Musical Theater Japan

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『スウィーニー・トッド』山崎大輝インタビュー:救いのない街に差し込む、“ひとすじの希望”に挑む

山崎大輝 95年静岡県出身。ジュノン・スーパーボーイコンテストで審査員特別賞を受賞し芸能界デビュー。近年の舞台出演作に『ピアフ』『ザ・ミュージック・マン』『スリル・ミー』「TOHO MUSICAL LAB.『DESK』」等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載


19世紀のロンドンを舞台に、無実の罪で流刑となった男の壮絶な復讐を描く、スティーヴン・ソンドハイムの異色のミュージカル。2007年以降、再演を重ねる宮本亞門さん演出版が、8年ぶりに帰ってきます。

ダークにしてコミカルな本作にあって、最もニュートラルに映る存在が、船員のアンソニー。主人公スウィーニーを助け、判事ターピンに囚われているスウィーニーの娘ジョアンナに恋する青年です。

今回、この若者を糸川耀士郎さんとのダブルキャストで演じるのが、『スリル・ミー』等で着実にキャリアを重ねる山崎大輝さん。稽古も大詰めを迎えた某日、アンソニー役への思い、これまでのプロフィールや表現者としての夢を、じっくり語っていただきました。

 

『スウィーニー・トッド』

この役の見え方次第で、作品のバランスが
一気に変わるような気がします


――今回、読者プレゼント用の色紙に“一息ついてみよう”とメッセージを書いて下さいましたが、山崎さん自身のモットーでもあるのでしょうか?

「何かに一生懸命取り組んでいると、頭がいっぱいになってしまって、まるで机の上に教科書やノートが敷き詰められて整理できていない、ワークスペースが存在しない、ということが起こりがちですよね。そうなってしまうと何をやっても意味がなくなるというか、効率もどんどん悪くなってくると思うので、そういう時は一旦何もしないというか、机の上をきれいにする時間のようなイメージで、一息ついてみたらいいんじゃないかな、と思っています。

僕自身、例えば稽古をさせていただく中で、一日のうちに課題がたくさん生じると、何が正しいのかわからなくなったり、何がしたいんだろう俺…となったり(笑)、言われたことが咀嚼できなくなることがあります。それによって、どんどん自信がなくなって悪い方向に行ってしまう。そういう時は一回リフレッシュするようにすると、改めて進むことができるな、と感じています」

――そうなのですね。では本題に入りますが、まずは『スウィーニー・トッド』の第一印象からお教えください。

「世界観がすごく面白いと思いました。人を殺してパイにするとか、物騒なことを言っている割に、コミカルだったり、ブラックユーモアのように聞こえる部分もあって、キャッチーな作品だなと思いました」

――そんな中で、今回、山崎さんが演じるアンソニーは、大変な事態に巻き込まれていきます。どんな人物像をイメージされていますか?

「映画版を含めて幾つかのバージョンを観たのですが、アンソニーがどう見えるかによって、作品のバランスが一気に変わるような気がして、うわ、この役難しいな、と思いました。通る道筋は決まっているけれど、やりようによってはこうも見える、ああも見えるという役なんだな、と。

そんなアンソニーを僕は今回、一つの芯を持ち続ける人物として演じたいと思いました。事態に巻き込まれる中で、どんどん変わっていく。でも、芯の部分は絶対曲げない。そんな人物を意識しよう、と」

――その芯というのは、ジョアンナへの恋心でしょうか?

「恋心や、トッドへの友情、そしてクリスチャンとして育っているからこその、人に対する接し方ですね。ロンドンに来たアンソニーは、偶然ジョアンナを見かけて、なんて美しい人なんだろう、この人と話をしたい…と恋心を抱きます。

もともとは無鉄砲な青年でしたが、彼女と離れ離れになり、世の中のことを色々知って、彼女を助け、守ろうとする、一人の男に変わっていく。そんなアンソニーの素敵さ、変わらない部分と変わる部分を見せたいと思いました」

