Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

韓国のミュージカル・スター ジェイミン(J-Min)、無償の愛と生命の歓びを描く『SERI~ひとつのいのち』に寄せる思い

ジェイミン(J-Min)1988.05.27 生まれ。Yonsei大学国際大学院卒、 日本大学芸術学部映画演技卒。 2007年日本で歌手としてデビュー。2012年に韓国で歌手とミュージカル俳優としてデビュー。以降は歌手としてアルバム制作を行う一方で数多くのミュージカル作品で活躍している。 代表作には『ジャック・ザ・リッパー(グロリア)』『三銃士(コンスタンス)』『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(イツァーク)『Lizzie(アリス)』『ジーザス・クライスト・スーパースター(マリア)』『ジャンヌ・ダルク(ジャンヌ・ダルク)』などがある。メイク:田中エミ ©Marino Matsushima 禁無断転載


NYで暮らす夫婦、美香と丈晴は、初めての子が生まれる日を指折り数えていた。しかし生まれてきた赤ん坊には両目ともに眼球が無く、知的障がいもあるらしい。

担当医の対応は冷ややかで、二人は途方に暮れながらも赤ん坊を千璃(せり)と名づけ、手探りで子育てを始める。

度重なる手術、泣き止まない千璃。疲弊し、いつしかすれ違うようになってゆく夫婦だったが…。

倉本美香さんが自身の体験を綴った著書『未完の贈り物』を原作として、高橋亜子さんが脚本、桑原まこさんが音楽を、そして下司尚美さんが演出・振り付けを担当し、2022年に誕生したミュージカル『SERI~ひとつのいのち』が、4年ぶりに上演。前回から大きく顔ぶれが変わった中で、千璃の母・美香役を演じているのが、韓国ミュージカル・スターの一人、ジェイミンさんです。

日本に留学経験があり、日常会話は流暢なジェイミンさんですが、日本人キャストの中で日本語で演じるという大きな挑戦に、はじめは大いに迷いがあったのだそう。そんな迷いを吹き飛ばすほどの本作の魅力とは? あらゆるバリアを超える“生命讃歌の物語”に寄せる思いを、じっくり語っていただきました。

 

『SERI~ひとつのいのち』製作発表にて。©Marino Matsushima 禁無断転載



我が子にとって何が幸福か。迷いながら探し続ける“お母さん”を、素直に、誠実に演じたい

 

――今回、どんな経緯で日本のミュージカルに出演することになったのでしょうか。

「本作のプロデューサーが韓国にいらっしゃり、日本で日本語のミュージカルを一緒にやりませんか?と声をかけてくださいました。

(日本大学芸術学部で演技を学んだので)日常会話の日本語は出来ますが、演技をするというのはまた別次元の話だと思いますので、“私にできるのだろうか”と悩みました。

ですが自分の中で、“挑戦しなければ、可能性は0%のまま。でも挑戦をすることで、1%でも可能性が生まれるかもしれない”と思い、“やってみます、頑張ってみます”とお返事しました」

 

――前回の公演はご覧になっていますか?

「断片的には映像で拝見した部分もありますが、通しては観ていません。韓国語であれば、自分が(前回のお芝居の)どこを取り入れ、どこを取り入れないかという判断がきちんとできると思うのですが、日本語(という外国語)ですと、マネばかりしてしまうかもしれないと思ったのです。自分ならではのキャラクターづくりを頑張ってみたいという気持ちでした」

 

製作発表にて、千璃役の山口乃々華さんと。©Marino Matsushima 禁無断転載


――では台本の第一印象は?

「読んでいるうちに、なんとも言えない感情が沸き上がって…(こみ上げるものがあり)、すみません…(と溢れ出る涙を拭って)、なんて素敵な物語なんだろう、こんな作品に出演できる、こんな光栄なことってあるんだろうか、絶対に皆さんの足を引っ張りたくないなと思いました。不安な気持ちより、作品の引力がすごく強く、自然に“やりたい”と思えた作品です」

 

――今回演じる美香さんの言動については、共感できるところが多かったでしょうか。

「一つ一つに、ものすごく共感できました。私でもそうしたかったかも、こうするしかなかったかもと思えて、自分が似ているからこそ心が痛くなることも何度かありました。

韓国でも(日本同様)我が子は“目に入れても痛くない”という表現があって、親にとっては自分の子が誰よりも愛おしいという感覚があります。私自身は、まだ子供はいないのですが、(生まれつき)母性愛が強い方だと思います。動物も子供も好きだし、人の面倒を見るのも好き。周囲にお母さんになっている友達がたくさんいて、今はイヤイヤ期だねとか、この年頃の子供はこういう感じという話もいろいろ聞いているので、子育ても少しイメージできます。

