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『チェーザレ』宮尾俊太郎インタビュー:男たちの生きざまが交錯する“神聖”な史劇

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宮尾俊太郎 北海道出身。フランス留学を経て2004年K-BALLET COMPANYに入団、15年プリンシパルに昇格。『シンデレラ」『白鳥の湖』『ジゼル』『ロミオとジュリエット』等のバレエで主演を務めるほか、TVドラマや映画、ミュージカル出演などでも活躍している。Kバレエ カンパニー公式HP https://www.k-ballet.co.jp ©Marino Matsushima

15世紀イタリアを舞台に、ヨーロッパの統一を夢見て歴史にその名を残したチェーザレ・ボルジア。この人物の若き日々を描いた惣領冬実さんの歴史漫画が、中川晃教さん主演で舞台化されます。
 
華麗なるルネサンス世界で展開するこの壮大なパワーゲーム譚において、中川さん演じるチェーザレの腹心、ミゲルを演じるのがバレエ・ダンサーの宮尾俊太郎さん。言わずと知れたKバレエ カンパニーのスター・ダンサーですが、『ロミオ&ジュリエット』でミュージカルに進出、『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』では品のあるコミカル演技で新境地を開拓しました。バレエとは異なる表現形態であるミュージカルを、宮尾さんはどうとらえているでしょうか? 作品観や稽古場の様子もたっぷりうかがいます!
 
【あらすじ】1491年、ピサ。ヴァチカンの枢機卿ロドリーゴ・ボルジアの庶子として生まれたチェーザレ(16歳)は、サピエンツァ大学で学びながら、宿敵ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレと時期教皇の座を巡って対立する父を助け、理想の世界を実現すべく画策していた。まずはピサの大司教ラファエーレ・リアーリオを籠絡しようとするが…。

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c惣領冬実・講談社/ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』製作委員会
チェーザレとの間にある、
目には見えない繋がりを表現したい
――宮尾さんのキャリアにとって、ミュージカルはどういった位置づけにあるのでしょうか?
「初めて出演したミュージカル『ロミオ&ジュリエット』では、歌のない(“死”という)役でしたが、ここで“歌の持つ力ってすごいな”と感じました。次に出演した『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』では自分も歌う機会があって、歌というのは肉体という楽器を使った音楽だな、一夜でどうこうしようとするものではなく積み重なっていくものですし、非常にコントロールを必要とされる、演じる側としてはシビアな世界だなと思いました。以来、ボイストレーニングを続けています」
 
――バレエに限らず、いろんなジャンルに門戸を開いていらっしゃるのですね。
「そうですね、むしろバレエのほうが人それぞれではあるけれど肉体的のピークに限りがありますから、ダンサーとして踊り続けていくことにはいつか終わりがあると僕は思っています。ですが、表現者としてはそうではない。どんなジャンルに対しても開いておきたいですね」
 
――そんな中で出演が決まった『チェーザレ』ですが、原作はご存じでしたか?
「お話をいただいてから読みました。ダヴィンチやミケランジェロがいて、バレエの発生もイタリアと言われている、そういう芸術が生まれつつある時代が描かれていて面白いと思いました。戦国時代の日本のような権力闘争があって歴史ものとしても楽しめるし、キャラクターもそれぞれにいろいろなものを背負っています」
 
――表情は比較的静的であまり劇的に変わりませんし、台詞の内容も歴史劇ゆえ、硬質。“漫画”の一般的なイメージとはちょっと違う作風ですね。
「心が動いてる瞬間には台詞が無く、読んでいる人に委ねられてるのかなと感じます。現代人としてはそうした世界への感情移入は簡単ではないけれど、演じるミゲルと自分の人生に何か共通点はないか、それを今の自分に落とし込めないかと思って探すようにしています」
 

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『チェーザレ』製作発表での宮尾さん。右はチェーザレ役・中川晃教さん、左はダンテ役・藤岡正明さん(C)Marino Matsushima
――宮尾さんが演じるチェーザレの右腕、ミゲルは実在の人物なのですね。
「実在のようですが、あまり資料は残っていないんですよ。義を通す人物ではあったようですね」
 
――チェーザレに心酔しているように見えますが、或る時、学友の一人アンジェロに対して、チェーザレを信じると痛い目に遭うぞとも言っていて、客観的というか、醒めた部分もあるのかなとも思えます。
「チェーザレという人のいいところも悪いところもすべてひっくるめて知ったうえで、彼といると自分の居場所がある、この男についていこうと心に決めているのでしょうね」
 
――登場人物がほとんど男性ということもあって、もしかしてボーイズ・ラブ的な側面もあるかと思いきや…。
「残念ながらないです(笑)。原作の中では彼らは娼館とか行っていますからね。ご期待に添えないかな?」
 
