人と鬼との壮絶な闘いを描き、単行本累計発行部数が1億5000万部を突破した大人気漫画『鬼滅の刃』。
2020年にシリーズ第一作が上演されたその舞台版「鬼滅の刃」の、5作目となる「其ノ伍 刀鍛冶の里」が間もなく開幕します。
ミュージカル界を牽引する加藤和樹さん、浦井健治さんが映像出演することでも話題の舞台ですが、以前からこのシリーズに出演するキャストは、本作の魅力をどのようにとらえているでしょうか。
竈門禰豆子(かまどねずこ)役の髙橋かれんさん、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)役の佐々木喜英さん、本作では映像出演となる猗窩座(あかざ)役の蒼木陣さんと、今回から脚本・演出を担当する元吉庸泰さんに、たっぷり“鬼滅愛”を語っていただきました。
(鬼舞辻の“辻”は一点しんにょう、禰豆子の“禰”はしめすへんが正式表記)
【あらすじ】時は大正、日本。炭を売る心優しき少年・炭治郎はある日、鬼に家族を殺され、唯一生き残った妹・禰豆子も鬼に襲われ、鬼化してしまう。
妹を人間に戻し、家族を殺した鬼を討つため、炭治郎は厳しい訓練を受け、鬼殺隊の一員となる。
前作で仲間たちとともに上弦の鬼を倒した炭治郎は、新たな刀を求め、刀鍛冶の里へ。しかしそこに別の上弦の鬼たちが侵入を果たし、里の人々を襲い始める。炭治郎、禰豆子は居合わせた仲間たちと力を合わせ、必死に里を守ろうとする。
いっぽう、鬼たちの始祖、鬼舞辻無惨は、約百年ぶりに上弦の鬼を殺されたことにいら立ち、本拠地の無限城に残る上弦の鬼たちを緊急招集。現れたのは上弦の参・猗窩座、上弦の弐・童磨、そして上弦の壱・黒死牟という、無惨の配下最強の鬼たちだった…。
“どう生きるか、生きてきたか”をひたすら考える作品(元吉)
――皆さんにとって『鬼滅の刃』はどんな存在でしょうか?
蒼木陣(以下・蒼木)「自分にとっては、一つの指標となっている作品です。
以前は、一読者として純粋に楽しんでいました。いろいろなキャラクターに感情移入できるし、コミカルな描写とシリアスな描写の差もすごく上手く描かれているので、直前に笑っていたのにこんなに苦しい気持ちになるのか、と一読者として楽しく読ませていただいていました。
自分が出演することになった時に、原作を最後まで改めて読んで感じた猗窩座の人物像を考えながら、(第三作の)『無限夢列車』に臨みました。
本番の間はずっと楽しく幸せで、もっと至高の領域に、もっと強くなりたいと思いながら日々演じていたので、今でも原作を読み返すとあの時の気持ちを思い出せますし、これからもそういう気持ちで役者を続けなくちゃな、と思える作品です」
髙橋かれん(以下・髙橋)「私も蒼木さんのように、原作漫画を読むと、オーディションの時のことが一気に蘇ってきます」
蒼木「蘇るよね」
髙橋「オーディションを受けたのは3年前で、当時まだ中学生だったのですが…」
(「中学生⁈」「恐ろしいわ…」と一同どよめき)
髙橋「高校時代はずっと禰豆子ちゃんが隣にいてくれた感覚でした。
自分の一部と言ってしまってはおこがましいのですが、このカンパニーも(出演の度)“ただいま”と言いたくなるような座組ですし、街で『鬼滅の刃』の何かを見かけても“禰豆子ちゃん”と意識してしまいます(笑)。
もう一人の自分であり、ずっと隣にいて後押ししてくれる存在ですね」
佐々木喜英(以下・佐々木)「僕が初めて本作のお話をいただいたのは、まだTVアニメ版の放送が始まるか、始まらないかという段階でした。第一話からリアルタイムで観て、どのキャラクターも大好きになりましたね。放送が進んでいくうちどんどん大きな作品になっていって、舞台版を演じるプレッシャーも大きくなっていきましたが(笑)、僕にとってはなくてはならない存在です。
特に心惹かれるのが、炭治郎と禰豆子の兄妹愛。僕は、家族が大好きなので、二人が支えあう関係性にどうしても感情移入してしまうんです。稽古をしていても二人のシーンを見て泣いてしまうんですね。それが無惨を演じる上で毎回、邪魔になっています(笑)」