――アンソニーにとっては、成長物語なのですね。

「この人、冒頭でトッドが気落ちして“最悪なロンドン…”と言っている側で、(陽気に)“やっぱり最高さロンドン”と歌っていて、はじめはどう見てもおかしな奴なんですが(笑)、そんな彼が世の中のいろいろなことを知って、成長してゆく。でも、自分の芯はあくまで、曲げない。そこが彼の素敵なところだな、と思っています」

――本作の登場人物のほとんどは腹が黒かったり、病んでいたりしますが…。

「そうなんです(笑)」

――そんな中で揉まれて、大丈夫ですか⁈(笑)。

「その話はジョアンナ役のお二方ともしていました。彼はこの後、どうなっていくんだろうと。でも、彼は結構抜けているところがあるので(笑)。きっと大丈夫だと思います!」

『スウィーニー・トッド』アンソニー(山崎大輝)


――難曲揃いと言われるソンドハイムの楽曲はいかがですか?

「噂通り、難しいです(笑)。いろんなパートが入り乱れるだけでも難しいのに、途中から入るテンポがまた難しいんですよ。変拍子もありますし。なおかつ、その中でお芝居をやらなくちゃいけないんです。

亞門さんからは、ソンドハイムさんは台詞を書くように楽譜を書いていたとうかがって、それを意識しようとするとさらにややこしくなります。今はテンポが一番の課題です」

――例えばジョアンナに駆け落ちを持ちかける“Kiss Me”では、台詞なのか、楽譜にメロディが書かれているのか判然としない部分がありますね。

「(メロディが)ついていない箇所もいくつかありますが、他は全部譜面にメロディが書かれていて、その通りに細かく、心理状態と合わせて歌って行くのが大変です。

ただ、僕は歌を歌うために存在するのではなく、アンソニーを演じるためにそこに居たいと思っているので、日によっては、相手役からの投げかけられ方によって、こちらから返す時、歌っているように聞こえないこともあるかもしれません。それが芝居という、生の表現らしさだと思います」

――今回は“レジェンド”と呼ぶべき、錚々たる方々と共演されていますね。まずスウィーニー役、市村正親さんからは、日々どんなことを吸収されたり盗んだりされていますか?

「市村さんは本当に存在そのものが伝説過ぎて、どう盗めばいいかわかりません。でもその背中から学ぶことはすごく多くて、稽古との向き合い方、芝居をする時の役のとらえ方も素晴らしいと思いますし、アンソニーとトッドが一緒にいるシーンでは“ここ、こうしたほうがいいんじゃないかな”と言って下さるし、新しいことを試す時にも、僕らが驚いたり動揺したりしないよう、事前に“俺、こういうふうに動くから”とおっしゃってくださって、役者としてはもちろん、人間的にも凄い方だなと思います。

それでいて、柔軟なんです。大竹しのぶさんもそうなのですが、演出の意向に対してすぐ切り替えることが出来ていらっしゃるんです。それはご自身の生き方にも反映されているのだろうな、と感じます。僕もお二人のような、柔軟な人間になりたいなと思っています」

――大竹さんとは『ピアフ』で共演されて以来ですね。

「『ピアフ』ですごく仲良くさせていただいて、今回、稽古が始まる前にもお電話をいただきました。今、稽古場でも大切なことをいろいろ教えていただいています。

『ピアフ』が終わった時、大竹さんに“また一緒に同じ舞台に立てるよう頑張ります”とお伝えしていたので、2年も経たずして一緒にお芝居が出来る、それもこの歴史ある作品で…というのが光栄でした。『ピアフ』でいろいろ僕の素顔を知られているので(笑)恥ずかしい部分もありつつ、少しは成長している部分をお見せ出来たら…と思いながらご一緒させていただいています」

――ダブルキャストで演じる場合、なるべくもう一人から影響を受けないよう、相手の稽古を見ないという方もいらっしゃいますが、山崎さんは今回はいかがでしたか?

「僕もふだんは、自分の芝居が固まる前に見てしまうとブレるというか、自分のやっていることが正しいのかわからず、不安になったりするタイプなのであまり見ないのですが、今回は変則的でして。

糸川君が稽古に来れないタイミングがあったので、彼が来た時にやることを伝えて、その通りにやれるかチェックするということをやっていました。これまで経験してきたダブルキャストとはちょっと違って、“お互い役を高めていきたいね”というふうに(一緒に)作ってきています」

――どんな舞台に仕上がるといいなと思われますか?

