Musical Theater Japan

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『フランケンシュタイン』中川晃教インタビュー:一筋の光を信じて

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中川晃教 宮城県出身。01年『I Will Get Your Kiss』でCDデビュー、翌年『モーツァルト!』で舞台デビュー。以来『ジャージー・ボーイズ』『HEADS UP!』『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』『グランドホテル』等の舞台や『精霊の守り人』等のTVドラマなど、様々なフィールドで活躍している。(C)Marino Matsushima
メアリー・シェリーのゴシック小説にドラマティックな解釈を加え、韓国のクリエイターたちが舞台化した『フランケンシュタイン』。キャスト全員が一人二役を演じるという趣向も相まって大きな話題を呼んだ日本初演から3年、一部に新キャストを迎えて待望の再演が実現します。
 
本作で“生命創造”に挑む科学者ビクター・フランケンシュタインと、彼の創造物”怪物“が人間世界で出会う賭け闘技場のオーナー、ジャックの二役を(柿澤勇人さんとのダブルキャストで)演じるのが、中川晃教さん。『ジャージー・ボーイズ』を始めとする舞台で力強く日本のミュージカル界を牽引する存在ですが、そんな彼にとっても本作は特別な作品である模様。再演にあたっての抱負やミュージカルに対する思いを、たっぷりうかがいました。
 
【あらすじ】19世紀、ナポレオン戦争渦中のワーテルローで科学者ビクター・フランケンシュタインはアンリ・デュプレと出会い、友情を育む。人類のため“生命創造”に挑むビクターが殺人事件に巻き込まれると、アンリは彼を庇って自首し、「研究を続けてくれ」と言い残して処刑される。ビクターは友人を生き返らせようとするが、そこで誕生したのはアンリの記憶を失った”怪物“だった…。
 
作品全体を表現するかのような大曲との格闘 

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『フランケンシュタイン』
――2017年の初演は大きな反響を呼びましたが、中川さんはその理由をどうとらえていますか?
「当時はまだ、韓国ミュージカルってどういうものなんだろう、という空気があったと思うんですよ。ブロードウェイやウェストエンドの作品を見慣れている方にとっても、韓国ミュージカルって話には聞いているけれど実際には体験したことがない、という方は多かったのではないかな。僕もその一人で、韓国ミュージカルのオリジナル作品を作る力は凄いと聞いてはいました。そんななかで、韓国のミュージカルを本作を通して知った方は多いのではないでしょうか。それが日本のエンタメに受け入れていただけた一つの理由だったのかなぁと思います」
 

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『フランケンシュタイン』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部
――そして今回、再演が実現したわけですが、きっと様々な作品からオファーがあるなかで、再び本作に参加されるにあたっては、中川さんにとっても相当の思いの強さがあると想像します。
「まず、二役を演じることができるということは俳優として恵まれた経験だと思うんです。再演させていただくにあたり、それは魅力的に思ったところでした。また本作の音楽はとても難しいのですが、その難しさをお客様には感じさせずに、ビクターが今、何に苦悩したり感じているかを、ミュージカルの醍醐味である歌で伝えていくとか、という難しさが本作にはあります。でもそれを初演のときに一つクリアできたというか、物語の中でしっかりお客様を導くことができているんだなあと思えて、はじめはどうやって表現しようというくらい正直、難しかった音楽が、凄く計算されている音楽なんだと思えたんです。そういう意味でのクオリティが、僕にとってこの作品の魅力です」

