永野「今を生きるというか、今の状況に合わせて、自分なりのやり方で、できる表現を続けていきたいです。今回、観客を迎えた舞台公演も考えましたが、やはり外出にためらいのある方もまだいらっしゃる状況ですので、配信型に決めました。
といっても、配信は決して“妥協”ではないんです。前回、初めて配信型でやってみて、スタジオで撮影したものを配信するとこんなに面白い作品ができるということに気づき、新たなカテゴリの可能性が見えてきました。そこでできるパフォーマンスをもっと追求してみたいと思っていて、コロナ禍はある意味、一つのきっかけになったかなと思います」
ノグチ「僕のいたジョージアでは、コロナ禍でダンススタジオがたくさんつぶれてしまい、その先生方はみな“俺はコロナにすべてを奪われた”と嘆いています。でも一方ではオンラインで新たな道を模索している人もたくさんいて、生き残れる人と生き残れない人が顕著になっているなと感じます。そんな中で、この公演は画期的で、参加していてすごく前に進んでいるという実感がありますね」
大橋「ダンスって人がいないと成り立たない仕事だな、ということと、オンラインの波にうまく乗れなかった人は価値がないということではないので、自分なりにその日、その時に思ったことをやっていくことが大事だな、と思っています。タイミングを逃さないこと。そして、コロナ禍がなければ出会えなかった人もたくさんいるので、そういう人たちとのかかわりを、これからも大切にしていけたらいいなと思っています」

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「Life Goes On vol.2」リハーサルより。

――では10日の本番に向けて、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
永野「ダンスは観方がわからない、という方もいらっしゃると思いますが、観ていただければ起承転結のある、わかりやすいダンス演劇だと感じていただけるのではと思います。僕はモーリス・ベジャールのバレエ学校の出身なのですが、ベジャールはあるものからインスピレーションを受け、それを自分の作品に素直に応用させていく方でした。そういうところで学んだので、僕も抵抗感なく、ミュージカルにも挑戦できています。今回の作品もいろいろな要素を取り入れているので、お芝居を観ているイメージで、楽な気持ちでご覧いただけたらと思います」
ノグチ「劇団四季でミュージカルをやる前は、大阪芸大でストレート・プレイも勉強していて、演劇って言葉で表現するものと思っていたので、今回は完全に踊りだけでお芝居を構築するというのが、自分にとっては大きな挑戦です。アキさんの下さったお芝居要素を、(ダンスを通して)自分で構築できるよう、頑張りたいです。お客様それぞれの解釈もあると思うので、そういう部分でも楽しめる作品だと思います」
大橋「今回は(永野さん、ノグチさんら)歌える方々がいらっしゃるのに歌がない演目ですが、その分、歌うように踊れるよう頑張ります」
永野「今回は歌いませんが、これだけ可能性が見えてきたので、今後、台詞や歌も入れたミュージカル的な作品になっていくかもしれません。コロナ禍に関係なく、配信型の作品を作っていけたらいいなと思っています」

(取材・文=松島まり乃)
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*ライブ配信情報 unit MASK『Life Goes On vol.2 ~風fuu~』3月10日19:30~。詳細はこちら