Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

世界を繋ぐソングサイクル「WeSongCycle」特集vol.3「ふたりのダンス」 出演:綿引さやかインタビュー

f:id:MTJapan:20200809013525p:plain

WeSongCycle「ふたりのダンス」より


演出家の渋谷真紀子さん、プロデューサーの堂本麻夏さんを起点として、世界6か国のクリエイターたちがソングサイクル・ミュージカルを共作、斎藤汐里さんが映像監督を務めるプロジェクト「WeSongCycle」。画期的な“試み”がこのほど完成、8日夜にプレミア公開されました。

全8曲の楽曲のうち、MTJではデュエット「ふたりのダンス」に注目。作詞家、作曲家へのインタビューに続き、出演・綿引さやかさんへのインタビューをご紹介します。来日したダンサー、ウィルと新人プリマのナナが、リモートの日本語レッスン後に互いへの感情をつぶやく、瑞々しいナンバー。綿引さんは“つらい時もあった でもウィル あなたがいてくれた…私のヒーロー…”と、ウィルの中にこのソングサイクルのテーマ“ヒーロー”を見出すナナとして、美しい歌声を披露しています。録音もリモートだったという本作への参加を、ご自身はどう楽しまれたでしょうか?

世界は“繋がっている”と
実感できるソングサイクルです

f:id:MTJapan:20200809013931j:plain

綿引さやか 2013年~15年「レ・ミゼラブル」でエポニーヌ役を務める。主な出演作に「リトル・マーメイド」「ジャージー・ボーイズ」等。近年では米ハリウッド・ボウルで開催されたコンサートに唯一の日本人として出演、また、スウェーデン王国にてスウェーデン国王・王妃両陛下の前で歌唱を務めるなど海外にも活躍の場を広げている。

――綿引さんはつい先日まで『ジャージー・ボーイズin Concert』に出演されていました。久々に“観客のいる空間”を体験されたのですね。

「4か月ぐらいぶりでした。お客様の存在ってこんなにも大きいのだな、と感動もひとしおでした」

――自粛期間中はどのようなことを感じていらっしゃいましたか?

「一番感じたのは、それまでどんなにたくさんの方々に支えられていたかということです。STAY HOMEという状況下でもエンタテインメントに繋がっていたい、自分からも発信したいと思い、友人たちとリモートで一緒に演奏をしたりしたのですが、照明にしても衣裳にしても、自分で工夫するのが楽しくも大変で。改めて、ミュージカルは多くの方々に支えていただいているんだなと思いました」

――今回のWeSongCycleにはそういった中で関わることになったのですね。

「もともと渋谷さんとは『ビューティフル』でお仕事をご一緒していまして、国際的な面白いお仕事をされている方だな、といつも気になっていたので、今回声をかけていただけてすごくうれしかったです」
(ここで同席されていた渋谷さんがコメント。「綿引さんについては、これだけ歌がうまい方がいらっしゃるということをぜひ(世界に)紹介したいという思いを持っていました。特に恋愛デュエットが合う方だと思っていて、創作段階ではまだオファーしていませんでしたが、私の中ではこのナナ役は最初から綿引さんをイメージしていました」)

「そうだったんですか!うわぁ、嬉しいです」

f:id:MTJapan:20200809014103p:plain

WeSongCycle「ふたりのダンス」より。

――綿引さんは譜面を見て、どんな第一印象でしたか?
「まずデモテープを聴かせていただいたのですが、それがあまりにも素敵で、かわいいな、これ歌いたい!と恋してしまいました。作曲の瓜生さんがご自身で歌っているのですが、男性、女性のパートを声を使い分けて歌っていらっしゃるんです。ふだんは楽曲の作者とお話できる機会はなかなかなくて、楽譜から得たインスピレーションを大事に歌うのですが、今回は曲を作られたお二人と直接お話することができました。この歌詞に対してどういう思いがあるとか、具体的なことをご本人から伺えたのは貴重な経験でしたね。終盤の(どんでん返しの)展開は、リモートで繋がれる便利な世の中だけど、やっぱり直接のコミュニケーションも大事というメッセージが素敵だなと思います」