人間だから疲れる時もあるし、大変なことはいろいろあったと思いますが、美香さんは“これは千璃のためになるのかな”と思ったことは何でもトライしたと思います。こういう手術があると聞けば、担当の先生にアポを取ることすら難しくとも、どうにかしてそのチャンスを掴んだのではないでしょうか」

 

――千璃の治療とは別に、美香さんは出産時のトラブルを巡って、訴訟を抱えることにもなります。

「(医師に)千璃を理解してほしい、という一心だったのだろうなと思います。生まれてきたことに一言、祝福の言葉が欲しかった。しかしそれがかなわず、悔しさもあったのではないでしょうか。

もしはじめから“私は何でも受け入れられる”という方であればいろいろな葛藤も起こらなかったと思いますが、そこが美香さんの人間らしさなのだと思います。彼女を演じるにあたって、最終的には、他人に認めさせることではなく、自分自身が千璃を愛おしく思えることが大事であって、自分が祝福の心で溢れていれば、他人に何を言われてもかまわないと思える境地に到達できればいいのかなと思っています」

 

――千璃の後にも3人の子を産み、かつ事業も立ち上げ…と、美香さんは想像を絶するバイタリティと体力の持ち主ですね。

「私自身はそれほど丈夫ではないので、自分が美香さんだったらそこまでできるかな…と思いますが(笑)、そこはやはり母性があるからこその、超人的な力なのかなと思います。

例えば、車に足を轢かれた子供を、素手で車を持ち上げて助けたお母さんのニュースを見たことがあるのですが、車っていったい何キロあるでしょう? 常識的には考えられないことですが、我が子のためならできてしまう力って実際、あるのだろうなと思います」

 

――韓国的な感覚とはちょっと違うなという点はありますか?

「今のところ、特にありません。“お母さん”は世界共通だなと思っています」

 

製作発表では歌唱披露も。©Marino Matsushima 禁無断転載


――桑原まこさんによる音楽はいかがですか?

「とても素敵だと思いました。稽古は歌稽古から始まったのですが、まこさんの音楽はとても素敵で、幸せを感じたり、悲しくなったり、自然に気持ちが乗れる曲なので、とても気に入って楽しく歌わせていただいています」

 

――身体表現もたくさんある作品ですね。

「はい。主に千璃ちゃんが(魂の表現として)踊っているのですが、最初から最後までずっと身体表現で自分を表現していて、とても大変だろうなと思います。しかも、自由自在という感じではなく、どこか制限されて表現するって、感情的につらいだろうし、難しい。それこそすごく体力と精神力が必要なのだろうなと思います。

自由に表現したいのに、言葉が話せないからイライラしてしまったりして、実は千璃が一番つらいかもしれない。なので、美香として彼女を支えて、一緒に闘っていきたいと思っています」

 

――美香さんの葛藤を目の当たりにして“幸せって何だろう”と考えさせられる方もいらっしゃるかもしれません。

「そうですね。幸せの基準って、人それぞれ違っていて、千璃にとっての幸せは、千璃自身でない限り、誰にも…美香にもわからないと思います。そのなかで、こうだろうか、こうかもしれないと推測するしかないので、美香はいつも悩むし、岐路に置かれています。確実なところはわからないけれど、最善の選択をするために尽くしています。時には、美香さんが考える“幸せ”を押し付けているんじゃないかと怖くなったこともあるかもしれません。選択の一つ一つが、とても難しいものだったのではないでしょうか」

 

――現時点で、どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「稽古が始まるまでは、自分自身の力で頑張らないといけないと思っていたのですが、稽古が始まるととても温かい現場で、まずワークショップをするうち、皆のバランスが大事だなとか、みんなを信頼して助け合ってやっていけばいいんだと思うようになって、ちょっと救われた気がしました。

もちろん責任感を持って臨むけれど、自分だけでなんとかする、それで解決するということではないのかな、と。これは難しいですというところは率直にそう伝えて、助けていただいていい。新しく“トライアンドエラー”という言葉を覚えたのですが、そういう段階を踏んで成長し、この作品のメッセージがちゃんと伝えられるようになっていければいいなと思っています」

 

ジェイミンさん。©Marino Matsushima 禁無断転載


――ご自身についても少しうかがわせてください。これまでも韓国のミュージカル俳優さんたちには少なからず取材させていただいていますが、ここまでお話して、ジェイミンさんはちょっと異なる空気をお持ちですね。どこか満ち足りていらっしゃるようにお見受けしますが、どのようなスタンスでお仕事をされているのですか?

