メアリー・シェリーのゴシック小説を大胆に解釈し、ドラマティックに舞台化した『フランケンシュタイン』が、5年ぶりに再演。生命創造研究の過程で生まれてしまった“怪物”が、創造主である科学者への復讐を誓う物語で、主人公・ビクター・フランケンシュタインを(ダブルキャストの)中川晃教さんとともに演じるのが、小林亮太さんです。
舞台『鬼滅の刃』では主人公の竈門炭治郎役を溌剌と演じ、一昨年の『キングアーサー』での凛々しいガウェイン役で一躍、ミュージカル・ファンの注目を集めた小林さん。今回はグランド・ミュージカルでの主演ということで、“壁”の高さも尋常ではないそうですが、どのような手応えを感じているでしょうか。本作の魅力、演技で大切にしていることなど、じっくり語っていただきました。
――今回はどんな経緯で出演が決まったのですか?
「オファーをいただきました。何より、自分自身がわくわくする作品でしたし、非常に高い壁だということはわかっていましたが、壁というのは、越えられるからこそ与えられる使命と思っていて。
これまでの人生で仕事にとどまらず、いろいろなところでそう感じてきたので、今回もいろいろなものの巡り合わせで神様がくれた“ギフト”として、この仕事をまっとうしたいと思い、お受けすることに決めました。託された壁をしっかり乗り越えていきたいです」
――本作とはどのように出会われましたか?
「このミュージカルのことは以前から知っていて、出演が決まってからは日本版の映像を観させていただき、その後、(加藤)和樹さんにお誘いいただいて韓国版も観に行きました。
初めて観た時、まるで体の中に手を入れられているような、心の深いところを抉られるような感覚がありました。
ビクターはアンリと出会い、研究を巡って対立から手を取り合うところまで行けたのに、世間からは理解が得られず、アンリも喪ってしまう。まさにジェットコースターのようにどんどん話が展開していって、楽曲もあいまってだと思いますが、落ちるところまで落ちていきます。
ミュージカルもいろいろあるなかで、僕はこういう、“どうしたらここから立ち上がれるだろう”というタイプの作品が比較的好きなんです。
怪物として再生してしまったアンリ。見た目はアンリなのに“怪物”を生み出してしまったビクター。大きな絶望のなかで、二人はどうして行くのか…。
観ていて、しんどさもありますが、どこかにかすかな光があるような気がして、それを感じたくて目が離せない。本作にはそんな、魔性の魅力があると思います」
――ビクターはそもそも何に衝き動かされて研究をしていたのか。これまでの映画や舞台では、科学への妄信だったり、神の領域への挑戦ということが強調されてきたと思いますが、本作ではそれにとどまりませんね。
「戦争という背景の中で、失われて行く命を前にして何とかしたい、よりよい世界を創造したいという思いのもとでやっています。個人の名声欲ではなく、人類のためですね」
――それが、親友のアンリを失ったことで…。
「個人的な動機に変わってしまうというのが、ポイントになっています」
――研究の成果を注ぎ込んで、ビクターはアンリを再生させた筈だったけれど、生まれてきたのは目の前の人間を次々と殺す“怪物”だった。彼を取り逃がした時、ビクターはどんな心境だったのでしょう? 自分の責任で彼を滅ぼさなければならないと思ったのか、もしくはまだ彼を助けられると希望を持っているのか…。
「現時点では、どちらかというと後者ですね。ビクターの中にはまだ、希望があるような気がします。
ただ、戦争が(上層部の身勝手で)打ち切られたのち、研究はどうしたらいいのか、家族との生活もあるという中で、悲惨な事件が起こっていく。そこでビクターがどんな感情を抱くのかは、日本版、韓国版、そしてキャストによっても違ってくるなと、観た時に思いました。
おそらく、アンリと出会ってからここに至るまでの間に、二人の“心”をどう成立させるのか、がポイントになってくると思っています。シーンとシーンの間、舞台上で描かれている以外のところで彼らがどうしているのかをしっかり共有していきたいです。
そこが繋がっていけば、どういう感情が生まれてくるのかもおのずと見えてくるのではないかなと。今回で言えば(アンリ役のダブルキャストの加藤)和樹さん、(島)太星君の持ち味が異なるので、それぞれと対峙するなかで全然違ったものを観ていただけるかもしれません」
――ビクターについて、共感できる部分はありますか?