「作品としては、本作は復讐劇ですので、いろいろな悔しい思いを抱えている方が多い昨今、ふつふつとした思いを劇場に持ってきていただきたいです。そういう方々の代弁をし、気持ちが晴れるような作品になればいいなと思っています。

アンソニーとしては、救いのないロンドンという街に光る一筋の希望でありたいと思いますし、役者・山崎大輝としては、本作は僕のなかでは本当に大きなチャレンジであり試練だと思っていまして、これまで自分の中で避けたり、流していた部分から逃げずに、出来なかった部分、苦手だったことに真正面から取り組んで、克服していきたいと思っています。

これを機に、役者として一つ上にいきたいと思っていますし、演じるにあたって冷静な目も培っていきたい。そうでないとこの作品、きっとミスってしまうと思うんです。これまでパッションで乗り越えてしまっていたようなことも、プロフェッショナルに向き合って、成功させたいなと思っています」

 

山崎大輝さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載


――ご自身のプロフィールについても少しうかがわせてください。山崎さんはジュノン・スーパーボーイコンテストのご出身ですが、当初はどんな道を目指していらっしゃったのですか?
「コンテストに応募したきっかけは、もともと音楽がすごく好きだったのと、僕、“引っ込み思案の目立ちたがり屋”という面倒くさいタイプでして(笑)、芸能界というきらびやかな世界に興味がありました。デビューして最初に渡されたのが俳優のお仕事だったので、(素直に)“やってみよう”と思ったんです。ですので、自分で選んで役者になったというより、与えていただいてスタートしました」

――以来、様々な作品に出演されていますが、筆者の中で特に印象に残っているのが昨年「TOHO MUSICAL LAB」『DESK』で演じた、アニメの制作会社につとめる主人公の同僚役です。“今どき”の若い会社員のPCに向かう佇まいが何ともリアルでしたが、どんな思いがありましたか?

「僕らは一つの歯車の中に入ってしまうと、止まれなくなってしまう。彼に至っては、そもそもなぜアニメを作りたかったのかさえ、失いかけています。台本を読んだ時に、歯車の中に入ってしまったがために日々追われ、本当に大事な部分が欠けてしまっている現代人というテーマが感じられて、すごく面白いと思ったので、それをそのまま感じていただけるように…と思いながら演じていました」

――昨年は『スリル・ミー』にも出演。2回目とあって、かなり手ごたえがあったのではないでしょうか。

「ありました。台本を読んだ時も実際に芝居をしてみても、2年前にやった時とは全然違う感覚でした。以前は“こうしなきゃ”みたいな、見え方みたいなものを気にしていた自分がいたけれど、そういうことじゃないんだなと気づけました。(演出の)栗山(民也)さんに教えていただいて自分の中に根付いている言葉もありますし、ちゃんと地に足をつけて演じられたなという感覚がありました。この作品での学びが、その後のどの作品でも生きている気がします」

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「やはり、“これは山崎しかできないな”と思っていただけることが一番うれしいですが、僕はまだ、そういう域には全くもって達していないと思っています。
ミュージカルの世界にはプロフェッショナルな方、器用な方が本当にたくさんいらっしゃって、これをやりながらあれをやる、ということが本当にお上手です。僕は一直線になってしまい、一つのことに必死になってしまうタイプ。例えば芝居にのめりこみすぎて、歌になると境目でノッキングが起きてしまったりするので、当面の間はそういう部分をなくしていきたいです。

そして、どんな役もやりたいです。今回のような少しお茶目な役も大好きですが、『スリル・ミー』のような違う方向性の役も、二枚目でも三枚目でもやれるような自分でありたいですし、常に物語の中心にいたいとも思わない。どんな役でもやれる役者になりたいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『スウィーニー・トッド』3月9日~30日=東京建物Brillia HALL 、その後宮城、埼玉、大阪で上演。公式HP

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