
2015年のTVドラマを皮切りに、映画・ライブ・音楽・コミックと多方面で展開されてきた総合エンタテインメント・プロジェクト『HiGH&LOW』。
男たちの友情と熱き闘いを描く物語は、これまで2022年の宝塚歌劇団宙組による『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』、そして2024年の戦国時代活劇『HiGH&LOW THE 戦国』と二度舞台化されていますが、今回、その後者をもとに、アナザーストーリーの新作が誕生します。
戦国時代を舞台に、盗賊・海賊・山賊の三つの“賊”グループと、謎の宗教集団が龍の秘宝を求め、死闘を繰り広げてゆく物語で、山賊の頭領・斑目笹玖(まだらめ さく)を演じるのが、笹森裕貴さん。多くの2.5次元舞台で活躍しつつ、24年の『ロミオ&ジュリエット』ではマーキューシオを演じるなど、ミュージカルでの活躍も嘱望される存在です。
疾走感あるドラマに加えて歌やダンス、そして迫力のアクションもふんだんに盛り込まれた今回の舞台で、笹森さんが演じる山賊はどんな人物なのか。殺陣において大事にしていること、役者としての目標なども含め、たっぷり語っていただきました。

――『HiGH & LOW』シリーズについて、笹森さんは以前から親しんでいらっしゃいましたか?
「もちろん存じ上げてはいましたが、あまり詳しくはありませんでした。前回の舞台を拝見して、どういう世界観なのか理解できた感じです。僕は普段から、どんな作品のどんな役であっても、溶け込めるような役者になりたいと思っているので、前作を拝見した時も、不安は全くなく、ワクワク感が勝っていました」
――そのうえで、今回の台本を読まれてみての第一印象はいかがでしたか?
「基本的には、いわゆる“族”と言われる3チーム…盗賊、海賊、山賊と、“天都教”という宗教の人たちの合計4チームが、一つの宝を取り合う話なのですが、台本の中には登場人物全員、そしてチームの目的が事細かに描かれています。演出の平沼(紀久)さんがよく(このシリーズでは)“全員が主役”とおっしゃっているのですが、その意味がすごくわかる、素敵な脚本だなと思いました」
――実際に演じてみて、“全員が主役”と実感されますか?
「本当にそう思います。いい意味で、考える余地を与えてくださる脚本であり、演出なので、自分たちのプラン次第で180度、お芝居が変わるだろうなという印象を持っています。演じる人によっていろんな解釈がありそうな脚本になっていますし、全員で目指すゴールはあっても、そこに至るまでの過程は全部任せてくださって、自由にやらせてくださるので、すごく心地がいい現場だなという印象です」
――笹森さんが今回、演じるのは山賊《班目一派》の頭領・斑目笹玖。演じていてどんな魅力があるキャラクターですか?
「一番の魅力は、全部をさらけ出せるところかな(笑)。日常生活で声を張り上げて怒ることなんてそうそうないし、思っていても言えない事って、いろいろあるじゃないですか。
僕もどちらかというと周りが気になって、“これは今、言うべきじゃないな”と自制するタイプですし、今まではどちらかというと、思いを外に出すより内に込める役が多かったんですが、笹玖は常に何かにムカついていて好戦的なので、悩む暇もないんです(笑)。演じていて楽しいし、気持ちのいい男です」
――笹玖のパートで大きな要素となっているのが、兄の松竹との関係性です。怪力だが頭が弱く、騙され続ける兄を見て育ったことで、歪んだ価値観を持ち、山賊の頭としてのしあがってゆく笹玖ですが、どこかで兄に対する思いも捨てきれない。それが後半、大きくドラマをうねらせて行きますね。
「今回は兄弟の関係性についても、描かれてない部分を自分たちでどんどん決めて、埋めていってくださいと言っていただいているので、松竹役の(八木)将康さんとはいろいろお話しています。例えば両親はどんな人たちだったのか、他に兄弟はいたのか、過去にどんなことがあったのか。そういう部分を共有して意識するだけでも、お芝居は大きく変わってくると思うので、今、まさに積み上げていっているところです。
今、稽古は二周目に入ってきたところですが、兄弟の価値観の違いや、それでもどこかで繋がっているみたいなところは、互いに意識できるようになってきたような気がします」

――立ち回りがたくさんありそうですが、今回はどんな殺陣を目指していらっしゃいますか?
