世界6か国のクリエイターがオンライン上で集結し、ソングサイクル・ミュージカルを作り上げる…。
世界中のミュージカル・ファンがわくわくするようなプロジェクトが、日本を起点に進行中です。
発起人は新進気鋭の演出家、渋谷真紀子さんと、プロデューサーの堂本麻夏さん。
ともに海外経験のある二人が、自身のネットワークで各国の若手~中堅クリエイターに声をかけ、英・米・豪・カナダ・韓国・そして日本の作詞作曲家9名が参加。全体を監修する“メンター”をブロードウェイで活躍する作詞作曲家のロブ・ロキッキ、折に触れて助言を行う“アドバイザー”を『シークレット・ガーデン』(シアタークリエ)の演出家スタフォード・アリマ、ブロードウェイ『アリージャンス』の俳優テリー・リアン、東宝のチーフプロデューサー、小嶋麻倫子さんが務め、完成した楽曲はブロードウェイやオーストラリア、そして日本で活躍するミュージカル俳優たちが歌います。
1回きりで終わらせず、出来れば今後も継続していきたいというこのプロジェクトを、MTJでは数回に分けて特集。初回は発起人の渋谷さん、堂本さんへのインタビューをお送りします!
オンラインだからこそ実現した、
地球規模のミュージカル制作
――今回、このプロジェクトを発案した経緯を教えてください。
堂本麻夏(以下・堂本)「私のいたNYでは、クリエイターが自分の作品を発表する場が豊富で、日本でもそういう場を作れたら、もっと(観客に)作者や作品の本質に興味を持っていただけたらと思っていました。3月にも東京ミュージカルフェスで“10ミニッツ・ミュージカル”というイベントを行ったりしていたところ、渋谷さんから相談を受けたのです」
渋谷真紀子(以下・渋谷)「NYでは新作を発表する場はもちろん、ライター・プログラムや演出家のブート・キャンプのようなスキルを磨く場も多くて、クリエイター同士の繋がりも盛んでした。コロナウイルスのことで世界中で劇場が閉鎖された時にも、(演出家の)スタフォード(・アリマ)やテリー(・リアン)が心配して“どうしてる?”と連絡してくれて、クリエイターが集まる機会を作れたら、と思って堂本さんにご相談しました。
はじめは(一日で作り上げる)10ミニッツ・ミュージカルのオンライン版みたいなものを考えたのですが、単に内輪受けするものではなく、キャリアが5年、10年あるクリエイターたち、次のステップに行こうとしている人たちのスキルアップにもなれば、という思いで、メンターやアドバイザーをつけ、もう少し時間をかけて作っていこうということになりました」
――参加しているクリエイターたちはどういった方々でしょうか?
渋谷「半分以上は私の知人で、作曲のJamie Maletz、Brandon Michael Lowden、作詞のPolly Hiltonはアメリカ人、作詞のLucie O’Brienはオーストラリア人、作曲のMinhui Leeは韓国人、作詞のAnnabel Mutale Reedはイギリス人、作詞のJoe Slabeはカナダ人、そして作詞の宮野つくりさん、作曲の瓜生明希葉さんは日本人です。
演劇界の男女の不均衡について思いがあり、そのフックに引っ掛かってくる中から選んでいます。ジェイミーやポリーもそうですし、ルーシーもフェミニズムというか、エンタテインメントを通して女性の声を届けるべきという考えを持っている人でお互い共感しあっています。宮野さんも等身大の女性の声を届けたいとおっしゃっているし、(男性の)ブランドンもフェミニズムのミュージカルを書いています。女性だけに絞るのは違和感があったので、作詞家の二人を男性から選んでいます。いろんな声を拾いたい、と思いながら声掛けをしていきました」
――渋谷さんが編成した4組のチームは、“ヒロイズム”をテーマに1話完結の楽曲を2曲ずつ書き上げ、それらが一つのソングサイクルに編み上がるということで、途中経過は動画で紹介されています。メンターのロブが週一のミーティングで全員にポジティブな言葉がけをしたり、作詞家がどういうふうに書き始めるかを語ったりしていて面白いですね。
渋谷「ドキュメンタリーで制作過程をご覧いただくことで、クリエイターに着目して頂けるかなと思っています」
――メンターがいて、アドバイザーが3人もいて…というのは非常に贅沢な環境に見えますが、その意図は?
