Musical Theater Japan

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ストレート・プレイへの誘い:『ロボット』朝夏まなと&渡辺いっけいが語る、一世紀前に書かれた予言的な衝撃作への挑戦

朝夏まなと 佐賀県出身。2002 年に宝塚歌劇団に入団し、15 年宙組トップスターに就任。 17 年に退団後、『マイ・フェア・レディ』『オン・ユア・フィート!』『天使にラブ・ソング を~シスター・アクト』『モダン・ミリー』等の舞台で活躍している。 渡辺いっけい 愛知県出身。劇団☆新感線、状況劇場を経て舞台、TV、映画と多彩に活躍。 主な出演舞台に『キル』『TABOO』『人間合格』『阿修羅城の瞳』『蜘蛛女のキス』『てなもん や三文オペラ』『たわごと』『ブラック・コメディ』などがある。©Marino Matsushima 禁無断転載

人造人間(ロボット)を製造する工場に、ロボットも“心”を持つと考える令嬢ヘレナが訪れ、 彼らの地位向上を訴える。応対した社長ドミンは彼女に惹かれながらも、ロボットの労働によって人間は解放され、より幸福になることを説く。 

10 年後、ロボットたちはさらに進化し、人間たちはほとんど動く必要がなかったが、夢のような世界はやがて、ロボットたちが団結し、人間に対して反乱を起こすというディストピアに転じて行き…。 

科学の進歩により人類が危機に陥るさまを描き、“ロボット”という語の語源にもなったカレル・チャペックの戯曲『ロボット』。1920 年に発表された予言的な衝撃作が、ノゾエ征爾さ んの演出で上演されます。 

人間にとって労働とは何か。幸福とは何か。そして“人間”の定義とは何か。 さまざまな問題を提起する本作が、今の観客にもたらすものとは? 物語の発端を担うヒロイン、ヘレナを演じる朝夏まなとさん、製造会社の社長ドミンを演じる渡辺いっけいさんに、この秋最大の問題作と言える本作に取り組む心境をうかがいました。 

 

『ロボット』撮影:阪野貴也

初対面の二人が語る、互いの印象

 

――お二人は今回が初共演なのですね。 

朝夏まなと(以下・朝夏)「そうなんです」 

渡辺いっけい(以下・渡辺)「この前、ミュージカル版の『スパイ・ファミリー』に出ていらっしゃったんですよね。面白そうだなと思っていました」 

朝夏まなと「有難うございます。私は(渡辺さんがご出演の TV ドラマ)『大富豪同心』を 拝見しておりました。観る度に全然違うキャラクターを演じていらっしゃって、いろんな顔をお持ちの役者さんだなという印象です」 

渡辺「朝夏さんとはさきほど初めてお目にかかったばかりですが、とてもきりりとしたお顔立ちですね。小学校の頃に同じクラスにいらっしゃったら、綺麗すぎてからかってしまうかもしれません(笑)。実際、クラスの男子はいかがでしたか?」 

朝夏「どうだったかな(笑)。背が高かったのと女子グループでわいわいやっていたので、 ちょっと怖がられてたかも(笑)」 

 

――渡辺さんはこれまでも宝塚歌劇団出身の方々と共演されているそうですが、宝塚出身 の方はこういうカラーや強みがあるな、と感じたことはおありですか? 

渡辺「気づけば 30 年くらい映像の世界で仕事をしていますが、節目節目で宝塚出身の方と夫婦役、相手役をさせていただいています。人それぞれだとは思いますが、退団されて間もない男役スター出身の方は、やはり皆さんスカートをはくことに慣れないとおっしゃいますね。それが徐々に変わって行く方もいらっしゃれば、宝塚で培ったものを大事にとどめ、 あまり変わらない方もいらっしゃって、共演していて興味深いです」 

朝夏「私は退団して 7 年ですが、お芝居はかなり変わったと思います。特に最近は映像にもちょこちょこ出させていただいていて、映像のお芝居を勉強中です。この前、ある先生に“芝居するのではなく、演じる方に向きなさい”とアドバイスをいただきました。舞台では外国人を演じることが多いので、自分が役のほうに行ってしまいがちですが、そうではなく、もっと自分を使って、自然体の演技を出来るように、という意味だと思います」 

