『ロミオ&ジュリエット』『モーツァルト!』等の大作ミュージカルに次々主演、TVドラマにも主演するなど、各方面から引っ張りだこの古川雄大さんが、ミュージカル・コンサートを開催。ミュージカルに特化したコンサートは初の試みで、古川さん自らも、企画段階から関わっているそうです。どんなショーが生まれそうか、古川さんにとってどんなチャレンジとなっているのか、たっぷりとうかがいました。(一部、合同取材の内容も含まれます)
歌いながら、更なる発見が
あるかもしれない。それが
楽しみです
――古川さんにとって、ミュージカルに特化したコンサートは今回が初、なのですね。
「そうなんです。これまで、自分のライブでミュージカル・コーナーを設けたことはあって、盛り上がったな、お客様もすごく喜んでくれているなという手ごたえはありました。ミュージカルの楽曲だけで構成するコンサートもやってみたい気持ちはあったのですが、物語の流れの中で歌うのではなく、そこから一曲を取り出して歌うのが(表現として)難しそうなイメージがあって、なかなかふんぎりがつかなくて。
今回、お話をいただいて、大きなプロジェクトとしてたくさんの方に背中を押していただき、自分にとって新たな挑戦になりますし、お客様にも喜んでいただけるのではないかな、と思って決意しました。これを機に挑戦を続けていきたいですし、ミュージカルにも出演し続けたいという思いが伝わるよう、“vol.1”と銘打っています」
――これまで、他のミュージカルスターのコンサートは御覧になったことはありますか?
「(山崎)育三郎さんのイベントのゲストで2曲一緒に歌わせていただいたり、昨年、帝劇のミュージカル・コンサートに出演させていただいたことはありますが、しっかり観たことはないんです」
――ということは“ミュージカル・コンサート”というものに対して、先入観はないわけですね。
「なんとなく、かっちりしているというか、世界観をちゃんと作ってお届けしているイメージはあります。服装もラフなものではなくスーツなのかな、とか考えます」
――例えば、作曲家やジャンルごとにセクションを分ける、というやり方もありますよね。
「ゆくゆくはそうしたこともできたらと思っていますが、今回は今まで出演したミュージカル作品の楽曲を、それぞれ最低一曲ずつ歌おうと思っています。メドレーとしてぎゅっとまとめたり、一曲を通して歌ったり。そうした形で、1幕では世界観を作り込んで、しっかりとお見せしたいです。
いっぽう、2幕はもう少しラフな感じで、これまで出演したことのない作品の歌だったり、女性のナンバーを歌ったり、ゲストの方とデュエットをしたり。ダンスもちょっと披露できたらなと思っています。いろんな要素を詰め込みつつ、“わかりやすく盛りだくさんに”という方向性になってきています」
――ミュージカルナンバーを歌う際には、作品の中で歌う時と同様の歌い方もあれば、独自の解釈で歌うスタイルもあるかと思いますが、今回はどちらで歌おうとお考えですか?
「1幕では自分に寄せて歌うというより、これまでやってきた作品の中の曲として歌おうと思っています。ただ、役として歌ってはいても、自然とその時点で新しい解釈が生まれる瞬間はあるかもしれません。2幕では、1幕との違いも見せたいですし、これまで歌ったことのないナンバーも歌いますので、ある程度(作品の抜粋ではなく)その曲を独立させて歌ってみたいと思っています」
――これまで、作品の中で“この曲はこういうふうに歌うことになっているけれど、実はこういう解釈もあるんじゃないかな”と思っていたナンバーはありますか?
「むしろ、どの曲もそうなんじゃないかなと思います。常に、一つの楽曲の表現にはいろいろなパターンがありうると思っています。だからこそ公演の一回一回が新鮮だし、自分で固めてしまわなければ、いろいろな歌い方があると思います。例えば、哀しい歌を敢えて笑いながら歌うと、その方が哀しく見えることがあるじゃないですか。そういうこともあるなと日ごろ、思っているので、歌いながらいろいろ発見があるかもしれません。…と今、(話していて)改めて思って、余計に楽しみになってきました」
――今回、演出と振付は(『イン・ザ・ハイツ』等の)TETSUHARUさんが担当されるのですね。
「『ロミオ&ジュリエット』の振付でお世話になりました。数々のショーやミュージカルを手掛けてこられて、ショーアップすることに長けていらっしゃる方なので、今回お願いしました。人当たりもよくて優しくて、人間的にも素敵な方です」
――TETSUHARUさんは一つ一つの振りのみならず、空間全体を考えた振付がお得意な方だと感じますが、踊る側としてはどんな振付家だと感じますか?
