Musical Theater Japan

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19年6月のミュージカルPick Up

紫陽花が映える季節、劇場街では大作ミュージカル『エリザベート』から異色作『2.8次元』まで多彩な作品が登場、見逃せません!

【6月の“気になる”舞台】
『SMOKE』6月6日開幕
ラッパ屋『2.8次元』6月9日開幕←鈴木聡さん&豊原江理佳さんインタビューUP!、読者招待&読者プレゼント有り!

【別途特集の舞台】
『エリザベート』←古川雄大さんインタビューをUP!
『CLUB SEVEN ZERO Ⅱ』←北翔海莉さんインタビューをUP!
ストレートプレイ『黒白珠』←村井國夫さんインタビューをUP!

“迷宮”感に引き込まれる異色作『SMOKE』

6月6日~16日=東京芸術劇場シアターウエスト 公式HP

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『SMOKE』

《ここに注目!》
舞台に現れるのは3人の男女。超(チョ)と海(ヘ)は身代金目的で紅(ホン)を誘拐するが、紅は言葉巧みに監視役の海に縄を解かせる…。

刻刻と変化してゆく状況の中で思いもよらない方向へと物語が転じ、サスペンスドラマから全く別のドラマへと変貌してゆく風変わりな韓国ミュージカル。昨年の日本初演の成功を受け、今回は石井一孝さん、藤岡正明さん、彩吹真央さんという実力派スターたちによって上演されます。20世紀前半に夭折した詩人イ・サンの作品「鳥瞰図 詩第十五号」にインスピレーションを得たというヒントはあるものの、初見の方は作品の“迷宮”感を味わうため、敢えて予備知識なしに鑑賞するのもいいかもしれません。

2.5次元におさまらない⁈人々をペーソスたっぷりに描く『2.8次元』

ラッパ屋『2.8次元』6月9日~16日=紀伊國屋ホール 公式HP

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ラッパ屋『2.8次元』

《ここに注目!》
1984年、当時博報堂のコピーライターだった鈴木聡さんを中心に、大人が楽しめる演劇をめざして旗揚げされた劇団ラッパ屋。“おまぬけなコメディだがキュンとしてズンとくる”作風は、女性のみならず多くの男性ファンに支持されてきました。

その時々の世相を鋭く切り取ってきた鈴木さんが今回、選んだテーマは“2.5次元ミュージカル”。財政難に苦しむ老舗劇団が、観客動員増を狙って2.5次元ミュージカルを上演することになるが、劇団員たちそれぞれの人生に味がありすぎて2.5次元になりきれない…という、意表をつきながらもわかりやすいストーリーの中で、舞台芸術の在り方が軽やかに論じられてゆきます。

『タイタニック』での好演が記憶に新しい豊原江理佳さんを客演に迎え、木村靖司さん・俵木藤汰さん・おかやまはじめさんら、口跡明瞭なベテラン座員たちが2.5次元という未知の世界に挑戦。佐山こうたさんのジャジーな音楽も心地よい、大人のエンタテインメントに仕上がりそうです。

《作・演出 鈴木聡さん、客演・豊原江理佳さんインタビュー》

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鈴木聡 59年東京都出身。コピーライターとして活躍する傍ら84年に現在のラッパ屋を旗揚げ。『恋と音楽』シリーズ、ドラマ『三匹のおっさんリターンズ!』等を執筆。第41回紀伊國屋演劇賞個人賞、第十五回鶴屋南北戯曲賞。豊原江理佳 96年ドミニカ共和国出身大阪育ち。突出した歌唱力が早くから注目され、08年『アニー』に主演後、『アップルツリー』『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』『マリウス』『タイタニック』等で活躍。©Marino Matsushima

――お二人のミュージカルとの出会いは?

鈴木聡さん(以下・鈴木)「中学生の時、母親に連れられて観た映画『ウェストサイド物語』が初ミュージカル。それから高校生の時に『ロッキーホラーショー』の来日版を観て、放送部の仲間たちと“こういうのやりたいね”“やるか”となったんです。僕が台本と作曲をして『二十面相最後の犯罪』というのを作ったら、新聞に取り上げられたりNHKの番組に呼ばれたり。調子に乗って早稲田に入って本格的に芝居を始めました。ストレートプレイをやりながらも、音楽の使い方にはこだわってきたし、機会があればミュージカルもと思っていましたね」

豊原江理佳さん(以下・豊原)「父がミュージシャンということもあってもともと歌が好きでしたが、小学生の時に地元(大阪)の市民ミュージカルに出てみたらとても楽しくて。11歳で『アニー』に出演した後、しばらくレッスンをダンスに絞り、20歳でご縁があって上京、ミュージカルに出演するようになりました」

――では今回のテーマである“2.5次元ミュージカル”はいかがでしょうか?

鈴木「実はうち(ラッパ屋)のスタッフが『ミュージカル テニスの王子様』の初期の頃から関わっていて、 “こういうのがあってわりと面白いんだよ”と言っていたり、うちの役者も脇役で呼ばれたりしていて、話には聞いていました。今回これをやることになって実際の舞台を観ましたが、熱くやっているなというのと、今はちょうど2.5次元ミュージカルが多様化しつつあるところなのかなと感じますね。アニメそっくりのものばかりでなく、演劇的なものも出てきているようです」

豊原「上京してから、事務所の先輩が出演されている作品などを観ていますが、もともと漫画が好きだったので楽しいです。ビジュアルが原作そっくりで、アミューズメントパークのショーのような感覚もあるし、何度か観ているうちに贔屓のキャラクターが出来てくるんです」

――そんな“2.5次元ミュージカル”を、鈴木さんは今回なぜ、テーマに取り上げたのですか?

