Musical Theater Japan

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2020年2月のミュージカルPick Up

早くも春の訪れが感じられるこの頃、今回は話題のミュージカル映画『とってもゴースト』から、主演・安蘭けいさんインタビューをお届けします!
 
【2月の“気になる”ミュージカル】
映画『とってもゴースト』2月15日公開←安蘭けいさんインタビューを掲載!
 
【別途特集のミュージカル(上演中・これから上演)】
『ウェスト・サイド・ストーリー』Season2←廣瀬友祐さんインタビュー/『パリのアメリカ人』←石橋杏実さん・宮田愛さんインタビュー/『ドリームガールズ』来日公演←上海公演観劇レポ・キャストインタビュー・舞台裏探訪/『フランケンシュタイン』←中川晃教さん、加藤和樹さんインタビュー、観劇レポート/『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』←土居裕子さんインタビュー、観劇レポート/『デスノートTHE MUSICAL』←甲斐翔真さん、パク・ヘナさんインタビュー/『アナスタシア』←葵わかなさん、木下晴香さん、内海啓貴さん、麻美れいさんインタビューを掲載/『ボディガード』←演出家インタビュー
“出会うはずのない二人”のロマンチックな恋を描くミュージカル映画『とってもゴースト』
2月15日~21日=キネマ旬報シアター(千葉県柏市) 公式HP 

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc
【ここに注目!】交通事故に遭い、ゴーストになってしまったファッションデザイナーと、靴のデザイナーを志す美大生がひょんなことから出会い、互いにかけがえのない存在となってゆくさまを描いた音楽座のミュージカルが、安蘭けいさん・古館佑太郎さん主演で映画化。学生アパートの一室から大自然まで、映像ならではの様々なロケーションで、ファンタスティックな物語が展開してゆきます。安蘭さんの説得力溢れる歌唱に対して、古館さんの歌はつぶやきのようなナチュラルさ。異なる歌声が主人公たちの境遇の違いを強調し、大きな効果を挙げています。ラストの光景も美しく、ロマンチックな余韻たっぷり。
 
【入江ユキ役・安蘭けいインタビュー:“ミュージカルっていいな”と改めて思える作品】 
 
――今回はどんな経緯でご出演が決まったのですか?
「監督の角川さんからお声がけをいただいたのですが、角ちゃんがこれまでにもミュージカル映画を撮ったり、ミュージカルを日本に根付かせるために活動されていることは知っていて、以前から、私で力になれることがあればとお伝えしていました。今回、日本にミュージカル映画をという角ちゃんの熱い思いを実現するためにお手伝いすることができ、とても嬉しく思っています」

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc.
(ここでインタビューを見守っていた角川裕明監督から、「安蘭さんとは何度か共演させていただいていますが、とりわけ『MITSUKO』での、少女から老齢期までを演じ切る姿、終盤の説得力ある台詞が強く印象に残っていまして、今回の入江ユキ役は安蘭さんでないと、という思いでオファーさせていただきました」とのコメントが。)
 
――角川さんのミュージカル映画はご覧になっていたのですか?
「『蝶~ラスト・レッスン~』という作品に俳優仲間が出ていたのですが、本当に等身大で素直に演じていたり、歌も“the 歌”という感じではなく、ストーリーの中で感情を伝えるためのツールとして歌を使っているところがいいなと思いました」
 

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc.
――音楽座の作品にはご縁は?
「ありませんでした。おそらく90年代ごろに盛んに上演されていたのだと思いますが、当時、私は宝塚に在団中で、他の舞台を観に行く余裕がなかった頃だったと思います。でも、知っていたら逆にプレッシャーを感じていたと思うのでこれでよかったのかもしれません」
 
――作品の第一印象は?
「台本を読んで涙しました。リアルタイムで舞台を観られなかったのが残念で、絶対いい映画にしたいと思いました。奇をてらっていない、なじみやすい音楽も魅力的で、テンポも自分の心拍数に合っているし、昭和から平成のはじめぐらいのテイストがあって、私でも“いけるかな”と思いました」
 
 
――映像での演技ということについては意識されましたか?
「映像での演技はいつも苦労するところで、舞台では“はみ出た演技をしてなんぼ”の世界だけど、映像では”フレームからはみ出ない”ことが大事なんです。なるべくそぎ落として自然に、自然にと意識しますが、今回は古館佑太郎さんが相手役で、彼が何の飾り気もない、自然な演技をするので、どうにか彼に近づけるようにということを意識しました」