「『ロミオ&ジュリエット』のTETSUHARUさんの振付はそこまでヒップホップに染まっていなくて、ジャズダンスをベースに持つ僕としては好きな振付でした。ステージングも素晴らしくて、他に似ていない、Only Oneの振付だと感じます。TETSUHARUさんの振付を踊りたがる(俳優)仲間はけっこういるのですが、その気持ちはよくわかります」
――今回のコンサートでは古川さん、どの程度踊るご予定ですか?
「けっこう踊りたいなとは思いつつ、 “あ、ダンスも踊れるんだ”と思っていただける程度かな、と思います。現段階では何曲も踊るというのではなく、ショーアップされたところでお見せする感じと考えています」
――最近古川さんのファンになられた方の中には、古川さんは“歌の方”というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれないですね。
「そうかもしれないですね。僕はもとはダンサー出身なので、そういう方にびっくりしてもらえたら嬉しいです。といってもかなり踊っていないので、心配なところもちょっとあります(笑)」
――これまでもライブには企画段階から関わってこられたのですか?
「ライブでは主導権を握らせていただくことが多かったのですが、回を重ねていくうちに、いろいろな人から俯瞰で意見を言っていただき、それを取り入れて構築するとプラスの方向に行くということがわかってきました。今回も、自分の意見は持ちながら、いろんな意見を参考にさせていただいて、これはいい、これはやっぱりこうしたい、といった具合にすり合わせをしています。
今回は今までにないくらい公演回数も多いですし、ライブのためにこれほど取材を受けるのも初めてです(笑)。これもまた成長のステップなんだな、お客様に新たな一面を見ていただける機会になるなと思いながら、打ち合わせにも積極的に関わっています」
――綺羅星のようなゲストの方々との共演も楽しみですね。
「有難いことに皆さんからOKをいただけました。嫌われていなくてよかったです(笑)。ゲストの方には、基本的には好きな曲を歌っていただきたいと思いましたが、いろいろ考えて選曲にはけっこう時間がかかりました。デュエットに関しては自分が歌ったことのある曲ばかりなので、今はデュエットよりもトークが心配です(笑)。後輩だったり、昔馴染みの相手はいいとして、花總まりさんのような大先輩をどうトークでおもてなしすればいいのか。慣れないことなので、変なテンションにならないか、悩んでいます。でも、お客様としてはその必死の姿を楽しんで頂きたいです(笑)」
――トークでは、どの程度台本をお作りになりますか?
「僕のほうからだいたいこういう質問をする、というふうに決めようかとも思っていますが、そういう形式が合わない方もいらっしゃるでしょうし、反対にがっちり“これを聴きます”というのを知りたい方もいらっしゃると思います。(昔馴染みの)大ちゃん(渡辺大輔さん)だったら何も考えずにその場の空気で喋ったほうが、昔からの仲の良さが見えていいのかもと思うし、その人との距離感が出せるので、その方次第でやっていきたいと思っています」
――和やかにお話した直後にシリアスな歌を歌う必要もあったりと、切り替えが求められそうですね。
「そこの持って行き方をスムーズにするため、追加した曲もあります。空気的に落差がないようになったと思います。
僕のこれまでの出演作は重い話が多くて、意外とレパートリーにハッピーな曲が少なかったんです。どう始めようか、ここで盛り上がりがほしいけれど相応しい曲がないなとか、一曲目をどうしようと、すごく悩みました。結果的に満足してもらえるセットリストになったと思います」
――これまでの古川さんのレパートリーは声を張る、声量を要するナンバーが多いと思いますが、作品の中であれば他のキャラクターが歌っている時間もあるので、喉を休めるタイミングもあるかと思います。でもコンサートではずっと一人で歌われるので、負担もかなりありそうですね。
「そういったことも考えてセットリストを工夫していくなかで、レパートリーには気持ちの面でも音楽的にも、本当に明るい曲がないんですよね。これも死の歌だ…(笑)でも名曲だから入れたいよね、と本当にセットリストは時間をかけて構成しました」
――古川さんのレパートリーで明るい曲調といえば、恐らく皆さんすぐ浮かぶであろう曲が一つありますが、これを何パターンかアレンジして歌うのはいかがでしょうか?(笑)
「その曲をどこで歌うかというのが大きなポイントでした。ド頭なのか、ゲストの方とデュエットで歌うためにとっておくのか。でもゲストによっては歌わない日が出て来てしまうのも良くないね、と。僕のレパートリーだとその曲ともう一つくらいしか明るい曲がなくて、それをどこで歌うかというのがけっこう肝だったりしました」
――どんなコンサートになれば、と思っていらっしゃいますか?