堂本「メンターのロブは、日本でワークショップをやっていただいたことがあって、10ミニッツ・ミュージカルも彼に“こういうものがあるよ”と教えていただいたのがきっかけでした。今回は彼に全体の監修をしていただこうと、メンターをお願いしています」
渋谷「私はブロードウェイの『アリージャンス』に演出奨学生として参加していて、もう一度スタフォードのメンターシップを受けたいと思って今回、私自身のアドバイザーとして彼に参加していただきました。特にキャスティングについて、Black Lives Matterであったり、日本にいるとわかりにくい注意点を教えていただいたりしています。
テリーとは『アリージャンス』で知り合い、以来定期的に交流しているのですが、人間的に素晴らしい方で、今回も俳優の視点からアドバイスをいただいています。日本のミュージカル・ファンにもぜひ知っていただきたいと思って彼に参加いただきました。
そして、今回のプロジェクトは決して“ブロードウェイに寄る”ことを目標とはしていなくて、日本と海外の架け橋として在りたいと思っているので、日本の方にもアドバイザーになっていただきたいと思って、スタフォードとは長いつきあいで、ご自身もNYでドラマターグとして活躍されてきた(小嶋)麻倫子さんに、上演を鑑みた時に足りないものを指摘していただければと思い、ご参加をお願いしました」
――出来上がってきた8曲を一つの作品としてまとめる作業はいかがでしたか?
渋谷「それぞれのチームとは最初の段階からどういう意図でどんな曲を作ろうという話をしていたので、どういう曲ができ上がるかはイメージしていましたし、2曲目については私から方向性のオファーを出していましたので、“地図”はありました。そういう意味では“どうしよう…”ということにはならず、自然と曲順も決めることが出来ました。
今回、大変だったのは芸術的にどうまとめるかではなく、コミュニケーションの部分でした。曲の作り方は作曲家それぞれで、ピアノの曲をお願いしても、ギターの曲が上がってきたりして…。いろんなスタイルのクリエイターが自分のスキルを発揮できるようにまとめていくのが難しかったですね。海外の方々は1週間という短期間で1曲を作るといった作業には慣れているけれど、(世界的なコラボということで)時差があるので、片方がミーティングの時間に寝過ごして2日間ロスしてしまったり、時差が(メールの)遅い返信の言い訳になったり…。皆が気持ちよく進めていけるよう、ぱっぱと判断したり、この人はそろそろ朝、起きてメールを見る時間帯だな、とタイミングを計って送ったり、といったことを心がけていました」
――キャストは16名もいらっしゃるのですね。
渋谷「一曲ごとに、出来上がってからキャスティングしていったら、この人数になりました。アメリカ人が多いのですが、いろいろな人種の方たちに参加してほしいという思いがあり、ダイバーシティに重きを置いています。今回は曲が先でしたが、クリエイターの中には“キャストの声が分かったほうがイメージが湧きやすい”という人もいましたので、今後は先にキャストを決めて“あて書きする”ということもアリかもしれません」
――日本からは綿引さやかさん、エリアンナさん、竹内將人さん、辛源さん、作曲家でもある瓜生明希葉さんが参加されていますね。
渋谷「英語での上演演目に出演されたり、海外で留学やお仕事の経験があったりと、国際色ある方々にお願いしました。辛源さんが歌うのは英語曲の“Together”ですが、実話に基づく動物の歌で、相方とボケツッコミみたいな関係性になっています。エリアンナさんにも英語曲の“In Your Eyes”を歌って頂きましたが、このナンバーは勇気を与える女性の曲で、エリアンナさんの歌唱にもそういうパワーを感じたことがあったので、ぜひ、とお願いしました。綿引さんと竹内さんには恋愛デュエットの“ふたりのダンス”を。綿引さんは最後のナンバー“What to Do with Your Racist Statue (A Suggestion) ”にも、日本代表として参加していただいています。瓜生さんにはオタッキーな女の子のコメディソング“ペーパーヒーロー”を自ら歌っていただきました」
――このプロジェクトの最終的な目標は…?
堂本「プロセス自体が目標というか、このドキュメンタリーを通して日本の方々にどうやってミュージカルを創るかということに興味を持ってもらうことが一つの目標です。でもいつか、今回オンラインで発表する作品を劇場で上演していけたら、と思っています」
――寄付も募っているのですね。
堂本「公式HPでファンドレイジングを行っています。これからも継続的に、メンターがいて、日本のクリエイターも参加できる国際プロジェクトを行っていきたいので、それに対して支援していただけたら嬉しいです」
(取材・文=松島まり乃)
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*『WeSongCycle』プレミア公開 2020年8月8日21:45~。
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