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『昭和元禄落語心中』古川雄大インタビュー:落語家たちの愛と業を描くミュージカルに挑む

古川雄大 長野県出身。2007年に俳優デビューし、ミュージカル『LUPIN』『エリザベート』『モーツァルト!』をはじめ、ドラマ『ハヤブサ消防団』『大奥Season2』など話題作に出演。12月より「コトコト~おいしい心と出会う旅~富山編・新潟編」(NHK)が放映中。🄫Marino Matsushima 禁無断転載


日本のミュージカル界を牽引する山崎育三郎さん、明日海りおさん、古川雄大さんが共演する新作ミュージカルが、間もなく開幕。ミュージカルではなかなか登場することのない、伝統芸能・落語の世界を舞台に、若き落語家たちの成長と葛藤を描いた話題作です。

原作は2010~2016年まで連載され、アニメ化やドラマ化もされた、雲田はるこさん作の漫画。TVドラマ版に出演した山崎育三郎さんが、作品世界の儚く美しい世界に魅了され、“いつかミュージカル化したい”と願ったことから始まったプロジェクトなのだそうです。

『昭和元禄落語心中』雲田はるこ・著 新装版1巻


小池修一郎さんが脚本・演出をつとめる今回の舞台で、もとは日本舞踊の家に生まれながら、怪我で踊りの道をあきらめ、10歳で七代目・有楽亭八雲に入門した菊比古(八代目・有楽亭八雲)を演じるのが、古川雄大さん。

山崎育三郎さんが演じる、同時期に入門した破天荒な初太郎と固い友情で結ばれるも、思いがけない運命を辿ってゆく八雲に、古川さんはどのようにアプローチしているでしょうか。落語の世界との意外な接点(⁈)はじめ、様々にお話いただきました。

ミュージカル『昭和元禄落語心中』

 

――本作は、オリジナル・ミュージカルを創りたいという山崎育三郎さんの強い思いが出発点だったと伺っていますが、古川さんもオリジナル作品への関心は以前からおありだったのでしょうか?

「かなり昔から…というわけではないのですが、いろいろなミュージカルをやらせていただくなかで、僕は既存の作品、ヒット作に出演することが多かったんです。それで、いつか“これから受け継がれていく”作品、(つまり)新作に携わりたいなという思いが強くありました。一昨年、『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』でオリジナル・ミュージカルに取り組むことが出来ましたが、今回またこういう機会をいただけて、とても嬉しく思っています」

 

――『LUPIN』はフランスが舞台のお話なので、それまで出演された海外作品と地続きのイメージもありますが、今回は“和”、それも伝統芸能の世界が舞台です。古川さんは落語に触れたことは…?

「TVで『笑点』を見ていたくらいです。今回出演が決まったことで、本作の原作やドラマを通して少し理解をした上で、動画サイトで落語についてリサーチしました。先日は『志の輔らくご』も観させていただきましたが、落語の知識はまだまだです」

 

――『笑点』をご覧になっていたのですね。小さい頃からでしょうか?

「小学生くらいからですね。毎回、自分から見ていました。日曜の夜は『笑点』を見ながらご飯を食べて、その後に『ちびまる子ちゃん』を見るのが楽しみでしたし、ルーティーンになっていました」

『昭和元禄落語心中』制作発表会見にて。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――知らず知らず、ご自身の奥深くに日本の笑いのセンスが蓄積されていたのかも…⁈

「そうですね。(落語そのものというより)大喜利が楽しかったのですが、落語家さんたちのちょっとした言い回しや“居方”を通して、伝統芸能の面白さを吸収していたのかもしれません」

 

――山崎さんは、落語と“歌”には通じるものがあるとお感じになっているそうですが、古川さんはいかがでしょうか?

「僕はあまりそういった意識はなかったのですが、もし落語を一作まるまる表現するとしたら、そういう感覚になるのかもしれないですね」

 

――作品を分析して“ここに山場を持ってこよう”と意識したり…?

「そうかもしれません。あと、テンポ感というか、人を引き込む心地よいリズム感というのはきっとあると思います。
でも、僕が落語について感じることというか、『志の輔らくご』を観たときに一番印象的だったのは、“間”でした。志の輔さんが、すごく間をもたせたり、逆にぐっとつめたりする、その緩急にすごく引き込まれたんです。すごく長い“間”があったときには、“次に何を言うんだろう”と身を乗り出す思いでしたし、ただテンポよく話せばいいというものではないんだな…と感じました。それはきっと、長く積み重ねてこそわかってくるものなんでしょうね。何作も経験して、何度もやっていても毎回違う。“その日の間”というものがある。そこが魅力的だなと感じます」

 

――古川さんも今回、落語を練習する上ではその“緩急”に一番留意されているのでしょうか?