渡辺「僕も劇団☆新感線という小劇場の出身で、当時はすごく動き回る芝居をしていたんです。TVに出ることになった時、劇団の仲間たちからは“フレームから外れちゃうから、TV で演技なんてできっこない”と言われましたし、最初は苦労しましたね。テレビは“生”が映 るので、何もしなくていいんだよと、禅問答みたいなことを言われたこともありましたが、 こなすうちに分かってきました。

小ネタを入れたり、一から十まで作っていたけれど、TV ではそれは“作り物の演技”になってしまう。“こういう芝居はいらないな”“役割をちゃんと伝えればいいんだ”と思って、だんだんシンプルな演技になってくるんです。TV では生っぽいものが求められているんだな、と。

でも舞台は全然違う世界で、作らないと怖いです。今回のお芝居も、“素”では出来ない作品 だと感じます」 

 

1世紀前に書かれた戯曲の内容に、時代が“寄って”来ている⁈

 

――戯曲の第一印象はいかがでしたか? 

 

『ロボット』撮影:阪野貴也

 

朝夏「戯曲を書かれた時に未来を予期していたのですか?と作者のチャペックさんに尋ねたくなるくらい、時代が作品に追いついているというか、“寄って”行っているな…と思いま した。この通り(の展開)になってしまわないために、私たちも考えなくてはいけないのか な、進化だけがいいことではなくて、どこかでブレーキをかけなくてはいけないのかなと思ったりして、深すぎてまだ読み解けてはいないのですが、めちゃくちゃ考えさせられました」 

渡辺「終わり方も演劇的ですよね。観ているお客さんが心を揺さぶられるものにしないとい けないな、と思いました」 

朝夏「リアリティもありつつ、ファンタジーも入っている、不思議な作品ですね」 

渡辺「構成も特徴的で、序盤は朝夏さんと僕の二人の会話が続いて、それもほとんど僕が喋っています」 

朝夏「渡辺さんは台詞も多く大変そうです(笑)」 

渡辺「楽しくやります(笑)。日本の戯曲だとありえないのですが、作品の世界観をここで 語り尽くしています。日本人と外国人の違いもあると思うので、一歩踏み込まないと出来な い役だから、大変だな…と現時点では思っています」 

 

――本作は“ロボット”の語源として知られる作品ですが、一般に“ロボット”と言うと、多くの方は金属で覆われたものを想像すると思います。が、本作の“ロボット”は、今で言うクローン的な存在ですね。体温のある、極めて人間に近い彼らがもし身近にたくさんいたら…と 想像すると、金属ロボットよりむしろ怖いかも…? 

渡辺「アンダーグラウンドなにおいがする作品です。ブラックコメディということになるのかな…」 

朝夏「演出のノゾエ征爾さんがどう料理されたいか、ですよね」 

渡辺「コミカルな要素は絶対あるのだけど、ブラックだし、後半はとんでもない展開になっていくので、お客さんはどう感じるのか。楽しみもありつつ、なかなか攻めた作品だなと思 います」 

 

――ハリウッド映画的な“おさまるべきところにおさまる”お話ではないですね。 

 

『ロボット』撮影:阪野貴也

渡辺「朝夏さん演じるヒロインは、ブレないところがかっこいいんです。自分が演じるキャ ラクターも濃いけど、お客さんはきっと彼女と同じ目線で観ていけるのではないかな」 

 

――ロボットに対して同情的で、“魂をあげたい”と願っている優しい女性ですね。 

朝夏「ロボットにも人権を与えたい。人間の仲間、同じ立場にしてあげたい、と思っているんです」 

渡辺「凛々しさと優しさを持つ女性ですね」 

朝夏「1 世紀前に書かれた作品ということを考えると、すごく先進的な女性だったのだなと 思います。実行力もありますし。ですが、皆がヘレナについて“美しい”とか“君のためならなんだって”みたいなことを言っているので、読んでいて“私が演じて大丈夫⁈”と、ちょっと不安です(笑)」 

渡辺「大丈夫です!」 

 

――世の男性の理想が詰め込まれた存在なのですね。 

朝夏「自立していてかっこいいところもありつつ、女性的なところもあって、理解は出来て も共感はできないところもありますね」 

 