――となると、見どころ的にはどんな部分になりそうでしょうか?
「歴史的な背景を描きながらも、水面下で蠢いている人間ドラマを描いているので、一人一人がどれだけキャラクターのドラマを持たせられるかがポイントなのかな、と思っています」
 
――チェーザレはスペイン出身でミゲルはユダヤ人で…と、情報量はかなり多そうですね。
「だから3回は見る必要がありますね(笑)。日本でいえば、戦国時代の武田信玄と上杉謙信の争いの中で、チェーザレは武田勝頼のようなポジションのドラマだと想像するとわかりやすいかもしれません。戦国武将物語のイタリア版、でしょうか。チェーザレの学生時代を描いてはいるけれど、そこではちょっとした喧嘩が命のやり取りになったりして、緊張感は常にあります。ミゲルはチェーザレを守ると心に決めているので、いつでも(彼を守りに)行ける距離感でいます」
 
――確認ですが、ミゲルはチェーザレと同い年なのですよね。
「そうです、16歳です、僕(笑)。とはいえ、当時の16歳は僕らの時代の16歳とは違って、もっと精神的には成熟していたと思うので、それほど無理に作るのではなく、多少、声のキーを上げたり、時に無邪気に笑ったりといった表現をしています」
 
――ソロ・ナンバーもありますね。
「あります。中川さん、別所さん、岡さんをはじめ、素晴らしいキャストの方々の中で歌うというのはとても大変ですが、お客様のストレスにならないよう(笑)、遜色のないように務めたいと思っています」
 
――バレエ・ダンサーの宮尾さんだからこそ、生かせそうなことはありますか?
「ミゲルはクールで、あまり感情を上下させない役ですが、その中でも肉体が放つ雰囲気、特に殺気というのは肉体を使ってきたからこそ出せるかもしれません。バレエの作品ではたいてい誰かが浮気したり、闘ったり、自分も死んでいったりしますから(笑)、『海賊』『クレオパトラ』等、殺気を放つ役も経験しています」
 
――ずばり、どんなミゲルになりそうでしょうか?
「原作漫画ファンの中には、ミゲル・ファンがけっこう多いらしいんですよ。イメージ的には、森蘭丸のような感じかな。チェーザレと出会ったことで、自分の居場所を見つけたミゲルの、チェーザレとの間にある、目には見えない繋がりをお見せできたらと思います。それがどういうものか、見え方はお客様次第かもしれません。もしかしたらラブととらえる方も、信頼ととらえる方もいらっしゃるかもしれませんし…」
 
――稽古場はどんな空気ですか?
「オリジナル・ミュージカルなので、みんなで一つずつ手探りで作ってきています。ピリピリというのはないですね。主演の中川晃教さんは、周りが“そこまでやる?”というところまで突き進むし、突き詰める。自分が納得しないと進めないという姿勢が、チェーザレとリンクして素晴らしいです。ある台詞を喋っていて、そこに音楽が重なる時、曲終わりがこの音でいいのか、この言葉の隙にもっと別なメロディが入ってきたほうがいいのか、と音楽・台詞・キャラクターを常に融合させた形で気にかけています。僕らバレエ・ダンサーも、例えばチャイコフスキーを聴けばメロディから感情が湧き出るし、楽譜を見るとそこから(表現の)答えが導かれることがあるので、ミュージカルの世界も(表現を総合的にとらえるという発想は)似ているな、と感じます」
 

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『チェーザレ』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
――どんな舞台になっていきそうでしょうか?
「もちろん中川さんや岡さんはじめ、素晴らしい歌声に酔いしれることもできますし、それに加えて、神聖な感じの作品になるのではないかと思います。様々なキャラクターたちがいて、彼らの考え方、生き方が交錯する。その美しさ。最後には爽やかな風が吹くのではないかなと思います」
 
――一つの結末には到達しますが、チェーザレの人生はここで終わるわけではないので、続編ももしかしたらありそう…⁈
「実際はわからないけれど、そう予兆させたいですよね」
 
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「僕という人間が心に刺さるような表現者でありたいですよね、役を超えて。何をやるにしても、結局はその人がやることで表現は生まれるわけであって、お客様は“この人がやるから観たい”と思ってくださる。“この人”、を高めていきたいです。
そのために、ちょっと前までは、波乱万丈に生きるほうがそれらしいのかと思っていたけれど、そんなことはないかな、と今は思います。知性を磨くために読書し、肉体を鍛えるために体を動かし、表現に対して必要な技法をとことん積み重ねていく。そして、人を愛し、謙虚でいたいです」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『チェーザレ 破壊の創造者』4月17日~5月11日=明治座 公式HP
↑政府による緊急事態宣言を受け、公演は中止となりました。詳細は公式HPをご覧下さい。
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