「殺陣師(アクション監督)の栗田(政明)さんとは今回初めてご一緒していますが、すごくかっこよく殺陣をつけてくださっています。盗賊と山賊と海賊とで三種三様の殺陣になっていて、例えば海賊の彩風(咲奈)さんは銃を持っていますが、僕は山賊なので、どこか荒々しい動きになるよう、自分からもどんどんトライしていきたいなと思っています」
――殺陣は元々お得意なのですか?
「体を動かすのがすごく好きなので、殺陣は好きですね」
――立ち回りでいつも心がけていらっしゃることはありますか。
「まずは、怪我をしないこと。勿論相手の方にも怪我をさせないよう最大限注意は払っています。これまで、刀を使わせていただく舞台も経験させていただいているので、慣れている方かとは思いますが、今回、殺陣アンサンブルの方たちが本当にプロフェッショナルな方たちばかりで、僕の方から“こういう風にしたいんですけれどいいですか”と相談しても、すぐ対応してくださるんです。これまでのところ、周りはちゃんと見えつつ、やりたい殺陣ができているような気がします」
――殺陣には単に戦いを見せるだけでない、独特の美学もあるように思われますが、そういった意識もされますか?
「殺陣に限らず、“美しく居る”ということは大前提として持っておきたいと思っています。だから今回も、荒々しさの中の美しさみたいなものは絶対必要だと思います。
僕が最初に殺陣をやったのはミュージカル『刀剣乱舞』でしたが、そこでの松井江という役が、美しい立ち姿や振る舞いをすごく求められる役で、重心高めで舞うように斬っていくということを常に意識していました。それ以来、役に応じたそういった意識は、常に必要だと思っています。
今回であれば、どういうふうに荒々しさを見せるのか。どんな顔をして斬っているのか、相手の目をちゃんと見て斬っているのか、そうでないのか…。そういう部分までこだわりながら戦いたいと思っています」
――どんな舞台に仕上がっていったらいいなと思われますか?
「僕はお芝居を初めてまだ10年経っていないので、生意気なことは言えないのですが、今回は昔ながらの“演劇”も、僕の出身の2.5次元舞台の要素も、そしてショーの要素も詰め込まれた舞台だなと感じています。僕としてはお芝居も殺陣もしっかりやりつつ、歌も歌うし踊りもあるので、今まで経験してきたことが全部活かせているという実感があります。ぜひ期待していただきたいです!」

――ご自身についても少し伺いたく存じます。笹森さんはコンテストのご出身ですが、出場の後押しになったのが、お母様の“昔はキラキラしていたのに…”というお言葉だったそうですね。ということは、かつて笹森さんには、今のお姿からは想像もつかない、“輝いていない時代”があったのでしょうか。
「ありました、ありました(笑)。僕は中学3年までがっつり野球をやっていたのですが、(限界を感じて)やめた後、高校に行っても目標が無く、何のために生きているのかわからなくて。ただ学校に行って、友達とバカやって、バイトやって…という毎日でした。
将来どうなるんだろうなとか、進路のことを考え始めて、ふと“変わるんだったら今のタイミングなのかな”と思って(コンテストに出場し)一歩踏み出しましたが、その時に発破をかけてくれた母には、すごく感謝しています」
――暗黒時代があったからこそ、それが今、芝居の引き出しとして活きているといった実感はありますか?
「活きていると感じるのは、やはり野球の経験ですね。本当に泥臭く、厳しい世界だったからこそ、忍耐力や根性が培われたのかなと思います。
この仕事をしていると、大変なこと、悔しい思いをすることもあります。くそーっと思うことも少なくないけど、そこで簡単にあきらめるのではなく、“負けたくないな”“もっとやらなきゃ”と思えるのは、たぶん野球の経験があったからだと思います。野球をやっていたころは本当に毎日死ぬ気でやっていたので、当時に比べたら今の苦労は何でもないです」
――今回、取材させていただくにあたって、以前出演されたドキュメンタリーフィルムを拝見しましたが、その中で“今、大事なオーディションを受けていて…”とおっしゃっていました。もしかして『ロミオ&ジュリエット』のことでしょうか?
「そうなんです。あの撮影の一週間後くらいに合格が分かったので、撮影時期がずれていたら喜んでいる様子も撮っていただけたなぁと(笑)」
――(合格したら)自分の人生が変わるかも…とおっしゃっていましたが、実際変わりましたか?
