Musical Theater Japan

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ミュージカル・クリエイター・プロジェクト特集Vol.1『PARTY』脚本・横山清崇、演出・元吉庸泰、音楽監督・竹内聡インタビュー

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(左より)音楽監督・竹内聡さん、脚本・横山清崇さん、演出・元吉庸泰さん

コロナ禍によって様々なエンタテインメントがストップした昨年、ホリプロが新たなクリエイターとの出会いを求める「ミュージカル・クリエイター・プロジェクト」をスタート。「音楽部門」「脚本部門」の2部門のうち、Musical Theater Japanでは「脚本部門」から生まれた新作『Party』を、数回にわたって特集します!

3月31日11:00から無料配信がスタートする新作『Party』(パイロット版)は、「脚本部門」で一次を突破した候補者たちが、ジェイソン・ハウランドさん(『生きる』)の楽曲を使って執筆した中から選ばれた、横山清崇さんの作品。NYの投資銀行に勤務する日本人女性ユリが、あるパーティーに招かれ、様々な出会いを経験するが…という物語です。2月の審査で本作が選ばれると、すぐにパイロット版制作がスタート。月末には豪華キャストが決定し、リハーサルを経て3月下旬、30台の携帯カメラの前で収録が行われました。

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『PARTY』収録風景 写真提供:ホリプロ

記事第一弾では脚本の横山清崇さん、演出の元吉庸泰さん、音楽監督の竹内聡さんにレコーディングの当日、インタビュー。収録の熱気冷めやらぬ中、率直にお話いただきました。

【クリエイター・プロフィール】
脚本・横山清崇  東京都出身。東京大学文学部卒。劇団四季に10年間在籍し、俳優・演出助手として活動。退団後はフリーとなり、「人生のピース」「ミルコとカギロイの森」「未来への贈り物」等のミュージカル作品で演出・脚本を手掛けている。また近年は、ストレートプレイや人情喜劇、コントオムニバスなどの舞台に、俳優として参加している。

演出・元吉庸泰  千葉県出身。大学在学中より劇団を主宰し、演劇活動を始める。モデル、俳優としても活動後、劇作家の鴻上尚史に師事。鈴木裕美や藤田俊太郎をはじめ、多くの演出家と作品作りの時間を共にした。演出作品は多岐に渡り、ミュージカル『SOHO CINDERS』、『EDGES』、話題の2.5次元作品『僕のヒーローアカデミア』『ロードエルメロイⅡ世の事件簿』など。今夏ミュージカル『ジェイミー』にも演出補佐として参加予定。

音楽監督・竹内聡  茨城県出身。東京音楽大学作曲科卒業、同大学大学院修士課程作曲研究領域修了。第5回武生国際作曲賞を受賞する。『スコット&ゼルダ』『アリス・イン・ワンダーランド』等ミュージカルの音楽監督、および編曲を担当する他、宝塚歌劇団においては作曲・編曲も手がけている。『メリリー・ウィー・ロール・アロング』では音楽監督及び指揮として参加予定。洗足学園音楽大学非常勤講師。

誰もが人生の途中で
置いてきたものがある、と
思い返せる作品

――横山さんは以前からオリジナル脚本を書き溜めていらっしゃったのですか?
横山清崇(以下・横山)「そうですね、何本か、この5年ぐらいの間に書いていました」

――今回の脚本はこのコンペのために?
横山「いえ、第一段階では僕の書きたい題材の作品を提出させていただいて、それを気に入っていただいて、第二段階に進んで下さいということで今回の課題がありました。ジェイソン・ハウランドさんの楽曲を使って、男女10名くらいが登場し、設定としては“パーティー(仮)”という設定で書いてみてください、という ”お題“です。
そして、選ばれましたので実際に作品を作っていこうと思います、というご連絡をいただきまして、元吉さん、竹内さんが加わり、チームになりました。お二人には、僕がつけた作詞を見ていただいて、一曲ずつ、“ここはこういう意図だったらこの言葉のほうがいいですね”と細かくご指摘いただきました。毎日、深夜にわたって相談しましたね」

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レコーディング直後の横山さん・元吉さん・竹内さん

――ジェイソンさんの楽曲というのは、既存のものでしょうか?
横山「彼がこのコロナ禍で、仕事を失った俳優たちを助けたいという思いで書いた“Killer Party”というタイトルの新作です。その中の楽曲をどういう風に並べ替えても、男女を変えても構わないという指示でした」

