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『キング・アーサー』小南満佑子インタビュー/試練さえ愛しながら挑む“運命の王妃”役:新星FILE vol.3

小南満佑子 兵庫県出身。幼少よりダンス、また小学生で声楽を学び始め、様々な音楽コンクールで受賞。東京音楽大学在学中に『レ・ミゼラブル』に出演。2017年、19年公演ではコゼットを演じる。その他にも『アリージャンス~忠誠~』『蜘蛛女のキス』『ラ・カージュ・オ・フォール』『盗まれた雷撃』等の舞台作品に出演。TVでも活躍し、20年の連続テレビ小説『エール』ではヒロインのライバル役として披露した美声が話題となった。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

5〜6世紀に活躍したというブリトン人の王、アーサー。中世にさまざまな文学の素材として取り上げられ、その後も多くの人々のロマンを掻き立ててきた“伝説の英雄”が、フレンチ・ミュージカルのヒット・メーカー、ドーヴ・アチア(『1789–バスティーユの恋人たち–』)によって2015年に舞台化。グルーヴ感溢れるサウンドが好評を博してヨーロッパ各地で上演、2016年には宝塚歌劇団も『アーサー王伝説』のタイトルで上演した本作が、遂に男女キャストで登場します。

名剣エクスカリバーを引き抜いた勇者アーサーと出会い、妃となるグウィネヴィアを今回(宮澤佐江さんとのダブルキャストで)演じるのは、小南満佑子さん。『レ・ミゼラブル』等のミュージカルで活躍の一方、連続テレビ小説『エール』で響かせたソプラノ・ヴォイスも記憶に新しい彼女が、アーサーに尽くしながらも彼に支える騎士の一人、ランスロットと道ならぬ恋に落ちてしまうという、ヨーロッパ史上最も有名なファム・ファタールの一人を、どのように造形するか。さまざまに膨らむアイディアの一端を、これまでの歩みと共にたっぷりと伺いました。

『キング・アーサー』

――小南さんは以前から本作をご存知だったそうですね。

「日本では『ロミオ&ジュリエット』や『1789』など、フレンチ・ミュージカルが盛んに上演されていますが、私もとても好きなジャンルで、いつか出演できたらと思っていました。その中でも『キング・アーサー』はフランス版のDVDで大好きになった作品ですが、キャッチーな曲揃いですし、題材はイギリスのケルトの時代の騎士物語。王様やお姫様、騎士たちが登場する世界は馴染みやすいというか、みんなが(子供の頃に)触れてきたフェアリーな物語に近い気がして、素敵だなと思っていました。

もしも日本で上演されることがあればぜひ出たいな、と密かに思っていたので、お話をいただいた時には驚きつつも二つ返事をさせていただきました(笑)。ロック・テイストの楽曲を歌うという点でも、私にとって新たなチャレンジになるのではと思っています」

――大学で専攻された声楽とは全く異なる唱法ですね。

「確かに大学では声楽を専攻しましたが、色々な声が出るような勉強はしてきたので、それが活かせるといいなと思っています。

フランス版を観た時に、圧倒的に男性キャラクターが多い中での紅一点としてのバランス感も大事だと感じましたし、王妃として騎士たちに求められるような女性像を作り上げる中で、彼女の心の揺れ動きをお芝居だけでなく歌声でもしっかり表現できればいいなと思いました」

――クラシック音楽ではワーグナーがアーサー王伝説に関連した題材でオペラを書いていますので、『アーサー王伝説』にも親しみはあったでしょうか。

「オペラだけでなく(映画など)さまざまに作品化されているので、アーサー王という存在は以前から知ってはいましたが、今回、本作への出演を機に、改めて勉強しています。

初めはエクスカリバーを目がけて騎士たちが戦う物語だったのが、次第に(アーサーを憎悪するメレアガンやモルガンとの対立、グウィネヴィアを巡る三角関係を経て)人間のいいところもそうでない面も見えてくる…という展開がすごく興味深いですし、今回はダブルキャストなので、みなさんと色々な表現方法をシェアしながら頑張っていきたいです」

――現時点での日本版の台本はどんな印象ですか?

