
BBCのドキュメンタリー番組をもとに、16歳の少年ジェイミーが夢に向かって踏み出す姿を描き、ウェストエンドで大ヒット。21年の日本初演も好評を博したミュージカル『ジェイミー』が、4年ぶりに上演されています。
今回、ジェイミーのクラスメイトで、彼の良き理解者でもあるプリティを新たに演じるのが、遥海さん(唯月ふうかさんとのダブルキャスト)。シンガーとして活躍し、『RENT』2020年公演のミミ役以来、ミュージカル俳優としても確かな歩みを見せています。自分らしい生き方を模索するジェイミーの物語について今、彼女が感じることとは? 稽古も大詰めとなった某日、じっくりとうかがいました。
【あらすじ】
大きな公営住宅団地の一角で母・マーガレットと暮らしている、16歳の高校生ジェイミー。ドラァグクイーンに憧れる彼は、誕生日に母から赤いハイヒールをプレゼントされ、夢の実現のため一歩を踏み出す。学校のプロムに自分らしい服装で出席しようと計画し、学校や保護者たちから猛反対を受ける彼だが…。
この歌の間は重い荷物を置いて、
心が楽になってもらえたらと思いながら
プリティのソロを歌っています

――写真撮影の際の、弾けるような笑顔が印象的でした。これまでは重いキャラクターを演じることの多かった遥海さんなので…。
「実はこういう人です(笑)。確かに『RENT』でも『ラグタイム』でも、そういう役でしたからね。今回のプリティのようなキャラクターは初めてなので、とてもチャレンジングにとらえています」
――『ジェイミー』はイギリスの高校が舞台の物語ですが、遥海さん自身はどんな高校生活を送っていましたか?
「すごく青春していました(笑)。中学の頃は日本に来たばかりで日本語がまだ話せなかったこともあって、“思い切り”楽しむまではいかなかったのですが、高校では中学で出来なかったことをやろうと、たくさんの友達を作って、好きな部活…ダンス部に入って、アルバイトをしてという毎日でした」

――作品に触れての第一印象はいかがでしたか?
「『ジェイミー』のように、“愛が勝つ”というテーマが前面に出ている作品って、海外ではあるかもしれないけれど、日本ではまだまだ少なくて、今の社会ですごく大事だし、必要とされていると感じます。
ジェイミーのような(マイノリティの)存在も認めようとする本作が上演されるということは、“優しい世の中”になってきているのかな、という希望も感じます」
――本作を愛する方々がいらっしゃる一方で、昨今、自分と異なる存在を認めず、遠ざけようとする動きもあります。社会の“分断”が加速化しているように感じる方もいらっしゃるかもしれません。
「そうですね。私は親友を含め、ゲイのお友達がたくさんいますが、その子たちによると、やっぱり“拒否”ってくる人っているそうです。
でもその子は、人に受け入れてもらわなくても、自分が自分を理解し、受け入れているから、彼らのことは気にしないと言っています。
今回、ジェイミーの親友を自分が演じることになって、“Love always wins”(愛は絶対に勝つ)というメッセージをみんなに広めていけたら。わからなくても、理解できなくても、マイノリティの人たちが存在することを受け止めて、お互いが尊重し合えるような世の中に少しでも近づけたら…と思いました。責任感をもって演じたいなと思っています」

――プリティはジェイミーのよき理解者ですが、彼女自身、クラスメイトから揶揄の対象にされています。それでも自分を保っていられる、彼女の“強さの素”は何だと思われますか?
「彼女の中にある信仰心ではないでしょうか。私もクリスチャンなので想像できるのですが、目に見えないものを信じるのは大変なことではあるけど、すごく大切なことだし、それが自分のアイデンティティにも繋がるんですよね。
プリティは、信じているものが自分より大きいものだとわかっているし、信じるものがあるからこそ、自分は自分であって、人と違っていてもいい、と強い心を持つことができるのではないでしょうか。
プリティって、ずっとヒジャブを巻いていて、顔だけが見えています。体がカバーされていることで、私ははじめ、プリティについて勝手に内気なイメージを持っていました。
でも稽古をしていくなかで、それによってジェイミーとの間に壁を作ってしまったなと気づいて、この前の通し稽古では、思いっきり違うキャラでやってみたんです。
“ジェイミーを支える(影のような)人”ではなくて、ジェイミーと対等に、横に立っている。内気でも、陰キャでも、人付きあいが苦手でもないプリティとしてやってみることで、確かにジェイミーはキラキラしているけれど、その横にいるプリティもキラッとしているし、強く立っていることができる、と新たな発見がありました」