「私は職業満足度が最強、最高なんです(笑)。いつも舞台が終わって降りてきた瞬間、幸せすぎて、“私、このお仕事お金をもらってやっていいわけ?”と思うほど(笑)、ミュージカルの俳優をやっているのが大好きです。本当に、おばあちゃんになるまで舞台に立っていたいです。

私は好奇心が強く、いろいろなことに挑戦するのが好きなのですが、ミュージカルをやっていると、いろんな人生を生きられるし、その人物の気持ちになったり、その人物を理解できるよう研究するということが大好きなのだと思います」

 

――小学生にして芸能事務所に入られたそうですが、当時からミュージカルを志していたのですか?

「全然そんなことなかったです。当時は歌手になりたいと思っていました。

その後、日本大学芸術学部の映画演技コースを受験したのですが、実は当時、映画が大好きで映画のことを学びたいと思って色んなコースで悩んでいた所、一番引かれたのは演出で。でも演出コースはキャリアと同時追求が難しいかもと思って、映画専攻はどのコースを選んでもちゃんと映画に対しては総合的に学べるとキャッチーフレーズにもなっていたから、自分にとっていいシナジーになるかと思って演技コースを選びました。
自分の身体で表現することを学べば、歌にも活かせるかなと思って。

卒業まで全く自分が役者になるとは思っていなかったのですが、(韓国は数え年なので)25歳…日本では24歳の時に、事務所から“ミュージカルやってみない?”と声をかけられまして、それが『ジャック・ザ・リッパー』のオーディションでした。運の良いことに、グロリア役で合格して、最初から大劇場のヒロインというとんでもない機会をいただきました。そして稽古の最中に演出家さんから“次に『三銃士』をやるのだけど、それも一緒にやりましょう”と言っていただきまして、そこから(ミュージカル俳優としてのキャリアが)始まりました。

人生って本当にわからないな、と思います。役者としての人生は一度も考えたことが無かったのに、いつの間にかその人生を歩み、それがとてもとても幸せに今、思えます」

 

――特に印象に残っている作品や役はありますか?

「一つ一つがすごく記憶に残っているのですが、最初に新境地を拓いたのが、『ヘドウィグ』のイツァーク役。それまでピュアで綺麗なヒロインが続いていたのですが、髪の毛をショートカットに変えて男らしく演じるこの役は一つの転換点になりました。
それから自分の中の個性に少しずつ目覚めてきて、自分にはこういうところもあるんだ、こういうところをお客様が気に入ってくれているなと感じるようになってきました。

最近の作品では『ラフヘスト』ですね。それまで演じてきたキャラクターより少し年上で、大人っぽい女性キャラクターが物語を引っ張っていて、これもすごくいいきっかけになりました。今もまるで“パブロフの犬”のように、この作品のことを考えると熱くなってきて、涙がわぁって出てきたりします(笑)」

 

――ミュージカル・デビューされてから 10年以上経ちましたが、その間に韓国のミュージカルはこういうふうに変わってきたなと感じることはありますか?

「そうですね。女性の物語を見たいというお客さまが増えてきているかもしれないですね。あとは、女性と男性だけの恋だけでなく、どの性別でも愛し合えるんだよというメッセージ性がある…それもメッセージとして伝えようとはせず、自然に描く作品が増えてきていると思います。

以前はどちらかと言うと、女性は男性たちの物語の中のキー(カギ)のような存在として登場することが多かったと思いますが、今は主体的に女性が物語を引っ張っていくことが多くなっていて、私はそれがとてもいいことだと感じています」

 

ジェイミンさん。©Marino Matsushima 禁無断転載


――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「大げさなことは言えないかもしれません。まだまだ、ひよっこだと自分では思っていて、成長していくべき“先”は長いと思っています。

でも本当にこれは守っていきたいなと思うことがありまして、俳優というのは、自分の人生、生活、思い、考え方、どういうふうに毎日を過ごすのかが演技に全部出てしまう仕事だと思うんです。ばれてしまう(笑)。だから利己的に生きてしまうと、演じる時にそれが出てきてしまうんですよね。それが役者の怖いところだと思います。

だからこそ、素直に生きよう。自分に恥ずかしくない生き方をしよう。そして人に対して、世の中に対して、優しい気持ちを忘れないでおこう。そんなふうに、“人柄”を大切に、生きていきたいと思っています」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『SERI~ひとつのいのち』2月19日~3月1日=あうるすぽっと 公式HP

*ジェイミンさんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。