(一同、爆笑)
蒼木「ちょっとわかります。僕も『無限夢列車』の時、矢崎広さん演じる煉󠄁獄さんが、みんなへの思いを歌で残すシーンがあって、舞台袖で聴きながら“あぁ”って感極まってしまってました(笑)」
元吉「僕は(週刊少年)ジャンプをずっと読むなかで、吾峠呼世晴先生の読み切り作品がすごく好きで、特に『鬼滅の刃』の前身となった『過狩り狩り』が面白いなと思っていました。
僕が『鬼滅の刃』で惹かれるのは、この作品は“どう生きるか”ということをひたすら考える作品だなと思うんです。鬼が倒される時に回想シーンがあって、“どう生きてきたか”を語るという構成が秀逸で、毎回、涙なしでは読めません。
どうしたらここまで魂を削り、人々の心を動かす作品が作れるんだろうと思い、舞台版ももちろん全部観ています。(前作まで演出を担当した)末満健一さんが演劇的に面白い演出をやっているのを観て、2.5次元作品として一つの指針にもなっていました」
“動きの説得力”は不可欠だと思ってきました(蒼木)
――これまでを振り返って、役作りで苦労されたことはありましたか?
髙橋「私は禰豆子を演じる時、ギャップを大切にしています。炭治郎を守らなければならないと本能的に察すると、それまでと全く違う戦闘能力を発揮します。普段とのコントラストが強く原作漫画で描かれていたので、演じる時にいつも意識してきました」
蒼木「『無限夢列車』に出演した時は、猗窩座の過去は描かれていないので、とにかくシンプルに“強くなりたい”という思いでした。
稽古が始まる数か月前から胴着を購入して、スタジオに入っては一人でトレーニングしていました。家に帰るといろんな動画を探して、“こんな型があるんだ”とか“こういう動きをしたら猗窩座に近づけるのかな”と思いながら、ベースの筋力トレーニングと並行して猗窩座のシルエットを模索した上で、稽古期間に臨みました。
(そこまでするのは)やっぱり、殺陣って説得力が絶対必要だと思うんです。今は映像技術が発達しているから、舞台でも、極論で言えば自分は立っているだけでも(映像の助けで)強く見せることは出来るかもしれませんが、僕は猗窩座をやるには、絶対に動きの説得力は必要だと思っていて、映像に頼らず自分の体で表現できないと意味がないと思っていました。
稽古場ではとにかく煉󠄁獄役の矢崎さんと殺陣をあわせ、作品の質を高めようとしていました。どこまで高いところまでもっていけるかもがき続けることで、役作りが出来ていったのかなと思います」
――もともといろいろな武術をなさっていたのですか?
蒼木「子供の頃は日本拳法をちょっとやっていたくらいなのですが、演劇を始めてからアクションが好きになり、夜中に公園で蹴りの練習をしたりしていました。自分の“好き”が猗窩座役に繋がっていったのは幸せなことだと思っています」
――無惨様はいかがでしょうか?
佐々木「『無限夢列車』の時は映像での出演でしたが、『遊郭潜入』までの4作品の中で、鬼舞辻無惨の登場時間は、10分から15分。初演の時はもっと短かったと思います。その短い時間の中でも、命を賭けてお芝居をするということを意識していました。
そして2.5次元舞台の時はいつもそうですが、『鬼滅の刃』はとりわけ世界中で有名な作品だけに、誰が観ても“無惨だね”と思ってもらえるような役作りをしたいと思いました。
僕が初めて2.5次元舞台を観たのは、高校2年の時。テニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)を観に行ったのですが、アニメを観ていた僕は、舞台版を観て“手塚がいる!リョーマがいる!”と感動したんです。自分が演じている時もお客様たちにそういう感動を味わっていただきたいなと思いながら、この舞台に立っています」
――無惨様は別格のオーラが求められる役かと思いますが、どのように醸し出していますか?
