Musical Theater Japan

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山科諒馬・川口竜也・山﨑聡一郎に訊く:新作ミュージカル『Last Rights』が問う、喪失の中の“光”

(左)山科諒馬 大阪府出身。10歳よりバレエを始め、18歳で谷桃子バレエ団に入団。退団後、劇団四季『CATS』でミュージカルデビュー。同作でミストフェリーズ、『ユタと不思議な仲間たち』でユタを演じた。ストレートプレイに出演。その後も『ビリー・エリオット』オールダー・ビリー役など、様々な舞台で活躍している。(中)山﨑聡一郎 教育研究者・俳優・写真家。東京都出身、慶應義塾大学総合政策学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。研究テーマは「法教育を通じたいじめ問題解決」。発行部数80万部を超える「こども六法」(弘文堂)著者として知られ、児童書作家としては計12冊の著書を刊行。ミュージカル俳優として2016年~2019年劇団四季「ノートルダムの鐘」等、様々な舞台・演奏会に出演している。(右)川口竜也 大阪府出身。18歳よりミュージカル俳優を志し、大阪芸術大学舞台芸術学科ミュージカルコース入学と同時に、劇団JMAに入団。劇団の殆どの作品で主演を務める傍ら、劇団オリジナル作品の振付も担当する。2008年「ミス・サイゴン」出演を機に上京。主な出演作に「ハムレット」、「手紙」、「レ・ミゼラブル」、「ノートルダムの鐘」、「生きる」等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載


高校オーケストラ部で出会った三人の親友。一人の自死をきっかけに、遺された者たちは亡き友が選んだ“権利”の是非に向き合う…。

ベストセラー『こども六法』の著者で、ミュージカル俳優でもある山﨑聡一郎さんが、新作ミュージカル『Last Rights』を執筆。久田菜美さんの音楽、櫻井春寿さんの演出でこの週末、リーディング公演を行います。

深い喪失の中に、光はあるのか。山﨑さんの実体験をもとに、重いテーマを真摯に描くミュージカルは、観る者に何を残すのか…。

今回のリーディング公演で主人公、光輝を演じる山科諒馬さん、光輝が高校時代に活動していたオーケストラ部の顧問・星先生を演じる川口竜也さんに、公演直前の手応えを、そして作者であり、公演にも出演する山﨑さんに、創作の意図をうかがいました。

 

『Last Rights』

 

光輝役・山科諒馬、星先生役・川口竜也インタビュー:本作に関わることで改めて、自分も、周りの人も大事にしたいなと感じています

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――今回、オファーを受けた経緯をお教えください。

川口竜也(以下・川口)「作者の山﨑君が5年くらい前から構想を持っていて、当初から誘っていただいていました。当時は意識していなかったのですが、今考えると、この作品に引き寄せられた感じはありますね。

今回、改めてオファーをいただいて台本を読ませていただくと、自分で死を選ぶかどうか、選ぶとしたらどうなるかということが描かれています。僕は今闘病中なのですが、生にしがみついている自分がこの作品でどんな表現が出来るだろうと、俄然興味が湧きました」

山科諒馬(以下・山科)「僕はこれまで山﨑さんの団体Art & Artsで2作品出させていただいていて、作品に込められたメッセージにすごく共感していますし、クリエイターと役者として信頼関係があるので、山﨑君がやりたいことに対して、僕はできることなら何でも手伝おうという思いから、決めさせていただきました。

センシティブな内容ではありますが、山﨑君はいつも考えに考えたものを提示してくださる脚本家なので、そこに踏み込む心配はあまりありませんでした。僕ら、ふだん“死”というものをあまり考えたくないじゃないですか。僕も今を生きていることしか見ないようにしてしまっているので、こういう作品に関わる中で、自分が“生きることを選んでいる”ということを感じたいし、お客様にもそんなふうに思っていただけたら嬉しいです」

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載


――山科さんが演じるのは、サラリーマンの光輝(こうき)。生きづらさを感じる中で、高校オーケストラ部で一緒だった優灯(ゆうひ)と久々に語らい、彼も何かを抱えていることを知ります。優灯に対して、ためらいながら“死って、憧れるよな”と投げかける台詞が非常に印象的ですが、どのような心境で発しているのでしょうか。

