8年前、初めてオーディションを開催した。応募者は5人ほどだった。
私たちのオーディションでは、その頃から続けている拘りがある。
正直言うと、オーディション制作はとっても骨が折れる。
数人の出演者を決めるために、今では100人以上の候補者と向き合う。
エントリーの受付、音源審査、実技審査の日程調整、合否のお知らせなど。
なかなかの作業量だ。
私たちの場合は、他作品の稽古期間などにオーディションのスケジュールを組むことが多い。
音源審査の時期は、子供を寝かせてから明け方まで、送って頂いた課題曲の音源を聴く。
実技審査の時期は、朝早めに子供を預け、稽古までの数時間にオーディションシフトを嵌め込み、それから急いで稽古場に向かうという日々が続く。
オーディション週間が始まる前には、さあ、始まるぞ…と自分たちを奮い立たせないと乗り越えられないような気がする。
子供が産まれてからは時間や体力に余裕がなくなってきてしまい、今回は全キャストオファーでキャスティングしようか…と弱気になることもある。
けれどそんな自分に鞭打って、オーディションを開催してきた。
そこには理由がある。
オーディションは当然、新しい出会いの場であり、埋もれた才能を発見できる機会だ。
しかし、それ以上にその役者さんの人間性や生き方、感性を知ることができる機会だと思っている。
私のプロデュースする作品は人生や生き方を問うものが多い。
だから出演者には自分自身の人生と向き合い、葛藤して欲しい。
そうして作り上げたキャラクターはその人にしか演じられない特別な役になる。
つまり、その人じゃなきゃいけない理由がそこにはある。
小劇場の小さなカンパニー、小さな空間だからこそ。
私のプロデュースする舞台では、スタッフも出演者も、一人一人が、“その人じゃなきゃいけない”特別な魅力を届けられる時間にしたいのだ。
そこで私たちのオーディションでは、出来る限り一人15分、面談形式の実技審査時間を設けるようにしている。
はじめの5分ほどを使って課題曲の歌唱やモノローグ。
その後10分ほどは質問の時間にあてる。
課題曲を順番に歌ってもらうだけのグループ審査であれば、1時間で10人くらいを審査できる。
一人ずつの面談だと4人しか見れない。それでも私たちにとっては効率がいい。
その人を知れるから。
応募者が5人だった時は、30分から1時間弱面談をしていたこともあった。
なかなかそうはいかなくなってきて、ここ数年は音源審査を設けて通った方としか直接会うことができない。
その15分、目の前にいる役者さんがどんな人なのか、自分のいろんな感覚をつかって感じようとする。
初めて出会うその人が、それまでにどんな人生を歩んできたのか。
既に知っている役者さんだったら、その人が今どんな思いを胸に人生を歩んでいるのか。
これからどんな人生を歩んでいきたいのか。
質問に答える参加者達は、心を開くと堰を切ったように感情があふれ出すこともある。
答えながら涙する人。苦しさに悶える人。答えられずに口をつぐんでしまう人。
人それぞれだけれど、そこには血の通った人間が見えてくる。
子育てをしながら役者を続けている方の話を聞いて、自分が感じている日々の葛藤は、私だけじゃないんだと励まされることもある。
若い役者さんの話を聞いて、改めて自分たちの演劇に対する思いを見つめ直すこともある。
何かを演じているのではない、人間そのものを曝け出している役者は美しい。
私たちにとって、オーディションは人生に出会う特別な時間だ。
だからオーディションはやめられない。
(文・画=柴田麻衣子)
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