――音楽的にはどんな印象ですか?
「好きなテイストの曲だったのもあって、歌いやすく、メロディもすっとはいってきて、素直に歌うことができました」

――相手役の竹内將人さんからもインスピレーションを得ましたか?
「最初にフェイスタイムでリアルにお話して、その時の彼のやわらかくて優しいところをイメージしながら歌いました。歌に関してはそれぞれに収録する形だったので、最終的に(映像が合体して)一曲になったのを観た時は、彼から実際にビデオレターをいただいたような、新鮮な気持ちになりました」

――本作のような恋愛的なシチュエーションにはならずとも、舞台のお仕事では国際交流をする機会は多いように思います。綿引さんも単身、LAに渡ってハリウッド・ボウルに出演された経験がありますし、逆に海外の方を日本のカンパニーとして迎えた思い出もあるのでは?

「『レ・ミゼラブル』でヤン・ジュンモさんがジャン・バルジャン役で来日された時、何か不安なことはないかな、日本をもっと好きになっていただけたらいいな、と思って、ツアーで各地を周りながら、よくご飯をご一緒しました。ジュンモさんは日本の牛丼屋さんやごはん屋さんを気に入って下さって、決まった順番で特定の3軒ばかり行きましたね。帰国されるときにはみんなで牛丼店の丼をプレゼントしました(笑)。
今回、ナナ役を演じるにあたっては、(ハリウッド・ボウル出演で)LAにうかがったときに感じた孤独感だったり、そういうときに(共演者から)かけてもらった言葉をすごく覚えているので、ウィルに対してもそういう気持ちで寄り添えたらいいなという思いがありました。違う国に来たという感覚がなくなる世界になったらいいなと思うし、実際、コロナウイルス禍がきっかけとはいえ、この数か月で世界は本当にボーダーレスになってきたと思います。WeSongCycleのように、リモートで何か国もの人たちが一つの作品を作れるってすごいことですよね。国籍や文化が異なることに対して、みんながストレスや不安を感じることがなくなっていくと素敵だなと思います」

――ちなみに、綿引さんはラストの曲にも参加されています。このナンバーは出演者が多いのですが、一日で撮ったのですか?
「出演者がそれぞれのタイミングで撮っていたので、一人一人がパズルのピースで、それがはまった時どういうふうになるのかな…とすごく楽しみでした。新しいお仕事の形を新鮮に感じています」

f:id:MTJapan:20200806040451j:plain

WeSongCycle

――8日にプレミア公開後、この作品がどういうふうに発展していくといいなと思われますか?
「せっかく世界各国の方々が合作された作品なので、各国で上演されていったら素敵だなと思います。最初はそれぞれの国で、でもいいし、いつか今回のキャストが揃って上演できたらなお素敵ですよね。
今回のコロナウイルス禍では(エンタテインメントに関わる)全員が当事者として、それぞれの思いでエンタテインメントの灯を消すまいといろいろな活動をしていますが、ソングサイクルは一曲一曲、それぞれに完結していて、それが私たちの今の状況とすごくリンクしていると感じます。一つの祈り、願いが楽曲にこめられていて、それがソングサイクルとして編み上げられている。各国が繋がっている。そういう時に作られた作品だからこそ、これから広がっていくといいなぁと思います」

――綿引さん自身は、今回の経験を今後のキャリアにどう生かしたいですか?
「今回は実際に会って作り上げていくのとは全く違う方法で、初めてのことが多かったのですが、ふだんならお会いしたことのないような方たちともこんな方法で作品を作っていけるんだと教えられました。本作をきっかけとして、私ももっと枠にとらわれない作品作り、発信をしていけたらいいなと思っています」

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*『WeSongCycle』プレミア公開 2020年8月8日21:45~。公式HP