実話に基づき、昭和から令和の時代を生き抜いた女性二人を描く新作ミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』が、間もなく開幕。彼女たちが長い年月をかけて育む友情は、男性の視点からはどう映るのでしょうか。インタビュー第二弾の本稿では、演出の横山清崇さん、出演の東山光明さん、吉田純也さんに、“菜々子と百合絵の物語”への率直な思いを語っていただきました。
とことん語り合い、悩みを打ち明けられる関係性に憧れます
――お三方は、これまでもご一緒にお仕事をされているのですか?
東山光明(以下・東山)「僕はお二人とも初めましてです」
吉田純也(以下・吉田)「横山さんが演出する作品の歌唱指導はしたことがあります」
横山清崇(以下・横山)「東山さんはある重要な役のイメージが東山さんにぴったりで、(脚本の高橋)亜子さん・(音楽の福井)小百合さんともご縁があるということもあり、お願いしようということになりました。そしてもうお一方、東山さんとはタイプの違う方をということで考えていたとき、亜子さんが『シュレック』をご覧になっていて、ドンキー役の吉田さんがものすごく面白かったとお話されて、僕の中でも吉田さんを思い浮かべていたので、お声をかけさせていただきました」
――ドンキーはとてもお茶目な役でしたが、あの役から本作に…イメージは繋がりますか?
吉田「繋がりませんね(笑)」
――本日は女性の友情がリアルに描かれた本作を、男性の皆様はどう感じていらっしゃるか、ぜひうかがえればと思っております。まず、作品の第一印象からお教えいただけますか?
横山「二人の女性の関わり方を羨ましく感じました。また、母と重なる部分があるなとも感じました。本作に登場する菜々子さんと百合絵さん、どちらの要素もあると思いました」
東山「色鮮やかで美しい作品だな、と思いました。男の友情って、あまり言葉を発しなくても“わかるやろ”みたいなところがあるんですよ。普段は連絡しなくても会ったらすぐに打ち解ける、みたいな。でも菜々子と百合絵はとことん話をして、悩みも打ち明ける。そんな姿に、“いいなあ”と憧れます。
そして僕も、自分の母を思い浮かべました。こういう友達がいるのかなとも思ったし、うちも父と母とでは父のほうが強くて、母がずっと我慢しているような雰囲気を子供ながらに感じていたのを思い出しました。
今回、僕は菜々子の夫、眞司役などを演じます。父はこんな感じだったのかな…と想像しながら役作りをしているので、母にもぜひ観てもらって、感想を聞いてみたいです」
吉田「私の母も、少し菜々子とかぶる部分があります。母はおとなしい性格だけど、ものすごく喋る友達がいて、彼女が(家に)来たりすると母もすごく楽しそうで、他人に影響を受けて(本来の)自分が表に出るのが面白いなと思っていました。
あと、僕には妹がいて、小さい時には喧嘩をしたりしたものですが、大人になってからは僕が上京したのもあって、あまり会う機会がありません。今回、台本を読んで、妹としばらく語り合ってないな、話したいな…と思いました。本番を観てもらって、何を感じるか感想も聞きたいな、と」
――台本を読んで、より女性の心理が分かったとお感じですか? さらにわからなくなった部分も?
横山「わからないのが悪い、とは思っていません。むしろわからないからこそ尊いのかもしれません。どこまで行っても、菜々子と百合絵のなかにあるものに僕らはたどり着けないかもしれないけれど、わからなさがどこかに残っていたほうが神秘的だし、良いのだろうと感じています。樋口さんと吉沢さんも、仲はいいけれど、僕らの想像する仲の良さとは違っていて、だからこそご一緒していて面白いです」
――台本では、昭和の時代に自分らしさを追求した二人が直面する困難もリアルに描かれています。封建的価値観を持った夫の反感を買うようにもなっていきますが、実際の演出もリアルなものになりそうでしょうか?
横山「昭和という時代の中で菜々子たちがいろんなものと闘っている姿はお見せしますが、例えば夫のモラハラ的なものを強調するような表現はしません。作者の(高橋)亜子さんは、本作はリアルと言えばリアルな物語だけど、どこか俯瞰からとらえている視点もほしい、とおっしゃっていました。苦しいものを目の前にお届けするよりは、夫の態度に対してどういう思いが浮かんだのか、を大切にしたい。そういう意味では、“リアルだけれどリアリティの置き所は、受けとめる側に置きたい”と思っています」
――台本には、眞司が百合絵の家に乗り込んで行く場面もあり、いったいどんなことになるのかドキドキします…。
東山「昨日もそのシーンの稽古をしましたが、バチバチにやっていますね(笑)。眞司としては、自分の家庭をとられたという気持ちが強く、百合絵の家まで行って取り返そうとしています。令和の今だったらあまり考えられないシーンですが(笑)、一見悪役に見える眞司にも、彼なりの経験や思いがあってそうなっているということを、今、掘り下げています。自分の中でリアルに落とし込んだものを、物語の中でどう見せられるか挑戦ですね。一曲のナンバーで何年も時間が飛んだりしますが、自分の中でどう時間経過していくかもお見せしたいです」
――本作には小さい子供も登場しますね。
吉田「そこは観てのお楽しみに…(笑)」
――了解です!(笑)
吉田「横山さんの演出ですごく勉強になるのが、シリアスになりすぎない(演出の)バランスです。昨日も“しめっぽくなりすぎないで”というアドバイスをいただきましたが、一つに寄らないことでレイヤーが生まれ、お客様が作品を俯瞰できるのだなと感じます。この作品は王様や悪魔が出てくるようなファンタジックなものではないのですが…あ、とあるナンバーでファラオは出てきますね(笑)」
横山、東山 (笑)
吉田「壮大な冒険物語ではなく、日常に起こりうる、(等身大の)人々のやりとりがめちゃくちゃ面白い作品になっています」
――音楽はどんなナンバー揃いでしょうか?
