Musical Theater Japan

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樋口麻美インタビュー『ウェスト・サイド・ストーリー』アニータ役に思いを込めて

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樋口麻美 東京都出身。97年に劇団四季研究所に入所、『オペラ座の怪人』で初舞台を踏む。『夢から醒めた夢』『キャッツ』『クレイジー・フォー・ユー』『アイーダ』『ウィキッド』等数多くの作品でヒロインをつとめ、2014年に退団。『李香蘭』『鏡の法則』等の舞台に出演している。(C)Marino Matsushima

シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に想を得て1950年代、NYで対立する移民たちの間で生まれる愛の悲劇を描き、1957年にブロードウェイで初演された『ウェスト・サイド・ストーリー』。以来、世界各地で上演されてきた“名作中の名作”が、360度回転するIHIステージアラウンド東京に登場、現在Season1が上演中です。
 
作品に新たな命を吹き込むキャストの中でも、ミュージカル・ファンの注目の的と言えば、プエルトリコ移民のグループ、シャーク団のリーダーであるベルナルドの恋人アニータ役を、ダブルキャストで演じる樋口麻美さん。劇団四季の『ウィキッド』『アイーダ』『ライオンキング』など数多くの作品でヒロインを演じ、数年前に一度は引退した彼女が、12年前にも劇団四季版『ウェストサイド物語』で演じたアニータを再び演じることになり、快哉を叫んだファンは少なくないことでしょう。開幕間もないある日の終演後、楽屋に彼女を訪ね、作品への思い、そして引退から“今”に至る心境をとくとうかがいました。
 
【あらすじ】移民たちがそれぞれにグループを作り、対立しているNYウェストサイド。ポーランド系移民のトニーと、アニータのブライダル・ショップで働くプエルトリコ系移民のマリアは、体育館でのダンス・パーティーで偶然出会い、恋に落ちる。トニーがかつて参加し、今は親友リフがリーダーを務めるジェット団はマリアの兄ベルナルドが率いるシャーク団と決闘することになり、マリアはそれを止めるようトニーに頼むが、思いがけない事件が起きる…。 
太陽のような女性が辿る悲劇を、どれだけ“体感”していただけるか、に賭けて演じています