「僕はそこまでの分量(の落語)を披露するわけではないので、“間”でいろいろやるよりは、テンポ感の良さを出すということになるかと思います」

 

――若き日の菊比古は、なんと歌舞伎にもチャレンジする場面がありますね。

「弁天小僧ですね。難しいです。お三方の(歌舞伎俳優さんの)資料映像を観て、(振付の尾上)菊之丞先生にもご指導いただきましたが、歌舞伎は落語とは発声からして全然違うし、それこそ独特のリズムがあります。そのリズムでやろうとしても、自分の場合、すごく一辺倒になってしまうので、もうちょっと頑張らないと、と思っています」

 

――小澤時史さんによる音楽は、かなりバリエーションが豊かだそうですね。その中で、古川さんのソロ・ナンバーはどんな曲調でしょうか。

「一つは、しっとりとした曲ですね。役のカラーもありますし、悲しい状況で歌っているナンバーですので。でもロックなナンバーもあって、役のなかでもいろいろな表情が出てくると思います。

全体的に、和の要素がこめられているなという感じはあります。そのうえで、これだけジャンルの広い構成になっているのがすごいなと感じます」

『昭和元禄落語心中』制作発表会見にて。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――タイトルには“心中”という言葉が入っていてドキッとしますが、恋愛における心中を指すばかりでなく、芸の道を生きる上での心意気を問う意味でも“落語と心中できるか”と、この言葉が出てきますね。

「確かにインパクトがありますね。二つの意味がかかっていることで、こういうタイトルになっているのかもしれないですね。引きの強い言葉だなと思います」

 

――ただならぬ空気感が予想される作品ですが、実際のところは…?

「“心中”という言葉の強さにひっぱられている部分もあるかとは思いますが、ある出来事の謎解き、真相を探るような面もあるし、落語というものを背負って、自分自身の芸と向き合う男たちの熱いドラマだとも言えます。

ただ、それほど暗いものに仕上がっているわけではなくて、ホットなシーンもありますので、あまり構える必要はないかもしれません」

 

――“落語と心中できるか”という台詞には、芸道に対する真剣さが表現されているかと思いますが、共感できる部分もありますか?

「助六(初太郎)にとっての“心中”と八雲(菊比古)にとっての“心中”とは別物で、助六は“これしかないんだ”と、“先へつなげる”心中なのに対して、八雲は“これで途絶えさせよう”という意味合いの心中なんですよね。僕の中にはそこまで強いものは無いけれど、 “きっとこれしかないんだろうな”という思いではいます。他に何か自分に出来ることがあるのかなと考えても見当たらない、自然にそうせざるをえないんだろうな…という思いがあります」

 

――つまり、演じるということに対して、“これしかない”と。

「そうですね、今の仕事ということですね」

 

――助六と八雲は、親友ともライバルとも言い切れない、言葉にしがたい関係のようですね。

「お互いに憧れもあれば、憎しみもある。熱い友情のようにも見えれば、恋愛のようにも見える…というふうに、原作にも描かれています。男同士の距離の近さの中に、恋愛が匂うような描写もあったりしたので、家族以上の絆で結ばれている二人かなと思います。小さいころから一緒に育ってきたということも影響しているのかもしれませんよね」

 

――助六を演じる山崎育三郎さんは2学年上なので、古川さんにとっては“先輩”という感覚だそうですが、山崎さんのどんなところに魅力を感じますか?

「すごくフラットな方ですよね。現場に自然体でいらっしゃるのが、山崎さんの素敵なところだなと感じています」

 

――今回の小池修一郎さんの脚本や演出について、小池さんらしさを感じる部分はありますか?

「恋愛の描き方ですね。ラブシーンを徹底的にきれいに見せる、というのが小池さんの作品には共通していて、これは一つの武器だと思います。今回もそういう描写が出てきます」

 

――ミュージカル『昭和元禄落語心中』、どんな作品に仕上がったらいいなと感じていますか?

「原作がすごく素敵なので、その良さがちゃんと出る舞台になったらいいなと思います。(ボリュームのある原作を)3時間にまとめるのはとても難しいだけに、僕らがちゃんと理解して、役をより原作に近づけながら演じることが大切かなと思っています」

古川雄大さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――最近のご活躍についても少しうかがわせてください。一昨年の『LUPIN』では、宝塚歌劇でしかありえないような、ミュージカルで主人公がゴンドラに乗って歌うという非日常的演出を古川さんが見事にこなしていらっしゃり、興奮や感動を覚えたという方も多くいらっしゃると思います。

「確かに不思議な空間ではあったと思いますが、不思議と思わせない構築がなされていたと思います。エンタメに特化した作りでしたね。もし、まじめに“かっこいいアルセーヌ・ルパン”を描いていて、突然あの演出が出てきたらちょっとおかしく見えたかもしれないけれど、『LUPIN』は、ちょっとかぶいた世界観だったじゃないですか。そのまま、1幕最後をド派手にかますという、ある種歌舞伎みたいな見せ方をしていたので、違和感がなかったのかなと思います」

 

――あの瞬間は、すべてを超越したスターとして輝いていらっしゃいましたが、スターとしての“在り方”について考えることはありますか?

「スターと言えたらすごいと思いますが、僕はスターではないです」

 

――観客にとっては、あの場面は“ひとときの夢”ですが…。

「でもあれは、周りの方にそう作ってもらっているんです。まず小池先生がそういう世界を作ってくれて、周りの方がそういうふうに持ち上げてくれるという環境があったから、あのルパンが成立したんだと思います。自分がどう在るか、どうしたらスターに見えるかみたいなことは考えたことがなくて、いつも周りの方に助けていただいていると感じています」


(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『昭和元禄落語心中』2月28日~3月22日=東急シアターオーブ、3月29日~4月7日=フェスティバルホール、4月14~23日=福岡市民ホール・大ホール 公式HP

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