「変わったと思います。僕にとって初のグランド・ミュージカルでしたし、それまで僕は歌に苦手意識があったのですが、自分の声を活かそうといろいろ試行錯誤して、自分の歌声が好きになってきたタイミングで合格したので、めちゃくちゃ大変ではあったし、プレッシャーも凄かったけど、それが自分を強くしてくれたなと思います。
歌に関しては今もまだまだ勉強中ですが、『ロミオ&ジュリエット』がきっかけで、自信を持って歌えるようになりました」

――笹森さんのマーキューシオは、ラストの“俺は恨む”の絶唱が鮮烈でした。二つの家の争いを糾弾する、数行の歌詞を通して、戦争の犠牲者の行き場のない感情が溢れ出していましたが、ご自身の中でも、ここを際立たせたいといった意識はおありでしたか?
「そうですね。原作の戯曲でも昔の『ロミオとジュリエット』の映画でも、あの場面で、マーキューシオはずっと喋っているんです。まるで演説のように長く喋っているのですが、ミュージカルではそれがぎゅっと数行の歌詞に凝縮されるので、そこはすごく大事にしていました。
でも、あの場面ではあまり“演技”しているような気がしませんでした。ロミオ役の岡宮来夢君とは結構長い付き合いの友達なので、噓無く出来たような気がします。あの場面に限らず、『ロミオ&ジュリエット』では、歌では苦労したけれど、お芝居に関しては、荒々しくて、ちょっとでも触れると棘があるような人物像が、やっていて気持ちよかったです。自分にとって大切な役になりました」
――ミュージカルへの意欲がより高まりましたか?
「挑戦できるなら、もちろんさせていただきたいです。
僕はミュージカルを目指してこの世界に入ったわけではないので、まだまだミュージカルの醍醐味がわかるところまではいっていないのですが、『ロミオ&ジュリエット』はそれまで出ていた舞台とはがらりと雰囲気が違ったし、歌のレベルも高かったし、(ディテールまでこだわった)小池修一郎さんの演出も照明なども綺麗で、どのシーンも一つの絵画を見ているような気分になれました。
(ダブルキャストなので)客席でも楽しませていただきましたが、長く愛されているジャンルの凄さをまざまざと感じました。また挑戦できる機会があったら、その時までにもっと勉強して取り組みたいなと思っています」
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「常に心がけているのは、相手役ときちんと芝居をすることです。僕らは歌、ダンス、芝居と、いろいろやるべきことがありますよね。時には(俳優たちが様々な競技に取り組むイベントで)スポーツもやりますし…。
でも、やっぱり自分の中で一番好きで、大事にしたいのは芝居の部分。どんな現場に行っても、自分のやってきたことを信じて、相手役のために何が出来るかを考えられる役者になりたいと思っています」
――では相手役のいない、ソロのシーンでは…?
「それはもう、“全員、俺を観ろ!”ですよ(笑)。舞台に立つ人間として、そういう出力も大事だと思っています。もちろんそう言えるためには、本当にいろいろ準備して臨まないといけないけれど、“ここは繊細な表現で…”とか、かっこいいことは言えないので(笑)、とにかくやることをやって(舞台に)立つだけです」
――劇場内の数百人、数千人の視線を浴び、物語を牽引するには、精神的な強靱さも必要でしょうか。
「本当の意味でそれが出来るのは、ごくわずかな役者だと思います。見せかけだったら、誰でもできると思うんですよ。役者だから、自信があるようにハッタリで見せることは、難しくないんじゃないかな。でも僕が目指しているのは、そこではないです。だからここまで来るのに、恥ずかしい経験もたくさんしてきました。
僕には昔から応援してくれている地元の友達がいるのですが、彼は毎回舞台を観に来ては、“今回新鮮だったよ、はまり役だね”と言ってくれます。ちゃんと役を生きることが出来ているんだなと確認できて、とても嬉しい瞬間です。
僕としては、お客様には(僕が)“演じる人物”を見ていただきたくて、そこに笹森裕貴の影は一瞬たりとも見えないようにしたい。自分ではない人を演じられる、知らない人生を生きられる。それが役者の楽しいところなので、これからもそこにはこだわっていきたいです」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 『HiGH&LOW THE 戦国 外伝』7月15~30日=東京建物Brillia HALL、8月7~9日=梅田芸術劇場メインホール、8月14~16日=御園座 公式HP
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