岸谷五朗さんと寺脇康文さんが主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」の代表作の一つ『クラウディア』が、18年ぶりに再演。戦いに明け暮れる世界で生まれる愛の物語が、サザンオールスターズの数々の楽曲にのせ、ダイナミックに描かれます。
今回、岸谷さんは“全て若者に託し”て演出に専念。託された中で最年少の“若者”が、21歳の新原泰佑さんです。ダンサーとして出発し『ポーの一族』でミュージカルに進出、本作で飛躍の時を迎えている彼に、心境を伺いました。
【あらすじ】その時代、世界には「根國(ねこく)」と「幹國(みこく)」の二つの国しか存在しなかった。愛を禁じられ、戦いに明け暮れる世界の中で、掟を破って生まれる二つの愛の行方は…。
オーディションでは自身で振り付け、龍の子の“圧倒的な強さ”を表現
――先日、平間壮一さんのダンスイベント『S×? vol.2 RADIO BOX』にゲスト出演された際の、基本の形をおさえつつ本能が迸るようなダンスが魅力的で、今回お話をうかがいたいと思いました。
「ありがとうございます」
――今、読者プレゼント用の色紙をとても丁寧に書いて下さいましたが、いつものことなのですか?
「はい、せっかくどなたかのお手元に届くものなので、その方の思い出に残るよう、時間をかけて書くタイプです」
――本題に入りますが、地球ゴージャスは以前からご存じでしたか?
「ダンスの先生から地球ゴージャスの噂を聞いていて、『The PROM』で初めて拝見し、圧倒されました。まさか自分が出演できるとは夢にも思っていませんでしたが、今回、出演させていただけることになり、18年前の『クラウディア』の映像を観て、地球“ゴージャス”という名の通り、本当にゴージャスだ!と思いました。作り込まれたセットであるとか、豪華なものがふんだんに使われていて、今回はどういうものになるんだろうとワクワクが凄かったです」
――本作が投げかけるメッセージについては、どんなことを感じますか?
「製作発表でも(岸谷)五朗さんがおっしゃっていましたが、今、公演するのにふさわしい作品だと強く思います。本作が描く世界では愛というものが禁止されているのですが、今の日本社会もコロナ禍で自由に出歩けないとか、マスクを外すことを禁じられたりと、皆が制限を受けているという点で重なるものがあると思うんです。『クラウディア』の世界では人々が愛を知らないわけですが、今、日本の小学校低学年のお子さんたちは、マスクや黙食を意識しないで食べる、本来の給食を知らないそうなんですね。そういう点でも通じるものがあるし、今やるべき作品だな、と感じます」
――今回はオーディションで“龍の子”役を掴んだそうですね。世界を司る神、神親殿(かしんでん)の弟という役どころに、役作りをしたうえで臨んだのでしょうか。
「はい、作り込みました。オーディションでは自由に表現してくださいということだったので、これでもかというくらい僕自身を見せたいなと思い(笑)、初演の映像の演技や空気感を参考に、自分はどうしていくかを考えました。まず、龍の子は、戦争が激化した時だけ鎮めるために現れる存在なので、普通の人間じゃいけない、と思いました。僕はダンスが得意なのでぜひ生かしたいなと思い、圧倒的な強さを踊りで表現しようと構成を考えました。“龍の子”にはまるような曲を探して、編集して、自分で振りもつけて踊ったところ、岸谷さんが気になってくださったようです」
――前回公演の龍の子はあまり激しく動かなかった印象がありますが…。
「殺陣の稽古はこれからなのですが、今回は凄く動くと聞いています。五朗さんからも、人間ではないような存在でいてほしいと言われていて、たくさん動けたらいいな、とワクワクしています。楽曲は出来上がっているのですが、どこからどういう動きになるのか、誰と絡むのかと想像したり、とにかく毎日の稽古が楽しいです」
――殺陣は今回が初めてということですが、ダンスとはどんな違いを感じますか?
