Musical Theater Japan

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「ミュージカル音楽の魅力」第四回東京ミュージカルフェス・トークショー(3月25日)レポート

 

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第四回東京ミュージカルフェス・スペシャルトークショー「ミュージカル音楽の魅力」参加の方々と主催・Musical Of Japanの角川裕明さん(後列左)

ミュージカル文化のさらなる振興を目指し、例年3月26日(ミュージカルの日)前後に開催されている東京ミュージカルフェス。四回目の2019年は二日間にわたって開催され、一日目の25日は「ミュージカル音楽の魅力」をテーマに『花園』『夢の続き』『小さい“つ”が消えた日』『プロパガンダ・コクピット』の四演目の関係者を迎えて行われました。

舞台芸術集団・地下空港『花園』

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(左から)権藤真由さん、田代絵麻さん、伊藤靖朗さん、司会・松島まり乃

会場はクラシカルな内装の東京建物八重洲ホール。超・至近距離でミュージカル俳優やクリエイターたちのトークや生歌を聴くことの出来る、アットホームな空間です。主催のMusical Of Japan角川裕明さんの挨拶に続き、まずは今回、開催直前に参加が決定した舞台芸術集団地下空港『花園』の作者・演出家の伊藤靖朗さん、女優の田代絵麻さん、音楽の権藤真由さんが登壇。カンパニーと、鎌倉時代の史実に想を得た作品の概要を語った上で、楽曲2曲を披露。童謡を彷彿とさせる独特の調べが、聴き手を幽玄の世界へと誘いました。

『夢の続き』

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(左から)林アキラさん、伽藍琳さん、鈴木結加里さん

続く演目は女性二人ミュージカル『夢の続き』。壇上に上がった鈴木結加里さん、伽藍琳さん、作曲の林アキラさんは“一週間前から花粉症の鈴木です”“30年以上前から花粉症の伽藍です”“まったく花粉症には縁がない林です”とご挨拶もばっちり決めて(⁈)着席。姉妹の物語に4つの夢を織り込んだ構造の本作が、年月をかけて丁寧に作られた経緯などが語られ、妻と愛人が男を巡って争うジャジーなナンバー“なんの因果で”が、林さんの伴奏ピアノで迫力たっぷりに歌い上げられます。

イッツフォーリーズ『小さい“つ”が消えた日』

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(左から)大竹創作さん、土屋友紀子さん、藤森裕美さん、加藤木風舞さん

三組目はミュージカルフェス3回目の出演となるイッツフォーリーズ。今回は『小さい“つ”が消えた日』出演の藤森裕美さん、加藤木風舞さん、作曲の大竹創作さん、そして土屋友紀子プロデューサーの登壇です。劇団と演目の概要、やはり大竹さんが楽曲を提供している新人公演『空気のなくなる日』の紹介を挟んで、2曲のナンバーを藤森さん、加藤木さんが披露。一曲目の“きみが大切”は同じ音程で言葉が刻まれる中、人々が真実に気づく過程を印象的に描きます。本作は現在全国を巡業中で、東京では秋に上演される予定。

ミュージカル座『プロパガンダ・コクピット』

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(左から)藤倉梓さん、田村良太さん、沼尾みゆきさん、泉見洋平さん

そして4組目の登場となったのが、ミュージカル座の『プロパガンダ・コクピット』より、泉見洋平さん、田村良太さん、沼尾みゆきさん、そして作・作詞作曲・演出の藤倉梓さん。ミュージカル座というカンパニーや朝鮮半島に実在する非武装地帯に想を得たという本作について、それぞれが演じる役どころに稽古の様子、コードがユニークという藤倉さんの音楽についてなど様々に語られた後、逆境下で生き抜く人々のナンバー“空”を、この日限りの特別バージョンで披露。沼尾さん、田村さん、泉見さんの力強い歌声が場内に響きました。

