2004年の米国映画を舞台化し、2018年にブロードウェイで開幕した『MEAN GIRLS』が、生田絵梨花さん主演で登場。ブロードウェイ初演にソフィー・カワチ役で出演し、今回の日本版では翻訳協力をつとめたのが、高橋リーザさんです。現在こそアメリカ在住ですが、出身は兵庫県伊丹市。幼少期からブロードウェイに憧れ、高校から北米に留学して英語や演技を磨き、様々なオーディションに挑戦。ついに本作でブロードウェイ・デビューを飾ったリーザさんに、脚本家にも称賛された役作りや本作の魅力等、楽しく語っていただきました。
【『MEAN GIRLS』あらすじ】アフリカ育ちのケイディは母の仕事の関係でアメリカに引っ越し、高校に入学。カルチャーの違いに戸惑うケイディに、在校生のジャニスとダミアンは学園カーストの頂点にいるレジーナと、お付きのカレン、グレッチェンに気を付けるよう警告する。なぜかレジーナに気に入られ、彼女のグループに引き込まれるケイディだったが、数学の授業で知り合ったアーロンと親しくなると、空気が一変し…。
――“リーザ”さんはご本名なのですね。
「はい、本名です」
――今回の日本公演には、どのように関わっていらっしゃるのですか?
「“翻訳協力”ということで、もとの英語の台本を日本語に翻訳するにあたって、カルチャーの部分で日本ではわかりにくい部分を紐解いてお伝えする、ということをさせていただきました。例えば、本作の台本には“edible flower”への言及がありまして、“食べられるお花って…何?”と思われるかもしれませんが、これはフルーツをお花のように盛りつけたフルーツバスケットのことなんです。アメリカではそんな ”edible flower” をお見舞いで贈ったり、舞台開幕の時にお祝いで贈ったりする慣習があります。本作の台本にはそういうアメリカの文化を絡めた細かい笑いがいろいろとあって、直訳だと伝わりにくい部分についてお伝えさせていただきました。私自身、日本語だとこうなるんだなとか、いろいろ勉強させていただきました」
――日本では女子高生の流行語は目まぐるしく変わりますが、アメリカではいかがですか?
「めっちゃ変わります!(笑)『MEAN GIRLS』がブロードウェイで開幕したのは2018年ですが、英語の台詞の中には、既に古く感じられるものもあります。例えば、私たちがやっていたころ、SNSでは“ブーメラン”という、2秒くらいの動画が流行っていたのでそれについての言及があるのですが、今作品作りをするとなればTik Tokになるだろうなと思います。私たちは若い世代として20代で『MEAN GIRLS』(のカンパニー)に入ったのですが、ロングラン中、もっと若い子たちが入ってきて、違う言葉(流行語)を喋っていて“何それ?”ということもありました(笑)」
――リーザさんから見て、本作の魅力はどんなところにあると思いますか?
「“みんな違ってみんないい”とよく言いますが、そういう“自分らしさ”を、舞台に立つ一人一人が自分なりに表現できるのが魅力だと思います。ブロードウェイでオリジナル・キャストとして出演していた時は、決してバックグラウンドではなく、(演じた)ソフィー・カワチ役として輝けたなと思えます。仲間のみんなもそれぞれにそう思っていて、みんなが自分を誇りに思えるような立ち方をしていたからこそ、お客様にも伝わるものがあったのではないかと思っています」
――役作りについては、どのようなアプローチをされていましたか? 日本の演劇界では、台本に書かれている以前の出来事や経歴を考えて“ゼロ幕”を作る、という方もいらっしゃいますが…。
「『MEAN GIRLS』では、アンサンブルのゼロ幕がすごく大事でした。というのは、この作品はスクール・カーストの話で、“下”がいてこそ“上”がいるわけじゃないですか。“下”の人たちそれぞれにゼロ幕があってこそ、スクール・カーストという構図に違和感がなくなるわけで、ブロードウェイでは自分でゼロ幕からしっかり作れる人が選ばれていたなと思います。リハーサルで“好きにやってみて”と言われると、みんなしっかりゼロ幕を作り込むんですよ。それも一人で、ではなく互いに話し合っていました。例えば私が演じたソフィーは、一番最後にケヴィンとパーティに行くという設定になっていたので、では二人の関係はいつから始まったんだろう、と休み時間にケヴィン役の方と話し合いました。1幕のここで会ってるよね、その前に私はケヴィンのことを見てたのかな、と話しているうちに想像がどんどん膨らんで。“ライブラリーで会ったことにしようか?”“ひとめぼれってことにしよう”と、仕事の感覚がなくなるくらい(笑)どんどん楽しくなって、舞台でもいい意味で遊びができるようになっていきました。
私はブロードウェイの舞台に日本人として立つうえで何かしたいと思っていて、折り紙を折ろうと思いつき、教室のシーンでケイディが歌う後ろで折り鶴を毎日折っていたんです。これを、手紙を渡すような感じでケヴィンに渡したらどんなリアクションがあるかな?と思ってやってみたら、二人の中ですごく新鮮な感覚があって。そういったやりとりを毎日やっていたら、脚本家のティナ・フェイさんも気づいてくれて、“こういうふうに俳優一人一人がゼロ幕から作ることで舞台は良くなるんですよ”とおっしゃってくださったことは、今でも私の宝物です。でも私の役を受け継いだ人たちが全員同じことをやってほしいとは思っていなくて、それぞれの形でケヴィンとの恋を自由に描いてくれたらいいなと思いますが、日本版ではどう見せてくれるか、楽しみにしています」
――カナダの高校に留学されていた間、本作のようなスクール・カーストは目撃されましたか?