――選曲のセンスが面白いと思ったのが、親が子育てに悩むナンバーです。シリアスな内容にも関わらず、ちょっと滑稽、ファニーな曲があてられていて、どなたのチョイスなのかな…と思いました。
横山「どの曲をどう使うかは、基本的に僕が選ばせていただきました。あの曲を聴いてみたとき、誰かがずっと小言を言っているようなイメージだったので、これを子育てのナンバーにしよう!と思ったんです」

――海外進出は念頭に置かれましたか?
横山「プロデューサーの中には最終的にそういったものもあるかもしれませんが、僕の中では、こういう状況の中だから、みんなが元気になれるものを作りたいということで始まったプロジェクトに対して、共感を抱きました。何か皆が元気になれるものを、という気持ちで書いたつもりです」

――元吉さん、竹内さんはこのコンペの存在は以前からご存じでしたか?
元吉庸泰(以下・元吉)「僕は存在は知っていて、当時自分もオリジナルを持っていたので応募を検討していたのですが、スケジュールが合わずでした。今回プロデューサーよりスタッフとして召集がかかり、このプロジェクトに関われたんだ!という喜びがありました」
竹内聡(以下・竹内)「僕は存じ上げなかったです。別のお仕事で今回のプロデューサーとご一緒したときに、来週バーベキューがあるよ…みたいなノリでお話をいただいて、蓋を開けたら違った、みたいな(笑)。とにかく時間が限られているので必死でしたが、楽しかったですね。皆が一堂に会するのは今日で3回目なのですが、それでも完成したのは素晴らしいキャストのおかげです」

――台本の第一印象は?
元吉「“祈り”がある台本だな、と思いました。(人として)こうありたいというか、人を元気づけたいという祈りがあるな、と」
竹内「誰にでも当てはまる、普遍性があるテーマですよね。人間、生きているなかで、それぞれ中身は違うけれど、誰もが途中で置いてきたものがある。そういうことを思い返せる台本だと思いました」

――物質主義に踊らされた人々が登場するNYが舞台という点は、『ゴースト』にも共通しますね。
横山「僕は2000年代に起こったリーマン・ショックを題材にした映画に興味があって、なぜああいうことが起こったのか、よく考えました。『ゴースト』は80年代の話ですが、当時から現代に至るまで、ああいったこと(物質主義に人間が狂わされる状態)は繰り返されているんじゃないかと思いますね。
今回、NYを舞台にした理由の一つは、お題となった“パーティー”という言葉が日本では普段、あまり使われないなと思ったことです。例えば“政治家のパーティー”とか“パリピ”といった言葉では使われても、“今日パーティーがあるよ”というような一般的な使われ方はあまりしないかな、と。
アメリカで日常的に行われているパーティーを考えるうち、こじつけかもしれませんが(笑)、パーティーって、接点のなかった人たちが出会う場で、行ってみて出会う人によって何が起こるかわからないという意味では、人生に似ているな、と思えました。そこでこの作品の着想を得ました。」

――オリジナルを作るにあたってはどこのカンパニーに宛ててということも意識するかと思いますが、今回はホリプロさんということで、何か意識されましたか?
横山「これまでも『ビリー・エリオット』や『生きる』など、何本か拝見していますが、カラーは違っても、ホリプロさんには僕が在籍していた劇団四季と共通するものがあるように感じます。浅利(慶太)さんの受け売りですが、“人生の感動”ですね。世の中って大変だけど生きるに値する、ということを伝えたい。それを今回、認めていただけたので個人的には嬉しく思っています。ですので、どこのカンパニー向け、ということは考えていませんでした」
――では、ホリプロさんにはどういう個性、カラーがあると感じましたか?
元吉「あ、隣にいたプロデューサーが(気を遣って)席を外されました(笑)。」
竹内「ホリプロさんはフットワークが軽いなと感じます。新しいものを作ろうという気風があるように思います」
元吉「お客様に向けて作品を作っているという前提条件のもとで、ホリプロさんはクリエイターの僕らにも向かってくれていると感じます。
このコロナ禍の中で、皆細かにPCR検査を受けながら舞台を創っているわけですが、その中でも“今、舞台をやっていいのか?”という葛藤があります。この前もある現場で、舞台の前方で俳優が台詞を発した時、最前列のお客様がよけるのを見てしまって、悩みました。今回、こうして何の接点もない僕らが集まって新しい作品を作るということで、僕らも元気をもらえたし、俳優さんたちもすごく楽しんでやってくださっていました。表現者もちゃんとエールをいただけて、それがお客様に向かっていく“循環”がある。(ホリプロさんには)いい色があるな、と感じます」

