1989年に発売された『魔界塔士サ・ガ』以来、世界的な人気を誇るRPG「サガ」シリーズ。これまでも2017年、2018年にシリーズ作品を「SaGa THE STAGE」(通称サガステ)として舞台化している本シリーズが、6年ぶりに新作を上演します。
今回の原作は2018年にリリースされ、現在も配信中のスマートフォンタイトル『ロマンシング サガ リ・ユニバース』。サーカス団の花形だったポルカ・リン・ウッドが魔女にさらわれた妹リズを助けるため、塔士団に入り魔獣たちと戦う…というポルカ編の物語で、土屋アンナさん、三浦涼介さんら華々しい共演者に囲まれ、主人公ポルカを演じるのが、松田凌さんです。
ミュージカル『薄桜鬼』(2012年)で注目を集め、昨年『ビロクシー・ブルース』で“歌手に憧れる青年カーニー”役として披露した甘い歌声も記憶に新しい松田さんに、佳境に入った稽古の手応えや、プロフィールについてお話しいただきました。
多彩なアクションの中で、僕は“遊び心のある”アクションをお見せします
――本作はRPGの舞台化ですが、松田さんはもともとゲーム好きでいらっしゃるのですか?
「幼い頃は、ゲームで遊ぶこともありましたが、それよりも外で遊ぶことのほうが多かったです。大人になってからは、ほとんどやっていませんでしたが、お仕事でゲームやアニメが原作の作品に出演させていただくことが多いですし、自分も絵を描くことが好きなので、こういった世界は近からず遠からずといったところでしょうか。今回も、ゲームが原作ということで臆することは無かったです」
――本作の台本を読んでの第一印象はいかがでしたか?
「難解でした。「サガ」シリーズや『ロマンシング サガ リ・ユニバース』ならではの専門用語も多かったし、想像の難しいシチュエーションもあって、これをどう立体化するのかと思いました」
――ストーリーだけでもかなりのボリュームですが、ここに歌やダンスも加わっていくのですね。
「はい、アクションはもちろん、音楽、ダンス、歌唱もありますし、映像も…と、いろんなギミック(仕掛け)が登場します。ただ、盛りつけ過ぎて何の味かわからなかったり、時間がかかりすぎるのもいけないので、これから少しずつ削いでいく作業になるのかなと思います」
――ポルカ・リン・ウッドという青年をどう演じようと考えていらっしゃいますか?
「今作において彼は主人公ではありますが、主人公らしくない主人公というか、今の世界を生きている人々にとって、共感しやすい役だと思います。家族の絆が描かれていますし、いろいろなものを取り戻すために様々な仲間と出会っていくストーリーなので、この役をやっていると“一人じゃ生きられないな”と感じるんです。
一般的には、困難に立ち向かった時に、自分主導で何かをなしえる主人公が多いと思いますが、ポルカ・リン・ウッドはみんなの協力があってこそ出来るタイプ。誰かと心を繋いで立ち向かうことでこんなにも大きな力になるんだな、と演じさせていただきながら思っています」
――見どころはいろいろあると思いますが、松田さん的に特に推したいポイントは?
「物理的なところでいえば、アクションですね。今回は異種格闘技というか、アクションが得意な方、アクロバットなダンスが得意な方、マジックが出来る方、スーツアクターの方…と、いろんな個性の方が集まっていて、それぞれの特技を生かしたアクションが観ていて楽しいと思います。
僕はこれまで、和物の作品で剣殺陣を経験させていただいたりしていますが、今回は曲芸師の役なので、サーベルのようなスピアのような、ちょっと西洋ぽい武器で戦います。曲芸師的に舞っているようにというか、腰を落として凛々しくというより、ちょっと遊び心があるような動きをしています。
物理的じゃないところですと、今回は『ロマンシング サガ』のファンの方ばかりでなく、僕がそうだったように、この世界観に初めて触れるお客様も多いと思うんです。ファンの方にとってはマニアックというか、好きでよかったなと思える部分もちりばめないといけないし、初めての方にも出来るだけ入りやすいように作ろう…というところで、みんなで協力しています」
――今回のお話では、“命”の描かれ方に関して特徴的な部分がありますね。
「人の生き死にが関わってくる部分に関して、ドラマ性が濃い分、難しいですね。今回、1幕はゲームで展開される物語、2幕はオリジナルの物語なので、序盤はスピーディーに進んでいきますが、お客様についてきていただくために、こちらはいっそうドラマを繊細に作っていかないといけないな、と思っています。もっと煮詰めていけたらな、と」
――開幕も見えてきましたが、現時点での稽古の手応えはいかがですか?