――嫌なことを言われても、“明日になれば私たちの関係はおしまい”と、俯瞰の視点を持てるところも素敵ですね。揶揄や苛めの対象になってしまうと、内にこもってしまい、そこから抜け出すことが難しいけれど、プリティのように、客観的に捉えることで精神的に踏みとどまれるということもあるのですね。
「プリティがその台詞を言うシーンについては、私もすごく考えることが多いです。(プリティに対して酷いことを言ってくる)ディーン役もダブルキャストで、リアクションも全然違うので、プリティはなぜ(自分の心の中にとどめておくのではなく)わざわざこの台詞を彼に向って言っているのかな、と。
もしかしたら、あそこで、プリティはとてつもない愛で彼を包んでいるのかもしれません。
愛っていろいろな形があって、優しく包み込むこともできるし、敢えて厳しいことを云うのも愛だと思いますが、ディーンに対して、プリティは(自分を見つめ直すかどうかという)“選択肢”をあげているのかもしれない、と思うんです。
他人を尊重するというイスラム教の教えも大切にしていたと思うし、虐めをする人が、根底で“自分を見てほしい”と思っていることが分かっていて、可哀そうに思っていた部分もあると思います。
そんなプリティが最後にはっきりとディーンに言い返すあのシーンでは、私自身、震えがきます。“あなたの全盛時代はあと5時間しかないよ”というような台詞では、もうプルプルしてしまって(笑)。それだけ相手に影響を与えうる、大きなことを言おうとしているとプリティ自身、自覚しているのだと思います」

――音楽に関しては、プリティのナンバーは柔らかい曲調のものが多く、これまで『RENT』などで歌って来られた楽曲とはちょっと異なりますね。
「そうですね、難しいなと感じました。
〈スポットライト〉では、プリティは“占い師”というか、ジェイミーが自分では見えない未来を描いてあげる存在として歌っています。キラキラしたこの曲に対して、〈ビューティフル〉では、みんなにハッピーを与える一方で自分に自信が持てないジェイミーを包み込むようなナンバー。技術というより、メッセージをどれだけ伝えられるかが大事な曲だと思いますが、英語の歌詞を日本語に訳すと、どうしても情報量が限られてしまうので、どう表現できるか、そこをすごく頑張りたいです。
これまでは(声を)張って歌う曲が多かったので、強いバーのように歌うことを意識していましたが、今回は“ポン”と置きに行く。日本語の美しさも意識しながら、ジェイミーやお客様が、この一瞬だけでも重たい荷物を置いて、心が楽になっていただけたら。そんな思いでこの曲を届けたいです」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「今、世界のいろいろなところで戦争が起こっていますし、大変な世の中になってきているなかで、“誰かの力になりたい”と言ったらきれいごとに聞こえるかもしれないけれど、この作品が誰かの“居場所”になってくれたらいいな、と思っています。
私自身、ハーフであることで、これまでの人生で“自分はどこに属するんだろう”ということを感じてきました。日本でも“外の人”と感じることがあるし、フィリピンに帰っても“外の人”に見られることもあるし。
キャリア的にも、私は歌手から入ってきたので、舞台の現場では舞台俳優さんたちに対して尊敬することばかりです。皆さん、あることを表現するのに過去の心の傷を開いて、あの時のあの経験がこれに活かせる…というふうに、本当にご自身の身を削って表現されています。それを見ていて、自分はまだまだ出ている作品が少ないし、“外”の人だなと痛感することがあって、ずっと居場所を探し続けてきました。
でも、 居場所って“場所”だけではなくて、“人”も居場所になるんですよね。誰かの心の中に存在出来たら、そこが居場所でもあると思うので、今回の舞台もみんなにとって、そういう存在になれたらいいなと思っています」