山科「その時にもよります。本気で死を意識してはいない人の憧れとして発していることもあれば、かなり本気になっている時もあります。どちらにしても、彼にとっては心のうちのすごく深いところを共有できる相手がいるのを、すごく嬉しく感じていると思います。

(生死を)選ぶって相当エネルギーを要することだと思うのですが、この作品は決して死を選ぶことを推奨しているわけではなくて、光輝自身、この先の人生でこういう話をすることはないんだろうなと思いながら、このシーンを演じさせていただいています」

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載


――川口さんが主に演じるのは、光輝たちの高校オーケストラの顧問だった恩師、星先生。久々に会った優灯がキャリアチェンジを考えていることを知り、親のことも考えなくちゃねというようなことを何気なく言うのですが、その一言が優灯の胸に深く刺さってしまうというのが、観ていてどきりとさせられます。

川口「演出家からもそこは大事に、という風に言われています。彼は先生であり、一人の親でもあって、自分の信念をずっと貫いてきた人で、当たり前のように、“家族は大事にしよう”“命は大切だ”と昔ながらの倫理観を持っています。でもそれが結果的に周りの人たちを苦しめてしまう…というところを意識してやっています。

例えば、鬱病の方に対して“頑張れよ”という言葉を投げかけてはいけないといったことがありますが、事情を知らないとつい言ってしまうだろうし、それぞれの立場で生きている人間が、何気なく発した言葉で、人というのは傷ついていく。社会の中で、人とのかかわりの中で生きている以上、そういうことはどうしても起きてしまうんですよね」

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載


――お客様の中にはいろいろな経験をお持ちだったり、様々な環境の方がいらっしゃると思いますが、皆さんにどんなことを感じていただけたらと思っていらっしゃいますか?

川口「“その選択肢があるのだよ”ということをお客様に見ていただくことの危うさを、僕は少し不安に思っています。 誰にでもその可能性があるわけで、それをお客さんにわざと提示するということの危うさです。

ただ、演劇のやらなければいけない仕事として、時代が変わってきた中で、昔ながらの倫理観にとどまらない、こういう価値観があると提示するという意味では、山﨑さんの考え方は新しいのだと思います。新しいという言い方で簡単にはもちろん語れないとしても、お客様に提示することが大切。 さっき山ちゃん(山科さん)が言っていたように、この作品は自殺を推奨しているわけではないので、そこの本質をどういうふうに伝えることができるかが大事だと思っています。

例えば先程は先生の立場でお話しましたが、本作では星先生と(生き方に苦悩する)娘との関係性も描かれています。僕にも子どもがいて、絶対に(死を)選択してほしくはないと思っています。その思いを星先生として娘役の方に伝えることで、何かが(私自身の思いとして)伝わればいいかなと思っています。

こういう作品、今のコンプライアンスの時代、テレビでは絶対やらないと思うんです。舞台だからこそ出来る作品だと思っています」

山科「僕は、自死を考えたことがある方から、(死は)いつでも選べるから今日は生きてみようかなと思う、とうかがったことがあって、それってすごく大きなことだと思っています。

僕自身、(いつかは)死ぬということをあまり考えずに生きているけど、本来誰にとっても大事なテーマなので、竜也さんがおっしゃるように、演劇だからこそやる意義があるのかなと思います。そして、役者の理解や力量が伝わり方に影響してくると思うので、自分たちも一つ一つの台詞、そこに込められた思いを大事にすることで、伝えたいことが伝わるのかなと思って稽古しています」

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載


――この作品に関わることで、ご自身の人生観に変化、もしくは改めて再確認できた部分はありますか?

