Musical Theater Japan

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『アナスタシア』木下晴香インタビュー:“私”を探して光の世界へ

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木下晴香 99年生まれ、佐賀県出身。17年に『ロミオ&ジュリエット』でデビュー。以降『モーツァルト!』『銀河鉄道999 さよならメーテル~僕の永遠』『ファントム』に出演。実写映画版『アラジン』プレミアム吹き替え版ではジャスミンを演じた。©Marino Matsushima
記憶をなくしたヒロインが強い意志を持って“自分探し”の旅に出る様を描き、17年にブロードウェイで初演、世界各地で上演されている『アナスタシア』。LEDパネルを使った眩いビジュアルも話題の人気ミュージカルが、遂に日本に上陸します。
 
MTJでは仮台本を読んだ段階で特集を決定。メインキャストのうち何名かの方々に作品観や役作りについてうかがい、その魅力に迫ります。第3回は本当の自分を探そうと懸命に生きるヒロイン、アーニャをダブルキャストで演じる木下晴香さん。稽古も佳境に入り、より鮮やかに見えてきた本作の魅力をたっぷりお話いただきました!
 
【あらすじ】ロシア革命後のサンクトペテルブルク。その片隅で孤独に生きていた記憶喪失の女性アーニャは、詐欺師の青年ディミトリと出会い、暗殺された皇帝一家のうち唯一生き残った“かもしれない”アナスタシア候補として、皇太后が住むパリを目指す。はじめは高額の賞金目当てだったディミトリと、一途に自分探しをするアーニャ。衝突しながらも二人はいつしか心通わせるようになるが、彼女の姿に何かを直感した将官グレブが、彼らをパリまで追いかけてゆく…。
届けたい思いを台詞や歌にこめ、大切に演じています

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『アナスタシア』

 ――製作発表では実際の衣裳も披露されましたが、とても素敵なドレスですね。
「ジュエリーがたくさんついていて、ずしりとした重みがあります。舞台でも映えると思うので、お客様も観て楽しんでいただけると思います」

 
――大都会で逞しく生きてきたアーニャが、あの豪華なドレスを着るとふと、プリンセスだった過去のしぐさを思い出す…といった瞬間もありそうですね。
「そうですね。台詞の助けを借りなくても、お客様が私のふとした動きを見てはっとしていただけるような、しなやかな動きが出来るといいなと思います。今回、共演の方々の中にバレエダンサー出身の方が何人かいて、“バレエやっていたでしょ、姿勢を見ればわかるよ”と仰って下さっていますが、バレエで培ったものを皇女らしい歩き姿や動きに生かしたいです」
 

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『アナスタシア』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
-――ブロードウェイ版の映像や原作のアニメ映画はご覧になりましたか?
「はい、まずブロードウェイ版の映像を観ましたが、1幕終わりにアーニャが歌う“Journey to the Past”というナンバーがとてもかっこよくて。舞台の真ん中で壮大に歌い上げる様子がとても印象的で、この歌を歌いたいと強く思い、オーディションを受けようと思いました。その後アニメ映画版を観たのですが、どうしてこれまでこの作品を知らなかったのだろうと思うほど楽しくロマンチックな作品で、知れば知るほど素敵な作品だという思いが深まっています」
 
――欧米の方々にとっては“アナスタシア伝説”はとても有名で、本作も彼女やそれにまつわる歴史に対する思い入れの強さから生まれたような部分もありますが、日本人の木下さんにはどう感じられますか?
「もちろん史実を知っていても興味深いのですが、今、稽古をしていて、予備知識がなくても楽しめる作品だなと感じます。楽曲の豊さ、いろいろなキャラクターが絡んできての(ドラマとしての)見ごたえ…。逆に、この舞台をご覧になってアーニャ伝説というものを知っていただけるといいなぁと思います」
 
――アーニャの境遇は特異なものですが、記憶喪失ということなので、そこまで重いものは背負っていない感じでしょうか?
「実態の見えない恐怖、追いかけられているような感覚はずっとあると思います。人間は周りに認められるからこそ自分の存在に確信が持てると思いますが、自分が誰かわからない、自分を知っている人すらいないという状況で、アーニャは自分は本当に生きてきたのだろうかという感覚とともに日々を過ごし、だからこその強さもあるのだろうと思います。記憶がないゆえの恐怖と闘い続けているのだろうなと思います」
 
