今年2月末、惜しまれながら休館した帝国劇場。
明治44年(1911年)に初代の劇場が開場し、昭和1966年に谷口吉郎さんの設計で落成した2代目の劇場は様々な美術品に彩られ、その華やかなラインナップとともに多くの人々に極上の観劇体験を提供、世代を超えて愛されてきました。
この唯一無二の劇場を早くも回顧する展覧会が、4月27日まで銀座三越新館の催物会場で開催(日時指定予約制)。
大正時代の広告のキャッチコピー「今日は帝劇、明日は三越」でも知られる通り、縁ある三越とのコラボならではの展覧会をご紹介します。
エントランスで来場者を迎えるのは、帝国劇場最終公演日の着当板。劇場の関係者入口に設置されているもので、出演者は到着するとまず、ここで名前札を裏面(赤字)から表面(黒字)へと裏返します。現在、すべての名前札が黒字であることから、CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』千穐楽のひとときが永遠化(⁈)されている模様。
場内でまず目を奪うのは、『マイ・フェア・レディ』『風と共に去りぬ』の華麗な衣裳。ごく間近に観察することが出来、例えばボリュームのあるハットは舞台袖で周囲に接触しないよう、公演毎に細心の注意が払われていたかもしれない…等、想像が膨らみます。(別コーナーには『ラ・マンチャの男』『ローマの休日』『エリザベート』『モーツァルト!』『マリー・アントワネット』の衣裳も。)
その奥には(既に懐かしくさえ感じられる)客席が設置され、フォトスポットとして利用可。オーケストラピットを使用する際は撤去されるため、ミュージカル演目の際にはあまりお目にかからなかった1階XA列の座席だそうです。
ほか、劇場一階8番扉横に飾られていた(もともとは1911年に開場した初代・帝国劇場にあった)翁面や、台本、プログラムなど、劇場の歴史を物語る品々やパネルの展示も。
一般の観客は足を踏み入れることがなかった2階の“貴賓室”と、座長の楽屋“5-1”を再現したコーナーも注目の的。貴賓室では帝国劇場アニバーサリーブックに収録されている『レ・ミゼラブル』ゆかりのメンバーによる座談会映像が公開されています。
本展開催を記念して行われた会見では、本展のイベントアンバサダーである森公美子さんが“(VIPの休憩のために作られた)貴賓室は取材で使わせていただくこともありました”と語り、同じくアンバサダーの井上芳雄さんは、楽屋ゾーンの手前にさりげなく置かれたソファについて、“もとは東京宝塚劇場の貴賓室に置かれていたのが、稽古場の鏡の前、その後、男性更衣室の中に置かれるようになったもの”と解説。
ごくシンプルかつ年季の入ったソファが実は、主演クラスの方々が稽古で試行錯誤を重ねる合間に身を預けていた、貴重なお品であることが、井上さんの証言によって判明しました。(今回のイベントに先駆けて三越の若いスタッフが帝劇を訪れた際、このソファに注目し、展示することになったのだそう)。
また今回のイベントでは、帝国劇場2階にあった喫茶コーナー「Café IMPERIAL」も期間限定で復活(新館9階にて、イートインは予約制)。カフェで使われていた椅子とテーブルが持ち込まれ、再現度の高い空間で名物メニューが味わえます。
カフェで行われていたように、一部のメニューでオリジナル・カトラリーがプレゼントされるのも嬉しい趣向。
帝劇のさまざまな要素が持ち込まれた空間にひととき身を浸すことができ、演劇ファンにとっては改めて、帝国劇場を“体感”できるイベントとなっています。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*イベント情報 「帝国劇場展~THE WORLD OF IMPERIAL THEATRE~」 3月29日~4月27日=銀座三越新館7階 催物会場(入場有料) 公式HP