川口「役者って台本を読んだり、稽古をする中で、実生活の体験や感情の記憶を思い起こすことも多いのですが、僕の場合、やっぱり親子の関係というのがすごく思い浮かびますね。

自分と親との関係もそうですし、子供たちに対してもそうです。 やっぱり家族として一緒にいると、時には機嫌が悪いこともあって、そういう時にこういう言葉をかけていいのかなと気遣ったり、それでも傷つけてしまうことって、いろいろあるじゃないですか。何があるかわからないから、日々をどう生きていくか、改めて考えるところはありますね」

山科「僕はここ何年かで自分に近い人が亡くなっていることもあって、この作品に関わって改めて、やっぱり今、大事に出来る人を大事にしたいなと思っています。もっと連絡をとっていればよかったなとか、もっとその人のために何か出来なかったのかなと後から思うこともありますので…」

川口「“後悔”って、“後に悔やむ”って書くんだよね」

山科「本当にそうですよね。だから周りの人を大事にしなくちゃ。そこに自分の生きる意味があるのかな、と感じたりしますよね」

 

 

脚本・作詞・出演 山﨑聡一郎インタビュー:“死”を考えたことがある人、無い人それぞれに、何かを感じ、考えていただけたら

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載


――山﨑さんは劇団四季『ノートルダムの鐘』にクワイヤ(聖歌隊)として出演されていたのですね。どんな思い出がありますか?

「2016年の初演から4年間出演したのですが、横浜公演の開幕の頃、僕は精神的に苦しい思いをしていました。その時、今回も出演していただくフロロー役の川口竜也さんといろいろお話させていただいたり、当時クロパン役で、現在は弊社の提携アーティストでもある阿部よしつぐさんに“自分の経験を作品にしていくことで、共感したり、救われる人がいる、それが劇作の醍醐味なんじゃないか”と励ましていただき、それが今の活動に繋がっているような気がします」

 

――『ノートルダムの鐘』自体も非常に重い作品ですが、クワイヤは出演者でありながら、物語世界を見守る立場でもあり、観客とはまた違う心持ちでいらっしゃるのかと拝察します。

「あの作品のクワイヤは、見守る立場でありつつ、“コングリゲーション(会衆)”として、物語の語り部もつとめていて、シーンによっては主体的に作品世界の一員にもなるし、神の視点まで上がっていったりします。演じ分けの必要な、アンサンブル的な役回りだったなと感じています」

 

――ひょっとして今回の作品にも何か影響を及ぼしていますか?

「そこは正直、あまりないかなと思っています。ただ、いわゆる“加害行為”が必ずしも悪意によって行われているわけではないというところは、共通項なのかなと思います」

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載



――では本作について改めてうかがいます。まず、小説など様々な表現手段がある中で、この物語をミュージカルで描こうと思われた動機をうかがえますか?

「この作品は5年前から書いてきたのですが、途中でいろんな人に見せる度、“これはストレートプレイでいいんじゃないか”と言われてきました。

でも、テーマが重く、また“権利”というものを扱う以上、学術書で扱われるような話を入れなければならないとなった時に、楽曲の中で表現することで、いわゆる“くどさ”を緩和することができると思ったのと、ミュージカルならではの音楽の創り出す緩急のなかで、最後まで集中力を保って見て頂くことができるのではと思いました。

また、ストレートプレイとの違いとして、ミュージカルでは音楽のなかで、台詞にならないことを表現できると思っています。例えば今回のように、“死”を扱う作品の時に、“僕は実は死にたいと思っていて…”ということは、常に言語化されるわけではないので、ストレートプレイにするなら、どうしても(彼の内心を伝えるため)台詞を多くしていかざるを得ません。

でもミュージカルなら、例えば黙って立っているだけでも、その心の機微をバックに流れる音楽で表現したり、それがお客様にとって解釈の幅になるような余白を作ってくれます。そういうことでミュージカルという表現形態を選択しました」

 

――執筆において、特に苦労されたことはありますか?

「5年間で4回ほど大きく書き直し、紆余曲折ありました。

最初はSF的な話だったんです。でも作曲家や演出家と会議をする中で、作品のメッセージを設定の面白さでカムフラージュして見やすくするより、ダイレクトに現代劇にして、そのうえで演出や音楽によってエンタテインメントとしてブラッシュアップしていく方が、より作る意味があるのではないかという話になりました」

 

――今回はリーディング形式ですが、今後どのような展開をお考えですか?