「初演の龍の子は長い刀を使っているのですが、自分の体だけ動かすのと道具を持ちながら動くのは、実は大きな違いがあるなと感じています。殺陣のトレーニングをする中で、一番苦労というか、難しく感じる点です。
あと、龍の子は人間ではないような存在ということで、人間らしくない重心をとって動くことも龍の子らしさに繋がるのではないかと思って、模索しています。ただ手を出しただけで周りの人たちが吹き飛んでしまうような存在が龍の子。そこでの表情や人格を詰めていきたいな、と思っています」
――殺陣には危険もつきものですよね。
「道具を使う点で(人との)距離感も違ってくると思います。殺陣は今後もやっていきたいことの一つで、今後の舞台や映像の作品にも生きるからこそ今、基本をしっかり入れたいなと思っています。できるだけ稽古を濃密な時間にしよう、吸収しようと頑張っています」
――龍の子は“クールな仕事人”にも、無機質な存在にも映りうると思いますが、造型について今回、意識されていることはありますか?
「現時点で僕が思っているのは、龍の子は愛を知らない世界の中で、戦争のバランスを担うという生き方しか知らないんです。それが普通だと思っているので、イレギュラーな事態が生じたときに、彼の中の何かが崩壊していってしまう。そんなストーリーをイメージしています」
――先日の平間さんのダンスイベントでは、与えられたカウントの中で最大限、表現を工夫される方にお見受けしましたが、今回のように振付が定まった作品の時には、そこでどう自分らしさを出すか葛藤されたりしますか?
「先日のイベントにも実際は振付をしてくださる方がいらっしゃって、いただいた振りを自分なりにどうかみ砕くか、という作業はしていました。振付ってそういうものだと思っていて、僕が振付をする時も、踊る子たちがそれをどうかみ砕くかでダンスは全然変わりますが、その人らしさが出ればいいなと僕は思うんです。なので、今回も、振付師の方々や五朗さんの意図に沿うような自分の出し方を探していきたいと思っています」
――今回、ダブルキャストでご一緒されている平間さんには相談することも多いですか?
「そのイベントの準備の時から、今回の作品の話はたくさんしていました。稽古場では席がお隣なので、ふと“ここはこうかな”と確認しあったり、稽古場から一緒に帰りながらお話させていただいたり。今からこういう話をするぞ、と言う感じではなく、平間さんはふと、核心をつくタイプなので、気が付くと大事なことを話していることが多いです。平間さんはダンスはもちろん、芝居でのパワーが物凄くて、それもただパワフルというのではなく、テクニックを駆使していらっしゃることが伝わってきます。複雑なことも平間さんの中で消化して練っていらっしゃるので尊敬していますし、大きな先輩の背中を追いかけながら、僕も自分なりの龍の子を見つけていきたいと思っています」
――岸谷さんはどんな演出家ですか?
「すごく親身になってくださるし、ご自身もプレイヤーでいらっしゃるので稽古場ではご自身も一緒になってアップしたり、皆に寄り添って話をしてくださって、皆のパパみたいな存在です。カリスマ的なリーダーシップを持つ方なのでついていこうと思えるし、この人なら悩みも相談できると思える方です」
――今回、ご自身の中でテーマにされていることはありますか?
「このストーリーの中で、龍の子の中には最後に自我が芽生えるのですが、ご覧下さる皆さんの中にも、いい意味での自我というか、プラス志向みたいなものが芽生えたら素敵だなと思っています。皆さん、ここ数年はどんよりとした心持で過ごしてこられたと思いますが、『クラウディア』をご覧になったことで、何か一つでも、心の支えになるようなものを感じていただけたら。そういう舞台の一員になれるように、今回、キャスト最年少ならではのパワーで、僕の精一杯を出し切れたら、と思っています」
――プロフィールのお話も伺わせてください。新原さんはミスター・コン(「男子高生ミスターコン2018」)に出場するまで、ダンスの世界で研鑽を積まれていました。新原さんにとってダンスとは?
「僕が人生の中で“表現したい”という気持ちになれた起源は、ダンスでした。最後に自分の心の支えになるものはダンスなので、そこが常に根本にあるのかなと思っています」
――どんな表現者を目指していますか?
「“こういう役をやってみたいな”と思うこともありますが、今回は人間ではない役ですし、色々な世界を見て、いろんな人間になれるのが役者の本質だし魅力だと思っています。ですので、できるだけたくさんの役や世界に飛び込んで行けたらいいなと、そんな表現者になれたらいいなと思っています」
(取材・文・プレスコール撮影=松島まり乃)
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*公演情報 Daiwa House Special音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス 7月4日~24日=東京建物Brillia HALL、7月29日~31日=森ノ宮ピロティホール 公式HP
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