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『ジキル&ハイド』和希そらインタビュー:一つの出会いによって大きく変容して行く“ルーシーの人生”

和希そら 岡山県出身。2010年に宝塚歌劇団に入団。宙組、雪組で男役スターとして活躍。2024年に退団後も『9 to 5』『SIX』『SPY×FAMILY』等の話題作に出演している。  ヘアメイク 遊佐こころ  スタイリスト 村田佳保里  ネックレス、ブレスレット/グロッセ・ジャパン 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


高邁な理想に衝き動かされたジキル博士は、開発した薬の効果を確認するため、自身の身体で人体実験を行う。
その結果、彼の中で別人格エドワード・ハイドが覚醒。
以来、街のあちこちで残虐な殺人事件が起こるが…。

19世紀ロンドンを舞台に、二つの人格に翻弄されてゆく主人公の物語を、フランク・ワイルドホーンのエネルギッシュな音楽を得てスリリングに描くミュージカル『ジキル&ハイド』。

日本でも2001年以来再演を繰り返してきた人気作で今回、ジキルとの出会いによって大きく運命を狂わせてゆく娼婦ルーシー役を初めて演じるのが、和希そらさんです(真彩希帆さんとのダブルキャスト)。

宝塚歌劇団退団後『SIX』『SPY×FAMILY』等の話題作に立て続けに出演、さらなる活躍が期待される和希さんですが、今回のルーシー役ではまた新たな役柄への挑戦が楽しみなのだそう。

作品や役への思い、そして表現者としてのヴィジョンなど、様々にお話いただきました。

 

『ジキル&ハイド』


――本作には以前から思い入れがお有りでしたでしょうか?

「一観客として舞台を拝見した時に、すごく好きな世界観だったので、いつか挑戦できたらいいな…という、漠然とした思いがありました。 特にルーシーという役がすごく魅力的に感じられたので、今回、お声がけを頂いてとても嬉しかったです」

 

――出演が決まり、改めて台本などに触れる中で、本作の魅力をどんなところに感じますか?

「面白いストーリーですよね。ジキル博士は薬によってハイドになるわけですが、人間誰しも、きっと二面性を持っていて、そういう人間の本質の部分を思い出させる作品なのかもしれませんね。

お稽古が始まって、もっと深く作品のことを知ったら、お話することも変わってくるかもしれませんが、人生って出会う人、触れあう人によっても全然変わってくるんだな、とも感じます。

ルーシーについて言うと、愛を知らず、生きがいも何もない日々を過ごしていたのが、ジキル博士という一人の人物に出会ったことで、希望や愛のようなものが生まれて行く。そこが逆に悲しかったりするのですが、ジキルに出会う前、出会った後の対比を繊細に表現できたらいいなと思いますし、最終的に、一人の人生の流れが浮かび上がるようにできるといいなと、現時点では思っています」

 

――おっしゃる通り、ルーシーにとっては、ジキル博士から名刺をもらった瞬間が、人生の大きな岐路となったように映ります。和希さんご自身は、振り返って「あの一瞬で人生が大きく変わったな」と感じるようなご経験はありますか?

「ターニングポイントとしては、やっぱり宝塚を退団したことですね。全然世界も違いますし、自分が負う責任もまた別のものになってきますし、今の世界に足を踏み入れて、生活自体も変わったなぁと感じます」

 

――お芝居の世界という点では同じでも?

「(宝塚時代は)なんだか本当に忙しかったですね。朝はレッスン、お昼から夜まで演目の稽古、家に帰ると翌日の稽古の準備…という毎日で、お休みの日も舞台を見に行ったり、体のケアをして、本当に毎日やることが詰まっていました。でも自分の中ではそれが当たり前で楽しかったので、全然苦にはならなかったです。

今も(物理的な)忙しさとか、役と向き合う時間というのは変わらないのですが、いろいろと自分が選択していくという点で、大きく変わったような気がします」

 

――再び『ジキル&ハイド』のお話になりますが、これまで様々な方々がルーシーを描き出してこられた中で、 ご自身がなさるからにはこういうものが出せたらいいなというものはありますか?

「ご覧になる方々にとっては、すでに色々なイメージがついている役だとは思うのですが、現段階での解釈として、私の中では、ルーシーが働くパブでの登場シーンの『連れてきて』というナンバーは重要なのかなと思っています。

場面自体はとてもショーアップされているけれど、ルーシー自身は実は、今日、明日を生きていくために、それこそ愛も知らず、希望もない日々をただ生き延びるために毎日ここで女を売るしかない、当たり前の時間なのかなと思うんです。

つい、シンプルにルーシーの華やかな登場ナンバーだと思いがちですが、リアルに考えると、彼女はもはや、ショーをやっていることに対して、もしかしたら何も感じなくなっているかもしれません。そこはきちんと心の中において、意識してやりたいなと思っています」

 

『ジキル&ハイド』製作発表にて。©Marino Matsushima 禁無断転載


――希望を知らずに登場したルーシーが、ジキルとの出合いによってどう変わっていくのか…というところで、もしかしたら活きてくるのかなと想像されるのが、先日まで演じていらっしゃった『SPY×FAMILY』のヨル役のご経験です。和希さんが描く、殺し屋という秘密は抱えつつも、純情さを湛えた「乙女」なヨルが魅力的でした。

「自分の中で、ヨルさんのこういうところを生かそう…という感覚は無いです。私は一つの役に出会う時、その役の人物がどんなことを感じるのだろう、というワクワクと共に作っていくのですが今もそういう段階です。何かの役を生かすという感覚は基本ないですね。」

 

――本作は作曲家フランク・ワイルドホーンさんの出世作とも言われています。ワイルドホーンさんの楽曲はしばしば、相当の馬力を要すると言われますが、和希さんはどうお感じですか?