ミューフェス史上最大規模!の座談会「ミュージカル音楽の魅力」

さて、お待ちかねの座談会は10名という大所帯。椅子を横に並べきれず、やむなく2列編成で途中で席替えという段取りでしたが、いつの間にか発言をした方が後列にずれてゆくという流れが生まれ、さすが皆さん、共同作業の達人揃いです。

まずはベーシックなところで、一番お好きなミュージカル・ナンバーをうかがうと…。

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座談会序盤

伽藍さんは「林アキラさんの、“すべてを捨てて”というバラード」。鈴木さんは「ライザ・ミネリが好きで、ライブでよく“ニューヨーク・ニューヨーク”を歌います」。田村さんは「今、稽古中の『プロパガンダ・コクピット』も好きだし、ミュージカル映画好きなので『グレイテスト・ショーマン』の、バーで歌いあうナンバーも面白いなと思います」。

沼尾さんは「(先ほど歌った)『プロパガンダ・コクピット』の“空”。あとは、もし自分が男だったら『ウェストサイド物語』の“マリア”を歌いたいですね」、泉見さんも「なんといっても『プロパガンダ・コクピット』の“空”」と答えた後で、「他にも、自分で歌わせていただいたナンバーはどれも思い入れがあります。『レ・ミゼラブル』のように先輩方から受け継いだナンバーもある一方で、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』は日本初演に出演したことで、“サラへ”というナンバーを歌うたび、一緒に歳を重ねているという感覚になり、ますます曲が愛おしく感じます」

加藤木さんは「大竹創作さんが書かれた『あさはなび』という、東日本大震災に見舞われても熱く生きる福島の桃農家を描いたミュージカルの、“人のために生きること”というナンバー。聴いていて、大竹さんはなんてあったかい方なんだろうなと思えます」。いっぽう藤森さんは「1960年に劇団の創立者いずみたくが作ったミュージカル『見上げてごらん夜の星を』のタイトル曲。日本人だったら知らない人はいないくらい有名ですが、実はこのミュージカルのために書かれた曲です。簡単なメロディゆえに、歌うのはものすごく難しいんですよ」。

大竹さんも「やはり“見上げてごらん夜の星を”ですね。生涯に一曲でもああいう曲が書けたらと思います。作曲していると、こう書けばぐっとくるだろうとか考えれば考えるほど難しくなってくるのですが、この曲は本当にシンプルで、きっと計算もない。スキルとセンスがつまった曲です」と語ります。

変わったところでは林さんの「『ウェストサイド物語』の序曲。影響を受けた作曲家はいろいろいますが、その中でもバーンスタインが書いた本作は初めて映画館で観たミュージカル映画でしたし、トゥナイトやクインテット、体育館のマンボ、サムウェアと、次から次へと(名曲が)飛び出してくる。物語が始まる前の高揚感が素晴らしい」と語り、藤倉さんからは「(フレンチ・ミュージカル)『ノートルダム・ド・パリ』の最後にカジモドが歌う“ダンス・フォー・エスメラルダ”」が挙がります。「演出との融合ぶりが好き。これ以上の演出は無いだろうなと思います」

では次に俳優諸氏にお尋ねしますが、これまでに特に苦労したナンバーは?

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座談会中盤

伽藍「田村さんと母子役で共演した『bare』という作品の、電話を掛けるシーンは変拍子がすごくて…。変拍子というのは123,223というような一定のリズムではなく、132,12,123,12345,123,12という感じの変則的なリズムのことで、太ももをあざが出来るほどたたきながら練習しました。でもいざ体に入ると、会話をしているように曲が流れていくことに驚きましたね」

鈴木「普段は翻訳ものへの出演が多いのですが、英語のために作られたメロディに日本語をのせるのは簡単ではないんです。“こう来るだろうな”というのが分かりやすい作曲家も、そうでない方もいらっしゃって、“翻訳ものだから(難しいんだ)”と自分に言い訳しながら取り組みますが、今回、『夢の続き』はオリジナル・ミュージカルで、言い訳できません。しかも“ここに行く⁈”という音がいっぱい出てきて…ということで今、私にとって一番難しい作曲家さんは林アキラさんです(笑)」

