Musical Theater Japan

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『イン・ザ・ハイツ』平間壮一インタビュー:“道しるべ”を見出すまで

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平間壮一 90年北海道生まれ。07年に『FROGS』で初舞台を踏み、『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』『ロミオ&ジュリエット』『劇団☆新感線 髑髏城の七人 Season月<上弦の月>』『ゴースト』『ドン・ジュアン』『Indigo Tomato』『RENT』など数多くの舞台で活躍している。©Marino Matsushima

『Hamilton』のリン=マニュエル・ミランダの出世作で、2008年トニー賞では作品賞を含む4部門を受賞した『イン・ザ・ハイツ』。NYの移民街ワシントンハイツで逞しく生きる人々を描いたミュージカルで、ドミニカ系の青年ウスナビを(Microさんとのダブルキャストで)演じるのが平間壮一さんです。

物語の水先案内人として、ラテンとラップを掛け合わせた楽曲を通して語り、ブロードウェイ初演ではマニュエル・ミランダ本人が演じたこの役に、平間さんはどう取り組んでいるでしょうか。合同インタビューと個別インタビューの模様を組み合わせてお伝えします!

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『イン・ザ・ハイツ』

【あらすじ】NYの移民街、ワシントンハイツ。両親の遺した商店を切り盛りするウスナビはヴァネッサに、タクシー会社で働くベニーは社長の娘、ニーナに恋をしていた。スタンフォード大で学ぶニーナは久しぶりに里帰りするが、何か秘密を抱えているらしい。そんな折、ウスナビを育ててきたアブエラにあることが起こる…。

子供の頃からやってきた
ヒップホップ要素満載の
作品に、念願の出演

――はじめにちょっと確認したいのですが、本作にはクラブで若者たちが踊るシーンがありますが、確かウスナビは、踊りがちょっと…という設定ですよね。ダンスの得意な平間さんですが、今回は…?(質問・松島)
「今回、ピラグア・ガイという役をペルー出身のエリック・フクサキ君が演じているんですが、彼によると、どれだけ下手でも、とりあえずラテン系の人はある程度のステップが踏めて女の子とペアダンスが踊れるそうなんです。なので、ウスナビも日本で言うような“踊れない人”ではなくて、ステップは踏めるけど癖がある…くらいのレベルなんじゃないかと思います」

――生まれながらのリズム感は持っているわけですね。(質問・松島)
「そうですね。ラップで喋って、誰よりもリズム感いいことやってますからね(笑)。フィナーレの歌詞の中で、彼は“ビッグ・パン Big Punを聴きながら育った”と言っているので、どんな曲かなと思って聴いてみたら、ゴリゴリのR&B、ヒップホップ音楽で。なかなかミュージカルでこういう設定はないと思うけど、こういう音楽が好きで聴いている人だとすると、ウスナビはリズム感はあるんだろうなと思いますね」

――ということは今回、ダンスも含め期待してよろしいでしょうか?(質問・松島)
「(微笑んで)そう思います」

――『イン・ザ・ハイツ』について、平間さんには以前から強い思い入れがあったそうですね。(質問・松島)
「自分が小学校4年からやってきたヒップホップ・ダンスの文化が盛り込まれた作品として、思い入れがありました。ヒップホップには4つの要素があって、ブレイクダンスが出来て、ラップが出来て、グラフィティという絵が描けて、DJができると“ヒップホップをやっている”と言えるのですが、本作には実際にラップが出てきたりグラフィティを描くシーンがあるんです。そんなこともあって、いつかやりたいと思っていました」

――日本初演の印象は?(質問・松島)
「ウスナビをMicroさんが演じるということで、(歌手の)Microさんがどんな演技をされるんだろうと観たのですが、演技を超えた心からの熱量で演じていらっしゃるなあという印象を持ちました。役を“かぶる”のではなく、ウスナビの心を自分の中に取り入れて、自分の心として台詞を言っている。Microさん半分、ウスナビ半分で演じているのがすごく素敵だったし、自分も演技をするうえで、役になりに行くより、役を自分に入れるということが多いので、(Microさんのスタイルは)自分に近いなとも思いました」