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『ウェスト・サイド・ストーリー』
――『ウエスト・サイド・ストーリー』は樋口さんにとってどんな作品でしょうか?
「初めて演じたのが12年ほど前、劇団四季での舞台でした。ジェローム・ロビンス(原案・オリジナル演出・振付)にバーンスタイン(音楽)、ソンドハイム(作詞)、アーサー・ローレンツ(脚本)とビッグネームが揃って作ったというだけでもエベレストのような作品ですが、個人的には、それまで『夢から醒めた夢』のピコのような少女役であったり、等身大の役が多かった中で、初めてお姉さん的な役どころに挑戦したのが本作。はじめは全然太刀打ちできなかったけれど、やっていく中で少しずつ掴めてきて、転機になった作品です」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』中央・ベルナルド(中河内雅貴)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――それまで可憐であったり、元気なヒロイン役の多かった樋口さんがアニタ(今回の公演では“アニータ”の表記)を演じるというので、当時は観客としても大きな驚きがありましたが、(日本版演出の)浅利(慶太)さんとしては樋口さんに、この作品で役者として飛躍を、という親心があったのかもしれませんね。
「先生はよく、役者は竹のようなもので、“節”の部分ですごく苦労して、そこからすっと伸びてゆく。そしてまた節で苦労する…ということをおっしゃっていて、アニータはまさにそういう“節”の役だったのだと思います」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』中央・リフ(小野田龍之介)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――具体的には、どういう部分が難しかったのでしょうか?
「“居方”ですね。プエルトリカンの女性は男性に大切にされ、光り輝く太陽のような存在。“樋口麻美のままじゃダメだ”とか、私はすぐニコッと笑う癖があるのでそれもダメだとか、とにかくいっぱい怒られました」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』トニー(宮野真守)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――今回はなぜ、再び挑戦してみようと思われたのですか?
「浅利先生が亡くなり、私もいったんミュージカルの世界を退いて(引退して)いた時期に今回のオーディションのお話をいただきました。当時は先生への恩返しのような気持ちで『李香蘭』に出演したりはしていましたが、まだ完全復帰という気持ちではなかったんですね。でも『ウェスト・サイド・ストーリー』にはとても思い入れがありましたし、タイミング的に先生に“また挑戦してみろよ”と言われたような気がしました。
劇団で最後に演じた『マンマ・ミーア!』のドナ役はあまり踊りはありませんでしたし、10年ぐらいたくさん踊る役をやってこなかったので、“感覚を思い出すのに時間がかかると思いますが”とお話したところ、“まだオーディションまで時間がありますので、ゆっくり取り戻して下さい”と言っていただき、決心しました。この作品でなければ、やってみようという気持ちにはなっていなかったかもしれません」 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』マリア(笹本玲奈)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――どのようなオーディションでしたか?
「ダンスと歌がありまして、ダンスは『America』の一部。(振付指導の)大澄賢也さんが丁寧に教えてくださって、ニュアンスを取り戻した感覚がありました。歌の審査も『アメリカ』でしたが、歌唱指導の山口正義さんがいらっしゃって、私にとっては劇団の大先輩なので、緊張のあまり記憶がないです(笑)。その後、長いことご連絡がなかったので受かったかどうかわからなかったのですが、ある日“ワークショップをやりますので来てください”とお声がけいただきまして。振付リステージングのフリオ・モンヘさんのワークショップで、役を振り分けるためのものだったようです。その時はアニータ役は私一人で、周りの4人を決めるのに何度も踊って…。まだ筋肉が踊り仕様になっていなかったので、それから1週間立ち上がれませんでしたが(笑)、参加して“決まりました”とご連絡をいただきました」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』ダンス・パーティー (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――お稽古はいかがでしたか?
「作品の基本的なテーマやメッセージは劇団四季版と変わらないので、そこの部分では飛び込んでいけましたが、劇団四季ではアドリブが禁止なのに対して、今回は皆さん毎回、稽古でいろんな引き出しを試していらして。動きも全然決め込まないでよくて、毎回感情がはじけてというのが新鮮で、楽しかったです。こちらも負けじといろいろ挑戦しましたが、慣れていないので、周りの皆さんは大変だったかもしれません(笑)」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』ダンス・パーティー 中央・グラッドハンド(レ・ロマネスクTOBI)、中央奥・クラプキ(吉田ウーロン太)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――アニータの造型についてはどう意識していますか?
「立ち位置が地球の軸と繋がっていて、絶対ぶれない。人種の問題も超えたところにいる存在としてとらえています」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』アニータ(樋口麻美)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――『Tonight(Quintet)』のソロの最後で、膝をガンと持ち上げますよね。劇団四季版よりもワイルドな印象を受けます。
「そういう部分はありますね。劇団四季版では網タイツでそういう部分が表現されていました」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』Cool (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――他に今回、違いを感じる部分はありますか?
「今回はまるで映画のような作りこんだセットを使っていて、そこに入るだけでその時代の空気を感じることができます。すごく助けられています」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――今回の演出では一番最後に、あるものが映像で多数登場しますが、それらはアニータの最後の台詞と直結していますよね。暴力による憎悪の連鎖を象徴しているようで、胸が痛くなります。
「マリアと歌う『A Boy Like That/I Have a Love』で、憎しみの連鎖を止めよう、世界をよくしていこうという感情が芽生えたにも関わらず、それに続くトーンティングのシーンで、その台詞が出てきてしまう。本作が生まれてから60年が経っても、人間は変われないというアーサー・ローレンツ(脚本)のメッセージが今回のテーマになったようです。劇団四季版ではラストは二つのグループがトニーを担いでいって、和解というか救いのある演出ですが、今回は救いようのない人間の性を表現しているようです」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』A Boy Like That/I Have A Love (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――最後に皆さんが前を向き、一列に並ぶ姿も印象的です。