田村「(『レ・ミゼラブル』の)“カフェ・ソング”は難しかったですね。(革命に失敗して)仲間が全員死に、自分だけ生き残ってしまう歌で、シンプルですが、(音楽的に)けっこうおかしな構成でできていて(笑)、ものすごく表現が難しくて。司教様がバルジャンを許すところと同じメロディが出てきて、これは関係性があるのかなとすごく迷ったりしました」

沼尾「『オペラ座の怪人』に(クリスティーヌ役で)長く出させていただきましたが、音階が難しいんですよね。どんなに歌いづらくても、その音程通りに歌わないといけない。感情をこめるとさらに音が外れやすくなるので、精密機械を組み立てるような気分でやっていました」

泉見「『プロパガンダ・コクピット』では、文字(歌詞)がすごく多くて苦労していますね。朝起きたら舌の運動を始めるほどです。これまでの作品ではやはり、トゥイという役をさせていただいた『ミス・サイゴン』。英語で書かれた歌詞についているメロディをお芝居として歌うのですが、日本版ではそこに岩谷時子先生が言葉を嵌め込んでくださっていて、譜面通りに歌いつつも自分の溢れる気持ちとどう歩み寄るか。毎回苦労というか、いろいろなことを感じながら、勉強させていただきました」

加藤木「さきほど、“きみが必要”という歌を歌わせていただいたんですが、このナンバーの前に3分間アカペラで歌うんです。初演では23人編成だったアカペラ3分を、今は4人で一人一パートで歌うので、責任重大で苦労しました」

藤森「以前、ゲネプロまで曲が届かず、初日で初めて歌えたということがあって、あれは怖かったです…」(←場内、騒然)。「素晴らしい曲を書いてくださる作曲家なのですが、練りに練った結果、時間がかかってしまったそうで。しかもようやくいただけた譜面はオペラ形式で15枚くらいあり、4声くらいのハモりと難解なコードという…。でも“火事場の馬鹿力”ってあるもので、本番では何とか歌えましたね」

皆さん、いろいろとご苦労を乗り越えて来られたようです。ではここで作曲家のお三方に、今後ミュージカルを書いてみたい、興味はあるけれどどうしたらいいか分からないという方に向けて、アドバイスをいただきましょう。

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こんな場面も度々ありました

大竹「僕自身、まだミュージカルの作曲家に“なりたい”と思っている段階ですが(笑)、自分の話としては、音楽大学は出ましたが作曲の勉強はしていません。バンド活動をする中で縁があり、ミュージカルのお仕事をいただくようになりました。最近はミュージカル映画も社会に浸透しているし、とりあえずミュージカルを書いてみたい、書きましたとかSNSでつぶやいてみたらどうでしょうか」

藤倉「私も、どうしたらミュージカルの作曲家になれるのか知りたいです(笑)。私の場合は、ミュージカル座のハマナカトオル先生から“書いてみませんか”とおっしゃっていただいて、やってみますとお答えしたのがきっかけです。できるかできないかじゃなくて、やるかやらないかの問題なんですよ。後で人から聞いたのは、ハマナカ先生は“最初は失敗してもいい。5年くらいかけて成功していけば”とおっしゃっていたそうで、そういう菩薩のような方との出会いがあって今に至ります」

「こういう若い人たちが出てきていることが嬉しくもあるし、羨ましくもありますね。作曲してみたい人はたくさんいると思います。最近、いろいろ考えていて、日本ではキャストのオーディションはよくあるけれど、作曲家のオーディションというのもあっていいんじゃないかと思うんです。ミュージカルが専門ではない人、あるいは全く作曲の素養がなくても、メロディは口ずさめば出来るわけで、そういう中から才能がぽんと出てくるかもしれない。