「正直なところ、越えなければならない壁もありますし、いくつも難題が残っています。でも演者の我々がしっかり向き合って乗り越えられたら、僕らも自信が持てるものになると信じて稽古しているところです」
――どんな“新たな松田凌さん”に会えそうでしょうか?
「僕、本作の一つ前の作品(『東京リベンジャーズ 聖夜決戦編』)で、東京卍會の総長をやっていまして、本作の後には歴史ある作品(『三人吉三』)を現代的にアレンジした作品(『三本の糸』)で歌舞伎役者の中村福助さん、児太郎さんたちと共演させていただきます。
作品ごとに全く違う世界の人物の世界を演じさせていただいていて、常に“新しい自分”だなと思っていますが、今回も出来るだけ、皆さんが観たことのない僕をお届けできたらと思っています。でも、自分を見て欲しいというよりはやっぱり作品が大事で、僕が出来ることはしっかりと敬意を持って、作品に向き合っていくこと。その結果、良いものが生まれれば嬉しいです」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「本作はタイトルにあるとおり“絆”の物語なので、大きなことは変えられなくとも、観に来て下さった方が、生きていく上での“絆”を見つめ直したりするようなきっかけになればいいなと思っています。なおかつ、今回この舞台を通して初めて「サガ」の世界に触れた方が、ゲームのほうに興味を持って頂けたら、さらにこの世界が広がっていくと思いますので、そういうゴールを目指しています」
――ここからはご自身についてお話をうかがえればと思います。まず、松田さんは高校2年生の時にザ・スズナリで『URASUJI Ⅲ』(杏子さん、深沢敦さんら出演。作・演出は松村武さん)をご覧になり、役者を目指したそうですが、松田さんは関西のご出身ですよね?高2で観劇のために、東京の、それも下北沢までいらしていたとは!
「僕はファッション、音楽、映画、演劇と広範囲で叔母の影響を受けていました。彼女に誘われて、中学生のころから観劇をするようになっていたのですが、高校2年の冬に“スズナリに行くけど、どうする?”と聞かれまして、“もちろん行きたい!”と。その舞台を観て“僕も俳優になりたい”と思い、その旨を(観劇後の)アンケートに書き、その日に人生が変わりました」
――しかし小劇場演劇ではなく、俳優の養成所に入られ、いわば“王道”から芸能界デビューされたのですね。
「俳優というものがどういう職業なのか全くわからない青年でしたが、関西では芸能人としてデビューする道が狭いような気がして、手立てを探すために上京しました。まず、紙(履歴書)を見て落とされるのは嫌だな、と思って、全員面接があるオーディションを探したんです。面接で落ちるのなら納得できるな、と思いまして。いくつかあったのですが、その中で最初に受けた養成所で受かってしまったので、他に目を向ける必要がなくなりました。
入ってみると演技はもちろん、歌あり、ダンスあり、ウォーキングや自己PRのレッスンあり、と幅広く教えて頂けましたが、全てが出来なくて。“これ、得意だな”と思えるものは何一つなかったです」
――そんな中から一つずつ、経験を重ねてこられたのですね。今も強く印象に残っているのが、2018年の『シークレットガーデン』で、主人公メアリーに自然の豊かさを教える少年ディコン役でした。
「東宝さんと演劇でご一緒した初めての作品で、ディコンはオーディションで決まったんです。僕、オーディションというものがすごく好きで、これまで勝ち取ってきたものもあれば、もちろん落ちて涙した経験もありますが、この時は錚々たる方々が僕の隣で受けていて、歌でこのオーディションを勝ち取れるという算段が思いつきませんでした。そこで、たぶん皆さんは歌に懸けるだろうと思って、僕はお芝居、台詞に特に力を入れたところ、受かりました。
