“生命の創造”に挑んだ科学者と、彼に共感した無二の友人が辿る運命とは…。
19世紀のゴシック小説『フランケンシュタイン』を大胆な解釈で舞台化し、韓国で誕生。日本では板垣恭一さんの潤色・演出により2017年、2020年に上演され、大好評を博したミュージカルが、5年ぶりに登場します。
今回の舞台でビクター(・フランケンシュタイン)の親友・アンリを、(続投の)加藤和樹さんとのダブルキャストで初めて演じるのが、島太星さん。ボーイズグループNORDでデビュー後、俳優としての才能も開花させ、『聲の形』(2023年),『GIRLFRIEND』(2024年)では立て続けに主演しています。
のびやかな歌声とみずみずしい演技で注目を集める“新星”の島さんは、これまでで最も“グランド”な今回のミュージカルに、どのような決意をもって取り組んでいるでしょうか。全力投球の演技とは対照的な“オフの時間の素顔”も含め、さまざまに語っていただきました。
――『フランケンシュタイン』には以前から触れていらっしゃいましたか?
「このお話をいただいてから知りました。普段から、あまりTVや映画を観る習慣が無くて、いつも出演が決まってから作品について調べることが多いです」
――暇があれば何かを観るのではなく音楽を聴く、という感じでしょうか。
「音楽を聴くというわけでもないんです。僕はオンとオフのギャップが激しくて、お仕事の時には“超・オン”なのですが、家に帰るとお風呂に入って、“お疲れ様です~”という感じでぼーっとしています(笑)」
――余計な情報を入れないことで、逆に先入観無く仕事に向き合うことができますね。
「そうですね。なので、物まねとかは得意じゃないかな。その時の自分の感情だけを信じて向き合ってきたのが、これまでは功を奏していたかもしれません」
――『フランケンシュタイン』についてはまず、台本から入られましたか?
「はい、台本からです。次に中川(晃教)さん、(加藤)和樹さんの出演された過去の舞台映像を観させていただいて、それから原作小説を読んだという感じです。
台本の第一印象としては、とにかく悲しい物語だな、お客様は苦しんでしまうのではないかな…と感じたのですが、舞台映像を拝見すると、キャストお一人お一人の芝居を通して、闇だけではない光が見えたんです。希望も込められた、奥深い作品なのだな、と思いました。それにとてもわかりやすく作られていて、人気があるのも頷けました」
――ロバート・デ・ニーロが怪物を演じた映画版が公開された際(1994年)、監督のケネス・ブラナーが、物語のテーマは“人間が身の丈を超えること(命の創造に関わること)は許されるのか”だと語っていましたが、今回の舞台ではいかがでしょうか?
「今回もそのテーマは出てきますよね。科学で生命を創造したいビクターと“神の領域に触れてはならない”と考えるアンリははじめ、この論争で衝突します。けれどもビクターと話していくうち、彼になら夢を託せると思うようになり、アンリは彼のために死んでいく…。それにもかかわらず、“怪物”として再生してしまい、ビクターに復讐を誓うようになっていきます。
二人のうち、僕がより共感できるのは、ビクターかな。最初に台本を読んだとき、演じる役にとらわれずに(フラットな視点で)読むうちに、ビクターが子供の頃に“死”というものを受け入れられず、命を創造しようとしたことに共感できました。
僕も、10年間飼っていた犬が死んだ時、本当に死んでしまったのかな、どうにかしたら生き返るのではないかなと思って、火葬場に連れていくのがものすごく嫌だったので…。
それと、アンリは“神の領域に挑んではいけない”と、“神”の存在を非常に意識しているのですが、僕の家では“神”という言葉を聞いたことがなかったので、(アンリに精神的に近づいていくことの)難しさを感じます。誰かのために命は落とせないし、夢に向かっている誰かをサポートするよりは、自分が動きたいタイプですし。
でも、自分とは違うから演じられないと考えず、どうにかして、彼の世界観を僕の中に作っていきたいです。僕自身が抱いたことの無い感情をアンリはたくさん抱くので、今回、人生のいろいろな面を体験できるのがすごく楽しいです」
――例えば、ご両親とお話されると、何かヒントが見つかるかもしれないですよね。子供のためなら何でもできる、という親はたくさんいると思います。
「それはいいかもしれないですね…。確かにそうですね」
――今回のアンリ/怪物役はどのように決まったのでしょうか。
「お声がけいただき、歌を聴いていただきました。僕自身は楽譜が読めないので、とにかく何度も、初演の方の歌唱を聴き込んで練習して臨んだところ、(まだ上演までは時間があったので)1年あればこの役の魅力を出せるのではないか、と評価していただけたらしく、最終的に(出演が)決まりました。それから1年間はずっと本作を目指して、毎月のように東京でトレーニングをしてきました」
――今のところ、島さんとお話していてとても優しい方にお見受けしますが、今回はかなり残虐なことをしてしまう怪物を演じるのですね。
「難しいです…(笑)。
怪物はビクターによって創造されるのですが、最初はまさに生まれたての赤ちゃんのようで、言葉もわかりません。(目の前の相手を)殺して、食べることしかできないのが本当にかわいそうです。
そんな彼はビクターの実験日誌を見て復讐心を抱いていくわけですが、だからといってこの怪物、最悪だ…とは、僕には思えないんですよね。殺すことは自分が生きぬくためにやってきたことだし、彼のどこかに優しさも、そしてひょっとしたらアンリとしての記憶もあったんじゃないか、という気がします。
そのあたりをどう配分して役を作り上げていくかが難しいところですが、(演出の)板垣さんとも相談して、決して憎しみだけではない怪物にしていけたらと思っています」
――アンリとしての記憶はない、と彼は言葉では言っているものの…。
「加藤さんが怪物を演じた回の映像を観ていると、“本当に記憶は無かったのかな”と思える所がいくつかあったんです。今回もお客様が“うん?ということは…?”と思っていただけるポイントを、差し挟んでもいいのかな、そのほうがせつなさが増すかな、という気がしています」
――2幕の、少年と言葉をかわすシーンも印象的ですね。
「あそこに、怪物の中に微かに残っていた人間性が現れるような気がして救われました。でもこのシーン、韓国版は全く違う終わり方をしていて、観た時に、あまりの違いにドーンと落ち込みました…(笑)。いろいろな解釈がありますね」
――音楽の中で特にお好きなナンバーはありますか?