――今回はそのMicroさんとのダブルキャストですが、ダブルキャストの魅力はどんな点にあるでしょうか。
「今回は特殊だと思います。Microさんは考えるより先に言葉と体がついてくる表現者で、いやらしさがゼロというか、こうしたらこう見える…というもの(計算)がないんです。目の前の人に言われた言葉に対して返しているという感じで、素直な方なんだな、と感じます。Microさんからは“役者さんが(台詞を)言うとこうなる、というのを(僕は)コピーさせてもらうよ”と言っていただいていて、僕のほうもMicroさんのお芝居を取り入れさせていただこうと、話し合ってやっている感じです」

――ダンス力を生かせるグラフィティ・ピートであったり、ニーナとロマンスを展開するベニーのような役もありますが、やはりこの中ではウスナビに興味がおありでしたか?(質問・松島)

「そうですね。関わってみると、ウスナビが“ホーム”、自分の居場所を見つける旅であったり、気持ちを素直に伝えられない、というところが自分と被るものがあって、やはりこの作品の中でやれるものとしてはウスナビしかないかな、と思いました」

――ラテンとラップをかけあわせた音楽というのはアプローチしやすいものですか?(質問・松島)
「オープニングからラテンのリズムが刻まれているんですよ。カッカッカ、カッカというリズムからだんだんメロディがついていって、それに乗って言葉をしゃべるだけでラップになっていくんです。ミランダのマジックがかかってるなと思います。
それと運のいいことに、僕はダンスに加えてラップも小さいころにやっていたことがあるんです。まだ甘いところもあるけれど、Microさんとすり合わせつつ、あんまり無理なくできていると思います」

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穏やかに、リラックスして語って下った平間壮一さん。(C)Marino Matsushima

――歌で苦戦している部分はありますか?
「(ラップなので)ふだんの、メロディアスな役よりリズム重視なんです。言葉のリズム遊びというか、早口言葉にリズムがついてるというか。1,2,3,4というリズムだけでなく、そのリズムの中での遊び方を外さないように、ということを気を付けています」

――本作の楽曲の魅力は?
「ラテン、じゃないかな。ラテンのリズムが聞いてる人をひとりでに心躍らせると思います。悲しい歌も前向きなリズムで作られていて、一見、ハッピーミュージカルなのかなと思うけれど、全然ハッピーエンドでも、歌詞が前向きでもないんですよね。苦しい世の中だけど立ち向かっていこうよ、という(作り手の)意識が出ているように思います」

――TETSUHARUさんの演出はいかがですか?(質問・松島)
「10数年前に『タンブリング』で演出を受けたことがあるのですが、その時は立ち位置とか体の動きとかでお芝居を見せていく方なんだなと感じました。
なぜここまで細かく?と思ったこともありましたが、その後10数年、いろいろな演出家の演出を受けてきて、やはりTETSUHARUさんほどそこにこだわる方はいらっしゃらないし、それぞれに意味があるんですね。これがTETSUHARUさんの“色”なのだから、そこは大切にしたいな、と思っています。
今回(現場に)入ってみると、(彼の演出には)より、心での理解力というか、心で会話しようよというところがプラスされていて、これはTETSUHARUさんについていこう、と思いました」

――何か特別な演出はあるでしょうか?
「特殊な演出はないけれど、停電が起きるシーンで、明かりのない中で携帯片手に演じるところが、劇場に入ったらどう見えるのか、楽しみにしています」

――カンパニーはどんな雰囲気ですか?
「ダンサーだったり歌手の方がいらっしゃったりと、見た目は結構派手だったり強そうに見える方が多いけれど、皆さんアーティストで、繊細さを持っていると感じます。カンパニーとしては柔らかくいい感じで包まれていて、気を使いあっていい距離感がある、という感じかな。30代が多かったりするので、ある程度経験して人の傷、痛みがわかって接してる人が多いなと感じます」

――この町の人たちは“早く出ていきたい”などと言いながらも、人間関係は濃いですが、共感できますか?(質問・松島)
「もうこちら(首都圏)に住んで長いので全然共感はできないけれど、地元の北海道だと近所づきあいもあるし、おばあちゃんの家には毎日行くので、そういう温かみは北海道にもあるかなという感じはします。思い出しますね」