――微妙なものがいろいろと詰まっている役ですね。
「複雑な役だと思います。心に抱えている闇が深い人物だと」
 

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『アナスタシア』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
――本作はミュージカルではありますが、後半の皇太后との対話と、グレブとの対話、この二つのシーンの台詞の応酬が非常に重要に感じられます。
「皇太后との対話ではお互いの抱えている過去をぶつけあうイメージで、はじめ重いシーンを想像していましたが、実際は皇太后の人間味というか、かわいらしさが覗いたりして、ちょっとコミカルな味もあります。物語上、とても重要なシーンで、ずっと抱えてきた思いがかなうかもしれない瞬間なので、おばあさまに届けたい思いを台詞にこめて、ネガティブな方向に行きかけてもポジティブなアーニャらしく、この言い方なら光が見えるからこう言ってみようとか、いろいろトライしています。これから演技を深めていったらどんなシーンになるだろうというわくわくが残っています。
 
グレブとは初めて出会った瞬間から彼の眼の奥に傷というか、何かを抱えていることをアーニャは察していて、過去に囚われた彼にある種の共通点を感じています。この終盤のシーンでその彼と相対するのですが、自分の命を狙っている彼とただ張り合っているだけのシーンではなく、魂のぶつかりあいが出来るといいですね、とグレブ役の方々とお話しています」 

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『アナスタシア』製作発表にて。グレブ役の山本耕史さん、堂珍嘉邦さん。(C)Marino Matsushima
――自分のアイデンティティがわからず、壁にぶちあたっていたアーニャが大きく変化してゆくさまが素敵です。
「あのシーンはまさに彼女が成長というか、大きな壁を乗り越えてゆく、ものすごい瞬間だなと思います」
 
――その他にはどんな見どころがあるでしょうか?
「稽古が進んでくるにしたがって、1幕のロシアのシーンと2幕のパリのシーンはカラーが全然違って、どのシーンも好きだなあと思えます。舞台稽古でLEDパネルが出てくるとさらにそれが鮮やかに見えてきて、視覚的にも聴覚的にも楽しめる舞台になるだろうなと想像できます」
 
――音楽的にはいかがですか?
「(一般的に)ミュージカルのソロ・ナンバーは、静かなところからだんだん盛り上がっていく曲が多いのですが、最終的に必要なエネルギーがこんなに大変なのは初めてというくらい、本作のソロはステップ・アップが多くて、それがアーニャの生きてきた大変な時間と重なって感じられます。さらっと歌おうと思えば歌えてしまうかもしれないけれど、ものすごくたくさん要素を入れられる曲ばかりです。ロングトーンもとても多いですね。ロングトーンってそのキャラクターの強い思いだったり、すごく意味があるものだと思いますが、本作はそれだけ大きな思いを持つキャラクターが多いんだなと感じます」
 
――さきほどステップ・アップが多いとおっしゃいましたが、例えば普通の曲だとパワー1からはじまって3、最後は5と言う感じになるけど、本作では2も4もある、という感じでしょうか?
「はい。特にアーニャは1.1,1.2,1.3…というふうに、じりじり上がっていく感じの曲が多いです。歌っていてこれほど足の裏で地面を踏むことを意識するのは初めてで、それが必要な生き方をしてきた人物なんだな、と(楽曲からも)アーニャを理解しています」
――歌唱力的にも飛躍の時になりそうですね。
「とてもそう感じます。製作発表の時から海外のクリエイティブチームの方に発声まで細かく指示をいただいて、地声というか、力強い声が欲しいと言われ、はじめは発声ばかり意識していましたが、稽古が始まって彼女の性格がわかって、それほど発声を意識しなくてもよくなってきた感覚はあります」
 

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『アナスタシア』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
――どんな舞台になるといいなと感じていらっしゃいますか?
「今回はお稽古のペースが速くて、既に2幕の最後まで動きはついていて、これから細かいニュアンスを追求していくのですが、その過程で新たな発見もあると思います。キャストの皆さんとたくさんコミュニケーションをとって一緒に進んでいけたら、きっとお客様にも作品の魅力が伝わると信じています。観終わった後に温かく、優しい気持ちになって帰っていただけるような作品になったらいいなと思っています」
 
――木下さんはどんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「作品ごとに違う表情を見せられる表現者でありたいし、楽しむことを忘れない人でいたいなと思っています。役のことで悩んだりすることもありますが、演じることを楽しむことで好奇心も出て来るし、壁が見えても乗り越えようと思えてきます」
 
――それぞれに得意分野があるかと思いますが、木下さんは特に、内に秘めたものの表現がお得意な方に感じます。
「“陰”と“陽”なら前者のほうに当てはまるのかな、という気もしますし、太陽のほうに憧れたこともありましたが、繊細さや複雑な感情を表現するときに自分の中から湧き出て来るパワー、自分の持ち味は大切にしたいです。そして役によってはそれを爆発させられるよう、さらに踏み込んだ表現をしていきたいです」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『アナスタシア』3月1日~28日=東急シアターオーブ、4月6~18日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
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