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『フランケンシュタイン』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部
――ビクターには、失われたアンリの命を蘇らせようとする場面で歌う「偉大な生命創造の歴史が始まる」という大曲がありますが、このナンバー一曲をとっても本作のユニークさがうかがえますね。始まってから1分半ほど、ずっとエネルギーを溜め込んだまま歌われますが、ここでは台詞が音に乗ったモノローグのような感覚でしょうか?
「チャレンジングな一曲ですよね。台詞のように歌うというアプローチももちろんあるけど、僕の場合はそうではなく、あくまでも曲が持つ方向性に委ねながら、その中でビクターの、日本語で言うところの“侘び寂び”を丁寧に積み上げて行ってラストに到達していけるように歌ってきました。
テンポがどんどん変わっていったり、テンポがなくなる状態も3つくらいあるのですが、そこは俳優がイニシアチブを持って、自分の気持ちやテンポ感で持っていく。ダブルキャストということもあって、ある一つの形は持ちつつ、毎公演、演じている流れの中で生まれてくるものがあります。四角四面に歌うだけでなく、ナンバーの中でどうプラスアルファを表現できるかも問われてきます。一曲に取り組むだけで作品全体に取り組んでいるような気持ちになれる曲です」 

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『フランケンシュタイン』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部
――原作のテーマには、人間が身の丈を超えて神の領域に踏み込んでいいのか、という問いも含まれているかと思いますが、このナンバーの壮大さはそういったテーマとも関連しているのでしょうか?
「人間は倫理的な一線を越えてはいけない、だけれどもどこかで死者を蘇らせたいという欲望もあって、あの一曲の中でせめぎあっている…という考え方もあるかもしれないけれど、台本ではそういったテーマについてはあまり掘り下げられてはいないんです。ですので、そこは僕的にはもう少し敷居が低くて、自分にとって大切な仲間、もしも自分が死んでも僕の意思を継いでくれるだろうと思えるような仲間と出会ったことが全てなのかなと思ったんです。
そして運命に委ねるということが、“アダムとイブ”のようにこの楽曲のスタートラインにあるのかもしれません。ただアダムとイブなら緑の丘と青空という世界だけど、本作では垂れこめた黒い雲に雷や雨音があって、そこに友の首があって…と、イメージはとても重い。でもそんな状況でも、ビクターの中には希望というか一筋の光や大志がある。そしてそれは誰かを苦しめたり悲しませたりするためではなく、人類の幸せのためという動機があるのだと思います。
だからこそ、あの終盤の強さがあって、決して(パワフルな歌唱に)ブレーキはかからない。ビクターは行ききったあとでまだ行こうとしていて、そこに光を見出している…というイメージなのかもしれないですね。実際には、あの“蘇るのだー”のロングトーンでは“早く、早く音が切れてくれ…”という思いもよぎりますが(笑)」 

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『フランケンシュタイン』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部
――原作では科学者としての野心がかなり感じられますが、本作のビクターの原動力はもっと清らかなものなのですね。
「原作よりも人間ドラマなんでしょうね」
 
――それがどんどん破壊的な、悲しい方向に行ってしまう…。
「ミュージカルという形式になったときに、音楽が加わることでよりコントラストがつく。拍車がかかる。韓国のクリエイターたちは凄いところに目をつけてミュージカルを作り上げたなと感じますよね。(加藤)和樹くんが「(自分たちよりこういう創作を)先にやられて悔しい」と言っていましたが、まさにそう感じます。
話はちょっとそれますが、昨年、韓国のミュージカル・フェスティバルで歌わせていただいたのですが、オリジナルキャストの方がいる中で歌うのはプレッシャーだし、受け入れていただけるか、不安もありました。でもこれは一人の役者、一人の人間にとって与えられた希望であり、チャンスなんだと思いながら臨んだところ、韓国のお客様の反応は凄くフェアだったんです。そこではブロードウェイやウェストエンドで活躍している韓国の方々も出演していて、半分以上の歌唱が英語。だから日本人の僕が『フランケンシュタイン』と言う作品を日本語で歌っても特に違和感は生まれず、ミュージカルに対してフェアな場でした。韓国ミュージカルは今、こういう地点にあるのだな、こうした(韓国ミュージカルとの)出会いに対する思いもしっかり持って『フランケンシュタイン』の再演に臨みたいな、と思いました」
 