――彼女の夢は叶うのか。表面的な結果と、その陰で彼女が抱える“事情”がどう折り合いをつけるのか、というのも一つのカギのようです。 

朝夏「2 幕は 10 年後の世界ですが、ヘレナに子供がいない、というのが一つのポイント になっていると思います。その背景には、ロボットが進化するいっぽうで人間が退化してい るということがあって…。人間がいらない世界になってしまうという、今の少子化社会を予言しているようで、怖いですよね…」 

 

――ラストは本当に考えさせられますね。 

渡辺「100 年前の人間からの警告かもしれませんね」 

 

――これを一種のホラーとして見せるのか、コメディなのか、いろいろな見せ方がありそうですね。 

渡辺「演じる側としては、お客さんがどう感じるか分からないので、初日は本当にドキドキするでしょうね。いいものを届けたいじゃないですか。お客さんを揺さぶるようなものになるといいな。ぽかーんとされるのではなく(笑)、血の通った人間として、役者の熱を伝えなくちゃいけないなと思っています」 

 

――朝夏さんは宝塚やミュージカルで培われたもので、今回使えそうな要素はあります か? 

朝夏「どうでしょう(笑)。ロボットが出てくるとは言え、ロボット的な動きをするような 作品ではないですからね。でも、宝塚時代に、一つの公演で期間を区切って二つの役を経験したことはあるので、そういう経験が 3 幕のある部分に活きるかもしれません」 

渡辺「朝夏さんが宝塚で培われたメソッドと、僕が小劇場で培ったメソッドがどんな化学反応を起こすか、といったところも楽しみにしていてください」 

 

――どんな舞台になるといいなと思われますか? 

渡辺「インパクトのある、忘れられない作品になるといいなと思いますね」 

朝夏「タイトルはすごくシンプルですが、“すごいものを観たな”と思っていただける、皆さんの感情を揺り動かすような舞台になったらいいですね。演出のノゾエさんは、“もしかしたら今が、ロボットが『ロボットらしい』うちに公演できる最後のチャンスなのかもしれない”とおっしゃっていて、それくらい、ここで書かれていることが世の中に迫ってきています。皆さんの心に残ると嬉しいです」 

 

――ダイナミックなお話ですが、劇場はシアタートラムという小劇場での上演ですね。 

朝夏「小劇場でのお芝居は初めてです。いつもは大きな劇場でお芝居をしているので、どんな感じになるのか、楽しみです」 

渡辺「“初めて”の要素がある方とご一緒できるのは嬉しいですね。僕もフレッシュな感覚を抱けます」 

朝夏「たくさん教えていただきたいです!」 

渡辺「僕は頼りにならないので置いておくとして(笑)、今回の共演の方々は、僕が客席で 観ていて“うまいな、この人”という方が集まっていて、良かった~と思っています。ある場面で、男たちが朝夏さんを囲んで右往左往するシーンがあるのですが、いい役者がそろっているので、楽しい場面に出来るんじゃないかと、勝手に思っています」

 

――では最後に。お二人はお芝居をされていて、どんな時に喜びを感じますか? 

渡辺「毎日やっていても、芝居って、何かしら違います。何度もやっているのに、今日、初めてこんな感情になったなという時もありますし、それがお客さんにも伝わっている瞬間、 ちゃんとシンクロできていると思える時が楽しいです…めったにないですけれど(笑)。自分が調子いいなと思っていても、全然伝わっていない時もあったりします。たまにお客様と一体になれると、嬉しいです」 

朝夏「私も全く同じ…同じなんて申し上げたらおこがましいですが、同感です。そこにはお客様はいなくて、そのお芝居の世界しかない。そんな不思議な感覚になったことがあるのですが、それはつまり、お芝居がうまくいって、お客様もとても集中して観て下さっていたということなのだと思います。これまで片手で数えられるくらいしか経験はないけれど、今回の『ロボット』でそんな感覚を抱けるよう、頑張っていきたいです」 

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)

*無断転載を禁じます

*公演情報 『ロボット』11 月 16 日~12 月 1 日=シアタートラム 12 月 14~15 日=兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール  公式 HP

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