Musical Theater Japan

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『人生のピース』木村花代・藤森慎吾対談 “婚活ミュージカル”に思うこと

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(右)木村花代 大阪府出身。劇団四季在籍時に『キャッツ』『オペラ座の怪人』『美女と野獣』等、多くの演目でヒロインを演じる。退団後は『メリー・ポピンズ』『星の王子さま』『キューティ・ブロンド』等に出演、LIVE活動も精力的に行っている。(左)藤森慎吾 長野県出身。「オリエンタルラジオ」を結成、お笑い芸人として人気を博す。ダンス&ボーカルグループRADIO FISHでも活躍し、NHK紅白歌合戦にも出場。今回が初舞台、初ミュージカルとなる。©Marino Matsushima

“仕事は楽しい、親友もいる”と思っている34歳の会社員・潤子は、幼馴染の婚約を知り、焦って結婚相談所に入会。初めて知る“婚活”の世界に七転八倒するうち、自分はどう生きたいのか、何が幸せなのかと自問自答するように。そんな中でどこか不器用だが心からお酒を愛する酒屋の店主“金子さん”に出逢った潤子は…。
“婚活”を通して自分の生き方を模索する朝比奈あすかさんの小説が、横山清崇さんの脚本・演出で舞台化。多くの女性たちが“これぞ私たちの物語!”と思える(かもしれない)モチーフが、時にシリアス、時にコミカルに、小澤時史さんの音楽に彩られ、ミュージカルとして描かれます。一度でも結婚を意識したことのある方であれば“あるある”要素続出の物語ですが、潤子役の木村花代さん、金子役の藤森慎吾さん(三宅祐輔さんとのwキャスト)はどう感じているでしょうか。その胸中、そして稽古の様子をフランクに語っていただきました。

今回の役どころは自分に激似?程遠い?

――台本を読まれた第一印象はいかがでしたか?
木村花代さん(以下・木村)「これは私なんじゃないかと思ったくらい、共感しました。(今回演じる)潤子って私?というほど、リンクするところが多かったです。優柔不断だったり流されやすかったり、しっかりとした価値観を持っているわけではない潤子が、人に言われて“そうかな”“これもありかな”と試行錯誤しながら自分の価値観を見つけて行くお話なんです」
藤森慎吾さん(以下・藤森)「ということは、花代さんもこんな(素敵な)結末に向かって..」
木村「行くといいですね(笑)。とにかく、この台本には“わかるな”ということが凄く多かったです」
藤森「それだと役に入り易い?」
木村「逆に、内観し過ぎて今、私?潤子?と混乱しますね(笑)。普通、いろいろ想像しながら(自分からは距離のある役を)作っていくじゃないですか。でも今回は“こういうことありうるな”と思えて(作る必要がない部分もありました)」
藤森「ということは、世の女性は本作の誰かしらに…」
木村「当てはまるんじゃないかなと思うんです。たまたま私は潤子にあてはまったけど。男性目線から見るとどうですか?」

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『人生のピース』稽古より。

藤森「いやあ、女性についてまだまだ知らないことが多くて勉強しなくちゃなというか、職業的に“チャラ男”なんて言ってますので(笑)、女性への理解力は男性の中でも人一倍持っていなくてはいけないんですけど、原作本の帯に書かせていただいた通り、僕の人生の参考書にさせていただこうと思っています。
僕が演じる金子さんは、花代さんとは逆に、実際の自分からはずいぶんかけ離れているのかなというイメージです。でも芸人をやっているときはテレビとかでおちゃらけているけれど、よくよく考えてみるとそのほうがお芝居なんじゃないかとなったときに、それを剥ぐと僕は意外と真面目な金子さんみたいな人なのかなあ、なんて..。誰かにもそう、言われたんですよ」
木村「最初の本読みの時から金子さんそのものでしたよ。営業妨害になっちゃうかもしれないけど(笑)、本当に真面目な一面をお持ちなので、そういう藤森さんが出ているんだなと。全く違和感はないです」
藤森「嬉しいです!そういう役を演じるほうが楽しいですね」

婚活あれこれ

――先ほど、女性についてまだ知らないことがあると感じたとおっしゃっていましたが、例えばどんな部分についてでしょうか?
藤森「“婚活”という言葉は聞いたことはあっても、実際にどんなことをやっているか、そこではどんな精神状態なのかということは考えもしなかったので、壮絶…と言うと語弊があるかもしれないけれど、凄い世界なんだなと思いました」
木村「凄い精神力だよね」
藤森「ライトにやっているのかと思いきや、相当カロリーの要ることなんだなと。金子も婚活しているのですが、僕は婚活をしたことがないので、そのあたりは手探りです」

――周りで婚活が話題になったりはしませんか?
藤森「男同士はしないんですよねぇ」
木村「女の子同士はしますけどね。男の人って自分のことあまり話さないですよね。みんなこっそりやってるのかなって思います」
藤森「探り合いとかもあるのかな?」