「登場人物の心情が分かりやすく、細やかに描かれていると感じました。それによって、一概に誰がいい、悪いと言えないくらい、どのキャラクターにも共感できてしまうというのも面白いです。

そんな中で、なぜグウィネヴィアがフォーカスされるのか。最終的には物語の核となっていく存在なので、彼女が王妃でないといけなかったのだなという説得力が必要だと感じています。心の底では自由を求めていた人物であることをしっかり描きたいです」

グウィネヴィア(小南満佑子)

 

――なぜランスロットに惹かれたのか。それは現代人と同じような意味合いの愛なのか、あるいはケルト神話によく出てくる「ゲッシュ(呪縛的な運命)」のようなものなのか、も興味深いですね。

「彼女がランスロットに何を見出したのか、現段階ではまだ分かりません。でも想像するに、王であるアーサーに対して、彼女はざっくばらんに話せなかったのではないでしょうか。ちょっとした会話も常に侍女たちに聞かれて尾ひれをつけて広められてしまうので下手なことは言えない。そんな中でランスロットは心を開ける、拠り所のような存在だったのかもしれません」

――英国のダイアナ妃のエピソードなどは参考になるかも…?

「それはすごく思います」

――今回、特に楽しみにされていることは?

「憧れていた作品なので、出演できること自体が楽しみですが、今回初めてご一緒する演出のオ・ルピナさんや、素敵な共演の方々とどんな化学反応が起こせるか、また日本版では音楽にどんな色どりを与えられるかも楽しみです。あと、私は“歌の人”というイメージを持たれる方も多いですが、意外に踊るので…(笑)」

――『ラ・カージュ・オ・フォール』での、恋の喜びを体現するダンスは素敵でした。

「ありがとうございます! 今回は王妃ということであまり動きはないかもしれませんが、もしがっちり踊るシーンがあると嬉しいな、と密かに思っています」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「何と言っても2023年幕開けのおめでたい舞台ですし、(男女キャストでは)日本初上陸の、いろんな魅力がつまった作品ですので、皆さんにパワーを与えられるような作品になったらいいなと思っています」

小南満佑子さん 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――プロフィールについてもお話いただけたらと思いますが、まず、小南さんは歌よりもダンスを先に始められたそうですね。

「4歳からジャズ、クラシック・バレエ、タップダンスをやっていました。両親がマイケル・ジャクソンが大好きで、彼のPVやスティービー・ワンダーの音楽に触れながら育つうちに、必然的にダンスをやりたいと思うようになったんです。

クラシック・バレエを始めたらそこでジャズやタップも教えて下さると分かり、レッスンを増やしました。小さいころから私を知って下さっている方々からは、『レ・ミゼラブル』でデビューしますとお話した時に“『レ・ミゼラブル』って踊らないよね”と不思議がられたほど、踊ってばかりいました」

――その後、声楽を始められたのですね。

「生まれつき歌が得意という訳ではなかったのですが、思うように歌えたらきっと楽しいだろうなという思いが、小学生の頃に芽生えまして。最初は基礎として声楽から始めるのがいいかなと思い、4年生の時から、当時イタリアから帰ったばかりの先生にベルカント唱法を教えて頂き、その後、東京音大に進みました。

例えばモーツァルトや(ベートーヴェン、シューマンといった)ロマン派の作曲家たちは、一音一音の中で細やかな感情表現をしていますが、そういったものを逃さないよう、楽譜をしっかり分析する訓練ができたことは、今の自分にとっても非常に大きいです。楽譜に書いてあることを第一に考えるのと同じで、お芝居をする上でも、まず台本に書かれていることを自分の中に落とし込むということが、作品を表現する上で大事になってくると思いますので、そういうスキルを習得できてよかったと思っています」