「あそこは“役”ではなく、一人の役者としてお客様にメッセージを伝えてくださいと言われています。私の場合、トーンティングの後ですので、こういうこと(憎しみの連鎖)を続けるのか、という思いを込めて立つようにしています」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――もう一つ伺いたいのが、「Somewhere」を劇団四季版では影歌で歌われますが、今回はジェット団になかなか相手にされないボーイッシュな女の子、エニィバディズが歌うという演出です。この意図についてはお聞きになっていますか?
「エニィバディズはジェンダーレスで、性と言う壁を越えたところにいる子が歌うのがいいのだとうかがいました。様々なマイノリティが今、話題になっている中、性的なマイノリティも登場させた台本をアーサー・ローレンツが60年前に書いていたというのも凄いですよね」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』Somewhere (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――そして今回は何といっても360°回転シアターというのが大きな特色。もともとダンスの多い演目であるのに加えて、場面ごとの移動も人によってはかなり大変かと想像されますが、アニータはいかがですか?
「これがけっこう、裏で走っています(笑)。最初のブライダルショップのシーンの後もすごく走るし、次に(トニーが店に飛び込んできて)“早く帰りなさいよ”と言ってはけてからも、ぐるっと一周してクインテットのシーンに移動したり。お隣に行くにも横切っていくわけにいかないので、後ろを通るしかないんです。後半、マリアに伝言を頼まれてからも裏で走っていますね。一周するとけっこう時間はかかるし、遠いです(笑)。
今回、この劇場に出演することになって、『メタルマクベス』でこの劇場を経験された濱田めぐみさんから“とにかく体力要るよ、水分補給はOS-1”とアドバイスをいただきましたが、今、それがよくわかります。慣れるまではほんとに迷子になりますし、セットの裏に書いてあるのが英語で、頭の中で変換するのに時間がかかったり(笑)」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』Somewhere (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――演出のデイヴィッド・セイントはどんな方でしたか?
「来日されたのが稽古場の最終日で、それから舞台稽古でアニータとマリアの関係性など、細かく演出してくれました。この台詞の裏ではマリアがヴァージンかを推し量っているんだよとか、なかなか台詞を読むだけではわからない部分も指摘してくださって有難かったです。ちょうどスピルバーグの映画版にも携わった後ということですみずみまで作品のメッセージを伝えたいという作品愛に溢れていて、我々の芝居でぜひお伝えしなくちゃと思えました」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』ベルナルド(水田航生)、アニータ(三森すずこ)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――特にお好きなシーンは?
「やはり『America』ですね。来日版を観た時にも、あまりにも振付と音楽が素晴らしくて、ミュージカルってなんて素晴らしいんだろうと涙が出てきました。生きる喜びに溢れて、心をえぐられるようなエモーショナルなナンバーだな、これをやらせてもらえることは自分の宝だな、と。歌い終わると袖に倒れこむような本当にハードなナンバーではあるけれど、全身でアメリカを動かしているように感じられて、ここに来ると毎回血が騒ぎます」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』One Hand, One Heart トニー(蒼井翔太)、マリア(北乃きい)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――拝見していると樋口さん、一つ一つの振りをとても丁寧に踊っていらっしゃいます。
「振付のフリオが、このナンバーは振付が完成されているから丁寧に踊ればその良さが伝わる、だから本番が始まってからもマメにチェックしてねとおっしゃったので、ダンスキャプテンの(淺越)葉奈ちゃんはじめ、(このナンバーを踊る)みんなと毎回、開演前にチェックし、小さなこともはしょらず、頑張っています」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』America (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――素朴な質問ですが、かつて歌っていらした劇団四季版の歌詞がひょいと出て来ることはありませんか?
「あります!(笑)。思った以上に、昔歌った歌詞が体の中に入り込んでしまっていて、格闘している感じです。今回は竜真知子先生のとても素敵な歌詞なので、ちょっとした部分でも間違えないよう、気をつけています。幸い本番で歌詞を間違えたことは一度もありませんが、台詞に関しては一度、“だから”を“ですから”と言ってしまったことはありました。滑らかに、“昔っからこうだったでしょ”というところまで持っていけるようにしたいです」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』America (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――カンパニーの雰囲気はいかがでしょうか。劇団時代とはずいぶん違いますか?
「それが、劇団四季版にも出演した小野田(龍之介)さんが“ここは劇団四季か”とおっしゃるくらい、ちょっと似ているんですよ。みんな溌溂として自由な雰囲気がありつつ、締めるところはきゅっと締めてやっていて、凄いなと思います。特に今回、フリオが来日して振りをいただいてから踊りこむ時間があまりなかったにも関わらず、クラプキのシーンなんてとても前日に振りがついたとは思えないような完成度で踊っていて。才能溢れる方ばかりで尊敬しています」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』Gee, Officer Krupke (c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――その中で樋口さんは“お姉ちゃん”として慕われる存在でしょうか。
「逆に私が皆さんを慕っている状況です(笑)。本当にフラットな現場で、私がもともと童顔で若く見えるらしくて、実年齢を言うとびっくりして“すみません、タメ語で喋ってしまっていて”と言われたりしています」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』Cool 中央・リフ(上山竜治)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――1月中旬の千秋楽までまだまだ公演は続きますが、今後どんなところを深めていこうと思っていらっしゃいますか?
「『America』と『Taunting Scene』は実はメロディが同じで、本作は本当に計算しつくされた作品だと感じます。『America』がブリリアント、輝いていればいるほど『Taunting Scene』の悲劇味が強調されるので、そう努めたいです。どれだけ自分が作品に寄せていくかで、作品のメッセージも伝わると思うので、そのために自分はどうすればいいか、逆算していきたいです」
 