佐々木「そうなんですよね。今回は特に(加藤和樹さん、浦井健治さんという)ミュージカル界の大先輩たちが出て下さることもあって、さらにプレッシャーを感じます(笑)。無惨はとにかく始祖の鬼ですので、お芝居、歌唱とあらゆる側面で、誰よりも勝っていかないといけません。先輩方からいろいろなものを盗みつつ、さらに上をいくような志をもって演じていきたいです」
禰豆子の本能から生まれる、クライマックスの”蹴り”(髙橋)
――今回の『刀鍛冶の里』、どのあたりが見どころになってくるでしょうか?
佐々木「上弦(の鬼たちの)集結は特にインパクトのあるシーンだと思います。映像出演と生のお芝居をどう絡めていくのか、僕自身楽しみにしています」
蒼木「猗窩座も集結する鬼の一人です。彼はなぜ呼ばれたのかまだ分かっていないのですが、上弦の鬼が集うのは約100年ぶりということで、何か大きなことがあったのかな、これから何が起きるのかなという心持ちで登場したいと思っています」
――約100年ぶりということですが、鬼の時間の感覚は人間とはどう違うと思いますか?
蒼木「僕が想像するに、体感は時間とともに短くなるのではないかという気がします。例えば高校生の時の1日と大人になってからの1日では、大人になってからのほうが断然あっという間じゃないですか。その究極版というのが、鬼たちにとっての数十年単位の時間なのではないかな…と想像します」
――終盤、禰豆子がある理由から炭治郎を蹴り上げるシーンもクライマックスになりそうですね。
髙橋「あそこは禰豆子としては、たぶん本能でやったのだろうなと解釈しています。“生きて、お兄ちゃん”という思いの強さで、あの行動に至ったのだろうなと…」
蒼木「稽古の中でいろんなものが見えてきそうだよね」
元吉「間違いなくクライマックスの一つですね」
髙橋「私もあのシーンは、原作漫画を読む度に涙してしまいます。自分が感じたものを舞台のお客様にも感じていただけるよう、頑張って行きたいです」
おそらくこれまで、日本の舞台で使われていない手法も考えています(元吉)
――元吉さんはどんなことを大切に、舞台化したいと思っていらっしゃいますか?
元吉「大きくは二つあります。
まずはこの物語において、鬼と人間との違いは選択の違いだけなのだということをしっかり描きたいなと思っています。
どちらも、生きていきたいという思いはあって、思いを次に繋ぐことで生きていこうとする鬼狩り(の人間)たちと、自分個人が生きながらえようとする鬼たちとでは、スタンスの違いは表裏一体だと思うんですね。
僕はずっと“自分が頑張れればいい”と思ってきたけど、30くらいの時に自分の子供が生まれて、“この子に残せればいい”という思いに変わっていったのが、自分の中でセンセーショナルでした。子供が産まれなければ自分が頑張るだけだったと思うと、それって本当に微かな違いなんですね。
もちろん鬼たちが人を殺すのは悪いけれど、どちらも“生きていきたい”という願望に向かっていたわけで、純粋なもの同士が闘って探り合っているわけです。だからこそ価値観が違っても、鬼たちの物語にも納得ができる。その対極をしっかりと描きたいと思います。
『刀鍛冶の里』はそれまで炭治郎という個人の物語だった『鬼滅の刃』が、群像劇になる瞬間だと思っています。大きな社会の物語になっていくので、両方の価値観を描くというのは大事だなと考えています。
もう一つは、歌唱のある演劇作品なので、なぜ歌うのかが納得できないと人は歌えない、ということを意識していきたいです。本作であれば、“自分の命”という価値観に根差した瞬間、“今歌わないと死んじゃう”“今歌わないと焦がれてしまう”というきっかけで(キャラクターたちは)歌います。
ストレート・プレイだとふっと明かりが落ちて場面が終わるところを、歌入りの作品であれば、そこで1フレーズでも歌える。その“魔法”によってお客様が、2倍も3倍も舞台の中に入り込んできてくださったり、涙を流していらっしゃるのを、何度も僕は見ています。今回もそういう部分を大事に、舞台を作っていきたいと思っています」
――音楽はこれまでに引き続き、和田俊輔さんが担当されますね。
元吉「これまでの『鬼滅の刃』を踏襲しつつ、今回“だけ”というバージョンを作ろうという話をしています。」
――皆さんは和田さんの音楽、これまで歌ってこられていかがでしたか?