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc.
――ヒロインはどのように造型されましたか?
「入江ユキはキャリアウーマンなのですが、彼女のように多忙な中で何事もうまくいかない、空回りすることって、私自身も経験したことがあるし、よくあると思うんですよ。そんな女性が不慮の事故で亡くなり、(ゴーストになることで)もう一度自分を見つめ直す。いっぱいいっぱいのところから俯瞰して見ることで、周りの人々に対する感謝がうまれる。そういうことってあるだろうなと想像できるので、その部分を演じるのに苦労は少なかったですね。本作の場合、そこに大学生の男の子との恋が絡んでくるのですが、監督が私の中にあるものをうまく引き出してくれたこともあって、ユキの心の流れに無理なく乗ることができました」
 

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc.
――ユキの当初のとげとげしさの背景として、ファッションという競争の激しい世界に生きているということだけでなく、幼いころに虐待を受け、尋常でないハングリー精神があるようですね。
「彼女にもそういう事情があるからこその厳しさなのだな、と理解できます。そんな彼女が変わっていくのは、自分が死んでしまったという厳然たる事実と、光司という学生との出会いによるのでしょうね」
 
――その光司に対して、ユキはデザイナーとして踏み出してゆくのを応援し、やがて母性愛的なものを抱くように見えます。
「女性ってどんな恋愛でも母性は感じると思うんですよ。彼と出会って、夢を後押ししたいと思うんですよね。この話では死んだ人がゴーストとして出て来るわけですが、それが無理なく描けるのもミュージカルという形式だからこそ。ミュージカルっていいな、と改めて思います。音楽があることで世界も広がりますしね」
 

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc.
――完成作はご覧になりましたか?
「はい。個人的にはあそこの演技はもう少しこうすればよかった、という部分もありますが、作品的には本当に素敵な作品になってると思いますし、最後はぐっときて、私が最初に台本を読んだ時の感動が体験できました」
 
――これは映像ならではの表現だな、と感じた部分は?
「(クライマックスの)海辺のシーンですね」
 
――御宿でのロケですね。波音に負けないように歌われたのですか?
「実際は先撮りした歌とともに演技したのですが、風がすごい中での撮影でした」
 
――泣きの演技については、実際に涙が必要なので、舞台での表現とまた違いましたか?
「どちらかと言うと、舞台のほうが泣けるんです。舞台はすべてが繋がっているけれど、映像だと部分的に撮影するので、突然その感情にもっていかないといけないのが難しいですね。だから古館君があんなに自然に泣ける姿にすごいな、と思いました」
 

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc.
――それを引き出しているのが安蘭さんの終盤の歌声だと思います。
「そうだといいですね」
 
――古館さんの歌唱はミュージカルの歌唱とは全く異なりますね。
「私の歌に彼の歌声が重なってくるところがあって、はじめ“こういう歌い方があるんだ、歌と言うより喋りだな”と、目から鱗が落ちる思いでした。これはミュージカル俳優にはできないな、と」
 
――今回の撮影で得た、一番大きなものは?
「自然に歌う、自然に芝居をするということがいかに難しいか。演じるということが私の中でずっと課題になっていきそうです。カメラの前、大劇場、小劇場、それぞれにふさわしい演技があると思いますが、今回、初ミュージカルに懸命に取り組んでいた古館君の姿を観ていて、常に新鮮な気持ちでやっていかないといけないなと思いました」
 

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『とってもゴースト』 (c) 2020 Japanese Musical Cinema/Human Design Inc./THE DIRECTORS ALLIANCE Inc
――今回、ミュージカル映画を体験されたことで、こういったものもミュージカル映画化したらといったアイディアは浮かびましたか?
「日本人なのでやはり日本の素材がいいと思うんです。既にあるとは思うけれど、時代劇ミュージカルはあってもいいですよね。民謡や演歌を取り入れてもいいのではないかな。忍者映画とか(笑)。蝶々夫人にも興味があります」
 
――では最後に、本作をどうご覧いただきたいですか?
「ミュージカルの映画としてもご覧いただきたいですが、人間を丁寧に描いた“映画作品”としても楽しめる作品なので、たくさんの人に見ていただきたいし、それによってミュージカルをたくさんの方に好きになっていただきたいですね。この作品がそんなきっかけになったら本当に嬉しいです」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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