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『フランケンシュタイン』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部
――再演でどんな部分を深めたいと思っていますか?
「演出の板垣(恭一)さんは初演の後に『いつか~one fine day』のようなオリジナル・ミュージカルを発表されていて、もしかしたら『フランケンシュタイン』が一つの転機になったかもしれませんし、少なくともこの作品は日本のミュージカル・シーンの転機になったと思います。これからも日本でセンセーショナルな作品であり続けるといいな、と思います。
今回、久々にみんなが集まった時、初演から現在に至る時間のなかで、一人一人様々な経験を経て、自然体で気負うこともないけれど、それぞれが素敵に見えました。この仲間、このカンパニーだからこそたどり着けた再演なんだな、と。みんなの個性、実力が、また幕が開いた時に最高に輝くと確信しています。そして、内容的には重い題材が絡んでいますが、根底にある友情、家族、愛、思い描こうとした夢、それへの共鳴をどこまで体現できるか…。そのために自分にできることは何だろう、と考えています」
経験を重ねるごとに深まる、ミュージカルへの思い
 
――プロフィールについても少しうかがわせてください。中川さんはご自身で範囲を狭めず、敢えて様々なジャンルの作品に携わっている印象があり、もしかしたらクリエイターを志していらっしゃる故かな?と以前から思っていました。数年前にお話した時にもそういうお気持ちがあるとうかがいましたが、その後どんな手応えがありますか?
「語り始めると長くなりそうなので纏めますが(笑)、これまでいろいろなミュージカルで経験してきたことが一つも無駄になっていないと実感しますし、今までの作品に出会わせてくれた人たちに本当に感謝しています。その気持ちが強くなればなるほど、経験を自分のものとする中で、襟を正す気持ちでオリジナルミュージカルを作っていきたいという気持ちは強くなってきています。
僕は最初からミュージカルを目指していたわけではなく、歌手として東京に出てきてから、ミュージカルとの出会いがあり、今年37になるんですけど、来年デビュー20周年を迎えます。そういうタイミングもあって、今はまた前回お話したときとは違う気持を持てるところに来ているなと思っていまして、俳優としても歌手としても。歌手として同じ頃にデビューした仲間たちがどんどんに出演するようになってきていてそれも必然的なことだと思うし、僕はもっと早い段階でミュージカルに飛び込むことができた分、大きいことを言うようだけど、未来の日本のミュージカル界のためにも、自分が作りたいと思うミュージカルを目指して、仲間を大切に、後輩たちともしっかりコミュニケーションとってという意識が以前より強くなってきているなと思います。クリエイターとしてももちろんコツコツやっていますが、これまでの舞台で人間的にも成長させてもらっていると感じています」
 
――『銀河鉄道999』では中川さんのオリジナル曲が一曲歌われましたが、“もうちょっと中川さんのミュージカル楽曲を聴きたいな”と思われた観客は多いのではないでしょうか。例えば韓国ですとまずは大学路の小劇場で開幕して、何度か上演を重ねるうちに作品も練れてきて規模の大きいところに移るといったこともあるので、試作段階からでもどんどん発表していただけると嬉しいです。
「そうですね。僕自身は、タイミングは考えていかないといけないと思っています。この前も全国15箇所を回るコンサートツアーをさせていただいたのですが、日本中のいろんな方に自分を知っていただく、という先にミュージカルというものを作るということがあるんじゃないかな、とツアーの過程で感じました。やっぱり興味を持っていただけ、観たいと思ってもらえる自分であるかどうか…、それに尽きるなと言うのは以前よりも、冷静に感じています。
日本では最近オリジナル作品も増えてきていて、この変化はとても素晴らしいことだと思います。でもこの前出演した『怪人と探偵』という作品も、3、4年以上前から温められた企画でした。それと同じで、時とタイミングを狙ってそれがピタッと合ったときに実現するものもあるし、ですからやはり、小さなことをコツコツ積み上げて行った先に、いつか夢が実現するのかな…、と思っています」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『フランケンシュタイン』2020年1月8日~30日=日生劇場、その後愛知、大阪で上演 公式HP
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