「一番得意でありつつ、難しさも感じるのは“俺は怪物“。寂しい曲なんですよね。心の内を歌っていくうちに憎しみが強くなっていくのですが、改めて難しさを感じつつ、本番で歌うのが楽しみな曲でもあります」
――怪物のナンバーには、エレキギターがきゅるるんと入ってきますね。ギターサウンドと人間の声が競い合うような雰囲気もあり、興味深いです。
「マイナーなコードがたくさんあって、エモい曲が多いですね。楽譜には三連符はじめ一筋縄でいかない音符ばかり連なっていて、音程をとるのさえ一苦労です。まずは怪物の歌を、音楽的に自分のものにしようと心がけています」
――かなりスタミナを要する役にも見えますが、特別になさっていることはありますか?
「肉体的にも精神的にも大変な役ですが、肉体でいうと、8月くらいから筋トレをしてきました。怪物は熊とも闘うのですが、それまでの僕の肉体だと勝てる筈がないので(笑)。あとは食事も管理していて、むね肉が続いていたりしています。
精神的には、アンリと怪物のメンタルは異なるので、引きずらないようにしたいです。怪物ばかり稽古してアンリが怪物ぽくなるのもいけないし…僕、おそらくナイーブなところがあるので、メンタルも肉体も、しっかり管理して行きたいです」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「個人的には、島太星を広く知っていただくきっかけになったら嬉しいです。これまでもいろいろな作品に出演させていただきましたが、ミュージカル界って広いじゃないですか。皆さんに僕のことを認知していただくためには、本作で自分の100%以上のものを残さないといけないと思っています。
『フランケンシュタイン』はただ芝居と歌が出来ればいいというものではなくて、これまで以上の努力をすることで、自分の魂を残せる作品だと感じています。今は『フランケンシュタイン』の初日を迎えるために生きているといっても過言ではないので、そんな僕の覚悟を感じていただけたら嬉しいです」
――ご自身についても少しうかがえればと思います。島さんは高校2年の時にカラオケ大会で決勝に進んだのが芸能界入りのきっかけだそうですが、当初はどういうアーティストを目指していたのですか?
「僕には昔から“何になりたい”という欲がなくて、今も、『フランケンシュタイン』のために生きている日々は(現実ではなく)夢なのかも、と疑い深く思っています(笑)。
自分から、こういうアーティストになっていこうというものはなく、僕のミュージカルの姿を見て、それが皆様の生きる糧になれたらいいな、皆様が元気になれる歌、辛い時に聴いて心が休まる歌を歌っていけたら、そして僕が出る作品を楽しみにしてお仕事を頑張っていただければいいな…。そんな思いでやっています」
――『聲の形』では、小学生時代に同級生をいじめていた主人公を演じました。後悔しながら高校生になった彼が“どうしたら自分が成長したことを証明できるのだろう”と真剣に悩む姿は鮮烈でした。
「しんどい役でした。山﨑玲奈ちゃん演じる同級生は耳が聴こえない子で、障がいのある、それも女の子をいじめるって意味がわからなかったけど、そのことは自分に返ってきて、どれだけいじめというものが酷いことかを知るんですね。そういう経験を経て、人の在り方を知ってゆく…。つらかったけれど、観ている方に届くものがあればと思いながら一生懸命演じました」
――昨年の『GIRLFRIEND』では、二人ミュージカルに挑戦されました。
「苦労しました。シアタークリエという会場で若手二人だけでお芝居させていただき、しかも同性愛という内容で、頭悩ませる日々でしたが、大きな経験になりました。キャストは3ペアあるなかで、他の2組は熟成されたというか、もう少し心に余裕があったと思いますが、僕はいっぱいいっぱいな毎日で、めちゃくちゃ大変でしたね(笑)。
ゲイを演じるということで、女性になりすぎるわけにもいかないし、男性が女性の心を持っているということでもない、でもちょっと乙女な心が入らないといけないな、“男子という塊”のままでは(相手役の)吉高志音君には向かい合えないなと思って、試行錯誤しました」
――現時点で、ご自身にミュージカルという表現はフィットしていると感じますか?
「フィットしているのかもしれません。お芝居はまだまだ発展途上で勉強しなくてはいけないけれど、歌は僕が一番得意なものなので、お芝居だけだと不安を感じてしまうけれど、自分の得意な歌が芝居を包み込んでくれているような感覚があります。自分の中で二人で戦っているような心強さもあって、やりがいもありますし、日々楽しく、ミュージカルの道を歩めているなと感じています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『フランケンシュタイン』4月10~30日=東京建物Brillia HALL、その後愛知、茨城、兵庫でも上演。公式HP
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