「宝塚時代も何度か、ワイルドホーンさんの楽曲と触れ合う機会があったのですが、いつも本当に素敵な楽曲で大好きでした。今回の『ジキル&ハイド』の曲も全部素敵で、練習していると本当に難しいと苦戦しつつも、どの曲も本当に“いい曲すぎ~”と魅了されてしまって(笑)。難しすぎても、絶対に嫌いになれないんです。

メロディーも壮大ですし、曲によって全然見える景色が違って、歌うのが本当に楽しみです」

 

――ご自身の中で、テーマにされたいことはありますか?

「スタッフの方々からも、この作品のこれまでの歴史だったり、これまで演じてこられた方々のお話を伺っています。今回は新演出版ということですが、ある程度はこの作品の決まり事がある中で、自分がどういうルーシーを演じられるのか。私の解釈でルーシーを見つけて、挑戦し続けたいなと思っています。そしてお客様に楽しんでいただける舞台を作る、ということは常に心に置いています」

 

和希そらさん。©Marino Matsushima 禁無断転載


――ご自身についても少し伺わせてください。まず、宝塚は幼少の頃から目指されていたのですか?

「私は小さい頃からダンスをやっていて、ダンサーになりたいという夢があったのですが、中学校に入るころに初めて宝塚に触れて、こんなに大きな舞台で踊れるんだ、私もここで踊りたい!と思い、目指すようになりました。

と言っても宝塚専門のスクールには通わず、ダンススクールにそのまま通っていました。入学試験は本当に楽しみながら受けることができて、(合格できたのは)それがよかったのではないかなと思います」

 

――宝塚で得たもので、和希さんにとって一番大きかったのは何でしたか?

「学ぶことが本当にたくさんあるところで、日々勉強でした。私は中学校卒業してすぐ音楽学校に入ったので、いろんな方々に出会って色々なことを教えていただく中で、人間形成がされていったのかなと感じます。

宝塚に入っていなかったら、大人になってもダンスしかやっていなかったかもしれないけれど、宝塚で芝居も歌も好きになることができました」

 

――今はどんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「一言で言えば、いろんな色を持っている人でありたいです。そのためにも、さまざまな役に挑戦して、イメージが凝り固まらないようにしたいなと思っています。例えば今回のルーシーは『SPY✕FAMILY』のヨルさんとは全く異なる役柄なので、そういう意味では自分が理想としている道を生きている実感があります」

 

――最近作では、ロンドンにも招聘された『SIX』も大きな経験だったのでは無いでしょうか。

「『SIX』はオーディション自体も初めてで、ただただワクワクしながら受けていました。ダンスナンバーが二曲あったり、何役分も歌ったり、自由曲として英語の歌を歌ったり、芝居も長台詞の部分を演じたりとヘビーな内容だったのですが、すごく楽しかったです。

ロンドン公演では日本とは違うリアクションがありました。イギリスの歴史が扱われていることもあって、イギリスの皆さんにウケる内容というか、日本では笑いが起きないところでも大爆笑が起こったり、“フゥー!”と歓声が上がったり。でもショーとしての
盛り上がりというか、お客様のボルテージがどんどん上がって行く感じは共通していて、“私たちは一つなんだな”と嬉しくなりました」

 

――確かロンドン公演は『SPY×FAMILY』と同時期だったと思いますが、神出鬼没というか、尋常でない体力の持ち主でいらっしゃいますね(笑)。

「とんでもないですよね、今考えると(笑)。今日は『SPYXFAMILY』だ、今日は(飛行機で)飛んでるんだ、帰ったらそのまま大阪公演だ…という感じで、冷静に考えるととんでもなかったけれど、本当にいい経験が出来るとわかっていたので、“大変だ”とは全く思わず、“やるぞ”という気持ちしかなかったです。

きっと楽しく、人生において絶対忘れられない経験になるだろうな…と予想していましたが、そのワクワクのまま行って、帰ってきました」

 

――そういえば…ですが、“和希そら”さんというお名前、素敵ですね。“和”の香りが漂いつつ、男女どちらも兼ねられるニュートラルなお名前です。

「ありがとうございます。師匠と言いますか、二人の恩師の方々のお名前を組み合わせたのが“和希”で、“そら”に関しては、昔から空を眺めてきれいだなと思ったり、写真を撮ったりすることがあって、雄大さが感じられるのがいいかなと思って組み合わせました。苗字だけでも下の名前を呼ばれているような名前にしたいという思いもあり、この名前になりました」

 

――まさに無限の広がりがイメージされますね。

「これからも今までのように、いろんなことに挑戦して、自分でもどうなるかわからない未来を楽しみに、生きていこうと思っています。本当に人生、どうなるかわからないものなので。その瞬間、瞬間を大事に生きていきたいと思っています」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『ジキル&ハイド』3月15~29日=東京国際フォーラムホールC その後大阪、福岡、愛知、山形にて上演 公式HP

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