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『ウェスト・サイド・ストーリー』シュランク(堀部圭亮)(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀
――お客様に本作をどう観てほしいと思われますか?
「先日、濱田(めぐみ)さんともお話していたんですが、お芝居で一番難しいのは、役と同じレベルで共感していただくことだと思います。どれだけお客様に感動をお持ち帰りいただいて、それを何かの形で人生に生かしていただけるか。アニータは太陽のような女性で、(恋人を失ったあとに)本当の愛を知ったマリアと共感する、それにも関わらずその後に悲劇が起こる。アニータの辿った人生を、お客様がどれだけ“体感”していただけるか、そこに賭けてやっています。60年前の悲劇を今のお客様にお届けするので、ふだんの私の300倍、400倍感受性を研ぎ澄ませながら、お伝えできればと思っています」
 
もしも演劇の神様が許してくれるなら
――プロフィールについてもうかがわせてください。劇団四季の舞台で数々のヒロインをつとめて来られた樋口さんですが、オーディエンス的には“いつの間にか”ご不在でした。
「2014年に退団しました。私の目標は保坂知寿さんで、保坂さんが演じていたドナ(『マンマ・ミーア!』)が演じられる女優になりたいという大目標がありました。それを若くしてやらしていただいたことで、役者としてはまだまだひよっこですが、劇団四季ではやりきったかなという思いが生まれたんです」
 
――退団されて別の作品で活躍される方もいらっしゃいますが、樋口さんは完全に引退されたのですね。
「山口百恵さんではないけれど、マイクを置くと言いますか、舞台には立たず、人前に出ない人生を送ろう、普通の人になろうと思っていました。小学2年生から長い間芸能界にいたので、もっとやりたいという気持ちは全くありませんでしたね。
けれどもちょこちょこお話をいただいて、“そのお仕事はやらせていただきます”とお受けしているうちに、今に至りまして。私の中ではまだ完全復帰しているイメージではないのですが、そろそろふんぎりをつけなければいけないのかな、とは感じています。
ただ、『レ・ミゼラブル』のファンテーヌだけはやりたいという夢があって、オーディションも受けたいと思っています。とても難しい役なので、まだまだ実力の足りない私には無理かと思いますが、小学3年生のころから憧れていた役ですので挑戦し続けたいです」
 
――舞台ってやっぱりいいなと思うのは、どんな瞬間でしょうか?
「舞台袖の匂いをかいだ時ですね。先日、久しぶりに新国立劇場の舞台袖に行った時に、ああ、これいいな、小さいころから知っている匂いだなと感じてしまって。私の初舞台は小学2年生の時、文学座アトリエ公演の『作者を探す六人の登場人物』というお芝居だったのですが、その時の舞台の感覚が新国立劇場の袖で蘇って、“ただいま”と心の中で言っていました。役者ってバカだな、運命なのかな、と思いました(笑)」
 
――本作の直前には自己啓発本が原作の異色のミュージカル『鏡の法則』で、今回とは全く違う“普通の主婦”役を演じました。ドラマティックな心の旅をされる役でしたね。
「毎回極限まで自分を追い込んでの舞台で、精も根も尽き果てる感じで大変でした。あのお役を受けたのは、ヒロインが子供がいるからこそ行動できる、母親の強さを腹に持って格闘する役で、母親役に憧れがあったのでぜひやってみたかったんです。自分一人ではなかなかあそこまでの力は出てこないと思うけれど、『マンマ・ミーア!』のドナだってソフィーがいたからこその強さがあったし、母という生き物はすべての世界を作っているというか、命の源だと思うんですね。演じていても、すごくえぐられるもののある役でした」
 
――どういう表現者でありたいですか?
「大きなビジョンってないんですよ。目の前の課題をこなすことでこれまで、役者・樋口麻美が築かれてきたと思います。今回のアニータはすごく体を使う役で、演劇の神様が“もっと動きなさい”とおしりをたたいてくれている感じもしています。生きていく中でいろいろな経験を積んで、それを演じるということに還元出来たら。もし演劇の神様が許して下さるなら、やらせていただけたらいいなと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
公演情報『ウエスト・サイド・ストーリー』Season 1 11月6日~2020年1月13日=IHIステージアラウンド東京 公式HP
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