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『PARTY』作曲・ジェイソン・ハウランド 


――本作ではジェイソンさんが多彩な楽曲を書き上げていて、彼の創造性が発揮されていますが、日本の若い才能が彼のレベルに達するには、何が必要でしょうか?
竹内「日本にも、才能のある方はたくさんいらっしゃると思います。ただ、それを形にするのが難しいので、いきなり大きなものより、出だしは小規模な公演でやってみて、反応をみながら積み重ねていけるといいんじゃないかと思います」
横山「日本では海外のような、トライアウトの習慣が根付いてないんですよね。ジェイソンさんも、きっとトライアウトを重ねて曲を練り上げていかれるうちに、偉大な作曲家になられたんだと思います。
ビジネスである以上、興行をする側としてはなかなか冒険が難しいとは思いますが、トライアウトを行っていけるようなシステムが出来上がってくるといいなと思います。今回の企画はまさに、この状況に一石を投じていて、これが日本の演劇界を変えていくのではないでしょうか。そこに参加できたことは光栄ですし、とても感謝しています」

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『PARTY』キャスト

――今回、試作と呼ぶには豪華すぎるキャストが集まりましたが、皆さんとのお仕事はいかがでしたか?
元吉「稽古のはじめに、方向性をお話する中で、俳優の方々が自由に物語を表現することに真実があると思う、といいう話をしたら“いつも通りでいいのね”と応じ、皆さん、本番では力が抜けた、自然な表現をしてくださいました。ここでこんな感情が生まれるんだ、というものを見せながら、素直にその場にいて下さったんです。それができる身体を持っていて、なんてすばらしい方々だと思いました。最高のキャストです」
横山「ユリのお父さん役の石川禅さんが、限られた時間の中で、人物像をいろいろ考えて下さって、たくさんご提案も下さいました。歌稽古の時でも、禅さんの歌は“お芝居”なんですよね。聴いていて勉強になりました。キャストの皆さんが本当に魅力的で、自分自身がまだ気づいていなかった部分をたくさん発見させていただきました」
竹内「この短時間で表現するのは結構難しいことなんですが、皆さんプロ意識でやってくださったと感じます。よくぞこんなに実力ある方がそろったと思いますね」
元吉「真ん中に立って物語を進めるユリは、(歌や台詞の)量も多いし、ここはこう感じてほしいといったオーダーが一番多かったのですが、鈴木瑛美子さんはそれらを見事に、素直に表現してくださいました。過去と向き合うくだりも凄くて、涙が出てきましたね。素晴らしい俳優さんだと思います」

――配信をご覧になるお客さんにどんなことを感じてほしいですか?
竹内「脚本の良さも味わってほしいですし、いつもは舞台という完成形をご覧いただいているけれど、今回はその一つ手前の段階なので、舞台を創る過程をご覧いただいて、身近に感じていただけるのではないかと思います」
元吉「創る過程をご覧いただける楽しさもあると思いますが、体温というか、作っているときの温度も感じていただけるといいなと思います。今回、収録が終わった時に“お疲れさまでした”と声をかけたときの俳優さんたちのリアクションは本当で、ものすごく熱いんですよ。熱量が伝わるのが一番幸せだと感じます」
横山「このコロナ禍の中で、制約を受けていない人は誰もいないと思います。今まで普通にできていたことができなくなったりする日々の中で、もういいや、とあきらめる人がいても仕方ない。でも、諦めずにいれば、何か新しいものができるということを今回、僕自身が学びました。みんなの力が合わされば、何かができる。“諦めちゃいけない”ということを感じていただけるといいなと思います」
竹内「この機会は我々にとっても大きな幸運だと思います。それをお客様が観て、何か力に感じていただけたら、とても嬉しいですね」

――この作品はこれからどうなっていくといいなと思われますか?
(皆さん口々に)「劇場公演ができるといいなぁ」「その前にコンサートをやって…」「いろんな方に知ってもらいたいですよね」「そしてブロードウェイ!」

――楽しみに見守っていきたいです。

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*新作ミュージカル「PARTY」2021年3月31日11:00より配信。  SwipeVideo では本日から 2 か月の限定公開。 4 月には、ホリプロステージの YouTube チャンネルにて編集バージョンを公開予定。