ミュージカルの間口を広げるためにも、そういう場があって互いに切磋琢磨してく中で、才能が現れるんじゃないかと思います。もちろん、自分もチャレンジしたいですよ。これだけミュージカルが浸透してる今、プロデューサーにしてもそういう発想の人が出てきてくれないかなと思います」

素敵なアイディアをいただいたところで、俳優の皆さんは、作曲家たちにどんな曲を書いてほしいと思っているでしょうか。

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会場のあるビル・エントランス

泉見「作品によっていろんな世界があり、いろんな人生がある。僕らはそれを、身体、声を使って表現していきますが、それによってお客様が心に何かを持ち帰ってくれる、つらい時に僕らの歌を聴いて元気を貯めようとか、いろんな用途に使っていただけると嬉しいですよね。僕らも楽曲によっていろんな人生を生きられるし、今回も初めて藤倉さんとお仕事してこういう表現があるんだと勉強になっています」

沼尾「本当にそうですよね。個人的には、自分のキャラクターは無視して、こんな声出るのかな?みたいな、全く歌ったことのない曲を歌ってみたいです。常に“チャレンジしたい”と思っています」

田村「伝えたい気持ちがあったり、共感して歌いたいですね。総合芸術みたいな瞬間を味わいたいと思っています」

鈴木「以前、作曲家のシェーンベルクさんに、“全て譜面に書いてあるから、そのままやって下さい”と言われて、自分はフィルターなんだと思ったんです。私というフィルターを通して曲をお届けする際、シンプルにやればやるほど人格がそのまま出てしまうので、これほど怖いオーダーってないなと思いました。人としてちゃんと成長したり豊かに生きていないとお届けできないんだなと感じています」

伽藍「そういう作曲家もいれば、(林)アキラさんはすごく自由度が高かったりと、いろんな作曲家がいらっしゃる。でもどんな曲でも自分の体にすっと解け合う瞬間があって、そこを経ないとお客様にお届けできない。難しい曲ほどこの瞬間の喜びが大きくて、何でも歌いたいという気持ちになります」

藤森「私は『夢の続き』初演の時に(注・藤森さんは『夢の続き』初演のプロデューサーかつ出演者)、3人の若い作曲家でオーディションをしたのですが、なかなか作品とマッチする方がいなくて、大御所の林さんにお願いした経緯がありました。そうしてアキラさんが歌稽古に来てピアノを弾きだした瞬間、ああこう歌えばいいんだと感じることができたんですね。これからもやっぱり日本語のために作られた曲を歌っていきたいなと思います」

加藤木「お客様ありきの僕らなので、お客様の抱えてる何か、孤独であったり様々なものを抱えていらしたお客様と結び付くことが出来る、そういう歌を歌いたい。実際、ミュージカルってそういう歌がたくさんありますよね」

こうした言葉を受けて、作曲家の皆さんは今後、どんな作品を作っていきたいでしょうか。

大竹「さっき、“誰でもSNSでつぶやこうぜ”と言いましたが、それはやめます(笑)。まずこの3人に発注してください(笑)。で、みんなの話を聞いて、やっぱり歌いにくい歌はいけないなと思いました。自分でやりたいことがあっても、まずは歌ってもらえないと。加藤木でも歌えるように書きます(笑)」

「東京ミュージカルフェスのような場が生まれているのは素晴らしいことですね。私は今も規模に関わらず様々な作品に関わっていますが、これからもいろいろとチャレンジしていきたいです」

藤倉「ミュージカルを書き始めた7年前から変わらず言っているのは、“日本人による日本人のためのミュージカルを作る”、ということ。死ぬまで日本人としてやっていきたいと思っています」

実際のトークはここに記した倍以上のボリューム。和やかな中にも、ミュージカルの“いま”を担う方々の思いが迸った濃密なひとときは、予定の時間を大幅に超過し、お開きとなりました。

 

(取材・文=松島まり乃)
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