鈴木聡さん(以下・鈴木)「僕の実感としては今、ミュージカルや商業演劇的な“大箱”は盛んだけど、小劇場や新劇はちょっと元気がなく、発信力を落としている。そんな中で、今とても話題になっている2.5次元と大人の劇団の人たち両方のいいところ、そして問題点を考えてみようかなと思ったんです」

2.5次元にみる“日本の芸能らしさ”

――“青い”というか、フレッシュな出演者を皆で温かく応援する2.5次元ミュージカルの世界を体験していると、まだ芸事を始めたばかりの御曹司のお子さんたちを応援する古典芸能の世界と近しいものを感じます。

鈴木「それが日本の芸能の特殊なところなのかもしれませんね。アイドルにしても、ものすごいスキルをもった完成品を出してくる韓国などとは違って、日本では“未完成なもの”を応援するでしょう? TVドラマでもいきなり新人が主役をやりますからね。それは日本の芸能の伝統的なもので、江戸時代くらいまでさかのぼるのかもしれない。そういう意味では、2.5次元は日本人気質にはまってくるんですよね」

――台本を読ませていただきましたが、2.5次元と3次元がどう折り合いをつけるか、一つの未来像を示すようなクライマックスが感動的です。

鈴木「ここは難しいところで、今回、2.5次元業界の方々にちょっと取材というか、話をうかがったところ、ファンの方々はやはり原作の忠実な再現を求めていらっしゃるようなんですね。いっぽうで俳優さんたちの中では、演劇的なアプローチをしたくなる人も出てくる。また原作者の先生が稽古を観に来て、“このキャラクターはこういう台詞はいわない”と厳しいことを言われることもあるみたいで。その点、今回出てくる原作者役は優しいですよ(笑)」

豊原「寛容ですよね(笑)」

2.5次元が気づかせてくれる“演劇の本質”

――ラッパ屋の団員の方々は今回、2.5次元のシーンにどう取り組んでいらっしゃいますか?

豊原「アニメ的な声の出し方をしていらして、(完璧に)2.5次元に見えます」

鈴木「本当?(笑) 確かに、本当はこういうのやりたかったんじゃないかというほどみんな楽しそうです。というのは、演技の起源って“ごっこあそび”じゃないですか。リアリティも何も関係なく、楽しくやっていたのが、勉強すると、遊びの部分を抑え込んでしまいがちになる。嘘をやるな、大げさなもの、説明的な演技をするなと言われて」

――それが今回、解き放たれているのですね。音楽面はいかがでしょうか?

鈴木「(作曲の)佐山こうた君はジャズ・プレイヤーで、俳優がこういうほうがやりやすいと言うとすぐ反応してくれて、普通のミュージカルとは全く違う作り方になっています」

豊原「ブロードウェイの作品がワークショップの中で作られる瞬間ってこういう感じなんじゃないかと思います」

鈴木「ブロードウェイの傑作って、作品全体がよくできているんですよね。そういう作品は、作曲家と作家がアイディアを出し合いながら作っているんだと思うんですよ。こうたくんはそういう作り方が出来る方だと思います」

豊原「実際、歌いやすいですし、お芝居の中に自然に歌が入っているので心地いいです。それに今回、初めてジャズが歌えることがとても楽しいですね」

――今回、豊原さんはどんな経緯で客演することに?

鈴木「前回公演の『父の黒歴史』で客演してくれて、その時はまだ彼女のことをあまり知らなかったのでおとなしめに書いたのですが(笑)、こんなに元気な方なんだと分かって、今回は溌溂としたミュージカル女優役にしています。おじさんおばさんばかりの劇団の中に彼女が入ってくると、空気ががらりと変わるんですよ。一場の終わりで彼女が歌うんですが、もうそこで終わりにしてもいいかなというくらい(笑)」

――どんな舞台になりそうでしょうか?

鈴木「紀伊國屋ホールで、それもラッパ屋の公演で彼女の素晴らしい歌を聴けるという驚きがすごくあると思います。今までのラッパ屋になかったものが、賑やかに楽しく見て頂けるのではないかと思います」

豊原「前回の公演で、ラッパ屋のお客さんが“ラッパ屋大好き”ということをすごく感じました。今回はミュージカル仕立てなので、どこまで楽しんでいただけるかなとちょっぴり不安もありますが…」

鈴木「ラッパ屋のお客様は面白がるし、受け入れてくれると思いますよ」

豊原「ミュージカルって、なんで急に歌うんだとか、演劇好きな方が踏み込みにくいと言われることが多いので、この作品がきっかけで、歌っていいなとか、ミュージカルを観に行ってみようかなと思っていただけたら嬉しいです」

“言葉の力”を信じて

――豊原さんご自身はどんな表現者を目指しているのですか?

豊原「私自身、作品を観て救われたり、悩みから解放されたことがあるので、心を動かしてもらえるような芝居が出来るようになりたいです。お客様に元気になってもらえるような表現者になりたいな。ある作品のラストの“頑張れ”という台詞が今も強く心に残っているのですが、本当に一言で人生が変わる、もう一度頑張ろうと思わせてくれることってあると思うんですよ」

――“言葉の力”、信じたいですね。

鈴木「今、せつない事件が多いですけどね。どこかのタイミングで(適切な)言葉が投げかけられていれば(防げていたのでは)ということを思ったりします。最近は若者があまり電話を使わなくなったそうで、おそらく日常生活のなかで言葉の使い方が下手になってきているように見えます。

僕は落語が好きだけど、落語では喧嘩をしても決定的に相手を痛めつけない。気の利いた言い方がたくさんあって、そういう言葉があれば上手に本音を話し合えるのにと思います。演劇って面白い言葉や、或る意味、豊かな言葉のやりとりのお手本を提出できる。僕はそういう台詞を書きたいと思います」

(取材・文・写真=松島まり乃)
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