「とにかく頑張りたい、という気持ちです。これほど長期間のコンサートで、ミュージカルの楽曲に特化しているのも、ダンスを入れるのも、ゲストに出演していただくことも演出家を入れるのも初めて。vol.1ならではのものができるだろうと、ドキドキしています。いいものを作ろうとたくさんの方々が動いてくれていますので、僕としてはしっかりやりたいですし、お客様にはこの貴重なvol.1を観ていただければと思います」
――古川さんはこのところ、朝の連続テレビ小説『エール』の“ミュージック・ティーチャー”役や『女の戦争~バチェラー殺人事件〜』主演など、TVドラマでも大活躍されています。映像という、異なる世界で活躍されることで、また舞台について新たに見えてきたものもありますか?
「どの現場もすごく刺激的ですし、いい経験で勉強、成長させてもらっていますが、そのいっぽうで、舞台って本当に楽しいなという気持ちも高まっています。ミュージカルの良さは、やはり音楽ですよね。皆さんそういうけれど、やはり音楽の力をすごく感じます。お芝居に音楽が加わることで、相乗効果というか、作品の空気も高まりますし、観る人も感情の幅が広がって、よりそのキャラクターに入り込むことができると思います。世の中にはミュージカルという表現形態に対して“急に歌いだして…”といった観方をする方もいらっしゃいますが、まずは先入観なく作品の世界やその音楽に身を委ねていただければ…。僕自身、“こんなに魅力がつまった表現なんだ”と改めて感じています」
――コロナ禍の影響も有り、最近はミュージカル界でより、オリジナル作品を作ろうという機運が高まっています。昨年末の『INSPIRE陰陽師』での古川さんは和装がとてもお似合いで、日本を舞台にしたミュージカルにもぜひ…と思われた方も多いと思いますが、ご自身の中で歴史上の人物など、何かご興味のある素材はありますか?
「和もののミュージカルって、西洋音楽の、しっかりビートのある音楽とマッチするのか、という難しさもあるのかななんて考えますが、逆に世界の中でユニークな存在になるかもしれませんね。素材はたくさんあると思います」
――古川さんにはインタビューの度にこの質問をさせていただいていますが、今回は特に、コロナ禍という未曽有の事態を経験した上でお尋ねします。この2年で世界は激変し、演劇界も大きな影響を受けましたが、そんな中で、古川さんの「こうありたい、こうなっていきたい」というビジョンに変化はありましたでしょうか?
「今、与えられているものに対してしっかり向き合って頑張りたいと思っていますし、今ある環境の中で前へと進み続けたいという気持ちはありますが、未来がどういうものになってゆくかはわからないですし、自分自身もどうなるか、わからないと思っています。ただただ、その時の課題に対して一生懸命取り組む。だから、今も変わらず“ビジョン”というものはないかもしれません。
コロナ禍の影響もあるかもしれないけれど、少し前まではYouTubeがこんなに流行って、YouTuberが憧れの職業になったりするなんて思わなかったですよね。僕自身、この世界に入ったころは、将来『モーツァルト!』をやるようになるなんて思ってもみませんでした。未来には何が起こるかわからないし、演劇自体、形態が変わっていくこともあるかもしれない。でも、その時、その時を頑張っていればいい結果が生まれると信じています」
――観客としては“今”の古川さんを応援してゆく、その積み重ねによって素敵な未来へと繋がる、ということですね。
「10年後にはYouTuberになっているかもしれません…というのは冗談ですが(笑)、今はこのコンサートに全力で取り組んでいます。ご期待いただけたらと思います」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『古川雄大 The Greatest Concert vol.1 -collection of musicals-』8月27~29日=COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール、8月31日~9月5日=TBS赤坂ACTシアター 公式HP
【8月21日追記】本日、古川雄大さんの新型コロナウイルス感染並びに上記コンサート全公演の中止が発表されました。詳細は公式HPをご覧下さい。
取材の際、より良いコンサートに向けて古川さん自身が様々に気を配り、また楽しみにもされているご様子を目の当たりにしていただけに、ご本人のご心痛は察するに余りありますが、今は少しでも早いご回復を、心よりお祈り申し上げます。
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