「当時はまだ英語が全然喋れなかったので、カーストとは無縁というか、その外にいました(笑)。カナダは文化的に優しい人が多いと言われているのもあり、あまりカーストのようなものの存在は感じませんでした。アメリカの友達に聞くところによると、(アメリカでは)チアリーディングやダンスをやっている子だったり、スポーツをやっている子がカーストの上だったようです。高校という数年間の小さいバブルの中では、そういうカーストのようなものが出来るのかもしれないですね」
――英語が自由に使いこなせるまでには5年かかったそうですが、何が突破口になりましたか?
「高校に留学して1年たつとリスニングも出来て、高3になったころには不自由なく喋れるようにもなりましたが、自分をさらけだして、自分らしく喋れるようになるには、5年かかりました。英語が喋れないことで勝手に“静かな子”とレッテルを貼られたりすることもあったのですが、私はめっちゃ喋るのが好きなので(笑)、レッテルを貼られると自分と矛盾が出来てしまう感覚が長いことありました。5年くらいたってやっと自分が関西弁を話している時と同じような感覚で思ったことを英語で言えるようになりましたが、それには大学で膨大な課題をこなしたことが大きかったです。
歌を覚える、台詞を覚える、舞台に出る。その課題の量が膨大で、それをこなすうちに自分をしっかり表現できるまで喋れるようになりました。発音は友達に鍛えてもらいました。譜面を机に置いて向き合い、私がちょっと歌うとすぐ“今の違う”と止めて、発音の細かいところを指摘してくれて。根気よくやってくれた友達に感謝しています」
――大学ではミュージカルを専攻されましたが、米国では大学でミュージカルを学んだ方が有利ですか?
「有利ということはないけれど、しっかりトレーニングを受けているという意味では、本人に自信がつくと思います。大学でもいろいろなプログラムがあるので、チャンスは多いかもしれません」
――大学を出ると22歳ぐらいになっていますが、その年齢がネックになるということは…。
「ブロードウェイでは、年齢はほぼ関係ないです。『MEAN GIRLS』はレジーナ役の2代目の子が高校を出てすぐという子でしたが、その方が珍しくて驚かれていました。私自身、オーディションで年齢を聞かれたことは一度もないですね。歳は気にされないです。逆に若すぎると“大丈夫か?”と思われるかもしれません。年齢で役がなくなるということはほぼないと言っても過言ではないです」
――リーザさんはいろいろなオーディションに挑戦する中で、落ちても次に行けるメンタルの重要性を痛感されたそうですが、今はどのように鍛えていらっしゃいますか?
「私が心がけているのは、心の波に乗るということです。しんどいなと思った時に、私は“いやいやそんなことない”、“私は恵まれているのだからそのことに感謝しなきゃ”としんどさを否定しがちなのですが、オーディションに落ちたらショックなのは当たり前。そう感じることは悪いことじゃないから、いったん自分をへこませてあげて、落ち込んでいる感情の波にも乗っかってあげる。でないと、“せっかく最終審査までいったのに”という思いがしこりになって残ってしまうんです。私は焦ってすぐ“ポジティブにならないと”と思ってしまいがちだけど、いったんはへこんで、甘いモノでも食べて自分を甘やかしてから、前に一歩踏み出すようにしています。
それと、アメリカでは比較的たくさんの人がセラピーを受けていて、私も受けてみるようになってから視界が広がりました。先生から、しんどいときは“しんどい”って思っていいんだよ、と言ってもらえて、いろいろなことが楽になったような気がします。だからといって魔法の薬があるわけじゃないけど、私自身模索しながらメンタルのケアをするようにしています。アメリカでセラピーは日本のように“深刻なこと”ではなく”当たり前”だととらえられていますね。私自身、メンタルについて勉強しに行く感覚で行っています」
――日本版の上演について、どんな思いがありますか?
「私にとってとても思い入れのある作品が日本で、しかも日本語で上演されることに感動しています。何度も、何度でも観たいです!」
――今後の活動としてはどんなご予定、ヴィジョンをお持ちですか?
「実はパンデミック中にシフトチェンジをしまして、今はプロデューサーとして新しい道に進み始めています。私はブロードウェイの舞台に立ちたいという夢をもって16歳で留学し、その夢が叶い次のステップを模索している時にパンデミックが来たため、パンデミック中はいろいろ考える時間ができ、シフトチェンジをするいい機会になりました。その中で、もっとブロードウェイに多面的に関わりたいという思いが強くなり、去年からブロードウェイ作品のプロデュースについて勉強しはじめました。ありがたいことに今年から正式にブロードウェイプロデューサーのもとでアシスタントプロデューサーとして採用していただき、ニューヨークへ戻り次第、勤務開始予定です。初仕事は4月に開幕する“New York ,New York”。同じブロードウェイとはいえ、俳優とは全く別の職種なので一からのスタートですが、すごく楽しみです。もうすでに(『MEAN GIRLS』で)アミューズさんとの縁は始まっていますが、夢は大きく、(アミューズさんと)日本で素敵なミュージカルを作って向こうで上演する、といったこともできたらな、と思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『ミーンガールズ』1月30日~2月12日=東京建物Brillia HALL、2月17日~19日=キャナルシティ劇場、2月23~27日=森ノ宮ピロティホール 公式HP
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