石丸幹二さんや花總まりさん、崑夏美さん、石井一孝さん、笠松はるさん…と、日本のミュージカルを担ってきて、これからも担って行かれる方々とご一緒するということは、これ以上ない経験でしたし、本当に“ミュージカルってすごいな”と思い知らされました。
それまで、演劇好きではあっても、音楽の要素が入ったものは劇団新感線の『花の紅天狗』だったり、グループ魂(劇団大人計画のメンバーで結成されたバンド)のパフォーマンスくらいで、意外と“ミュージカル”を観ていなかったんです。
『シークレットガーデン』がきっかけになって、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『マリー・アントワネット』とたくさん観るようになり、ミュージカルの世界って深いなぁ、とすっかり好きになりました。
一番好きな作品は『スリル・ミー』です。歌には少し苦手意識があったのですが、昨年出演させていただいた『ビロクシー・ブルース』(ニール・サイモンのストレート・プレイ)では僕だけ歌を歌う役で、芝居として歌うことに、難しさより楽しさを感じるようになりました。この時は『スリル・ミー』に日本初演の時から出演されている新納慎也さんとたくさんお話させていただいて、ミュージカルに対する尊敬や好きという気持ちがいっそう強くなりました」
――『ビロクシー・ブルース』(観劇レポートはこちら)では、ちょっと鼻にかけたような30~40年代の歌唱法を気持ちよく再現されていましたが、トレーニングの賜物だったのでしょうか?
「音楽監督さんや歌唱指導の先生に、根気よく見ていただきましたし、僕は英語は喋れないけれど洋楽は歌い易くて、楽しかったです。ミュージカルではなく、(ストレート・プレイの)劇中で歌い出す男の子という設定だったので気が楽だったということもあるかもしれません。後半で歌ったメロウなバラード、ああいったしっとりした歌を歌ったことは無かったので新鮮でしたね。歌が上手くなりたいというよりは、もっと作品を伝えたいが故に、これからも歌を磨いていきたいです」
――その先に『スリル・ミー』もあるといいですね。
「もちろんやりたいですが、役というのは運と巡り合わせが物凄く大きいと思っています。もしも演劇の神様が機会を与えて下さるなら僕は二つ返事で飛び込みますが、それ以前に、今ある出会い、その時しか出来ないことを大切にしたいです。
自分の中ではもちろん常に理想や夢を掲げていますが、あくまで誠実に、真摯に…。インタビューで自分の言葉で届けることも大切だけど、お芝居で皆さんにわかって頂く役者になっていきたいです」
――例えば10年、20年後にどんな表現者になっていたいですか?
「怠惰じゃなければいいです。怠けず奢らず…というのは当たり前とはいえ、やっぱり大事だなと思います。
今、いろいろなことが世の中で駆け巡っていて、本当に尊敬している方が亡くなられたり、胸がつぶれるようなニュースもいっぱいあります。そんな中でも絶対に、自分に思いを寄せてくれる方々を裏切らず、大切にしていきたいです。
僕は好きなことで人生を生きているわけで、これ以上贅沢なことってないですよね。もちろん“隣の芝生は青い”と言いますからいろいろ誘惑もあるし、わき目をふらずにいるのは大変なことだけど、お客様に俳優として“素敵”と思っていただける日々が続くように。そして家族や友人も含め、応援して下さる方々を裏切らず、真摯にこの仕事と向き合っていきたいです。
それが自分の人生を彩っていくということでもある、と思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 「サガ」シリーズ35周年記念公演『『SaGa THE STAGE~再生の絆~』2月22~25日=サンシャイン劇場、2月29日~3月3日=サンケイホールブリーゼ 公式HP
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