――「HOME」というのが本作の物語の肝かと思いますが、平間さんにとってのホームは?
「自分の中でホームは北海道しかないけど、ウスナビと一緒で、ホームは自分自身で作っていくべきものなんだなと思いました。ホームが増えるほど自分の居心地はよくなると思うし、夢見たりするのがホームだと思っていると、いつまでも自分のものにはならないし、周りの温かさにも気づかないんだな、と自分も勉強になります。今、幸せなことに稽古場に行ってみんなが一生懸命(稽古を)やっているのを見ると、こうやって一つのものに向かってくことって大事なんだな、と稽古場に行く度思います」

――皆でHOMEについて話し合ったりしますか?
「そこが意外とないんですよね。それぞれの思い描くホームでいいよね、一個にしなくていいよね、という空気が漂っています」

――この作品について、稽古に入って新たな発見はありましたか?
「僕は日本初演を観て『イン・ザ・ハイツ』いいなと思っていましたが、自分がまさかやれると思ってなかったので、今日も通し稽古を観ていて、すごく人間の描き方が多面的なんだなと思いました。例えば、ニーナは大学に戻りたいけど戻りたくない、でも移民問題の重圧を背負いなおして戻ろうとする…。やりたいことだけじゃすまないよね、という複雑さ、深さに親近感がわくし、世の中そうだよね、とも思います。それがそれぞれのキャラクターにあって、好きだなと感じます」

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『イン・ザ・ハイツ』ウスナビ(平間壮一)

*ここからの質問は少々“深掘り”になります。気になる方は鑑賞後にご覧下さい。*

――ウスナビははじめ、自分を「俺は街灯…」と例えます。それは身動きが取れない自分をネガティブに表現したものでしたが、それがのちに「みんなを見守る存在」としての「街灯」に変化していきます。この変化は、彼を育ててくれたアブエラの影響によるものでしょうか?(質問・松島)
「アブエラは、あらゆることに愛情を注いでいて、ウスナビだけでなくすべての人に愛を注いでいるんですよね。そんな人に育てられたウスナビとしては、町全体の人たちの道しるべ、たよりどころがなくなった時に、自分が光になるべきじゃないか、と思いはじめ、強さを得るのではないかな、と思います」

――一種の使命感でしょうか?(質問・松島)
「使命感というか、ウスナビはたまたま、(亡くなった)両親が開いていたコンビニみたいな食料雑貨店を切り盛りしているんですが、そこには毎朝みんなが寄ってから出勤するんですよね。自分では、こんな店必要ないだろうと思っていたけれど、皆はこの店に立ち寄らないと一日が始まらないと気づかされて、僕も必要な人なんだと自分自身で気づくんです」

――社会の中での自分の存在意義がはっきりとするわけですね。(質問・松島)
「そうですね。自分もアブエラに甘えていて、道を見失うようなこともあるけれど、みんなの中の日課をなくすわけにはいかない、と気づくんですね。それで、自分が道しるべにならなきゃ、と思うようになるんです」

――個人的な野心を追求するのではなく、みんなを包み込む存在になろう、と?(質問・松島)
「そうなんですよね。でも(皆のため、という崇高な理由だけではなく)ヴァネッサという存在も大きいと思います。ずっと好きだったヴァネッサの言葉によって、心変わりする部分もあると思います」

――最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
「今はどの作品も“今だから”観たほうがいい、と言われると思いますが、『イン・ザ・ハイツ』は、どんな時であれ、人が持ってる悩み…この道で本当にいいのかとか、自分のやりたいことを見失っていたり、まだ気づけてないことに気づかせてもらえる作品だと思うんです。意外と身近にそういうのってあるんだなと思える、温かい作品になっていると思います。大切な人を大切にしよう、ちょっと素直になってみようと思いながら帰っていただけたら嬉しいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報Broadway Musical『IN THE HEIGHTSイン・ザ・ハイツ』
3月27~28日=鎌倉芸術館大ホール、4月3~4日=オリックス劇場、4月7~8日=日本特殊陶業市民会館ビレッジホール、4月17~28日=TBS赤坂ACTシアター 公式HP
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