「これは台本段階というより舞台を観て強く思ったのですが、ビクターとアンリだと、アンリのほうがよほど器用というか、対人関係にせよ何にせよ、ビクターってすごく不器用な人だなと感じます。
幼少期に言いたいことを言わせてもらえなかったり、こうしてはいけないと言われ続けた蓄積の結果、“狂気にとり付かれた”とまで言われる人物になってしまったのだと思いますが、そのいっぽうで、ビクターは挫折しても立ち上がり、研究について一つの結果を出すところまで行きます。
僕もあきらめが悪いたちで(笑)、一度始めたらちゃんとやるところまでやりたいという、自分の中のルールというか、自分で目標値を設定して、そこを越えていきたい思いがあります。
心が折れてもまた立ち上がる、うまくいかない瞬間でも“やるしかない”と自分を奮い立たせる。そういう点では、少しビクターに似ているのかな。他にも共通する部分があるかどうか、演じていく中で発見できたらいいなと思っています」
――役として見ると、ビクターは主人公であるばかりでなく、とてつもなく必要とされるものの多い役ですね。「偉大な生命創造の歴史が始まる」という大曲もあります。
「『偉大な…』は確かに、とんでもない楽曲ですね(笑)。これ以外にも、キーナンバー、印象的な楽曲が特に多い作品だと思います。今回、ビクターとアンリを演じる4人の中で、僕は歌に向き合ってきた時間が一番少ないと思いますので、その部分は努力で補うしかないと思って、必死に取り組んでいます。
ただ、僕はミュージカルで歌う時、まず心が動いて、言葉が生まれ、それが音楽という形になっていく…というふうにとらえています。『偉大な…』も難しい旋律を含む楽曲ではあるけれど、そこだけにとらわれず、あくまで心から生まれ出てきたものとして表現出来るようになりたい。初日まで探求し続けたいと思っています」
――どんな舞台に仕上がるといいなと思われますか?
「『フランケンシュタイン』が開幕する4月は、素敵なミュージカルがほかにもたくさん上演されるらしく、まさにミュージカルが“豊作”な状態だと思います。
そんななかで、この作品を選んで良かったと思っていただけるように。内容的に、いわゆるハッピーミュージカルではないけれど、大きな挫折を経験した時、それでも目標に辿り着くにはどう一歩を踏み出したらいいかというもがきや悩みが描かれていて人間味のある作品だと思いますし、時代は違っても“周りに流されず、自分の目で見る”ということを描いた作品でもあります。
新年度の始まりですし、観てくださった方が自分を奮い立たせる何かを少しでも感じていただけたらいいなと思っています」
――ご自身についても少しうかがいたく存じます。近年のご出演作を拝見する中で、もしかしたら小林さんは“カメレオン俳優”でいらっしゃるのかな、と感じます。作品ごとにがらりと印象が変わりますね。
「光栄です(笑)」
――舞台『鬼滅の刃』の竈門炭治郎役では、ひたむきさの中に少年ならではの可愛らしさがのぞきましたが、『キングアーサー』では40代、50代であってもおかしくない捌き役。いっぽう、ゲスト出演したTVドラマ『相棒』では清廉な警官のオーラを全身から放っていて、演技に対する“本気度”が痛いほど伝わってきました。様々な役を演じるにあたり、小林さんの中で大切にされていることはありますか?
「その人物の“愛”がどこに向いているか、ですね。そのキャラクターの愛や目的がどこに向かっているのか、常に意識しています。ベースにあるのは、“人”への思いだったり、“心”なのかな。
僕は不器用なので、人とのコミュニケーションがうまくいかないこともあるのですが、それでも頑張って話してみたら、今ぎくしゃくしているものが溶けるかもと思って、いろんな角度から話してみます。人との繋がりが好きだし、人との繋がりで世界は成り立っていると思っています。
役によっては、まず技術が求められる作品もあります。そういう要素があると“側”から作れる場合もあるのですが、心が動いていなければお客様に伝えることはできない。そう思って、常に“心”のありかを大事にするようにしています」
――今のところ、ミュージカルはご自身にフィットしていますか?
「フィットしてるね、と『フランケンシュタイン』で言われるようにしたいですね。
歌は小さいころから好きで、家の中で歌っては親から“うるさいから歌うな”と言われるほど歌ってきましたが、本作を観て、楽曲が流れる度に心動かされ、自分もこういうふうに歌いたいと思いました。
踊りも小さい頃からやってきましたし、『鬼滅の刃』では殺陣もやらせていただきました。求められることは作品によっても異なりますが、何かをやらなくてはならないとなったときに“それは出来ません”というのは嫌いなので、芝居を軸として、何でも出来るようになっていきたいですね。今回で言えば“こいつ歌も歌えるんだな”と思っていただけるよう、頑張っていきたいです」
――どんな表現者を目指していますか?
「例えば“小林がいると現場のみんなが安心する”と言ってもらえるような存在だとか、“お客様が観たくなる俳優”というのもありますが…。
先日、街を歩いていて偶然、俳優仲間に3年ぶりくらいに会ったんです。彼と30分くらいコーヒーを飲みながら喋るなかで、“亮太ってすごく場に馴染むよね”と言われ、ちょっと嬉しかったです。
さきほどカメレオンと言っていただいたように、その作品の中で(リアルに)生きるということを大事にしたいと思っているので、どの空気にも馴染める、どんな作風の作品でも対応できる俳優になっていきたいです。一言で表現するのは難しいですが…」
――多面体、ですとか?
「多面体、いいですね。軸はもちろんあるけれど、どんな場でもうまく転がれる表現者でありたい。そして、そこに嘘のない俳優でいたいです。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『フランケンシュタイン』4月10~30日=東京建物Brillia HALL、その後愛知、茨城、兵庫でも上演。公式HP
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