木村「私はけっこうオープンに話して、そういうことは言わない方がいいよと周りに叱られるタイプ(笑)。婚活については、以前、TVでコンサルタントの方のインタビューを興味深く見たことがあります。本作に登場する“コンサルタントの初雁さん”と同じようなことを言うんですよ」
藤森「ええ!」
木村「“だから結婚できないんですよ””とか、毒舌を吐くんです。だから今回の台本を読んで、これがリアルなんだ、ほぼ同じことが行われているんだろうなと思いました。ただ、皆それぞれ自分の価値観を持って挑むわけなので、演じる上で、面白いのはお客様であって、私たちは真剣に演じないといけないなと思っています」

婚活を通して考える“生き方”

――本作については“これこそ私たち向けのミュージカル!”と感じられる方がたくさんいらっしゃると思いますが、華やかな世界の俳優さんが演じているのを観て、この方はそもそも、結婚願望がおありなのかな?と感じてしまうかもしれません…。
木村「“花代さんなんてたくさん(男性が寄って)来るよ~”とよく言われますが、そんなことないです(笑)」
藤森「うんうん」
木村「皆さんと同じことで悩んでいるんだと分かっていただけると嬉しいです」

――仕事が充実してあまりにも多忙だと、結婚願望が生まれにくいという方も多いかもしれませんね。
木村「でも先日、演出の横山(清崇)さんが、特に海外では、パーティーにパートナーを連れて行くのが当たり前なので、男性でも一般企業で30代まで独身だと、難がある人と見られがちだとおっしゃていました。(それに比べると)私たちの仕事は婚期が遅れがちで、おそらく一般企業の方の感覚と10年ぐらい違う気がします」
藤森「そのあたり、舞台の上では違和感ないよう、(一般の方に)感覚を近づけていきたいですね」

――同窓会に出席されて周囲とのギャップを感じたりは?
藤森「それはわかり易いですよね、確かに(郷里の)長野に帰ったら独身はほとんどいなくて、バツイチとか子供は中学生筆頭に3人とか、いますからね。それが正しいのかな」。

――“正しい”というわけではなくて…。
木村「“一般的”なんですよね」
藤森「“正しい”とは言わない、そこがこの作品のいいところなんですよね。正解はない。それぞれの正解を見つけられたらいい。結婚という人もいれば、好きな仕事が第一という人もいる。そう受け取ってもらえたら嬉しいかな」
木村「“価値観からの解放”は横山さんと原作者の朝比奈あすかさんの一致したテーマなんです。もっと自由になってほしい、解放されていく姿を見てお客様に共感してほしいと朝比奈さんは言っていて、私たちも何度かメッセージをいただきました」

――今回、ご自身の役を、何を手掛かりに演じていますか?
木村「私は自分です。普段は海外の作品が多くて、今回は久々の日本ものなのですが、日本人ならではの価値観が描かれていて、そういう面ではみんなが役作りの対象になるというか、“日本人を知る”ことのできる作品だなと感じます」


藤森
「僕は婚活もお見合いもしたことがなくて、今、勝手に参考にさせてもらっているのが、長野の同級生の関君(笑)。彼も僕同様、唯一の独身者で、周囲にはいろいろ言われるけど、カメラが好きで、めちゃくちゃきれいな写真を撮るんですよ。花火の写真とか送ってくれてね。今回演じる金子さんは酒屋の店主で、お酒に情熱を持っているけれど恋愛になるとたじたじになっちゃう人物。関君も女の人と喋ってる姿を観たことなくて、同窓会でも女性と話すと緊張してるくらいなので、こういう感じなのかなぁと思ったりしています」


人生を“パズル”のようにとらえてみる

――本作は、婚活そのものを描くのではなく、それを通して人生をどういきたいか、を考えてみるお話ですよね。ご自身の生き方に影響を与えそうな予感はありますか?
木村「あります。先日、友達と喋っていて、偶然ですが、パズルのピースの話になったんですよ。私たちは今ここに特定のピースをはめたい、と思いがちだけど、無理やり探してもはまるものではない。でも代わりに別のピースがはまるなら、まずはそちらをはめてみる。そしていつか人生のパズルが全部はまる、という話を聞いて、いいこというなぁ、と思ったんです。
こうも言われたんですが、例えば凹があると私たちはそこに自分の力で凸をはめようと頑張りがちだけど、そこを埋めてもらうために人と接点がある。凹があってもいいんだ、いろんな人とコンタクトをとって自分のダメなところを埋めてもらおう、甘えて行こうと思えたのは気付きでした」

――人生って線で考えがちで、何歳までにこれをして、次にこれをしてということにとらわれがちだけど、面で考えるというのもアリなんですね。
木村「すごく楽になりました」
藤森「すごくいいことおっしゃいましたね。僕は今回、婚活という世界に触れて、男性目線で観た時、婚活パーティーのような場で普通に女性を褒めたり趣味の話をするということが出来ない人が意外と世の中にはいるんだな、それなら僕はそんなに苦戦しなくてもいいのかな、とちょっと自信を持ちました(笑)。だって、女性と食べ物の話題になって、グルメ自慢をした男性が“じゃあ今度連れてってください”と言われて“そこ、僕のお気に入りなんでちょっと(秘密にしたい)”って…。どう考えてもその発想はない。面白いなって」