――ご自身についても少し伺わせてください。遥海さんのミュージカル・デビューは2020年の『RENT』。限られた命を意識しながらロジャーに思いをぶつけるミミ役が鮮烈でしたが、演技はどのように学ばれたのですか?
「私はそれまで一度も(演技講習などは)受けたことがなかったのですが、あの時はとにかく自分を苦しめました(笑)。
自分にないものは表現できないと思っていたので、“リアル”を演じるために、置き換えられるものをずっと探し続けましたね。
ミミはなぜここまで大きな愛が持てるのか。なぜ薬に走ってしまうのか。子供の頃のように素朴な疑問がたくさんあったので、そのヒントを少しずつ集めました。自分が苦しい時に、一人で映画を観る、そういう行動をミミのこの行動に繋げられないか、とか…。
引きこもりのロジャーって、普通なら絶対恋愛の対象にはならないと思うけれど(笑)、ミミが彼に惹かれたのはなぜだろう、と思って、まずはロジャー役のお二人の魅力をいっぱい探しました。本当に素敵な方々だったので、全然苦ではなかったです(笑)。
お二人の魅力を並べながら、ミミはこういうところが好きになったのかなと想像したり、19歳の私ならちょっとワルに惹かれたかも、と思ったりして、自分なりに答え合わせをしていきました。ドラッグについても動画を観て調べたり、ミミのように女性たちが踊る場所に行ってみたりもしました。この役を通していろいろ知ることで、人間的にもすごく変わったと思います。あまり人からどう思われているかを考えなくなったというか、もっと自分らしく生きられるようになりました。
舞台経験が重なってくると、自分の声がどんどん変わってくるのを感じます。声が重たくなってきて、同じ曲も、昔のようには歌えないですね。それだけミュージカルは“学び”が多いです。もちろんまずは皆様に楽しんでいただくために頑張るものではありますが、自分自身にとっても学べる世界だなと感じています」

――今年は『SIX』にも出演。様々なタイプのクイーンたちが出てくるなかで、遥海さんは出産後すぐに亡くなってしまったジェーン・シーモアを演じました。ご自身的には一番“近い”役だったのでしょうか?
「あの作品では各クイーンがそれぞれポップシンガーにリファレンスされていて、リアーナもビヨンセもアリシア・キーズも、私は全員大好きでした。でも自分の声を考えると、アデルが近いかなと思ってオーディションはジェーン・シーモア役で受けたのですが、実はもう一つ、キャサリン・パー役でも受けていました。ただ、パー役の台詞のオーディションの時、私が普通にやっただけなのに笑いが起こってしまったんですね。もしかしたらそれが、ジェーン・シーモアのちょっと抜けた部分にはまったように、皆さん、思われたのかもしれません。
私の中でシーモアは愛に溢れた女性ですが、若い分、ちょっとおちゃめなところもあったんじゃないかと思うんです。台詞も結構、空気が読めていない感じがしますし(笑)。そういうこともあって、オーディションのあの瞬間に、審査員の方々は“この子はジェーン・シーモアだ”と思って下さったのかもしれません。
音楽的にも、それまでずっとパワーのある声を求められてきたので、(声を)張らないでいけるナンバーが楽しかったし、自分をのびのびと出すことができて、とても楽しい作品でした。みんな仲良かったし、秋にロンドンでまた出来るのは、すごく嬉しいです」
――では最後に。どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「やはり、“リアル”から作って行くということをすごく大事にしていきたいです。
器用にやらなくてもいい。
自分の役をしっかりと愛して、身を削ってでも、“リアル”を常に表現していきたいです」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*公演情報『ジェイミー』7月9~27日=東京建物Brillia HALL、8月1~3日=新歌舞伎座、8月9~11日=愛知県芸術劇場大ホール 公式HP
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