――声楽というのは、小学生のうちから始められるものなのですね。

「私も初めはそう思いましたが、ウィーン少年合唱団やシャルロット・チャーチのような例もありますし、声楽の世界では体が楽器なので、早いうちから訓練するといいそうです。声域というものは(加齢と共に)だんだん狭まっていくので、落とすのはいつでも落とせるから、ソプラノは若いうちに上げられるだけ上げておくといいよ、と先生はおっしゃっていました。

と言っても、スポーツと違って目には見えないし、触れられる部分でもない喉の訓練なので、自分で(喉の)ここかな、あそこかなと考えつつ、先生に導いていただきました。声を楽器にする訓練をしてきたので、高校生の頃は(マイクを使う)カラオケも禁止されていましたが(笑)、ノンマイクで歌えるようになったことで、コンサートや朝ドラでアリアを歌うと、皆さんびっくりしてくださいます。ご指導くださった先生方のおかげだと思っています」

――順風満帆にキャリアを築いていらっしゃるイメージですが、ご自身の中で挫折を経験したことはありますか?

「私自身は全然“順風満帆”という感覚はないんです。挫折というか、試練の連続だったなぁというイメージですが、試練は乗り越えられない者には与えられないと言いますので、これは今の自分が乗り越えなくちゃいけない試練なんだ、と思いながら取り組んでいます。オーディションに落ちたことももちろんありますし、先が見えない職業だからこそ一つ一つのお仕事が本当に大事で、そこで培った経験が私にとって宝物です。そして、たくさんの表現者がいる中で私を応援しようと思っていただけるってすごい奇跡だと思うので、ファンの方々の存在も大きいです。自分自身はちっぽけだけど、本当に皆さんに支えられて、根性だけで生きてきた、そういう意識はこれからも大切にしたいです。

応援してくださることに対して、私はパフォーマンスでしかお返しできませんが、いかに演技を通して皆さんの生活に光を差し込む存在になれるか、日々闘っています。今は職種を問わず、この数年間は明日が見えない状況が続いていますが、私自身、エンタテインメントや音楽の力って偉大なものだなと感じていますので、誇りをもってこのお仕事を続けて行きたいです」

――思い出深い作品ばかりだと思いますが、その中でも特に充足感のあった作品を挙げるとしたら?

「(第二次対戦中のアメリカでの日系移民の苦難を描いた)『アリージャンス』という作品で、白人のナースを演じたのですが、戦禍の中で医療に携わった彼女と今、コロナ禍で医療に従事されている方々がどこか重なって感じられました。もちろんこの作品では実際に起こった歴史をお伝えしたいというのが第一ですが、それに加えて、みんなを平等に受け入れたい、人種の壁を打破していきたいというナースを演じることで、今、力を尽くしてくださっている医療従事者の方々と何か通じあえるものがあるといいなと思っていたら、看護師の方から“この仕事を志した時の自分を思い出しました”といったお手紙をいただけて、嬉しかったです」

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「お芝居では、自分と違う人間を演じるので、毎回初日直前まで「これでいいのか」はわかりませんし、お客様にわかってもらえるのか作品に合っているのか、毎回葛藤がありますが、それはこの職業上ずっと続くと思いますし、それも込みで私はこのお仕事が好きなのでしょうね(笑)。もがくことも楽しいんだと思います。

これまで、ダンスや声楽を学ばせていただいて、その環境に感謝していますが、こうでなくてはならないという人にはなりたくないというか、オペラの人がミュージカルをやってもいいしその逆もいい、と思っています。日本、海外も問わず、幅広く活躍したいですし、垣根を越えたい。チャンスがあればどんどん挑戦していきたいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『キング・アーサー』2023年1月12日~2月5日=新国立劇場中劇場、2月11~12日=高崎芸術劇場 大劇場、2月24~26日=兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール、3月4~5日=刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール 公式HP
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