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『人生のピース』稽古より。

木村「どうして結婚したいんでしょうね、そういう人…」
藤森「台本にありましたよね、確か…」
木村「“社会的な地位が欲しい”という台詞ですか。よくわからないなぁ」
藤森「僕も結構この歳になると、友達のパーティーはホームパーティーで、みんな家族連れで僕だけ一人で行くんですよ。必ず家族の話になるし、面倒くさい部分はありますね」
木村「それが世間の目だったりするんですよね。でも本作は、婚活が全てじゃないよ、という話なんです」


“二人の金子さん”に注目!

――お稽古の状況はいかがですか?
木村「昨日すべてのステージングが上がってきました。繊細なテーマではあるけれどミュージカルとして作られているので、面白いですよ。小澤さんの書いてくれる音楽も素敵だし、金子さんのシーンがとても面白くて。ただし、ただ面白いだけにならないよう、お芝居の部分はもう少しきっちり締めて行かないと、と思っています」
藤森「花代さんは主人公なので台詞にしても歌にしてもめちゃくちゃ分量が多いけど、ちゃんと入っているんですよ。同じ時間しか(稽古を)やってないのにすごいな、と感銘受けっぱなしです。そんな中でやるので気合入りますよ。こんなところで足を引っ張れない、と。でも昨日、初めて入れたナンバーを、お芝居からの流れでやったら飛んでしまって。うわ、これ本番だったらどうなったんだろうと不安になってきました」
木村「大丈夫ですよ。こんなにきっちりやってくれるんだ、と思いながら拝見しています」

――花代さんから見て、藤森さんが演じる金子さんはどんな男性ですか?
木村「金子さんが“不思議な動きをする”という箇所があって、藤森さんらしいエッセンスがすごく増えた気がします。オリエンタルラジオの藤森さんがちょっと入っていて、それも含めてすごく素敵です」
藤森「金子役は三宅祐輔さんという(日本舞踊の)師匠とのダブルキャストで、この箇所はフリーなので持ち味の出し合いなんです。三宅さんは日舞の動きをされてすごく面白いんですが、僕は引き出しがないので、RADIOFISHの動きとかをちょっとずつとりいれたりして。本番では日によって変わるかもしれません」
木村「ここはお二人がかなり違うので両方観て頂けたらと思います」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?
木村「最後に、お客様が自分自身を認めて抱きしめてあげたくなる、自分の価値観をまるっと受け入れてくれるような作品になったら、やってよかったと思えると思います。私たちがどう演じるかはまだまだ詰めていきたいと思っていますけど、素晴らしい題材なので、作品を信じて仕上げていきたいです」
藤森「劇場にはまさに婚活中の30代の女性、既婚してお子さんがいらっしゃる方、20代の方などいろいろな方がいらっしゃると思いますが、皆さん劇場を出て、帰りに軽いスキップをしていただけるような、ルンって帰って下さるような作品になったら嬉しいです」

そして、これから

――この作品にもからめつつ、どんな人生を送りたいかというか、どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
木村「(人生は)わからない。わからないからこそ楽しもうという境地に行けたらいいなと思っています」
藤森「凄い作品を数々演じていらっしゃるのに、もっともっとチャレンジをというお気持ちなんですか?」
木村「けっこう欲深いので(笑)。見に来てくださるお客様が、私の人生、仕事を通して元気になったり、笑顔になって下さったりできるような表現者にはなりたいですね。生きていることの素晴らしさを伝えていく仕事だと思っています」
藤森「今回、僕は初舞台で、僕にとってもメモリアルな作品になることは間違いないですが、この段階でこういう表現者なんておこがましいかなと思います」
木村「でもミュージカルはやってみたかったんですよね?」

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既に息もぴったりの木村さん、藤森さん。(C)Marino Matsushima

藤森「やりたかったんです。観に行くのは好きだったので。今回、一つ夢がかなったと同時に、これをきっかけにしたいという気持ちもあります。芸人を15年やってくると、そんなに無理しなくてもなんとなく生きていけるという境地に来れたりするんですよ。でも今回のチャレンジをしたことで、ここ数年で初の感覚があって、楽しいんですよ。楽しいってどういう時に感じるかと言うと、やはり新しいことにチャレンジした時なので、そういうことを続けていきたいですよね。今回はミュージカルということで新しい経験をさせていただいたけれど、そこからさらに先に行けるか、ぴたっと声が止むかは実力次第ですから…」
木村「(先に)行きましょう!」
藤森「よろしくお願いします!」 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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公演情報『人生のピース』8月8~12日=東京芸術劇場シアターウェスト 公式HP
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