髙橋「私はいつも竹のおかげで鼻歌なんですが」
(一同、笑)
蒼木「夢の中で歌ったぐらい?」
髙橋「そうなんです(笑)。和田さんの曲は、“これしかないよね”と思える(完璧な)メロディなんです。漫画を読んでいても、和田さんの曲が自然と聴こえてきます」
佐々木「和田さんは一音一音に命をこめて作って下さる方だな、と感じています。メロディにもドラマが含まれていて、例えば『残酷謡』だと、人間たちの旋律は低い音から高い音へと、下から上に、闘うイメージで作られているのですが、鬼側は“1000年の…”と高い音から入っていて、人間たちを見下しているイメージで作られているんですよ。
歌うとなると難しくて、“こういう音で来るんだ“と一つ一つ思ってしまうので、落とし込むまでが大変ですが、どうにか自分の中で消化してものにしてきました」
蒼木「僕は(『無限夢列車』で)初めて楽譜を見た時、ただただ“難しい…”と絶望しました(笑)。でも楽曲や猗窩座という役と仲良くなっていくうちに、こういう可能性もあるかもと模索しながら出来たので、難しかったけど楽しかったです」
――今回、視覚的にはどんな表現が出てくるか、皆さん興味津々だと思います。
元吉「今回は演劇的な仕掛けに溢れたものにしたいと思っています。
アクションの中では、おそらくこれまで日本の舞台では使われていない趣向を考えていて、そのためにセットも考えていることがあります。映画の手法で使われているものも含めつつ、平坦にならず、立体的に見えるように作っていきます。
また、上弦の鬼たちが映像出演されますが、皆さん“これだけの3人が揃えば、歌うでしょ”と期待されますよね? 今回用に3Dで作った無限城を背景に、闇と映像と彼らの歌声を活かした場面になると思います。皆さんの想像力を掻き立てるようなものを作っています」
皆の想いを背負いながら、最後まで繋いで行きます(佐々木)
――では最後にお三方から、一言ずつお願いします。
蒼木「本当に楽しみですよね。僕は映像出演だけど、演出の仕掛けが見たいから稽古場に通います(笑)。
今日お話をうかがって、僕は元吉さんのことが大好きになりました。もっともっとご一緒にお芝居が出来て言ったらいいなと心から思える時間になったので、座談会に呼んでいただいて本当に感謝しています。観に来て下さる方の期待に応えられるよう、猗窩座として精一杯頑張ります」
髙橋「私もさきほどからお話を聞いていて、この方とご一緒できるのは光栄だな、ついていきたいなと思いました。
『刀鍛冶の里』は『鬼滅の刃』後半戦に向けて大きな歯車が回り出すところだと思いますので、私も禰豆子として頑張っていきたいです」
佐々木「初演が2020年で、5年かけて5作品目までたどり着きました。原作の巻数でいうと前回の『遊郭潜入』が折り返し地点だと思うのですが、(本作で)初演からのキャストは僕だけなんです。
それだけたくさんの鬼たちや鬼殺隊(を演じた俳優たち)の想いがあるので、それを僕は始祖の鬼として背負いながら、最後まで繋いでいきたいと思っています。これからも応援していただけると嬉しいです」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 舞台「鬼滅の刃」其ノ伍 襲撃 刀鍛冶の里 4月11~20日=天王洲銀河劇場 、4月25~27日=AiiA 2.5 Theater Kobe (4月20日、27日公演はライブ配信もあり) 公式HP
*髙橋かれんさん、佐々木喜英さん、蒼木陣さん、元吉庸泰さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。