「本作は当初の設計段階から出演者が20人を超えるサイズを想定しているのですが、まずは少人数でやって、そこから少しずつブラッシュアップして、大きいサイズにしていくことを考えています。

テーマがテーマなので、お客様がどういう受け止め方をされるか。場合によってはリスクのある表現が含まれている可能性もあるので、そういったことも回数を重ねるごとに修正し、時間をかけて作っていこうということになりました」


――キャスティングはどのようにされていったのでしょうか。

「本作はもともと、2023年に初演を予定していました。当時キャスティングされていて、今回も出演してくださるのが川口竜也さんです。その他の役については、台本も大きく変わり、年齢設定が変わったこともあって、新たにキャスティングをし直しました。

重視したのは、もちろんキャラクターに合うかということもありますが、今後本作のコンセプトCDを作ることを考えていることもあり、それにふさわしい歌唱力を持っているかどうか。また新作ミュージカルならではというか(笑)、楽曲の半分は今週に入ってから完成しているような状況なので、そういったスケジュールにも耐えうる方にお願いしています」


――実力者揃いということですね。

「そこは自信がありますね」

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載


――まもなく公演ですが、現時点での手応えはいかがですか?

「予想していた以上の作品になってきています。

作曲の久田菜美さんは、(脚本の)高度な読解力に基づいた作曲をされる方で、その感性も含めて僕は非常に信頼しています。わかりやすい“名曲”もあれば、“この旋律はこういうシーンのみで使われているんだな”“この人の曲を別のこの人がここで歌うんだな”と、様々な仕掛けのある曲もあって、一曲一曲上がってくるごとに感動しています。

この音楽にも助けられ、限られた上演時間のなかで、手応えのある作品に仕上がってきたなと思っています」

 

――難しいテーマを含む作品ですし、観客の中にも様々な立場の方がいらっしゃると思いますが、どんなことを感じたり、持ち帰っていただきたいですか?

「お客様の中には、“死にたいと思ったことがある方”と“そんなことは考えたこともない”という方がいらっしゃると思いますが、本作はどちらかというと、前者のミュージカルだと思います。

世の中では“命は大事にしなさい”ということが言われますし、例えば報道にしても自殺報道のガイドラインに反したものに対しては問題提起が行われるぐらい、認識としては普及してきていて、それは非常に喜ばしいことです。

その一方で、本気で“死にたい”と思ったことがある人が、どういうふうに決断を下したり、あるいは下さずにいるのかということを、リアリティをもって描くことが出来れば、それによって“生きる希望”を得られるのでは、と思っています。

“そんな頃もあったな”と思って観て頂ければすごく嬉しいことですし、逆に今、悩んでいる方にも“そうなんだ”と思っていただけるのかな、と思います。

(一度でも)死にたいと考えたことがある人は、誰の身近にもいる可能性があって、それは統計的にも明らかです。“自殺なんて考えたこともない”という方であっても、例えば身近に“ちょっと自殺しようとしてみたんだよね”という人がいた時に、どういうふうに向き合えばいいのか。どういうふうに励ましたらいいか、あるいはその励まし自体が相手を追いつめてしまったりするのかといったことを、考える機会にもなったらいいなと思います」

 

『Last Rights』最終稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載


――今後、ミュージカルでどのような活動をされていきたいとお考えですか?
「僕が代表をつとめているArt&Artsという会社では、“学術あるいは教育と芸術を結びつけることで相乗効果を発揮していく”事業を行っています。

エンターテインメントとしてのレベルの高さは前提としつつ、一見関係なさそうな社会問題にも興味を持ってもらえるような、あるいはその問題で悩んでいる方にとって救いになるような作品を作っていく会社にしたいと思っています。

現在、別の担当者がルポルタージュを原作として、ソングサイクルミュージカルを作ろうとしていますが、私自身も、安楽死や教育虐待といったテーマで脚本を書きたいと思っています。あとは僕自身、“子ども六法”の活動をしているので、いじめ問題に関するミュージカルも将来的に作れたらと思っています」


(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報:ミュージカル『Last Rights』リーディング公演 6月27~28日=E Lounge 大井町 チケット情報 
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