横山「作曲された福井(小百合)さんがおっしゃるには、(高橋)亜子さんの歌詞を読むと、すぐに音程がついてしまうんですって。亜子さんの言葉から生まれ出てくる音楽だそうなのですが、いろいろなバリエーションがありつつ、統一感もあります。楽しい局面もあれば二人に寄り添っているナンバーもあり、その豊さは物凄いです。こんなふうに曲を配置できるんだな、と圧倒されますし、とにかく素敵な曲ばかりです」
――稽古の手応えはいかがでしょうか?
東山「すごくスピーディーに進んでいると思います。一日一日、どんどん進化していますね」
吉田「私は『シュレック』の後、歌唱指導の仕事が続いていましたが、今回また演じる側になって、皆さん出演者としての感度が高いなと感じ、学ばせていただいています。毎日が面白いし、楽しいですね」
横山「青木美保さんのステージングも素晴らしくてどんどん出来上がっていますが、6人しか出演者の方々がいないので、こなさなければならない量がものすごいんです。それでも皆さん段取りを追うだけにならないのが素敵です。
カンパニーの空気感は大事ですが、みんなの仲が良すぎても、内輪受けになってお客様のことを考えないお芝居になってしまうし、そりが合わないのもお客様には伝わってしまいます。その点、ここにいる6人は向いている方向が作品とお客様という点で一致していて、それぞれに抱えているものはあっても、6人の力が集まった作品になっています。あとはこれを、いい形でまとまるようにするだけだと感じています」
――ご自身に刺さる台詞や歌詞はありますか?
横山「“人生の旅を”というフレーズが歌詞で登場するのですが、“旅”は本作の副題にも入っているほど大事なもので、いろいろな意味が含まれていると思います。それを“人生”と重ねているのが、亜子さんの素敵な感性ならでは。最後の歌詞はとてつもなく大事だなと思っています」
東山「菜々子が百合絵に“一緒に旅に行こう”と誘われて躊躇する…というところから、歌に入っていく箇所で、“恐れを超えよう”という歌詞が出てきます。歌稽古の時にこのフレーズを聴いて、わかりやすい言葉なのに自分自身が“おお”と鳥肌が立つ感覚がありました。二人がどんどん自分らしさを取り戻す感覚がこのフレーズから感じられて、強い印象を受けましたね」
吉田「百合絵が菜々子に対して言う台詞に“ゆっくりが好きね”というものがあります。百合絵自身はキレキレの行動力の持ち主なのに、自分と対照的な菜々子をリスペクトしてることが伝わる言葉だなと感じます。その感覚は今回のカンパニーにも共通していて、稽古中、互いへのリスペクトが溢れていることで、いっそう練習が楽しくなるし、勉強にもなります。吉田純也としても、本作に参加することで自分の人生に得るものが大きい感じがしています」
――どんな舞台に仕上がったらいいなと思われますか?
横山「観終わった時に、“誰かに連絡しよう”、そう思ってもらえたらすべてだなと思います。たぶんそうなるはずです!」
東山「僕はこれまでいろいろなミュージカルに出演してきましたが、この作品に初めて触れた時、昭和を生きた人々を描き、日本の人のために作られたオリジナル・ミュージカルだなと感じました。僕自身も昭和生まれだし、昭和の作品はすごく好きなので、今回このメンバーで一から作れるってすごく有難いことだし、誇れることだな、と思います。日本の方々に観ていただいて共感してもらったり、お母さんの時代はこうだったのかなと思いを馳せていただけたらと思っています」
吉田「親子や友人と一緒にご覧になるのはいかがでしょう、と提案したいです。皆さん、どんな感想を持たれるか興味があります。映画館で映画を観終わった時に親子や友達同士で話すような光景が、本作でも生まれたらいいなと思います。誰かの話が聞きたくなる作品になると思います」
横山「確かに、誰かに会いたくなりますよね。深い話をしようというわけではないけど、あいつどうしてるかなとか、会いたいなとか。SNSで繋がってるから近況はわかっているとしても、リアルで会いたくなると思います」
吉田「SNSだと文章や写真で表現されるから、どこかデフォルメされたり限定的だったりするんですよね。言葉という情報だけじゃない、生身に惹かれるのかな。そんな作品だと思います」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『You Know Me~あなたとの旅~』11月19~24日=シアター代官山 公式HP
*横山清崇さん、東山光明さん、吉田純也さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。